小売業における価値創造(2004)
カルフールの研究

目次 1)はじめに 2)カルフールの現状と歩み 3)フランスにおける価値創造 4)日本への価値移転  5)食品売り場にみる価値創造 6)惣菜・デリカ売り場にみる価値創造 7) 売り場配置のイノベーション 8)価値創造のための組織革新 9)むすび 参考文献・サイト

1)はじめに 本論文は、売上高では世界第2位、海外進出度では第1位のフランスの大手小売   企業カルフールにおける価値創造を取り上げる。    小売業における価値創造については、「百貨店の再生」(1998)、「スーパーマー   ケットの再生」(1999)、「ユニクロの研究」(2000)、「グローバル・リテイラーへ   の道」(2001)、「ウォルマート」(2002)と5つの観点から研究を重ねてきた。    本論文は、小売業における価値創造シリースの最終編という位置づけになる。    本論文に取り組みはじめた時期はバブル崩壊後で、わが国小売業においては、価   格破壊が急速に進んだ時期であった。バブル時の法外な高価格を是正し、縮小する   家計収入を助ける点で、消費者にとって歓迎すべき状況であったことは間違いな   い。しかし、「安かろう、悪かろう」が復活し、多くの小売業において、業績低迷   〜販管費抑制・人員整理〜競争力低下〜業績低迷といった負の連鎖が生じてきたこ   とも事実である。その代表例が、そごうの倒産やダイエーの経営危機である。    この負の連鎖を絶ち切るための企業努力は並大抵なものではなかったが、効果が   上ったとは言いがたい。商品、店舗、接客の強化が、理論なしで行われたためであ   る。    不況下では、ひとびとは、否応なしに、真剣に暮らしについて考える。    低価格というよりも、リーズナブルな価格の魅力ある商品を求め、個性的で美し   い暮らしを目指しはじめている。    こうした閉塞状況を打ち破るためには、小売業は、こうした価値に目覚めてきた   消費者の味方として、価値創造に軸足を置きかえる必要がある。 そういう意味において 、"ART de VIVRE"(美しい暮らし)の本場からやってき たカルフールへの期待は大きい。    本論文では、まず、同社の現状と歩みを概観し、その売り場の様態について、国   内外の店舗視察結果をレポートする。同社は、日本市場に適応すべく、様々な手直   しを行っているが、なかでも、食品売り場の配置は大きく変わり、試行錯誤が続い   ていることが窺われる。食品売り場は、同社のみならず、スーパーやコンビニにお   いても、価値創造の最前線となりつつある。    そこで、日仏両国における食習慣のちがいや変化を考慮し、いかにすれば、売り   場を価値創造の場にすることがきるか、売り場の配置について考えてみたい。    その際、フォーメーションの革新において、一日の長のある現代サッカーを参考   にして、今後の小売業における価値創造の方策について、検討していきたい。  2 カルフールの現状と歩み    カルフールは、世界の30ケ国に9200店舗を展開し、従業員約40万人の巨   大企業である。表1に見るように、売上高は約8兆5千億円と欧州第1位となって   いる。           表1 世界の小売業売上高ランキング     売上高 伸び率 国名 業態   1位  ウォルマート      20328212 0.7   米 DS/WC    2位  カルフール        8558410* 5.5   仏 HP    3位  ロイヤル・アホールド  7805561* -   蘭 SM    4位  ホーム・デポ       6986146 2.5   米 HC    5位  メトロ          6416243 11.6   独 SM/CC    6位  クローガー       6208095* 7.4   米 SM    7位  ターゲット       5267406* 1.3   米 DS    8位  シアーズ・ローバック  4908905 8.8   米 GMS    9位  テスコ         4904376 9.5   英 SM  10位  コストコ・ホールセール 4595817 11.0   米 WC  注)売上高は、単位百万円。      決算期は2002年1月期、*は、2001年12月期   DS:ディスカウントストア WC:ホールセークルラブ      HP:ハイパーマーケット SM:スーパーマーケット      HC:ホームセンター  CC:キャッシュ&キャリー      GMS:ゼネラル・マーチャンダイジング・ストア      出典:日経MJ 2003.10.21    また、相次ぐ合併によって、主力のハイパーマーケットだけでなく、スーパーマ   ーケット、コンビニエンス・ストア、キャッシュ&キャリーへも業態を拡げ、表2   に見るように順調に業績を伸ばしている。           