プジョー206、子猫に首ったけ?

photo:Peugeot206

目次

1 試乗レポート TEXT BY RUMIKO IWASADA

2 輸入ハッチバックこの一台 TEXT BY GORO OKAZAKI

3 売れ筋車レポート TEXT BY Car24

4 新車週刊試乗レポート TEXT BY MOTORDAYS

5 うちのマーチは5万円

6 カローラに拒否権発動

7 むなしい浮気

8 あらまあ、すっかり大きくなられて

9 ご注目!YRV

10 クルマの夢をみる

11 いざ、試乗

12 試乗は好印象

13 商談は荒れ模様

14 プントの衝撃

15 プントの身元調査

16 206との比較

17 CD-ROM

18 限りなくブルーな気持

オトーサン、 プジョー206という子猫に夢中。 たまたまBL目黒の前を通りかかっって、一目ほれ。 サファイヤ・ブルーの不景気を吹きとばす明るいカラー、流れるようなデザイン。 猫目のような切れ長のヘッドライト、ライオンのおしゃれなプジョー・マーク。 「おお」 オトーサンは、その日からプジョー研究モードへ。 当然のことながら、ライバル車すべてを検討することになってしまったのです。 まずは、インターネットで資料探し。 「あるわあるわ、いっぱいあるわぁ」 次は、デーラーを訪ね歩いて、試乗と見積もり。 ヴィッツ、YRV、カローラ、シビック、206、プント,,,, こうして、クルマ選びの長い旅がはじまったのです。


1 試乗レポート:TEXT BY RUMIKO IWASADA(Car Point)

ここがポイント ○ なんとも色っぽいデザイン         ○ 反応のいい軽快なAT         ○ 座り心地のいいシート         X ワイパーが左ハンドル用         X しょぼいエキパイ(S16以外)         X ちょっと狭い後部座席 おすすめグレード  1400XT AT ライバルモデル   ルーテシア/ プント/ ポロ ■艶っぽい眼差しデザイン  206のデザインはなんて愛らしいんでしょう。これはもう女性はくらくら…… という感じ。潤んだような艶っぽいヘッドライト。きゅっと丸みを帯びたヒップラ イン。306カブリオレや406クーペはイタリアのデザイン会社ピニンファリーナが 手掛けたものだけど、この206はれっきとした社内制作。 それだけにフランス人の意地がかかった色気のある仕上がりになったと言えるでしょう。 ■日本仕様  湿気が多くて渋滞のひどい、最悪の車環境で走らせるため、日本に入るモデルは 特別仕様。右ハンドル化はもちろんのこと、エアコンの容量など適応させているの で、効きが悪いなどの心配はないはず。右ハンドルにするにあたっても、ペダル位 置はちゃんと考えられているので、極端にオフセットされることもなく、自然なド ライビングポジションがとれる。ただ、気に入らないのはワイパー。左ハンドル用 のまま逆向きになっているため、雨をしっかり拭いきれない。ま、フランス車だし、 そんな些細なこと気にするな、と言われればそれまでだけど。 ■感動的なATの走り  なにがいいって、フランス車のATがこんなに機敏に走ってくれていいの?という 感じ。とにかく反応がいいのである。アクセルを踏む。シフトダウンしてすぐに 加速する。そのタイミングが絶妙なのだ。特に感動するのが、市街地でのバスを 追い抜くときなどにするレーンチェンジ。一瞬で判断してそれ!っと行きたいとき に、本当に自分の思いどうりにクルマが動いてくれる。1400ccという排気量を思え ばそれはもうマジックでも見ているような気分。人によってはシフトダウンしすぎ ると言うかもしれないけれど、そんなヒトはプジョーというクルマを選んではいけ ないのだ。 ■気持ちのいいサスペンション  フランス車の醍醐味はなんといっても、その粘りのあるサスと、しっとりと座り 心地のいいシート。パリの凱旋門周辺のラウンドアバウトをリズムよくすり抜ける には、このサス&シートは必需品といえる。206はデザイン的に、ちょっとオシ リが出ているような、トランクがあるような雰囲気だけど、実は完全な2ボックス なので、リアウィンドー=ボディエンドという感覚。なので、縦列駐車もとてもし やすいのである。くっと走ってきっと止める。ラテンを感じたい人にはぜひ、お勧 めである。 ■粘り腰系の最新モデル、プジョー206!  パリの凱旋門のラウンドアバウトを見たり聞いたり走ったりしたことのある人なら 想像がつくと思うけれど、強引に突っ込んでいって強引にぎゅぎゅっと出なければ、 いつまでたってもぐるぐると回り続ける羽目になる。 フランス車のサスペンションに粘り腰系が多いのは、それに対応するためだと私は にらんでいる。粘りサスに応答性のいいAT、そして粋でセンスのいいスタイル。 そんなプジョー206が私のイチ押しです。


2 輸入ハッチバックこの一台:TEXT BY GORO OKAZAKI

●売れるから"いいクルマ"が生まれる好循環  古くは日産 マーチ、新しいところではトヨタ ヴィッツと、日本の自動車メーカーも 優秀なコンパクトハッチを何年かに一度はリリースするわけだが、ヨーロッパでは マーチやヴィッツに勝るとも劣らない超優秀にして大いに魅力的なハッチバックが毎年 のように登場してきている。なぜなら、ヨーロッパで、もっともたくさん売れているの がハッチバックだから。たくさん売れるから開発に力を入れる→いいクルマができる→ たくさん売れる、という好循環ができあがっているのだ。  今回は全長4m未満のコンパクトハッチの紹介ということで、VWゴルフ(全長41 55mm)クラスを詳しく採り上げるつもりはないが、このクラスになると、もうヨーロ ッパメーカーの優位性は明らか。ファミリーカーとして使える5ドアハッチバックとい う条件で探してみた場合、国産車ではパルサー・セリエの下位グレードしかリスト アップされない。スバル・インプレッサのように「5ドアハッチバックと呼ぶと売れな いから」と、実はハッチバックなのにあえてワゴンと名乗っているクルマもあるけれど 全体的に見て、国産メーカーは中型5ドアハッチバックをもはや完全に諦め、カローラ ・ワゴンのような小型ワゴン系に経営資源を集中させているようだ。 ●149万円から235万円までの11車種をチェック  話をコンパクトハッチに戻そう。ヨーロッパ製コンパクトハッチバックのいちばんの 魅力は、優れた基本性能をもっていること。具体的には、コンパクトなサイズながらも 室内の広さが十分であり、走らせても安っぽさを感じないという点だ。 加えて個性的な内外装も見逃せない。  いま日本に正規輸入されている全長4m未満の輸入コンパクトハッチは全部で10台。 価格の安い順に並べると、ルノー トゥインゴ、フォード Ka、プジョー 206、 オペル ヴィータ、VW ポロ、ローバー ミニ、ルノー ルーテシア、フィアット プン ト、シトロエン サクソ、プジョー 106となる。 メルセデス・ベンツAクラス(全長3605mm)を入れようかどうしようか迷った が、背が高すぎてタワーパーキングに入らないようなクルマはミニバンだという判断を して、今回は遠慮いただいた。 ●クルマずきなら絶対のオススメ、プジョー106  このなかで、モノがいちばんいいなと思うのはプジョー106だ。 値段は235万円もするが、高いだけのことはある。シートをはじめとする内装の質感 でも、エンジンのフィーリングでも、そして何よりフットワークの実力でも、106と 互角に戦えるライバルはちょっと存在しない。上位モデルである206や306の一部 グレードより高い価格も個人的には十分納得できる。 もちろん、そうはいってもクルマ好きではない人が、こんな小さなクルマに235 万円も出すはずがない。そういう意味では、クルマ好きのためのスペシャルモデルと 解釈するのが妥当。そう、シビック・タイプRのようなものである。 ●デザインならプジョー206、完成度ならルーテシア  もう少し「普通」のクルマという線で考えてみると、ルーテシアと206あたりが オススメだ。 ポロとヴィータというドイツ勢を選択するというテも大いにあるが、この2台、実は そろそろモデル末期。ヴィータはモデルチェンジを、ポロはビッグマイナーチェンジを 控えている。ついでに言えば、プントも本国ではすでに新型がデビューしている。(注)  206は、106ほど走りに特徴があるわけではないが、インパクトのあるルックス は魅力十分。1.4リッターモデルなら価格もリーズナブルだ。 しかし、モノとしての実力はルーテシアがわずかにリード。106のように、クルマ 好きを歓ばせるスパイシーな部分は持ち合わせていないものの、セルシオにも負けない 抜群の座り心地をもつシートや快適な乗り心地、安定感のある粘り強いフットワークな ど、乗れば乗るほど実力の高さを体感できる。はっきりいって、ヴィッツとは小学生と 中学生ぐらいの差がある。 ●ミニもパンダも生産中止間近。新車で狙うなら今だ  趣味性の高さでは、なんといってもミニが最高。だが、フィアット・パンダも同じぐ らい最高だ。ミニのオーナーは仲間意識が強く、すれ違いざまに軽く手を挙げて挨拶し 合うような傾向が。一方のパンダオーナーは、同じクルマとすれ違ってもなぜかお互い の存在を無視するような傾向がある。そういう違いはあるものの、基本的には両車とも 乗って眺めて実に楽しい存在である。古いクルマなので衝突安全性はプアーだが、にも かかわらず根強い人気を誇っているのはそういう魅力を多くの人が認めているからだ。 2台とも、そう遠くない将来には生産中止になるので、新車で乗るならいまのうち。 特にパンダは、日本への正規輸入は終わっていて、あとは販売店のストックのみという 状況だ。  で、この2台に続くのがトゥインゴ。ポップなスタイルとRV顔負けの変幻自在の シートは一見の価値ありと報告しておこう。 注:佐々木が入手した情報(2000年12月現在) ヴィータは横幅が80mm大きく、内装の質感が上がって、1.4リッターのATモデルが 来年早々に日本に上陸します。 ポロは、2000年12月現在の5月のマイナーで見違えるほど剛性感,静粛性、質感 が向上した。 プントは、後述のように目のさめるような新型が日本に上陸。