表2  最近10年間の業績推移          売上高   純利益       店舗数 HM  SM HD その他 合計   1992年   17.9    204 199   0 367 2  568   1993年 19.0 459 204 0 432 0 636   1994年 20.8 329 222 0 481 233 936   1995年 22.0 410 245 0 465 258 968   1996年 23.6 494 275 0 356 288 919   1997年 25.8 571 308 0 367 321 996   1998年 27.4 616 350 398 384 357 1489   1999年 37.6 792 513 794 2489 652 4448 2000年 64.8 1050 580 1318 2724 801 5423   2001年 69.5 1207 657 1391 2932 253 5233 2002年   68.7   1389 705 1446 3125 256 5532 2003年      733 1441 3320 334 5828   注1)HM:ハイパーマーケット SM:スーパーマーケット      HD:ハード・ディスカウント その他:コンビニエンス・ストアとキャッシュ&キャリー 注2)売上高は、単位10億ユーロ      純利益は、のれん代を減価償却した後のもの      単位百万ユーロ 2003年の店舗数は9月末現在の連結対象店舗         出典:カルフールのアニュアル・レポートより作成 同社の売上高の6割を占める主力業態は、ハイパーマーケットと呼ばれるもので ある。わが国の総合スーパーやウォルマートの主力業態であるスーパーセンターと 似ている。前者が衣料品主力で食品付加、後者が主力のディスカウントストアに食 品を付加してきたのに対して、ハイパーマーケットは食品が主力で、衣食住のフル   ラインから構成されている。    フランスの法律では、売場面積2500平方メートル以上で食品中心ながら、日   用品・雑貨、衣料品、住宅関連など生活に必要な商品を幅広く揃え、セルフサービ   スで提供する業態と定義されている。カルフールは、その代表である。    同社の定義では、ハイパーマーケットとは、    (1)店舗はワンフロア     (2)セルフサービスによる販売    (3)ディスカウント    (4)広い駐車場    (5)食品・非食品トータルの品揃え   となっている。    本拠地のフランスで厳しい大型店の出店規制が行われたために、同社は早い時期   から、主力のハイパーマーケット以外の業態や海外進出に活路を見出してきた。     表3 カルフールの歩み   1959年 小売店主フルニエと食品卸ドゥフォレ兄弟の3人の共同経営で創業         店舗面積650平方メートル、駐車台数80台   1960年 パリ近郊オート・サボワのアネシーにスーパーマーケットを出店   1961年 プロモディス創業(1999年にカルフールと合併)   1963年 米国のDSとSMを視察し、パリ郊外にハイパーマーケットを出店         (店舗面積2500平方メートル、レジ12台、駐車台数400台、         十字路に面していたので、カルフールと命名)        1965年 キャッシュ&キャリー業態のプロモキャッシュを開業   1967年 スーパーマーケット業態のStocを開業   1969年 欧州進出開始、ベルギーに出店(75年に撤退)   1970年 株式公開         スイスに出店(91年に撤退、2000年に再進出)          コンビニエンス・ストア 8 a huit に進出 1972年 英国に出店(83年に撤退)          1973年 ロワイエ法制定により売場面積1000平方メートル以上の出店規制で         より小型の店舗であるスーパーマーケットShopiや         ハード・ディスカウントに食指         スペインに出店(店名は、Pryca)   1975年 南米に進出開始、ブラジルに出店   1976年 より安い自社商品 produits libresを導入    1977年 ホームセンターのカルトラマを買収   1979年 ラダーと提携し、ハード・ディスカウント業態の ED(Euro Discount)を開業、         スペインでも開業、店名はDia   1981年 自社パス・カードを導入   1982年 アルゼンチンに出店   1984年 SMチェーン、コムトワール・モデルヌの株式を一部取得         保険事業に参入   1985年 カルフール・ブランド商品を導入   1988年 アメリカに出店(93年に撤退)         企業スローガン"Avec Carrefour Je positive"を制定   1989年 アジアに進出開始、台湾に出店   1990年 自動車のオイル交換事業に進出   1991年 ユーロマルシェとモントラーを買収         ギリシャに出店         旅行事業に進出   1992年 原産地表示と生産履歴システムを導入   1993年 イタリアとトルコに出店         カー用品販売に進出   1994年 メキシコとマレーシアに出店         チケット販売に進出   1995年 中国に出店         コロンビアとチリに出店         眼鏡販売事業に進出    1996年 タイ、韓国、香港に出店         ラファラン法制定に対応して、コンビニエンス・ストアに食指         (売場面積300平方メートル以上の出店規制)          1997年 自社ブランドの地場商品 Escapedes Gourmandes 及び         オーガニック食品 Carrefour Bio を発売         シンガポールとポーランドに出店           1998年 コントワール・モデルヌを買収し、フランス1の小売業になる         スーパーマーケットStocとコンビニエンス・ストアMarche Plus に進出             チリ、コロンビア、インドネシア、チェコに出店   1999年 ウォルマートの独進出に対抗し、         プロモデスと合併、世界第2位の小売業になる         ブラジルのスーパーマーケット85店を買収   2000年 グローバル・ネットワーク・エクスチェンジを設立。         (米シアーズ、クローガー、独メトロ、英セインズベリー、          豪コールズマイヤーとオラクル)         オンライン・ショップ Ooshopをスタート 日本、ギリシャに出店         従業員持株制度を導入(20万人、従業員の60%)  2001年 イタリアの Gruppo GS を買収                ポルトガルの Esporito Santo グループを買収         高速道路網のガソリン・スタンドを17店増加                2002年 倫理憲章を制定         売上構成はハイパーマーケット 59%、スーパーマーケット25%、         ハード・ディスカント7%、その他9%となる   2003年 イタリアのハイパーマーケット Hyparioを買収 眼鏡販売事業を売却(仏68店舗、スペイン68店舗)    出典:アニュアル・レポートなどから作成    カルフールの最新時点での地域別売上高と店舗数は、表4の通りとなっている。 アジアへの進出は、表5のように、90年にはじまったばかりである。台湾、中国   韓国が20店舗を超えている。いずれも業態はハイパーマーケットで、100%出   資方式と合弁企業設立方式を併用している。           表4  地域別売上高と店舗数              売上高 構成比  前年比   店舗数      フランス    34335 49.4 +1.0%    3498      欧州 22144 31.9  +29.7 5657      中南米 8440 12.1  -12.1 784      アジア 4567 6.5  +10.5 156      合計 69484 100.0 +7.2 10095 注)売上高は、2002年。単位100万ユーロ       店舗数は、2003年9月末      出典:アニュアル・レポートより作成          表5 アジアの国別店舗数の推移         90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03   中国* 2 3 7 14 20 24 24 32 40   台湾*  1 4 5 7 8 10 13 17 21 23 24 26 28 29   香港   1 2 4 4          韓国   3 3 6 12 20 22 25 27   タイ    2 6 7 9 11 15 17 17   シンガポール   1 1 1 1 1 1 1   マレーシア*   1 1 2 3 5 6 6 6 6 7   インドネシア*   1 5 7 8 10 11   日本    1 3  4 4  合計   1 4 5 7 9 13 24 39 59 80 94 105 123 136 注)*印をつけた国では、合弁会社を設立している。 香港は、2000年に撤退している。 03年は、9月末。    出典:カルフールのアニュアル・レポートより作成 3 フランスにおける価値創造     企業活動を上流から下流までたどってみると、コンセプト〜R&D〜製品開発〜   生産〜物流〜販売〜アフターサービスとなる。    これまでは、分業によって、効率的な活動が行われてきたが、最近は、その弊害   のほうが目立ってきた。分業化された各組織が、部分最適化をめざしての縄張り争   いが定着してきたからである。これを是正するには、顧客価値を極大化するという   目標を共有することが重要であり、近年、SCMへの取組みが活発になっているの   も、協同作業の試みとして評価したい。    