3 売れ筋車レポート:TEXT BY Car24

◆世界的な成功を収めたFF2BOXカー205の後継者として、98年9月のパリサロンで デビューした206。  206はそのネーミングが示すとおり、サイズ、車格ともに同社の106と306の中間に 位置するコンパクトなハッチバックモデルだ。  プジョー伝統の“ツリ目”が強調されたアグレッシブなデザインワークは、激戦区 であるこのクラスにおいてライバル達に比べ強い存在感を示しており、欧州はもちろん のこと、日本でもかつてない大ヒット作となっている。  ボディは3ドアと5ドア。搭載されるエンジンは、1.4リッター(最高出力74PS/最大 トルク11.1kgm)と1.6リッター(最高出力88PS/最大トルク13.5kgm)、2.0リッター (最高出力137PS/最大トルク19.8kgm)の3タイプ。  ギアボックスはフランス車らしい5MTの他、4ATも一部グレードに用意される。 ◆販売好評の、そのワケに迫る!  前作205は約15年にもわたり生産されたこのクラスのスタンダート足り得た名車。 次期型はいつ登場するのか、と皆が首を長くして待ちわびていた中登場した206は、 本国で見事なデザインと完成度の高さで期待以上の人気を博した。  その熱気は日本にも伝わって、99年5月に日本導入が始まってから数ヶ月で年間目標 台数を突破。これが主要因となって、昨年のわが国におけるプジョー車全体の年間登録 台数は過去最高を記録。加えて1999-2000RJCインポート・カー・オブ・ザ・イヤーを 獲得するという快挙も成し遂げた。 ◆その人気の源  何といっても通称「猫目」のヘッドライトを持つ超個性的なプロポーションだろう。  プジョーのデザインはそれまでピニンファリーナ(フェラーリのデザインも担当する イタリアの一流デザイン工房)との関係が深かったが、この206はプジョー社内デザイン 部門が担当。コンピュータを駆使して、相当に戦闘的な、個性的肉体美を生み出した。  かつての日本市場だったら、これほど奇抜だと一部の人にしか受けなかったものだが 206が日本上陸した時期は、すでにトヨタヴィッツが登場して5ヶ月後。  ヴィッツによって日本人はもはやこの手の奇抜なスタイルに抵抗感を抱かなくなって いたのだ。日本人のデザインに対する好みは大きく変わっている。206のデザインを 受け入れる土壌が確立されつつあったのが、強い追い風となったのだ。  が、デザインだけでフランス車が日本市場でヒットすることはない。やはり飛躍的に 向上した品質を抜きにして、206人気は語れない。  206だけでなく、最近のフランス車全般にいえることだが、故障の心配はほとんどなく なっており、単に「お洒落だから」という理由だけでも気軽に所有できるようになって きている。実際、206のオーナー層は、輸入車初心者でしかも20代前半の女性が、 フランス車としては異例に多いのだ。  また、ヴィッツ級のサイズにも関わらず、走りがいい、というのも206の魅力。 WRC(世界ラリー選手権)でも大活躍しており、スポーツイメージすらある。  そしていいところと言えばイスの座り心地と乗り心地。やや固めのインターナショナ ルなものとなってはいるが、国産車がなかなかマネのできない世界屈指の快適さだ。 長距離旅行も苦にならないだろう。 ◆ライバル比較と購入ポイント  現在、日本導入される206のラインナップは1.4エンジンを搭載した3ドア/5ドア「XT」 (165.0〜179.0万円)。1.6エンジン搭載の3ドア「XS」(183.0万円)と5ドア「XT プレミアム」(189.5万円)。 そして2.0エンジンを搭載した3ドア「S16」(245.0万円)で構成される。  この中で4ATが用意されるのは「XT」のみ。あとは全て5MTとなる。各車の性格は、 バランスのとれた最量販グレードの「XT」、そのラグジュアリー版の「XTプレミアム」 スポーティーな味を持った「XS」、さらに硬派なホットバージョンの「S16」となる。 ◆売れ筋は179.0万円の5ドア「XT」。 ヴィッツと比較すれば確かに割高な値付けだが、その分、エンジンが大きくて行動範囲 は広がり、しかもお洒落なフランス製というブランド性も兼ね備えている。 そのあたりを納得できれば、この価格は妥当といえるだろう。  このクルマのユーザーはフレンチフリークである必要はない。とにかく個性的なコン パクトカーが欲しいのであれば、輸入車を所有したことがない人でも満足できるはずだ。  ただし245.0万円の「S16」の割高感はどう考えても否定できない。 これはいわゆる好き者のためのクルマ。  そうでない人は最量販グレードを狙うのが賢明だ。 ◆ライバルはVWポロ、オペルヴィータ、ルノー・ルーテシア。国産車でいえばやはり ヴィッツ。これらと206を比較したとき、ポロ、ヴィータはいささか基本設計が古いし、 狸顔のルーテシアはデザインが日本人の感性に合わない。 ヴィッツは価格的には最も安いが、数の多さにはウンザリだし、もちろんステイタス性 にも欠ける。市街地での扱いやすさに加え、高速安定性やちょっぴり気取った輸入車 としての優越感も欲しいとなると、やはり206はベストな選択肢と言っていいだろう。


4 新車週刊試乗レポート TEXT BY MOTORDAYS

●キャラクター&開発コンセプト● 欧州激戦区に投入されたプジョーの新ドル箱206は106と306の中間、すなわち欧州では Bセグメントに属するコンパクトハッチバックカーで、ルーテシア、ポロ、ヴィータが ライバルと自称する。 当然ヴィッツもライバルになり、現在最もホットなジャンルのクルマということだ。 '80年代の大ヒット車205を受け継ぐモデルというと分かりやすいが、106と306自体 小型車であり、206のポジショニングは非常に微妙。新しいシリーズと理解すべきだろう。  個性的なスタイルのボディは、軽量かつ高剛性で、数多くの安全装備を施し、21世紀 の新しい小型車の基準を提案している。なお、プジョーのラインナップはピニンファリ ーナによるデザインが多いが、206のデザインは完全な社内設計だ。 コンピュータ設計によるデザイン手法をこの206にプジョーで初めて採用したという。  まず日本へ導入されたのは、1.4リッター(74PS)と1.6リッター(88PS)の2種類の エンジン搭載車で、それぞれに3ドアと5ドアが設定される。ギアボックスはスポーツ 志向のプジョーらしく全車に5速MTを設定し、1.4リッター車には4ATも用意される。 1.6リッターにまだATがないのが販売的にはやや辛いかも。 ハンドル位置は全車右となる。2.0リッター(137PS)のS16は6月日発売だ。 ●価格帯&グレード展開● ライバル多数、価格は競争力のある165万円からベースグレードの1.4XT(3ドア)の 165万円から最上級グレードのXTプレミアムの189.5万円と、国産コンパクトカーと比べ ても競争力のある魅力的な価格だ。 なお、2リッターのS16は200万円半ばくらいになりそう。さらに昨年のジュネーブ ショーでお披露目されたスチールトップを持つオープンモデル、”20ハート(あるいは 20ラヴ?)”の市販化も計画されているらしい。 安全装備ではデュアルエアバッグ、ABS、シートベルトプリテンショナー、盗難防止 装置、リアフォグランプは全車標準で、最上級グレードのXTプレミアムにはサイドエア バッグも標準となる。 ●パッケージング&スタイル● プジョー初のデジタルモデリングを採用、強い個性をアピールする吊り上げすぎ? の猫目(ヘッドライト)飛び抜けた個性で強いインパクトを放つボディだが、サイズは 全長3825mm×全幅1670mm×1440mm、とヴィッツよりも215mm長く、スターレットくらい。 ホイーベースは2440mmで、このクラスとしては異例に長い。 プジョー独特の吊り目、大きなライオンマークでプジョーのアイデンティティをしっ かり踏襲しながらも、コンピュータを駆使した複雑な曲面をもつデザインは、プジョー に新しいデザインの風が吹き始めたことを物語っている。  この206の小悪魔的な可愛らしさは、日本人には抵抗がないようで概して評判はいい。 斬新すぎるカタチを毛嫌いする日本市場でも、これなら十分通用するデザインといえる だろう。先代205といい、この206といい、プジョーはハッチバックによくもこう個性的 なデザインを提案できるものだと感心してまう。  全体的なインパクトだけでなく、フォグランプをバンパー中央部に組み込ませたり、 リアのウインカーレンズを真っ赤に染めたり(106同様)、ドアミラーの上部にボディ色 を施すなど、様々な工夫をみることもできる。 ライバルのルーテシアがタヌキ系のほほんデザイン、こちらはキツネ系キリリデザイン と見事に分かれた(共に限られた舞台でよくここまでやるものです)。 ●ケレン味のないインテリアデザイン、 ステアリンググリップの太さがいかにも走り志向● 「コンピュータを駆使した巧みなパッケージングによってコンパクトながらも乗員に 十分なスペースを与えることに成功した」というふれこみの室内空間は、ミニバン タイプの国産コンパクトカーに慣れてしまったせいか、それほど広いと感じるわけ ではない。 しかし後席の足元スペースは十分に確保され、えぐられたドアトリムにより、窮屈な感 じはしない。ヴィッツのガランとした空間と、ルーテシアの「普通の空間」の中間ぐら いといったところ。  インパネデザインは、最新欧州車一連の曲面を多用したデザイン。シボ加工はやや 荒い感じだが、質感そのものはずいぶん高まっている。 かなり硬めのシートは、伝統的フランス車の持つ大きなものではなく、かなり小ぶり しかしキチンと座れば座り心地は悪くなく、背中もしっかりと包んでくれる安堵感の あるもの。また、助手席の座面部を跳ね上げると隠しポケットがあったり、グローブボ ックス蓋の裏側に実際に使うに耐えるカップホルダーがあり、サングラスやペンのホル ダーも用意されるなど、かなりいろいろ頑張った形跡を見つけることができる。 ドアにもペットボトルホルダーがあり、特に不便はないだろう。  右ハンドル化でワイパーは国産と逆位置にあるが、アームのリンクに工夫があり、 大きく窓が拭き取られ、視界が広いのは気に入った。反面、楕円型のサイドミラー (電動リモコン付き)は面積が小さく見にくい感じがした。 運転席サイドウインドウは上下動共にワンタッチ仕様だ。  メーターはバイク風のそれぞれがつながった4連。しかしカーナビ画面はどこに付け たらいいか、ちょっと迷ってしまうインパネだ。エントリークラスに当たる206にも、 グリップの太いしっかりしたステアリングを採用していることをはじめ、プジョーの 一貫したスポーティーなこだわりはしっかりと受け継いでいる。 ゲート式ATシフトは操作の節度感と、夜間の照明が欲しい。メーター内にはインジ ケータがあるが、シフトの根本の表示部分は明かりがないので違和感があるのだ。 ●基本性能&ドライブフィール●  エンジンは1.4リッター直4SOHC(最大出力74PS/5500rpm、最大トルク 11.1kgm/2600rpm)と1.6リッター直4SOHC(最大出力88PS/5600rpm、最大トルク 13.5kgm/3000rpm)の2本立て。 全車に5速MTと、1.4リッター搭載車のみに9つの走行モードを持つ学習機能付き 4ATも用意される。プジョー車は日本でもMTの販売比率が高く、この206にもMT仕様の 設定を重視しているようだ。なお、2.0リッターのS16にも当然5MTが搭載されている。 ●キビキビと走り回るプジョーのお家芸●  試乗したのは1.4リッター搭載のAT車(5ドア)。わずか74PSにしかすぎないが、 走る楽しさを身上とするプジョーだけに、この206にもそれが踏襲されている。 パワー的なアドバンテージはないが、プジョーの持ち味は何といっても”軽さ”。 アクセルのわずかな踏み込みに機敏に反応して、出足は鋭く、軽々と走り出す印象だ。 低回転域から持てるトルクを存分に発生しているので、出だしの加速は過剰ともいえる ほど勢いがある。エンジンの吹け上がりもよく、ベタ踏みすれば6000回転域まで一気に 上昇する。スタートから息をつかず70km/hくらいまで一気に加速して巡航に入ると、 大変気持ちがよい。 ただ、9つの走行モードを持つ学習機能付きAT(ルーテシアと同じものらしい)と いうのが曲者で、エンジンを常に高回転で維持しようとするのだ。 S(スポーツ)モードもついているが、最初はそれが入っているのかと思ったほど。 普通にアクセルを踏むと60km/h前後ではなかなか4速に入ってくれない。ちょっと前の フランス車によくあった高速型のセッティングかと思ったが、わずかにアクセルを控え 目にすればちゃんと入る。 そのあたりのさじ加減というか、アクセル加減はちょっと微妙だ。  下り坂や減速時では見事にエンブレを効かせてくれ、むやみなアクセル操作を低減さ せてくれるのは確かに有り難いのだが、それゆえ40〜50km/hというあたりの走りはやや ギクシャクしがち。  要はスポーツモード入りっぱなしに近い状態の高回転維持(スポーツモードにすると さらに引っ張る)がATのスタンダード状態ということ。このATを上手く使い、メリハ リのきいたMTのような走りをせよ、とプジョーは主張しているのだろう。 やはりコンパクト・プジョーの主張は明確であると納得せざるを得ないところだ。 ルーテシアのゆったり感とは好対照。今回は乗ってないが、5速マニュアル仕様に より近いATといえそうだ。  ステアリングは中立付近でやや軽めで、グッと切りこむと手応えのあるもの。 エンジン音がちょっとノイジーだが、プジョーを買う人にとってはこれはさして気に ならないはず。むしろスポーティーに聞こえるだろう。ほどほどのロールに対して、 粘りのある安定性を見せてくれるコーナーリングだが、スポーツカー的な刺激はなく、 そう面白いという感じはなかった。 また乗り心地を含め、その足回りの印象にはフランス車的な「ゆるさ」がなく、 ビシッと引き締まったもの。シートといい、この足といい、206はフランス車好きの イメージとは違う、インターナショナルなクルマだ。 ゆえに日本を含めた数多くの国で受け入れられる可能性が高いということだろう。 フランス車度(というものがあるとすれば)では高い順にいうとルーテシア、ヴィッツ 206となり、トヨタ車よりフランス車度が低いように感じられた。  高速道路では110〜130km/hくらいがエンジンの鼓動が感じられ、心地よい巡航速度。 それ以上になるとタイヤの接地感がやや希薄になり、若干緊張を強いられる。 まあ、日本の高速道路では別に問題はないし、乗用速度域が心地よいというのは素晴ら しいことだ。 ●ここがイイ●  何といってもそのスタイル。ヴィッツも素晴らしいが、それに勝るとも劣らない 個性的で斬新な、しかも飛びすぎておらず万人受けする可能性を残したナイスなデザイン 特に5ドアがいい。ハッチバックのデザインなど、誰がやってもたいして変えようが ないと思われていたが、最近のクルマはどれも見事に変身している。 その好例が206だろう。 ●ここはダメ●  明らかにダメ、という点は特に見当たらないが、全体にケチを付けようと思えば付け られるのは確か。例えばATにしても、MTがあるのだからATはもっと穏やかなプログラミ ングの方がいいともいえるし、ブレーキもかなり唐突に効くタイプなのでもっと, じんわり効いて欲しいとか。ただこれは好みの問題なのでそれが嫌なら別のクルマに すればいいだけ。 ●総合評価● 小型車ブームの中、価格も安いし、カッコもいいし、ブランドイメージもオシャレで 文句なし、とくればヒットを約束されたようなもの。若い女の子からオッサンまで、 誰が乗っても似合いそうな許容範囲の広さがある。  他の輸入車に比べてプジョーの販売が好調なのは、日本ではブランドイメージが 非常にいいからだ。取り立てて目立った車種がなかったにもかかわらず、プジョーと いうブランドだけがどんどん良くなってきている。これは不思議。 205がブランドイメージを確立したとインポーターはいうが、あの時代、プジョーには まだそんなイメージはなかったと思う (友人が買った605など、エンブレムをプジョーと読んでもらえず国産新型車とよく 間違われたものだ)。  そうした「よく分からないまま良くなってきたブランドイメージ」に見事にフィット する新型車を、この期に投入できるあたり、お見事としかいいようがない。  206は、「やっぱりプジョーはいい」とブランドイメージ確立に間違いなく貢献する だろう。 ●100点満点で…● 85点