こういうなかで、小売業の役割が大きく変わってきた。    小売業は、メーカーが製造した商品やサービスを販売するだけではなく、顧客に   最も近い好位置を自覚し、顧客価値を設計、提供、伝達することが重要であるとい   う認識が広まってきたのである。    セブン- イレブンの最近の活動を見れば分かるが、顧客の嗜好に合ったビールの   新製品開発を促進し、店内で試飲をはじめるなど、従来の待ちの姿勢から、価値創   造に踏み込んでいる。それによって、他に類例のない企業と顧客に認知され、それ   が好業績につながってきている。     価値は、表6に示すように、次第に、複合化、高度化していく。 なお、価格、品質、品揃え、サービス、接客については、説明を要しないだろう   が、店舗については、内外装や売り場配置、クリーンネスやアメニティなどを勘案   したものである。         表6 価値水準の進化     価値水準  構成要素                該当店舗       1 価格+品質                 Monaco     2 価格+品質+品揃え             Villiers-En-Biere    3 価格+品質+品揃え+店舗          Dorancy    4 価格+品質+品揃え+店舗+サービス     Senart、Le Collegien      5 価格+品質+品揃え+店舗+サービス+接客  LVMH    今回、カルフールの本拠であるフランスの店舗4店とモナコ店を視察した。     幸い、出店時期の異なった店舗における価値創造の様態を見ることができた。    以下、視察結果を順番にみていこう。 なお、分かりやすくするために、異業種ではあるが、価値水準の高いルイ・ヴ    ィトンを表中にプロットしてみた。           1)モナコ(Monaco)店      モナコ公国は、海外であるが、フランスの店舗として扱われている。      ハイパーマーケットの初期の店舗である。      2台しかないレジを入って手前半分が日用品雑貨売り場、奥の半分が食品売 りとなっている。      価格は安く、まさに市場の賑わいがある。パン売り場のすぐ横に、魚売り場 があって、 "Le sermon fumee!" とサケの燻製を売るおじさんの威勢のよい     掛け声がする。      野菜売り場もすぐ隣にあり、ピーマン、ブロッコリー、ニンジン、インゲン などが、斜め傾斜で3段積みの木箱やプラステイック箱に裸で陳列され、その     色鮮やかさに目を奪われる。      しかし、日用品雑貨売り場の陳列棚は高く、威圧感があり、いまにも商品が     崩れ落ちてきそうである。通路も狭く、床も汚れ、陳列什器も錆びている。      商品補充のための台車も放置されている。陳列棚の修理作業で通路を塞いで     いるのに、店員は平然としている。      2階には、家電売り場を付設してあったが、デジカメなど日本製品の旧型が     並んでいて、古色蒼然。日本の町の電気屋並である。      価値水準は1。価格+品質だけが売り物のハイパーマーケットである。    2)ヴィリエ・アン・ビエール(Villiers- En- Biere)店      次に、視察したのは、ハイパーマート初期のモデルで、1974年に開店し     た大型店舗である。      陳列棚の高さが2.7メートルもある。上の棚の商品には、手が届かない。      しかし、倉庫のようなだだっ広さを、色彩豊かなPOPでカバーしており、     花園に迷いこんだ感じがしないでもない。      ワインやチーズ売り場の品揃えの豊富さには驚かされる。ワインの陳列棚な     どは、50メートル近くある。さすが本場である。      とはいえ、価格+品質+品揃えの3拍子が揃っていても、買い物がしやすい     店舗とは言えないので、価値水準は2となる。 3)ドランシー(Drancy)店      1995年に出来た店舗である。      レジ台数59、テナント数60のネイバーフッド・ショッピングセンターで     ある。ファッショナブルな店舗が多く、洗練された店舗に進化している。      陳列棚は、2.7メ−トルと高いが、1フロア、1万平方メートルの広さと     高い天井高のために、さほど圧迫感はない。      H&BC(ヘルス&ビューティケア)売り場も、従来の縦列に並べていた棚     が斜めに配置されて新味を出している。      週末セールで、レジには長蛇の列ができていた。店員の手際が悪いのか、レ     ジでのトラブルを見かけた。      価格+品質+品揃えに加えて、店舗設計が改善されているが、接客面で問題     があるので、価値水準は、3にとどまる。    4)ル・コレジアン(le Collegien)店      最新の2002年モデルである。      大型ショッピングセンターへと進化している。入って右手がカルフールで、     レジが72台も並び、奥が霞んで見えないほどである。      左手に2列に、ETAM、ZARA、H&M、Sephora、Virginといったそうそうたる     店や魅力あるレストランが並んでいる。      テナント数110。この集積は、欧州第1位のカルフールが、アンカーにな     ったことで、はじめて可能になったと思われる。      陳列棚の高さが2.2メートルと低くなったことで視認性がよくなり、什器     の改善も行われている。     DVD・CDコーナーでは、最新型の視聴覚スタンドが設置されている。      ワイン売場の天井は、カーブを描いている。      入り口に配置されたH&BC売り場の陳列棚は、きれいなカーブを描き、明     るくカラフルに照明されている。この売り場の強化によって、忙しいキャリア     ウーマンのハートを射止めるのが狙いだろう。      家電・パソコン売り場、携帯電話、ジュエリーなど幾つかの売り場が、ショ     ップ・イン・ストア化し、専門店も顔負けのセンスのよさである。    日本の100円ショップの模倣なのか、5〜10ユーロ程度の小物を集めた     棚もあって、品選びを楽しむひとが群がっていた。      クレジットカード、写真現像、クリーニング、旅行代理店、各種保険、返品     コーナー、フードコート、カフェなどが一通り揃っており、ワンストップ・サ     ービスに近づいている。         だが、全体の印象はよくない。      モナコ店のような乱暴なことはなかったし、大型カートだけでなく、日本の     スーパーにある小さな買物籠も置いてあったが、開店1周年記念セールという     ことで、レジ待ちの行列は非常に長く、相変わらず黒人警備員がレジ横で万引     きに鋭い目を光らせているので、あまり印象がよくない。    マネキンが裸のままだったり、値札がついてない商品があったり、商品補充     係に商品の場所を聞いても不親切など、店内での接客レベルが高いとはいえな     い。      しかし、価格+品質+品揃え+店舗+サービスが充足されているので、価値     水準は、4としてもよいだろう。    5)カレ・セナール(Carre-Senart)店     2002年の最新モデルの旗艦店である。      ロワイエ法によって出店制限がなされるなかで、7年ぶりの新店とあって、     非常に力が入っている。      野原に突然出現したニュータウンの核となるショッピングセンターは、ウル     トラ・モダンなデザインで、度肝をぬかれる。      店舗配置も見事で、世界有数のものといえよう。L字型になっていて、13     0ものテナントが入っている。      左手奥にカルフールが陣取っているが、あまり広い印象を受けないのは、1     階の7500平方メートルと2階の6500平方メートルの2フロアに分かれている     せいだろう。      食品売り場は2階にある。      これは型破りであるが、上下4列のオートスロープで回遊性を補っている。      5700台分もある駐車場から1階、2階に容易に行けることもあって、こ     の方式が採用されたものと思われる。      通路も広く、天井高もあり、どの売場もカラーコントロールされていて、ア     メニテイ抜群である。      陳列棚の高さも2.2メートルと視認性も改善されている。      各種サービスも揃っている。保険、旅行、現像、眼鏡、花屋、カフェなど。      しかし、レジをはじめ、従業員の応対は、いまひとつなので、ここでも、価     値水準は、4にとどまる。      以上見るように、カルフールの店舗における価値水準は、進化しているが、     問題は、やはり、接客にある。      日本のスーパーやウォルマートに慣れた目でみると、店員の質は格段に落ち     る。ドランシー店の外で目撃した光景だが、小雨が降っている中で、赤シャツ     の採用担当者が、募集で集まってきた人々の面接を行っていた。考えられない     光景である。給与は、おそらくウォルマートと変わらないだろうから、従業員     に対する姿勢が端的に現われているように思われる。      ウォルマ−トのように、従業員をアソシエート(仲間)と呼んで、大事に接     しなければ、従業員が顧客に自然な笑顔で接することはできないはずである。 4 日本への価値移転    わが国への進出は2000年末である。 アジアでは、すでに台湾で第1位、韓国で第2位となっていることもあって、こ   の巨大流通外資の日本進出は、黒船来襲のように扱われた。    蓋をあけると、1号店である幕張店は、開業後の大混乱が続き、脅威論はあっけ   なく消滅した。当初は、3年以内に15店舗を展開すると伝えられたが、2003   年10月末の出店数は、表7にみるように7店にとどまっている。                 