5 うちのマーチは5万円

オトーサン、 子猫を見初めたとき、 すぐにでも試乗できたのですが、 大蔵省の認可事項であることを思い出して 一旦帰宅しました。 夕方、奥方に自由ケ丘で寿司でも食べようといって ブルーライオンに直行しました。 「自由ケ丘って、こっちの方かしら?」 奥方が言ったときには、もう碑文谷のダイエー。 前方にはプジョーの看板。 「なあに、クルマみたかったの」 意外にやさしい声でした。 この不況下に、 クルマを買うのに好意的な奥方は めずらしいのではないでしょううか。 その通りです。 でも、ここにこぎつけるまでに オトーサンが どんなに筆舌に尽くしがたい努力を重ねてきたかについて、 先に語っておきたいと思います。 「結論をいえ、早く。206乗ってみて、どうだった?」 「まあまあ、物事には順序というものがあります」 実は、 オトーサンは、 息子がゲタ代わりに使っている 古いマーチを買いかえてやるつもりで、 3ケ月ほど前から、クルマを物色していたのです。 「あの子にぜいたくさせる必要はないわ。自分の金で買うべきよ」 「でも、あいつの安月給じゃムリだよ。彼女が出来たみたいだし、 このボロクルマでは、いかにも可哀想だよ」 「そうねえ」 オトーサン 奥方のお許しを得て まず、ヴィッツの中古車を物色しました。 1000cc。99万円。 走行距離500キロ。新古車でしょうか。 「まだ走れるからいいよ」 面倒臭がる息子を連れて、デーラーに行きました。 「いいねえ。あっ、MTか」 と息子。 「このマーチ、下取りすると、いくらですか?」 「5万円です」とセールス氏。 ふたりとも何だか不愉快になってきました。 「5万円というこたぁないだろ」 翌日、 オトーサンは、 ネッツ店に行きました。 念のためにヴィッツの新車の値段を聞きました。 「諸費用込みで、130万円になりますね」 「いくら値引きます?」 「そうですね。7万円です」 「そう、意外に値引かないんだねえ」 「ええ、ワンプライスということになっていますので」 「じゃぁ、このマーチ、いくらで取ってくれますか?」 「8万円でいかがですか」 「ふーん、家に帰って相談してみる」 その後、何度か留守中にセールスマンが 訪問して、いくつかの見積書を入れてくれていたようです。 奥方から報告を受けて、 「どうだい。ヴィッツは?」 「だって、高速で走らないのでしょ。坂も登れないようだし」 「....」 そうなのです。 奥方の記憶力は抜群です。 ヴィッツが昨年1月発売された直後、 オトーサン 一日レンタカーを借りて走りまくって 「リッター20kmも出たよ」 「すごいわね」 「でも、さっぱり走らなかった。坂と高速」 「じゃ、ダメね」 奥方の頭の中では、 さしものベストセラーカーも すでに×印のほうに分類されていたようです。 でも、どうやら、大蔵省も、 クルマの買い替えには反対しないようです。 オトーサンのマンションは 田園調布の高級住宅街のそばにあります。 外車デーラーの居並ぶ環8のそば、 走っているクルマも日本一オシャレで、ポルシェや オープンカーをしょっちゅう見ることができます。 オトーサン、 週末になると帰宅して、 毎日、ジャガーのデーラーの前を通り過ぎます。 マンションの広い駐車場には ベンツ、BMWなど高級外車が並んでいます。 こういう状況下では、 わが家のリアが凹んだ古いマーチは、 周囲の国産車と較べても、著しく見劣りするのです。 このマーチ、息子のですが、 奥方だって、時々乗ります。 オトーサンも帰京すると、週末に時々乗ります。 そのたびに、 「このクルマじゃ、ちょっと寂しいよなあ」 なんて思うものの、 お互いに,口では、 皇居前を外車と並んで勢いよく走りながら、 「ほんとに、マーチはよく走るよなあ」 表参道の外車の横に止めて 「個性的なデザインだよなあ、マーチは。 10年前にヨーロッパでカー・オブ・ザ・イヤーをとったくらいだものなあ」 といいあいます。 週末のある夜、 息子はいませんでしたが、 オトーサン、 久しぶりに奥方とクルマの話しをしました。 「ネッツのセールスに聞いたら、マーチを8万円で取るといっていた」 「そんなに安いの? まだ走るのにねえ」 オトーサンたち、 息子のためにというのが、 自分たちのためのクルマ選びになってきました。


6 カローラに拒否権発動

カローラって、日本の名車です。 当時の神谷社長、長谷川主査など国民車をつくろうという熱い思いが カローラに実を結んだのです。 1966年に発売、たちまちベストセラー。 以後30年間、わが国乗用車の販売台数No.1を続けました。 こんな大型商品は、空前絶後です。 日本人の誇りです。 オトーサン、 このカローラと、いささか、かかわりがあります。 初代のカローラが発売される半年前に販売拡張部に配属されました。 直接、広告を作成したことはありませんが、一緒になって一喜一憂。 発売直後に日本TVで特番を組みました。 撮影に立会いました。 坂本九ちゃんがカローラの前に立って歌うのです。 九ちゃんサイドは、九ちゃんを長身にみせたい。 オトーサンたちは、カローラを低く長くみせたい。 カローラを低く長くみせると、九ちゃんの背が低くなります。 九ちゃんの背を高くすると、カローラが寸詰まりにみえる。 九ちゃんのフアンでしたが、カローラ有利にと頑張ったものです。 カローラのタレントはジェリー藤尾さんでした。 オトーサンはたまたまアメリカ出張中。 TV局が奥方と交渉して、娘を時代劇に出演させてしまいました。 お姫様役を演じる大谷直子さんの幼ない頃という役。 風車をもって走るだけのシーンですが、まる1日撮影がかかるのです。 まだ小学1年生の双子の娘は、「早くお家に帰ろう」とダダをこねます。 ジェリーさんは、兎のぬいぐるみで一生懸命あやしてくれたそうです。 日本にいたら出演を断るところでしたが、 終わってしまったものはしょうがありません。 あとで報告を聞いて、オトーサン、いいました。 「ジェリーさんに大きな借りを作ってしまったな」 石油危機でカローラが まったく売れなくなったとき、 オトーサン、イベント担当課長になっていました。 オトーサンは、絶対、カローラの販売を回復させるぞと腹をきめて ジェリーさんと一緒に歌謡ショーをやって、全国を回りました。 デーラーの社長さんとユーザーの会を開催して、カローラ支援のお願いをしました。 ジェリーさんは、自分から言い出して、大口ユーザーを訪問してくれました。 その効果は絶大で、カローラの売れゆきが回復したのです。 オトーサン、 予算担当として 10年間マス媒体費を カローラに重点的に注ぎこみました。 TVCFは、セールスマンもいかない田舎のお茶の間に届き、 カローラというすばらしいブランドを育てたのです。 いいたいのは、自慢話ではなく、 オトーサンのように、売る側だけではなく お客様のなかにも「カローラ=命」で人生を送ってきた 大勢のひとたちがいて、カローラを支えてきたということなのです。 ところが、 いま、オトーサンたちの目には、 後輩たちがアグラをかいているとしか思えません。 宣伝部員たちは、すっかりカローラをオジンくるまにしてしまいました。 ウソだと思ったら、カローラの貧弱なカタログをみてください。 さえないTVCFをみてください。 北野武をつかった新聞広告の妙なキャッチフレーズをみてください。 目立つのは大金をつぎ込んだことだけ。 技術者たちは、あやうくカローラという名前を消しそうになりました。 安全だ、 環境だ、 燃費だ、 装備充実だ、 パッケージングだ、 開発期間の短縮化だ、 とか何とか、 一見すると 大事なことに血道をあげて、 肝心のカローラを肥大化させてしまいました。 コスト削減ばかり考えたダメクルマにしてしまいました。 データを紹介しましょう。 世界の乗用車ランキングで 1997年 3位 カローラ 53万2329台 1998年 7位 カローラ 46万5635台 1999年 10位カローラ 37万1367台 なさけない低落ぶりです。 主力車種が10位で、生き残れますか。 この責任をとって誰かが辞任したという噂もありません。 よほど温情的な社風なのでしょう。 オトーサン、 この10月、 カローラの新車が出たので、 久しぶりにデーラーへ飛んでいきました。 「なーんだ」 がっかりしました。 ぼってとしたデザイン。さえないカラー。 セールスは顔もみせず、最上級車は木目張りというバカさ加減。 「おいおい、一体、きみら何をしているんだ。ぶったるんでるぜ」 そう思って帰ってきました。 日本カー・オブ・ザ・イヤーでも、 RJCのカー・オブ・ザ・イヤーでも、 カローラは話題にも上りませんでした。 シビックが取ったのです。 世界に通じる看板車種のひとつも作れない会社に なっているのではないでしょうか。 凡庸なクルマをたくさん並べて、 財務諸表の数字だけをみて喜んでいるのではないでしょうか。 いわばGMとおなじ、内部から崩壊しつつあるのです。 経営者は一体何を考えているのでしょう。 クルマ屋はやめた、最近は経理屋だというなら 聞きますが、収益率が欧米に較べて低く、 株価もホンダに並ばれているってどういうこと? ニッサンがあんなていたらくだから、 助かっていますが、 世界的にみれば、 どんどん凋落していっているのです。 お金に目がくらんだ輩の チョウチン記事が多く出ているので、 経営陣がいい気になっているのではないでしょうか。 このカローラ、 11月の販売でトップ。 それで安心しているのですから、世話がありません。 30年NO1だった遺産で食ってるだけなのに。 オトーサン、 トヨタレンタカーで、 3時間3000円というキャンペーンをやっているので、 カローラに試乗してみました。 第3京浜を140Kmで走ってみました。 せめて走りでもよければ、いいかと思ったのですが、 ふにゃふにゃ。 エンジン音も安手。 オートマも変な設定。 シートも安手。 内装がいいとエセ評論家が 書いていましたが、 とんでもない。 コストダウンがあちこちににじみ出ています。 センスの悪さは、三河者まるだし。 乗っていて、面白くも何ともないのです。 結局は、ガマンぐるま。 オトーサン、慨嘆しました。 「あああ。老残、無残、悲惨」 昔の神谷社長の、あの高い志はどこへ? 「きみたち、仕事でカローラつくってるのね、ああそう」 神谷さんならそうおっしゃるでしょう。 日本一の会社が、こんな風では、この先、日本経済もダメでしょう。 あああ。