表7 店舗概要                直営売場面積  レジ台数 フロア 駐車台数   2000年12月 幕張店  17014平方メートル  47   1   1386   2001年 1月 南町田店 7487      10    1   576            光明池店 15350     45    2  1335   2002年10月 狭山店  10086      40   1 1554   2003年10月 箕面店   9000      26 2  1000      尼崎店  10346 42 1  1439       東大阪店 10000   40 1 1200                 出典:カルフール・ジャパン取材    では、国内7店の視察結果を順にみていこう。    1)幕張店      第1号店である。      巨大流通外資の本格進出ということで、話題を呼んでの開店となった。      売場面積は、1万7014平方メートル、1フロア。      この店舗は、本国の2000年モデル、売場面積1万8000平方メートル、1     フロアのモンテッソン(Montesson)店をそのまま移植したものである。 幕張店のスタッフは、ここで事前研修を受けている      主通路の右手に家電や書籍、左手に衣料品、その奥が食品売り場という構成 も変わらない。      フランス贔屓の日本の消費者は、フランスからきた店ということで、価格+ 品質+品揃え+店舗+サービス+接客のすべてにおいて優れた価値水準5の店 舗を期待していたのに、実際には、価格+品質+品揃えがほどほどの価値水準     2にとどまった。いわば、小売のルイ・ヴィトンを期待していたのに、目の前     に現れたのは広いだけのダイエーだった。消費者は不満をもらし、ライバル店     は安堵し、専門家たちは、批判の声をあげた。      カルフールは、日本市場をよく勉強していないのではないか。      アジアでは、中国市場が本命で、日本には力を入れていないのではないか。      カルフールは、アメリカや英国から撤退している。ハイパーマーケットは、     開発途上国向けの業態で、多数の専門店や百貨店、コンビニ、100円ショッ     プ、ホームセンター、ドラッグストア、そして万全の対抗策をとっているイト     ーヨーカ堂やジャスコといった総合スーパーが乱立する日本市場では、そもそ     もはじめから競争力がないのではないか。        日本デビューは失敗だった。フランス人店長が更迭され、離職者も相次ぎ、     立て直しに時間が必要だったが、翌月には、南町田店と大阪・光明池店の開店     が迫っていた。やれることは、幕張店で起きたような開店時の大混乱を避ける     ためにチラシの大量配布をやめて、スローオープンに変更することぐらいだっ     たのである。   2)南町田店         2号店の南町田店の店舗面積は、7487平方メートル。幕張店の半分以下であ     る。テナントもなく、グランベリーモールに隣接しているものの、幕張店とち    がって単独出店である。品揃えも不十分で、価値水準は、1にとどまる。     実のところ、価格は、同社のPromoと呼ぶ目玉商品こそ安かったが、近隣に最    強の店舗集積があるので、全体として価格競争力があるとはいえず、価値水準は    1の確保すら危うい状態である。     カルフールの悪評は、これで決定的になったのである。   3)光明池店   3号店であり、カルフール初の大阪進出であった。 売場面積1万5350平方メートル、ほぼ幕張店の広さ。テナント数は32。 特徴は、1フロアでなく、2フロアである。 地価の高い日本市場にあわせて、その問題点を実際に確かめようという狙いで    あろう。     1階が食品・日用雑貨である。食品売り場は、青果、精肉、鮮魚、惣菜・デリ    カなどから構成される。     鮮魚売り場は、コンパクトである。氷を敷きつめた平台に丸魚が並べられ、注    文に応じて、中央のオープン・キッチンで作業をする。種類が少なく、調理を頼    むひとも少なく、みなパックで買っている。     目新しい売り場は、世界の食品であるが、及び腰で、商品点数が少ない。     ワイン売り場は、充分なスペースを確保し、綺麗にボトルを並べており、執念    を感じるが、閑散としている。     2階は、衣料品、B&HC、スポーツ、家電・AV、書籍・CDとカー用品、    園芸用品、玩具などの売り場で、さほど目新しくはない。     レジは、1階に22台、2階に23台で、袋詰め作業をレジ要員が行なってい    るので、客がいらいらしていた。なお、2002年4月から普通のセルフ方式に    改善された。     価値水準は、3マイナスというところである。 幕張店よりも大分改善されているが、東京のメディアは反応しなかった。     ここで、この時点までに指摘された同社の強みと弱みを整理しておこう。      