7 むなしい浮気

オトーサン、 奥方と、カローラの試乗を終えましたが、 ふたりとも、表情がさえません。 第三京浜を走り終えて 環八沿いは、尾山台のとある喫茶店でお茶しました。 「カローラの燃費ってどのくらい?」と奥方。 「さっきのレンタカーは、排気量1500ccだけれど、 10・15モードでリッターあたり16.6キロだそうだ」 「じゃ、いまのAUDIの倍くらい燃費がいいのね」 「プレミアムでなくていいから、ガソリン代は助かるよ」 「値段は?」 「さっきの最量販グレード(15X、AT)で、134.8万円だそうだ。 7万円くらいは値引きするから、128万円で買えるな」 「でも、税金とかいろいろかかるでしょ」 「まあ、プラス20万円というところかな」 「ふーん」 話しは、それきりになりました。 奥方の気持を代弁すると、 150万もだして、 燃費は助かるかもしれないけれど 面白くも何ともないクルマに何年も乗ってどうするの? というところでしょうか。 「ソアラはよかったわね」 「ああ、中古で100万。毎日、胸を張って乗ってたよなあ」 「あの頃はよかったわ」 胸を張って乗れるクルマかどうか、 これって大事なことです。 150万円も出せば、 中古のベンツやセルシオはムリにしても いくらでもいいクルマが手に入ります。 そんなことで、クルマ選びは振り出しにもどってしまいました。 翌週、 オトーサンは、 中古車デーラーをあるきました。 三菱はリコール直後で対象外。 ホンダの中古はすぐダメになるので論外。 残るは、日産とマツダ。 両者とも経営再建中。 新車デーラーでもセールスの意気が上りませんが、 中古車デーラーとなると「流罪、遠島」の雰囲気。 でも、一応、みました。 日産では、ブルーバード55万円とスカイライン125万円。 いずれも、最近の森首相のように、人気の低下著しいモデルです。 息子にきいてみました。 「ふーん」 若い世代は、 かつてのブルーバードSSS,愛のスカイラインの名声など 知らないのです。 あるのは、しょぼいクルマということだけ。 「マーチのほうがいいよ、使い慣れているから」 マツダにも息子を連れていきました。 目にとまったのは、デミオ。 やけに多く並んでいます。 でも、デミオの中古車なんてホームレス専用車ってカッジ。 残るは、ロードスター。1台だけありました。 オープンカーで緑色。55万円。 「どう、かっこいいだろう」、 「でも、二人しか乗れないんじゃなあ」 オトーサンは、 彼女とのデートにピッタリと思ったのですが、 学生時代の仲間とワイワイ遠出するのに使えないのじゃなあ というのが息子の本音のようです。 まあ、この辺りに7人乗りのミニバン人気の秘密があるのでしょう。 大勢でいくドライブって楽しいものです。 高速道路代だって、ガソリン代だってワリカンにすれば、OK. いざとなれば、車中泊。 そこで、 次の週末、 オトーサンたちは、 山荘付近でクルマ探し。 かって買う一歩手前までいった 三菱のディオンをちらっとみながら、 ホンダのデーラーに行きました。 駐車場に、シビックとストリームの展示車が並んでいます。 「ホンダなの?」 と奥方。 奥方の字引には、ホンダという字がないのです。 ガキグルマの会社、オートバイの会社、そういう偏見があります。 「最近、日産を抜いて2位になったんだぜ」 「そうなの?」 そこで、クルマにちかづきました。 セールスマンはオフィスにいて誰も出てきません。 オトーサンが、ドアを開けて乗りこみます。 「いいの? 勝手に乗って?」 オトーサン、しゃれたコックピットなどをみて 「まあ悪くもないなあ」 と思いはじめます。 「座ってみなよ」 奥方も乗ってハンドルを握ってみます。 でも、悪いことをしているという意識があるのか、 すぐ降りてしまいます。 オトーサン、オフィスに入ります。 ジロっと若い男がオートーサンをみます。 「カタログ、ほしいんだけど」 年寄りにはやれないという顔つきです。 本カタログではなく、リーフレットを出してきます。 「ちゃんとしたのをほしいのだけれど...」 「じゃ、ここに住所氏名を記入してください」 オトーサン、交番に被害届を出したときを思いだしました。 「この住所、東京ですか。それじゃあ、カタログは差し上げられません」 山荘は長野県です。デーラーも長野のホンダです。 オトーサン、むかついて、聞きました。 「へえ? ホンダはお客さんでも長野に住んでいないと、カタログもくれないの?」 セールスは当然だろうという顔をします。 「吉野さんに、ここで断られたといっていい?」 「吉野さんって?」 「ホンダ本社の社長だよ」 すると、さすがにしまったという顔をして、カタログをくれました。 オトーサンが、外に出ていっても、 シビックに案内する様子はまったくありませんでした。 「どうだった?」 奥方が聞きます。 「まあ、無理やりカタログはもらってきたけれど、売る気はないな」 「それじゃ、やめましょうよ」 その後で、東京でも一度ホンダのデーラーを訪問しました。 カーオブザイヤーを取ったことだし、 シビックをもう一度見てみようと思ったのです。 奥方と一緒に展示してあるシビックフェリオをみました。 フロントシートにも座ってみました。 でも、誰も出てきませんでした。 何か、周囲の風景が白っちゃけてきて、 シビックも、フェリオも、ストリームも、インサイトも すべて安っぽくみえてきました。 ホンダの本社が 年間80万台の販売目標を立てても、なかなか超えられないのは、 こうしたサイテーの販売最前線しかないからなのです。 エンジンのそばにいればうれしい。ついニヤニヤ。 これをエンジニアといいますが、 ホンダの最大の不幸は、エンジニアしかいないこと。 創業者・本田宗一郎のDNAといえばそれっきりですが... 真面目に販売店をよくすることに取り組もうというひとがいないのです。 たとえ、いても報われない体質の会社なのです。 オトーサン、溜息をつきます。 「あーあ、 疲れたなあ。 いろいろなデーラー、 いろいろなクルマを、 浮気してみて歩いたけれど、 いいクルマないなあ。 困ったなあ。 どの会社もチンタラやってるなあ。 10年前の日本の自動車業界は、世界一といわれたのに...」


8 あらまあ、すっかり大きくなられて

オトーサン、 世の女性が美に対して抱く 異常なまでの執念に畏敬の念をもっております。 「八頭身、ほそおもて、巨乳」 これが現代における美の基準であります。 この基準があるがために、世の女性がどんなに悩み、傷つき、かつ苦労しているかは、 図り知れないものがあります。 食べたいものも食べず、やせたいやせたいと涙ぐましい努力をしているのであります。 しかし、この異常事態は、いつまで続くのでしょうか。 だって、昔は、「八頭身」は「大女」とバカにされ、 「ほそおもて」は「キツネ憑き」と忌み嫌われ、 「巨乳」がはずかしくて、胸にさらしを巻いたものであります。 このように、美には絶対的な基準などないのであります。 クルマの世界においても、 かつて、「長く、細く、低く」なる名車の基準がありました。 地を這うようなクーペ・スタイルですな。 ところが、現代のクルマは、パッケージング革命と称して、 「短く、太く、高く」がよろしいのであります。 まったく、昔と正反対。 オトーサンのみるところ、 「短く、太く、高く」の代表選手である ミニバンやSUVの所有者の多くは、 狭い家に住んでいるがために 家に物が入りきれないので、物置代わりに広いクルマを購入しているのであります。 オトーサンにいわせれば、「貧乏臭い」の一言。 貧乏を宣伝しながら走っているのをみると、憐憫の情さえ、催すのであります。 さて、 わが家にある古いマーチのスリーサイズは、 長さ  3720mm 幅   1585mm 高さ  1425mm でありますが、 最近、流行のヴィッツのスリーサイズは、 長さ  3610mm 幅   1660mm 高さ  1500mm とあいなっております。 ヴィッツは、マーチより 長さが短い(寸詰まり)で、幅があり(デブ)で、高い(ノッポ)なのです。 でも、このスリーサイズでいちいち比較するのは、 大勢のひとを相手にすると、大変です。 ですから、 「あのひと、チビねえ」 あるいは、 「最近、肥ってきたわねえ」 日常会話というのは、こういう風に、たったひとつの評価基準でバッサリ切り捨てます。 クルマの場合、何が評価基準でしょうか。 クルマだっていつまでも「三種の神器」扱いしていてもしょうがないでしょ。 日常の足代わりの時代になったのですから、 日常会話のように、バッサリやりましょうよ。 オトーサン、 ここで、ホイールベースによる絶対評価を提案いたします。 ホイールベース(WB)というのは、前輪と後輪の間の長さ。 では、早速、マーチとヴィッツを較べてみましょう。 ミリ(mm)なんて細かい表示はやめて、センチ(cm)にしましょうよ。 マーチ  2m36cm ヴィッツ 2m37cm 「まあ、1cmしかちがわないの? 似たようなものじゃない」 そうなのです。 これで、足慣らしができたということにして、 以下、一挙に、データを発表しましょう。 本邦初公開ですよ!

主要セダンのWB一覧

初代カローラ..........2m30 マーチ/ キューブ......2m36 ロゴ/ キャパ..........2m36 ヴィッツ..............2m37 YRV................2m37 デミオ................2m39

VWポロ..............2m41 ベンツA160........2m42 プジョー206........2m44 フィアットブント......2m46 ルノールーテシア......2m47 旧型ゴルフ............2m47

ファンカーゴ..........2m50 ローバー200........2m50 現行ゴルフ............2m52 サニー/ ブルーバード..2m52 プリウス..............2m55 コロナ................2m56

カローラ/ セリカ......2m60 アコード..............2m66 アルテッツァ..........2m67 シビック..............2m68

オーパ................2m70 ベンツCクラス........2m71 BMW318..........2m73 マーク2/ カムリ......2m76 クラウン..............2m78

セドリック............2m80 セルシオ..............2m92 こうして、一挙に並べてみると、 「へえ、一番小さいクルマと一番大きいクルマの差は、62cmなの」 そうなのです。 初代カローラ(2m30)とセルシオ(2m92)の差が、62cmになってるでしょう。 いくつかの驚きがあります。 1)ベンツCクラスって、クラウンより小さいの? われわれが、イメージの奴隷になっているいい例です。 2)なあんだ、同じクルマだったの? マーチとキューブ、ロゴとキャパ、サニーとブルーバード、カローラとセリカ。 マーク2とカムリ。 せっかく大金をはずんで、小型車のブルーバードを買ったはずが、 大衆車のサニーだったなんて、イヤですねえ。 セリカも、カローラ。 3)変ねえ。 カローラ(大衆車)は、コロナ(小型車)より大きい。 シビック(大衆車)は、アコ−ド(小型車)より大きい。 高名な自動車評論家、巨匠・徳大寺有恒さんは、 コンパクトカーのWBは、2m40でいいと、宣告されておられます。 オトーサンは、旧型ゴルフの2m47ぐらいがいいと思います。 大人4人が乗れ、よく走り曲がり止まるクルマであればいい。 そういう目でみると、カローラも、シビックも巨大化して、 もはやコンパクトカーではなくなってしまったのです。 大きくすれば、お客は飛びつくだろう。 儲かるねえ、こたえられません。 舌なめずり。 ぴちゃぴちゃ。 初代カローラ    2m30 現行9代目カローラ 2m60 「あらまあ、坊ちゃん すっかり大きくなられて...。 高さなんて、 まあ、見上げるようねえ。 バスケットの選手なの?」 小声で、何か、おクスリでも飲んでいらっしゃるのかしら?


9 ご注目!YRV

オトーサン、 こうして、諸々のクルマの記事に目を通した結果、 「走りが面白くないクルマはもうやめよう。これからは、ホットハッチの時代だ」 と高らかに宣言しました。 なかでも、YRVに注目せよ! 早速、ダイハツのデーラーに行って、カタログをもらってきました。 家に帰って、夕食時に、低い声で、 「じゃあ、YRVはどうだ」 と寝転んでTVを見ている息子にカタログを見せます。 表紙は、真っ赤なYRV。 サイドがダブル・ウエッジと特徴的です。 いかにも若者好み、走りのイメージが溢れています。 息子はムックリ起きあがって 「うん、なかなかいいねえ」 ヴィッツくらいの大きさなのに、1.3Lターボだと140馬力。 回転半径も4.3mと街中でとても駐車しやすそうです。 オーディオも、何と椅子の下からも音がでるのです。 室内全体が音楽空間として設計されているのです。 ダイハツは、 トヨタの子会社にされてしまって 開発を許されるのは、このサイズの小型車まで。 渾身の力作YRV。 お値段は、1300ccSパック、4ATで123.9万円。 ターボだと139.5万円、パノラマパックになると149.9万円と グングン値段が上がっていきますが、 自動車評論家諸氏は、ターボ・パノラマパックがいいと推奨しています。 しかし、この値段になると、カローラでもシビックでも買えるのです。 それでも、オトーサンは研究の結果 国産コンパクトカーのなかでは、 YRVが一番いいと思うようになってきました。 カローラもシビックも、もうコンパクトカーではありません。 裏切って、ミドルクラスカーになってしまったからです。 「おいおい、ダイハツだって? そんなちっぽけな会社、トヨタの下請けになってしまった会社、 そんな会社のクルマを買ってどうするんだよ」 そんな声が聞こえてまいります。 オトーサン、ムキになって反論します。 「じゃあ、スバルはどうですか。 GMの傘下に入ったといっても、 4WDの独自技術で頑張っているではありませんか スズキだって、軽自動車No1、大したものです。 問題はやる気、いい車づくりの情熱と技術があるかどうかですよ」 「ダイハツに独自技術なんてあるのか?」 「ヴィッツがヒットしているでしょう。 あの1000ccエンジンはダイハツが作っているのですよ」 「へえ、知らなかった」 「軽自動車でもスズキと張り合っているし、 軽で養った技術がこれからのコンパクトカーづくりに 大いに役立つ段階に入ってきたのですよ」 「Tさんのところで買うの?」 奥方が会話に介入してきました。 実は、山荘に置いてある奥方のムーブは、ダイハツから買ったものなのです。 セールスマンのTさんがほんとにいいひとで、 毎年、春になると山荘にやってきて 「奥さんいますかあ。今年ももってきましたよ」 キノコをどっさりくださるのです。 「一度、試乗に行くか」 「いいわよ。ひさしぶりにTさんの顔を見にいきましょう」 さて、 そんなことで隠れダイハツフアンのオトーサン、 いよいよ奥方と一緒に近所のダイハツデーラーヘいきました。 ところが、顔なじみのTさんは不在でした。 頭の禿げあがった老人が相手です。 「YRVに試乗してみたいのだけど」 「どうぞどうぞ」 赤いYRVのところに歩み寄ります。 「あれっ、ターボ・パノラマパックじゃないや」 「乗り心地は同じですよ」 「そんなこと言ったって、パノラマパックの車を見にきたんだから」 「ですから、同じようなものです」 「そんなバカな。どの自動車雑誌を見ても、 YRVはターボ・パノラマパックじゃなくてはと書いてあるでしょう」 オトーサンたち、帰りかけます。 さすがに老セールスマン、 夫婦連れできたお客は、購入確率が高いことぐらいは承知しています。 「ちょっと待ってください。どこの営業所にあるか調べてみましょう」 やがて戻ってきて、 「南六郷の営業所にあります。行かれますか」 羽田空港のほうなので、クルマで20分くらいでしょう。 「お送りしましょうか?」 「いいよ、場所はだいたい分かっているから」 「このクルマで南六郷まで試乗していって、 ターボ・パノラマパックで帰ってくるのではいかがですか?」 「そりゃあ、好都合だ。じゃあ、そうしよう」 話がまとまって、 行きは、老人(あとで分かったのですが、営業所長さんでした) に運転にしてもらいました。 「どうして試乗にこられたのに、運転されないのですか?」 だって、このYRVのリアシートは、 スタジアム・シートで見晴らしがいいと書いてあったから、 実際に座って確かめてみたいのですよ」 YRVは、第2京浜を割合スムースに走って、 やがて裏道で渋滞。 オトーサン 奥方に小声で、聞きます。 「どうだい、このクルマ?」 「後ろはあまり乗らないから分からないけれど、シートはこんなものかしら。 でも、スタジアム・シートというほど、見晴らしはよくないわね。 だって、フロント・シートのヘッドレストが大き過ぎて、前が見えないもの」 オトーサン、 小柄な奥方の目の高さまで腰をずらして前方を見ます。 なるほど、目の前の大きいヘッドレストが邪魔で、何も見えません。 「お前がチビだからいけないんだ」 そう言おうかと思いましたが、心のなかで急ブレーキをかけました。 いくら隠れダイハツフアンだとしても、 たかがヘッドレスト大小問題で、熟年離婚のリスクを犯してはいけません。 ようやく南六郷の営業所に到着。 うれしいじゃ、ありませんか。 赤いターボ・パノラマパックがいつでもスタートできるように 待機しています。 「いやあ、ムリ言って、すまんね」 ごく自然に、お礼の言葉がクチを突いてでてまいります。 日本の皆さん、ダイハツはこんなに涙ぐましい販売努力をしている のですよ。ほめてやってください。 そう大声で叫びたい気持ちです。 すこしぐらいクルマがチャチだって、いいじゃありませんか。 問題は心意気ですよ。 さて、 オトーサン、 ハンドルをにぎりました。 この第一印象って大事です。 なかなか握りの感じはよいようです。 パノラマパックもサンルーフのように快適です。 「ウィンカーはどうやって動かすの? サイドブレーキはどこ?」 一応、はじめて乗るクルマなので、確認します。 さて、走り出します。 なかなか力強い発進で、低速トルクはありそうです。 気にいったのは、ターボラグのないこと。 奥方のムーブは、アクセルを踏み込むと一瞬、間があって それからウーンと一挙にターボパワーが炸裂します。 ところが、このYRVはターボを感じさせないのです。 実になめらか。 それにシフトの感じもなかなかです。 ハンドルのところにもシフトがついているのもいいアイディアてす。 オトーサン、 商店街の道を 交差点までアクセルを強く踏んで、飛ばします。 そして、交差点のすぐ手前で急ブレーキをかけるテストを繰り返します。 「うん、なかなかいい感じだ」 ところが、奥方はたまったものではありません。 「ねえ、危ないわよ。こんなせまい道で飛ばしては」 オトーサン、 その後は、もっと飛ばしましたよ。 100kmくらい。 蒲田から第2京浜に出て走れるようになったからです。 「高速安定性もいいなあ」 オトーサン、 そんなことで、ゴキゲンになって、元の営業所に到着しました。 「いやあ、ありがとう、いいクルマだった」 営業所長さんにいいます。 「明日、Tさんに電話するよ。ありがとう、ご面倒かけて」 オトーサン、 「なかなかいいクルマだった。まあ、これで決まりだな」 古いマーチに乗って、家に向う途中、そうつぶやきました。 「どこがいいのよ」 突然、奥方がいい出します。 「よく走るじゃないか」 「あのシートひどいわよ、あたし、あんなひどいシート、いや。 それに、リアのスタジアム・シートもインチキよ。何も見えないのだから。 パノラマになっても同じよ」 オトーサン、 唖然としました。 「そんなに手厳しくいう必要ないだろう。 少しくらいシートが悪くたって、どうってこたぁないじゃん」 と内心思いました。 奥方とTさんの友情なんて、いい加減なものです。 男なら、友情で買ってしまうでしょうが、女性はちがうのです。 オトーサン、 あらためて、 女性というのは、 一見、夢を追う存在に見えますが、 きわめて現実的な生物であることに気付かされたのでした。


10 クルマの夢をみる

オトーサン、 プジョーの購入価格について ブルーライオンのセールスマンと喧嘩して 別のクルマを買った夢をみました。 クルマの夢なんて、10数年ぶりです。 昔、ソアラに恋をして 「欲しいなあ。でも、とても買えないなあ」 そんな風にして月日を送っていました。 すると、ある日のこと、 ソアラを買って、ハイウエーを180kmで リミッターがこわれるくらいの速度でぶっとばす夢をみました。 天にも上るような気持とはこのこと。 運転=運を天に任せる。 あぶない、あぶない。 でも、夢って実現してしまうことがあるから、 ゆめゆめ、バカにしてはいけないのです。 オトーサン、 当時、クレスタに乗っていましたが、 通勤の帰り、毎日新聞社の横で信号で止まっているときに、 後ろから追突されました。 クレスタは大破して、廃車。 オトーサンはといえば、 ムチ打ち症でしばらく通院。 非は全面的に相手にあります。 ところが、加害者は、何と東京Pの営業所長さん。 おかげで、ソアラの中古車のいい出物を紹介してくれました。 さて、 今度の夢は、 プジョー206の商談が決裂して、 憤然としてマーチで走っていたとき、 田園調布の修理工場をみつけたのです。 (友人がやっているので、それが意識にあったのでしょう) その汚い工場の片隅に、 外車のスポーツカーがポツンと置いてあるのが、目にとまりました。 オトーサン、叫びます。 「おうっ、カウンタックだ」 (あるいはランボルギーニだったかも) 地を這うような白いスポーツカー。 イタリアの巨匠・ジュウジアーロの作品です。 (あるいは、ピニンファリーナだったかも) その何ともいえない曲線美が、 オトーサンと奥方を一瞬のうちに虜にしてしまいます。 女性、家具、鞄など、 一目ぼれって、ありますよね。 「何年式?」 答えは、夢のこととて、 さだかではありませんが、 1880年式ぐらいではなかったかと思います。 「お前、1880年だって? 120年前のクルマだぞ」 そういえば、そうです。 ダイムラーなどによってクルマが発明されたばかり。 一番古い自動車会社プジョーが設立されたのが1890年。 有名なT型フォードの大量生産がはじまったのが1913年ですもの。 「ああ、いいですよ。試乗なさってください」 「まだ走れる?」 「走れますよ」 そういって友人は、 オトーサンたちを乗せて、自らハンドルを握ります。 しばらく、混雑した環八を走ってから、 さらに混雑した横浜の中華街をぬけて アリゾナ州のハイウエー、そのカーブのきつい坂にさしかかります。 「ちょっと待った。 中華街をぬけると、アリゾナ州? アリゾナ州って、アメリカではないのか? クルマで太平洋を横断したのか? クルマは泳げるのか?」 まあまあ、キツイことはいわないで。 何しろ夢なんですから。 「ぎゃあ」 これは奥方の悲鳴。 友人が、クルマの優秀性と自分の運転術の冴えをみせようと、 超フルスピードでカーブに突っこんでいってるのです。 みなさんも、 あるいは、 テストコースやサーキットでご経験かもしれませんが、 高速でカーブに突入すると、真正面に壁が出現するのです。 オトーサンも、慣れていますが、すこし緊張します。 「おいおい、慣れてなんかいないだろ」 まあ、そうなんですが、このさい、いいでしょ。 汗びっしょりで試乗を終えると、 元の田園調布の修理工場。 奥方がケロっとした顔で 「おもしろかったわ。ちょっと私にも運転させて」 といいだします。 「ああ、どうぞどうぞ」 友人とオトーサンがクルマを降りて見守るなか 奥方は、クルマにのりこみます。 小柄だから、無人操縦のようにみえます。 エンジンがブーンと唸ります。 カウンタックが目を覚ましたのです。 アクセルを強く踏みすぎたのでしょうか。 電柱に向って猛スピードで突進。 オトーサン、目をつぶります。 「ああ。ぶつかった。これで5500万円がパーだ」」 そう思って、目をあけると、 奇跡的にクルマは数ミリ手前でストップしているのです。 オトーサン、 おそるおそる クルマに近かずきました。 「ああ」 みると、白いカウンタックは、全身に油汗。 黒い油がボディ全体を覆っています。 正面に回ると、 ボンネットが皺だらけ。 オトーサン、つぶやきます。 「120歳だから、こんなものか」 そこで夢からさめました。 汗びっしょり。 これって、どういう夢なのでしょうか。 何を意味しているのでしょうか?


11 いざ、試乗

オトーサン、 ついに運命の日をむかえました。 月曜日の午後、奥方と一緒に、目黒のブルーライオンへ。 早速、セールスマンの小林潤一さんを呼んでもらいます。 「小林は、試乗で出払っていますが...」 「せっかく来たんだけれどなあ」 「30分ほどお待ちいただければ、戻ってくると思いますが」 「じゃ、待つよ」 目黒通り沿いにあるガラス張りのきれいなショウルームには、 プジョー206(シルバー)ともう1台306(イエロー)が展示されています。 奥のほうには、プジョーの自転車もあります。 丸いガラステーブルの回りに黒いしゃれた椅子が置いてあります。 オトーサンたち、ここに座って雑誌を読んですごしました。 ラックには、CGとかNAVIとかいう、高級な自動車雑誌が並んでいます。 バインダーが数冊さって、プジョー車の載った記事がスクラップされています。 これって、当然のことですが、なかなかやっているデーラーはありません。 「おお、モーターフアンがプジョー206特集をやっていたのか? ふーん、昨年の6月号か」」 オトーサン、頭のなかにメモします。 高い買い物ですから。購入を希望する車について知りたいのは、当然。 ぜひ、他のデーラーでも、見習うべきものと思います。 「コーヒーいかがですか?」 受付嬢がにこやかに聞きにきます。 「いや、さっき、飲んできたばかりだからいいよ」 受付嬢は、引き返しますが、 その代わりに、ノベルティをもってきます。 「これ差し上げます」 奥方がニコニコします。 この方は、もらいものに弱いのです。 今国会で決まった斡旋利得収賄罪が奥方に適用されたら、 たちまち引っかかるでしょう。 「あ-ら可愛い」 みると、青色のケイタイのストラップ、 そしてライオンマークの入ったキーホルダーです。 やがて、小林潤一さんが、帰ってきました。 黄色いオープンカーの試乗が終わったようです。 黒いキャンバストップが黄色のボデーカラーとベストマッチ。 プジョー306カブリオレ(4AT) 364万円。 「おーっ」 キャンバストップが畳まれます。簡単操作のようです。 「これもいいなあ」 「何言ってるのよ」 奥方にたしなめられますが、 奥方が感動しているのは火を見るより明らかです。 オトーサン、 はじめて、 プジョー206が、 このブルーライオンでは一番安いクルマであることに気付きます。 そして、オンボロのマーチで買いにきている客などないことにも気付きます。 小林さんが、 大急ぎでもどってきます。 「お待たせしました」 「206に乗りにきたのだけれど」 「申し訳ないのですが、試乗車が出払っていますので」 「じゃ、今日はダメなの?」 「あと30分ほどお待ちいただけますか?」 「いいよ、今日はヒマだから」 小林さんは、オトーサンたちを2階に案内します。 「へぇ、広いショウルームになっているんだ」 406が2台、306が1台、そして206(S16)が1台置いてあります。 壁には、表彰状がはいった額がずらっと並んでいます。 94年、95年、96年、97年、98年、99年。 「最優秀デーラー賞。すごいね」 「おかげさまで、日本で一番売らせていただいているものですから」 206のS16だけを見ます。 これはスポーツ・モデルで3ドア、5MTで245万円。 色は、ダンジュリン・オレンジ。 なかなかシックな色です。 シートもレザー。スポーツシート。排気量2000cc。 「いいねえ」 「5段ミッションじゃねえ」 と奥方。 オトーサンたちが狙っているのは、 206XTの4ATモデル。 これなら運転もしやすそうだし、価格も手頃。 ところが、1400ccしかありません。 「これじゃ、坂登れるかしら」 価格は、3ドアが175万円、5ドアが179万円。 目下、このサファイアブルーが奥方のハートを射止めています。 「お待たせしました」 小林さんが、ショウルームの前にクルマを横づけしてくれました。 いよいよ、試乗です。 「いざ,試乗」 オトーサンの心臓は、高鳴ります。


12 試乗は好印象

オトーサン、 試乗する前に、 あらためて、206をぐるっと回ります。 サファイヤ・ブルーの不景気を吹くとばすようなカラー、 フロントからリアにかけての流れるようなデザイン。 切れ長の猫目のヘッドライト。 おしゃれなライオンのマーク。 205は、かの有名なピニンファリーナがデザインしたそうですが、 この206のデザインは完全な社内設計だそうです。 「すごいなあ。日本も見習いたいもの。 でも、残業ばかりしている中流階層の日本人デザイナーに それを望むのはムリかもなあ。 生活を楽しむことが異端ではない、 ビューテイフル・ライフを満喫するひとで いっぱいの国だけが、産み出せるデザインです。 オトーサン、 乗りこみます。 「右ハンドルだ」 ちょっと感激します。 だって、外車はまだ左ハンドルが多いのです。 方向指示器は、外車のままで、ハンドルの左についています。 奥方に聞きます。 「どうだい、シートの感触は?」 「しっとりとした座り心地ね。YRVよりずっといいわ」 「後ろはどうだい」 リアシートにも座ってみている奥方に聞きます。 「こんなんで、いいんじゃない?」 206のホイールベースは、2m44cm。 ヴィッツやYRV(2m37)よりは少し大きいのですが、 ファンカーゴ(2m50cm)やゴルフ(2m51cm)よりは小さいのです。 VWのポロ(2m41cm)、フィアットのブント(2m46cm)、 ルノーのルーテシア(2m47cm)とほぼ同じ。 このあたりが、21世紀の新しい小型車の基準ではないしょうか。 クルマが大きければいいというのは、もう古い。 21世紀には、街中での運転しやすさが大きな価値になるでしょう。 オトーサン、 走り出す前に、 ATのシフトパターンとペダル位置などを確認します。 右ハンドルにしたものの、 ペダル位置がまだ左に寄っているので、 運転しにくいとある自動車評論家か書いていましたが、 さほど苦にはなりません。 自然なドライビング・ポジションと言っていいでしょう。 でも、ATのシフトは、ちょっと気になりました。 「グニャ、グニャ」しているのです。 昔、ポルシェに一度だけ乗ったことがありますが、 カチッカチッと精密機械のように小気味よいシフトでした。 「まあ、1000万円以上するくるまと比較しては気の毒か」 試乗といっても、 目黒のこのあたりの路地を走っていては、 性能なんか分かりません。 オトーサン、すぐ飽きて 奥方にいいます。 「ちょっと運転してみるかい?」 すぐ代わったところを見ると、大分お気に召したようです。 奥方ときたら、 200mほど走って、 「もう分かった」というのです。 すごいものです。 オトーサン、 ようやく環7に出ました。 「あなた危ないわよ。100kmも出して」 「やっぱり、いいクルマだなあ」 結構、勢いよく加速します。 評論家が 「反応がいい。アクセルを踏む。 シフトダウンしてすぐに加速するタイミングが絶妙。 自分の思いどうりにクルマが動いてくれる」と書いていましたが、 その通りでした。 オトーサン、 排気量が1400ccと聞いていたので、 非力ではないかと心配していたのですが、機敏に走ってくれます。 そして、なんといっても、サスペンションに粘りがあるのです。 レーンチェンジも気持良くできました。 自動車評論家が、 こういうATのセッテイングや足回りの設計は、 パリの凱旋門周辺のラウンドアバウトをリズムよくすり抜けるためだと 書いていましたが、その通りだと思いました。 昔、カローラを借りて、 コンコルド広場付近を走ったり、 高速道路に突入したことがありますが、 加速がきかず、死ぬ思いをしたことがあります。 オトーサン、当時,自分の運転の腕が下手かと思いましたが、 そうではなかったのです。 軽量で、高剛性で、安全装備もきちんとついています。 オトーサン、 試乗を終えて、 セールスマンの小林さんにいいます。 「こりゃあ、売れるはずだわ」 小林さん、ニコニコ。 奥方も、ニコニコ。 もう1回、クルマをしげしげと眺めます。 ボンネットの左上に、2つスリットが入っています。 「これ何なのですか?」 小林さん、ボンネットを開けてくれます。 黒い箱が2つあります。 「大きいほうのハコでゴミを取り、 小さいほうのハコで花粉を取り除くのです」 「へえ、しゃれているのねえ」 奥方は、ますます206が気にいったようです。


13 商談は荒れ模様

オトーサン、 「いいクルマだねえ」 とセールスの小林さんに言いました。 「お車を査定させてください。しばらくお待ちいただけますか?」 「ああ、いいよ」 30分ほど経って、 「7万円でいかがですか?」 トヨタの中古車センターでは、5万円でした。 「まあ、そんなところかなあ。見積もりを出してくれるかい?」」 「はい」 小林さん、勢いよく返事します。 「申し訳けありませんが、また、しばらくお待ちいただけますか?」 「いいですよ」 さて、15分ほどして、 小林さんが飛んできました。 「ご購入プラン計画書」とある手書きです。 オトーサン、ちょっとガッカリしました。 ネッツ店では、岩崎さんが、目の前で、パソコンに打ちこみ、 すぐ「商談メモ」なる見積書がプリントアウトされて出てきました。 目黒のブルーライオンをやっているのは、 NISMO(日商岩井自動車販売)ですが、 コンピュータ化の面で、トヨタより遅れているようです。 「でも、まあ、小さなことはいいや。問題はクルマだ」 オトーサン、 そう内心思いながら、 小林さんのあまり綺麗とはいいがたい手書きの見積書に目を通します。 すぐ「佐々木淳」という名前に目がとまりました。 どうやら、「佐々木亨」を書き間違えたようです。 「まあ、小さなことだから、いいか」 大事の前の小事と無視しました。 オトーサン、ざっと見積書に目を通します。 車両本体価格  1790000円 消費税      89500円 別途支払い費用  248474円 下取り車価格  −70000円 お支払い金合計 2057974円 「ふーん、200万円ちょっとか。まあ、こんなところかなあ」 でも、奥方が沈黙を守っているので、聞きます。 「もう少し安くならない?」 「フロアマットが2万2000円分サービスさせていただきます」 「そんなもの要らないよ。オートバックスで買えば5000円もしないよ」 「でも、プジョーのらいおんマークがついていますから」 「どうせ汚れるから、すぐ見えなくなるさ」 小林さん、沈黙します。 「実は、下取り価格でもサービスさせていただいていますし」 オトーサン、 「ネッツ店では、下取り価格で8万円がでているよ」 と言おうとして、思いとどまりました。 それより、別途支払い費用24万8474円というのが、高すぎます。 その明細も出ていました。 自動車取得税 80500円 自動車重量税 57600円 自賠責保険料 38450円 自動車税   2800円 登録手数料  60480円 同法定分   6520円 同消費税   3024円 「大体、税金が高過ぎるよなあ。 消費税に加えて、取得税、重量税、自動車税だろ、 ひでぇよなあー」 政府は、いろいろな名目で 屁理屈をつけて取っていますが、 一体、いくら自動車のオーナーから むしり取れば気がすむのでしょう。 どうせ取るなら、自動車税一本でいいじゃありませんか。 行政簡素化で役人の人件費が減るでしょう。 「そうだろう」 小林さんも同意します。 「そうですねえ」 オトーサン、 どこか減らすことできるところがないか じっと目をこらします。 発見しました。 登録手数料って奴です。 「この中身は、何だい?」 実は、知っていますが、一応、聞いてみます。 「はい、検査登録手続きと車庫証明手続きの代行費用です」 「それだけじゃないだろう」 「あと、下取車手続き代行費用、下取車査定費用、 それに納車費用が含まれています」 オトーサン、 事もなげにいいます。 「下取車査定費用というのは、おかしいんじゃない? あなたが、やらしてくれっていったんだよ。 それに、納車費用というのも、おかしいよ。 おれ、ここまで取りにくるよ」 小林さん、うろたえます。 オトーサン、畳みかけます。 「この検査登録手続きと車庫証明手続きの代行費用だって 自分でやれば、いいんだろ。 陸運局や警察くらい自分で行くよ。 簡単だもの」 小林さん、 防戦一方になります。 「お客様、そうおっしゃいましても、 車両本体価格がもともと安いのすから、 この辺りの費用をいただきませんと、 私ども、利益が出ないのです」 オトーサン、次第に腹が立ってきました。 「利益が出ないというけれど、ほとんど値引きしていないでしょ。 それに、車両価格と代行費用とは、別の話しでしょう。 代行費用のほうは、あなたが手続きをやらないですむのだから、 費用など発生しないはずだ」 「そりゃあそうですが、会社の方針ですので...」 オトーサン、 権威が大キライですから、 「会社の方針」という逃げ口上が大キライです。 席を蹴って、小林さんに言います。 「せめて 車庫証明手続き代行費用くらいまけてよ。 念のために、 上司の意見も聞いておいて。 OKなら、買うから。電話、待ってるから」 一週間経ちました。 小林さんから、以下の内容の手紙がきました。 「佐々木亨様 先回は、お休みのところを二度来店頂いたにもかかわらず、 私の力不足の為、いい結果に無らず申しわけございませんでした。 理由は私が小さなミスが多く、上役のOKが取れませんでした。 また、いつかどこかで、お目にかかりたいと思っております。 ありがとうございました。 BL目黒 小林潤一」 奥方が、目を通して言いました。 「プジョーって、強気ねえ」 オトーサンもポツンといいました。 「まあ、ここしばらくの命だけれどな」 オトーサン、急に気持ちが冷えてきて、 津波に襲われたようなわびしさを感じました。 この業界は、腐っている。 21世紀になろうとしているのに、 いまだに、こんなインチキ商法がまかり通っている。 折りしも、寒冷前線が通過。 いったん、熱が冷めてしまうと、 もう逆もどりできそうもありません。 あの「子猫に首ったけ」の日々がウソのようです。 「われながら、情けない。 あの馬鹿騒ぎは、一体、何だったんだ」


14 プントの衝撃

オトーサン、 悩んでいた日々に、いつものように 「カー・アンド・ドライバー」を買いました。 11月1日号に、 街乗りテスト「VWポロ+フィアット・ブント+プジョー206」 という記事が載っていました。 読み終わると、プジョー206にふられて、がっくりと肩を落とし、 当面の生きがいを失って落ち込んでいるオトーサンに、 一筋の光明が射してきました。 失恋して悩んでいるときに、 先輩から「あの娘だけが、女じゃあるまいし」 という類の慰めのメッセージをもらったようなものです。 オトーサン 力強く立ち直りました。 「そうだ。 206だけがクルマかよー。 プントもあるでよー」 カー・アンド・ドライバー誌の3車対決で、 「テストを終えて」という囲み記事に、 何と書いてあったと思います? 出だしは、こうでした。 「いちばん運転していて楽しいと感じたのは206だ」 オトーサン、がっくりきます。 「やっぱりプジョー206か」 でも、早とちりはいけません。 お後をじっくり読みましょう。 「3車とも価格以上の満足感、プラスαを得られるだろう。 コストパーフォーマンスで考えると、いちばんのお勧めはプントだ。 これだけ軽快な走り、充実した装備で、157万円はバーゲンプライスに近い。 間違いなく”お得”だ。 取材に参加したスタッフからもプントに関する賞賛の声が多く聞かれた」 オトーサン、ニッコリします。 「そうだろ、そうだろ。やっぱ、プントだろ。 賞賛の声が多く聞かれたって書いてある!」 できれば、この記事をコピーして 知人・友人、家族・親戚、諸外国の首脳に贈りたいくらいです。 しかも、それだけではなかったのです。 オトーサン、 たまたま徳大寺有恒さんの「間違いだらけのクルマ選び」を 再読しました。 プジョー206の記事は、穴のあくほど読んでいましたが、 プントの記事は、まったく読んでいなかったのです。 「おっ」 オトーサン、奇声を発しました。 すぐ、奥方を呼びつけます。 (来るはずないでしょ。オトーサンのほうが奥方のところに飛んで行きました) 「おい、ここを読め」 (実は、ここを読んでみない?と柔らかく言いました) 巨匠は、次のように書いておられます。 「走るモダンアート、CVTの出来もいい。 今年、私は新しいプントを手にいれ、 自宅と事務所の間を往復する毎日の足に使っている(略) プントのデザインは、フェラーリに1歩も引けをとらないどころか、それ以上である。 こういう妥協のない凄いデザインをごくごく平凡な大衆車であるプントに与えるのだから、 イタリアという国はたいしたものだ。(略) 今度のプントはなかなかよくできた、使いやすいクルマだ。 とにかくこの値段で、イタリア車の味が楽しめるのがいい。 ひとつお試しになってはいかが」 オトーサン、 大喜び。 「そうか、巨匠も乗っているんだ。 自腹切って買ったんだから、いいクルマにちがいない」 しかし、いぶかります。 「確か、巨匠は、206に乗っていたんじゃないかなあ。 あのクルマ、どうしたんだろう」 巨匠の206の記事を読み直します。 「私は、昨年、半年ほど所有して主に都内の足として使ったが、 なかなかスポーティで楽しいクルマだった」 確かに、そう書いてあります。 前に読んだときは、文章の前半を読み飛ばしたにちがいありません。 「そうか、巨匠は、206からプントに乗り換えたんだ。 ということは、つまり、プント>206ってえことじゃないかー」 オトーサン、 奥方をくどきます。 「なあ、一度プントを見にいこうや」 奥方は、冷静です。 「エアコンがきかないって書いてあるわよ。そんなクルマ、使いものにならないわよ」


15 プントの身元調査

オトーサン、 プジョー206と同じデータでプントの身元調査をしました。 お二人の気鋭の自動車評論家の批評も入手。 画像だって入手しました。 インターネットってほんとうに便利です。

photo:punt

岩貞るみ子

ここがポイント ○個性的なスタイリング ○実用的なパッケージング ○元気いっぱいの走り ×窮屈なペダルレイアウト キャラクター  プントはイタリアのベストセラーカーだが、他のヨーロッパ諸国でもかなりの人気 を誇っている。そしてここが重要なポイントだが、このクラスのクルマはヨーロッパ でも、価格、性能、信頼性といった総合力が販売成績に直結する。つまり、全体的な 完成度という観点でも、プントは他の強力なライバルたちと互角の勝負をしていると いうわけだ。日本では「ラテン生まれの趣味性の高いコンパクトハッチ」というイメ ージで紹介されることも多いが、プントというクルマ、実はちゃんとまともな小型車 なのである。 スタイル&パッケージ  そうはいっても、さすがイタリア車。スタイルは本当に魅力的だ。とくにアバルト (3ドア)のルックスは、後方に向かって鋭く切れ上がっていくショルダーライン、 グンと踏ん張ったリアタイヤ、稜線が鋭く尖ったリアコンビランプ、強く傾斜したリ アハッチ、切り詰めたリアオーバーハングなど、躍動感に満ちあふれている。  これほどまでに走りを予感させるスタイルに仕上がったハッチバックを見るのは、 久しぶりだ。一方、キャビンスペースは身長175cm級の大人4人を難なく収めるし ラゲッジスペースもまずまずの大きさを確保している。 エンジン 「お洒落な実用車」が欲しいなら、1.2リッターにCVTを組み合わせたスピードギ ア(5ドアかカブリオレも悪くない。しかし、走りを楽しむなら、やはり1.7リッター +5速MTを積むアバルトがいい。トップエンドでは多少苦しげな振動を伝えてくる ものの低中速域からモリモリとわき上がるトルクは、どんなシーンでもコンパクトな ボディを力強く加速させていく。 フットワーク 引き締まった足回りとハイグリップタイヤの組み合わせは、アバルトに一級品のコー ナリングスピードとスパルタンなドライブフィールを与えている。パワーに対する トラクション能力はギリギリで、タイトコーナーからの立ち上がりでは、はっきりと したトルクステアを感じることもあるし、乗り心地も固め。 いまや珍しい、昔ながらのホットハッチ的フィーリングの持ち主だ。しかし、この ジャジャ馬を完璧に乗りこなしたとき、オーナーの心には得も言われぬ達成感が生ま れるに違いない。なお、日本仕様のプントはアバルトも含めてすべて右ハンドル仕様 だが、室内に侵入しているホイールハウスの出っ張りを避けるため、ペダルが極端に 左側に寄って取り付けられているのだ。 1.2リッターモデルなら、2ペダルだから大きな問題はないが、アバルトの場合は、 やはり左ハンドル仕様の導入を望みたい。 ----------------------------------------------------------------------------

岡崎五郎

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ここがポイント ○ スマートで愛嬌のあるスタイル ○ 右ハンドルのATがある、カブリオもある ○ 大きなトランクスペース X エンジン音がやたら大きい(AT) X ちょっと乱暴に走るとすぐに酔うリアシート おすすめグレード カブリオ イタリアを歩けば当たるクルマ  プントはフィアットのカローラである。イタリアに行けばもうごろごろ走っていて ありがたくもなんともない。でも、日本に来るとイタ車として珍重される。世の中は そういうものだ。  先日、イタリアでは新型が発表された。新しいプントはすごく直線的なデザインで 攻撃的なムード。プントの持つほんわかと暖かい感じはカケラも残ってなくて、なん だかすごくがっかり。日本に無表情な新型が入る前に、今のこのタイプを買っておこ う(?)。 トランクが広いのはヨーロッパの基本  内装はいたってシンプル。必要な物を必要なところにつけただけ。ダッシュボード の中央をくぼませて物を置けるようにするなど、使う人が自由に使い方を工夫できる 素材的なやり方である。  ボディは基本的に箱形なのでリアシートもヘッドクリアランスは十分。そしてトラ ンク。イタリアでは荷物はトランクに隠しておかないとすぐにドアを壊して持ってい かれちゃうし、ドイツの基本はオトナ4人+乗員分の荷物なので、コンパクトカーと いえどトランクは大きく作られている。 エンジン音が大きいCVT  プントはATではなくCVTが採用されている。小排気量車でパワーをロスせず、 乗り心地を確保するには賢明な選択。でも、さすがに日本の優れたCVT技術に比べ るとやはり負けている。もちろん滑らに加速するのはいいのだが問題は音。アクセル を踏むとエンジン回転数が思いきり上がってから加速していく、というタイムラグが まだ大きい。常にもうもう言いながら走っているという感じ。アクセルへの反応が遅 いことも、せっかちな人には気になるかもしれない。 電動幌で手間要らず  カブリオは、このクラスのイタリア車といえど、幌はしっかりと電動。 スイッチひとつでオープンエアが楽しめる。 風の巻き込みは時速80kmを越えたあたりから急に激しくなるけれど、それよりも4人 乗りのオープンを満喫してほしい。 オープンカーに乗る基本は笑顔。 自分もクルマのデザインの一部になっているということを忘れず、たとえ渋滞でも、 たとえ同乗者どケンカしていても(!)、にっこり笑って周囲にいいなあ、オープン カーって、と思わせよう。 もうもう言うエンジンもそれが個性だと受けとめられる笑顔の人のみ購入可。


16 206との比較

オトーサン、 俄然、プントに興味を持ちました。 環8沿い、田園調布のチェッカーモーターに行きました。 ここは、フィアットのデーラーをやっているのです。 でも、お店の前にずらっと並んでいるのは、深紅のアルファロメオ。 プントは、あるにはあったのですが、 黒いアバルトで、店の暗がりに溶けこんでいました。 お目当てのELXスピ−ドギア(157万円)は、ありませんでした。 オトーサン、 セールスのひとに、 「クルマが置いてなければ、どうしようもないあ」 そういって、カタログだけ頂いて帰宅しました。 でも、ひとつだけ、収穫がありました。 あの巨匠、徳大寺さんが、この店で買ったことが判明したのです。 カラーも聞きました。淡いグリーンだそうです。 家に帰って、 カタログを穴のあくほど研究しました。 206と比較します。 スリーサイズは、 プントの 長さ3m83cm、幅1m66、高さ1m48に対して、 206のほうは、 長さ3m83cm、幅1m67、高さ1m44であって、 ほぼ同じ大きさです。 違うのは、排気量で、 プントは、1241ccと 206の、1360ccに、わずかに負けてはいるものの、 DOHCの高性能エンジンを採用しているので 馬力は、80ps/5000rpmと 206の74ps/5500rpmに勝っているではありませんか。 価格は、 206の5ドアが、179万円に対して プントの5ドアは、157万円と安く、 しかも、 206にはない魅力的な装備がついています。 ・前席サイド・エアバッグ ・CVT(6速シーケンシャル・マニュアルモード付き) ・FM/AM電子チューナー付きCDプレイヤー カラーも206の5色に対して、13色から選べ、 3年間または6万キロの保証も付いています。 オトーサン、叫びます。 「どう考えたって、プントのほうがお買いドクだあ」


17 CD-ROM

オトーサン、 お目当てのプントが入荷するというので、 1週間後にチェッカーモーターを再び訪問しました。 今日は、大蔵省も同行。 「プント、見にきたんだけれど」 「ありません」 「だって、この前、セールスのひとが、 今週になったら入るというので、わざわざ来たんだよ」 「そうですか...」 彼、考える様子をします。 オトーサン、ここは一押しと思っていいました。 「プジョー206を買うつもりだったけれど、 徳大寺さんが、緑色のプントを買ったというんで、 わざわざ見にきたんだよ」 この会話は、我ながら実に巧妙であります。 1冷やかしのお客ではないことを示す 2徳大寺さんの友人であるように見える 効果テキメン。 「じゃあ、納車前のクルマがありますので、お見せしましょう」 シャッターが開いて、 手品のように、プントELXスピ−ドギアが出現いたします。 カラーは、オレンジ色。 「車庫に入ったままじゃ、見られないじゃないか」 「はい、すぐお出しします」 もうオトーサンのペースです。 オトーサンたち、 クルマの回りをグルリ。 なかでも、リアのデザインは、秀逸。 カタログでも、きれいだなと思いましたが、実物の曲線は、色気たっぷり。 「うん、なかなかいいじゃないか。 徳さんがほめていた通り、モダンアートだ」 奥方も、まんざらではないようです。 徳さんは、確か、こう書いていました。 「走るモダンアート、CVTの出来もいい」 そこで、オトーサンいいました。 ここは、CVTを何が何でも見ておかねばなりません。 「乗ってみても、いいだろ」 もうセールスは防戦一方。 「はい。納車前ですので、そこのところはよろしく」 オトーサン、運転席に乗りこみます。 奥方は助手席へ。、 「なかなか、座り心地いいじゃないか。 ほら、このCVT、断然、かっこいいだろう?」 「CVTって、何よ?」 「これだよ」 オトーサン、シフト・ノブをガチャガチャ。 「このままだと、オートマみたいだろ。 ところが、こうやって、左に押すと、ほらマニュアルになるんだ。 お前もやってみな」 「へえ」 奥方が、ガリガリ。 セールスマンは、ヒヤヒヤ。

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オトーサンたち、 リアシートにもすわります。 「どうだ、206より広いだろう」 「そうかしら?」 トランクも開けさせます。 「あら、意外に広いわ。206より広いわ」 奥方が、やや乗り気になってきました。 こうして、30分ほど、納車前のクルマを散々見学したあと、 セールスにいいます。 「気にいった。カタログなぁーい?」 「ありません」 「えっ?ない?カタログって、それセールスの基本だろ?」 「申しわけありません。ただいま品切れなのです。 今週中には,本社から送られてくる予定です」 「そんなに、皆が見にくるの?」 「最近では、ヴィッツにするか、このクルマがいいかというお客様が増えてきました」 「へえ」 「お客様、申し訳ありませんが、お送りさせていただきますので、 ここに御名前と御住所をお書きください」 「ああ、いいよ」 オトーサンたち、 そんなことで、手ぶらで帰ってきました。 帰宅して、気付きました。 「そうか。カタログあったっけ。先週もらったんだ」 「そうよ、変なこというわねぇと思っていたのよ」 あちこちから貰ったカタログの山のなかに埋もれていました。 オトーサン、だいぶボケが進んできたようです。 奥方が、悪戯をしている時の顔をします。 「代わりに、こんなの貰ってきたわ」 みると、CDでした。 FIAT PUNT VISUAL CD-ROMと書いてあります。 「おまえ、いつの間にこんなものを?」 「カウンターの後ろに置いてあったの」 「ちゃんと、断ったんだろうな」 「当たり前でしょ。あなたがトイレ借りている間にもらったのよ」 オトーサン、 そんなことで、早速パソコンにCD-ROMを入れました。 これが実に良く出来ています。 まず、画面が立ち上がると音楽が鳴って アバルトとスピードギアの2つの写真。 スピードギアをクリック、 音楽とともに、スピードギアが走る画面が10秒、 そのあと選択画面になります。 ・スタイリングとインテリア ・性能 ・ユーティリティ ・スライド・ショウ ・ボディカラー ・装備 ・仕様 この画面には、 「毎日がドラマ、それがイタリアン」 と書いてあって。 青いプントの室内に、深紅のバラの花がいっぱいで、 わずかに開いたドアから地面にもこぼれおちています。 オトーサン、迷わず、一番上の画面をクリックします。 ・スタイリングとインテリアのところですよね。 すると、この・のところが、深紅のバラの花に変わるのです。 「おっ、しゃれてるぅー。やるじゃん」 とくに、いいアイディアだと思ったのが、ボディカラー。 ○○○○○○○○○○○○○と13色あるボタンを押すと、 エクステリアの画像が瞬時にその色に変わるのです。 それに対応したインテリアの画像も一緒に出ます。 「こりゃ、便利だあ。」 オトーサン、満足してOUTを押します。 映画のエンデイング・シーンのように音楽が鳴って画像がフェードアウト。 「こりゃ、お見事。誰が製作したか知らないが、ノーベル賞ものだ」 オトーサン、 つくづく思いましたよー。 21世紀には、 CD-ROMがカタログに代わりそうだな。 もっともっと面白いものになりそうだなー。 そして、生活のほうも、毎日がドラマにしなくてはなー。 ウジウジ暮すなんてサイテー。 とくに、クルマ選びなんかそうだよ。 絶対ドラマにしなければ、おかしいよ。 これからは、日本人も、イタリア人のように、人生楽しまなくちゃ。 楽しむ技術を習得しなくては...


18 限りなくブルーな気持

オトーサン、 せっかく、プントに傾いてきたのに、香港旅行が迫ってきました。 デーラーに行くヒマがなく、電話で見積もりを聞きました。 「やけに諸費用が多いな。プジョー206より、多いぜ。 自分でやるなら車庫証明代行手数料はいらないというのはいいのだが、 店まで取りにいくというのに、納車費用はいただきますというんだ。 輸入車は、どこも妙な商売やってるなあ」 「大体、試乗もさせないなんて、おかしいわよ」 奥方は、206に未練を残しています。 だって、香港天空滞在記でご報告したとおり、 206に合うようにサファイア・ブルーの 鞄と靴と財布をオーダーメイドまでしているのですから...。 年末年始は、どこのデーラーもお休みです。 その間、奥方は、青い鞄と靴と財布を身につけて外出していました。 合う色のコートを選んだり、青いセーターを買い増したり、 涙ぐましい?努力をしています。 でも、冬ですから、街ゆくひとは、みなダークな服装。 「やや」というか、「だいぶ」とっぴです。 「あの娘に電話したら、この鞄、NYで流行しているらしいわ。 春になったら、持ってあるくといいんじゃないって言われたわ」 やがて、1週間ほどすると、奥方は、青い靴を穿くのをやめ、 そして、ついに、青い鞄も持って歩かなくなりました。 でも、プジョー206への執念は、残っています。 悪いことに、時々、青い206を街でみかけるのです。 「あらっ、206だわ。 思ったより小さいのね。 でも、ステキね。目立つわ」 そんなことで、 明けて5日、またクルマ選びを再開しました。 オトーサン、奥方にいいます。 「プントは、どうも音がうるさそうだ。想像以上だとさ」 これ、「絶対に得するクルマ選び 2001年版」光人社の受け売りです。 自動車評論家の巨匠・星島浩さんが 「エンジンだけじゃなく、ロードノイズにしろ何にしろ、 出てくる音を押さえようとする意志があるのかどうか、 疑問になるほどだ。いろんなところから、うるさい音がでる」 と断言しているのです。 星島さんは徳大寺さんと並び尊敬している方なので、ショックです。 奥方が、いいます。 「プントは、アフターサービスも心配だわ。 あの調子じゃ、壊れても面倒みてくれそうもないわよ」 オトーサン、決断します。 プントは、どうやら止めたほうがよさそうです。 「じゃあ、別のプジョー・デーラーに行ってみるか。 それとも、BL目黒にワビを入れにいくか」 「詫びるのはおかしいわよ。向こうがおかしいのだから。 世田谷のほうに、1軒あるというから、そこへ行ってみない?」 「その前に、確か環6のほうにあったような気がする」 でも、環6にも、世田谷通りにも、見当たりませんでした。 そろそろ休み明けで、渋滞がはじまっています。 「ウチに帰ろうや」 「そうね」 奥方が意外に簡単に賛成します。 どうも、206のサファイア・ブルーは、難しい色だということが 鞄と靴の体験から分かってきたようです。 「あの色だと、すぐ飽きがくるかもね」 「そう簡単にボディカラーを塗り替えるわけにはいかないからなあ。 3月まで待てというし、手にはいった途端に5月には1.6リッターモデルが出る それに、306の新型も出るそうだから、206は見劣りするかも」 「そうなのよねえ。新型買っても、すぐ旧型になっちゃうんだから」 「その点、このマーチはいいよなあ。モデルチェンジしないんだから」 「でも、駐車場では目立つわよねえ。一番オンボロなんで」 「そのうち、ルノーがルーテシアの新型を出すそうだから、それまで待つか?」 「何それ?」 「日産がルノーに買収されただろう。ルーテシアとマーチを共通化するらしい」 「ふーん、そうなの。日産デーラーで輸入車を売ってくれれば、安心ね。 でも、日産、つぶれそうなんでしょう」 「まあな」 オトーサン、自嘲しました。 「クルマを買うなんていうチャンス、 人生にそう何度もあるわけではないのだから、精一杯楽しまなくっちゃ」 そう思って、これまで、206、YRV,カローラ、シビックなど さまざまなクルマに試乗したりしてきましたが、 結局、どのクルマも一長一短でした。 国産車は、燃費はいいものの、デザインが悪すぎました。 輸入車は、クルマがいいのに、値段が高すぎます。 クルマもよく値段も手頃だと思ったのに、 なかなか入荷してこなかったり、 試乗もさせなかったり はては諸費用をごまかしたり...。 オトーサン, そろそろ仕事を再開しなければなりません。 年始年末の浮かれ気分も、今日で終わり。 クルマ選びなどに構っていられない日々がもどってきたのです。 「とうとう、クルマ選びは出来ずに終わってしまった。 この騒ぎは、一体、何だったのだ?」 限りなく不透明でブルーな気持になってしまったのです。


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