表8 カルフールの強みと弱み   (強み)    ・郊外立地の最新型巨大店舗     売場面積1万平方メートル、明るい店内、高い天井、広い通路     ・SM+DS+HC、多数のテナントが入居し、ワンストップ・ショッピング ・オートスロープ、ローラースケートの店員 ・低価格と最低価格保証    ・マルシェ風の演出(対面販売、量り売り、試食・試飲)    ・ワンストップ・サービス(クレジットカード、写真現像、クリーニング、     旅行代理店、各種保険、返品コーナー、フードコート、カフェなど)    ・メーカーとの直接取引   (弱み)     ・幕張店オープン時の大混雑    ・陳列棚が高すぎ、倉庫みたい ・フランス製品が少ない     ・品切れ多発、商品補充が行き届かない   ・量り売りは、時間ばかりかかる    ・レジの袋詰めはもたもたしている      ・集中レジが不便     ・大型カートが使いづらい     ・接客が行き届かない      ・店長は、フランス人で日本市場に不慣れ     ・店長更迭後も、人事採用面で混乱続く      フランス語に堪能な者から業界経験者に変更     ・メーカーとの直接取引進まず      (菱食など大手卸との取引不調) 4)狭山店         2002年10月、幕張店開店の約1年後に、4号店の狭山店が開店した。     典型的なネイバーフッド・ショッピングセンターの2階に、売場面積1万平方     メートル強のカルフールが陣取っている。      テナントは55店と増加し、物販28店、飲食サービスが27店。 1階が主で、2階にも入居している。 コムサイズム、ユニクロ、靴のABCマート、ジョルダーノ、ザ・スーパー     スーツストア、メガネの愛眼、カメラのキタムラ、コクミンドラッグ、生活雑 貨のボザール、陶器の織部、タリーズコーヒー、シアトルズ・ベストコーヒー     イタリアン・トマト・カフェジュニアなど、質の高い店が入店している。 6割が新規出店と意欲的である。 狭山店の2階売り場は、下図のようになって、かなり改善された。

   (イ)マルチ・メディアと改名した家電売り場は、明るく洗練されている。流行 のプラズマ・テレビやDVDレコーダーがずらっと並ぶ。 家電専門店が強い日本だが、売場を死守し、所得の高い層を狙っている。    (ロ)ラ・メゾンと命名されたフランスの生活雑貨売り場が新設された。       料理用具、テーブルウェア、小物類などがある。フランス直輸入の商品を 増やしてほしいという要望を受けたものである。個性的で美しい暮らしを 目指す消費者を支援するためにも、この売り場の充実は重要である。     (ハ)食品売り場も、2002年モデルであるル・コレジアンの売り場を移植し て、回遊性が向上している。       ワインからはじまって、時計の針と逆回りに、精肉、惣菜・デリカ、チー ズ、ベーカリー・パティスリーと凹凸のある壁が続く。       後ろを振り向けば、青果、鮮魚、豆腐・卵、冷凍食品コーナーがある。       鮮魚売り場は日本風になって、氷を敷き詰めた平台に並べるのではなく、       冷凍ショーケースでのパック詰めが増えていた。 精肉、鮮魚、ベーカリー売り場では、実演販売も採用されている。       現地適応の例としては、青果売り場では、おコメの量り売りや精米をやっ ていた。精肉売り場では、特売の焼き鳥に人気があった。    (ニ)陳列棚は、2.2メートルと低くなった。本国の2002年モデルを早速 採用している。幕張店で不評だった大型カートが減り、日本のスーパーで おなじみの小型カートになった。         狭山店は、成功した。     価値水準でいえば、3に達した。価格+品質+品揃え+店舗、それぞれが、大分 改善されている。     カルフールの海外進出のパターンは、3店ほどテスト的に出店し、その後1年ほ   どかけて市場調査を行い、そのデータをもとに現地適応型の新店舗を出店し、それ が成功すると、一挙に出店数を増加させてシェアを狙うというものである。 そういう意味では、日本市場攻略が軌道に乗りはじめたといえる。    同社は、狭山店の成功を受け、アニュアル・レポートにこう記している。    「カルフールは、日本市場について学び続けている。10月にオープンした東京 郊外の狭山店は、非常に成功した。この新しいハイパ−マーケットは、最初の3店 にはなかった一連のイノベーションを統合し、日本の顧客にもっとも適応したもの となった。この店は、2003年にオープンする大阪地方の尼崎店、箕面店、東大 阪店のベンチマークになるだろう」 5)幕張店U期       不評の幕張店は、2003年7月に全面改装に踏み切った。 開店後、2年半あまり経過しており、初期の問題点を改善したものである。    (イ)売り場区分が明確になった。       主通路の右手すぐに書籍・CD・DVD売り場があり、奥に家電・AV売      り場、その奥に住宅関連商品の売り場。主通路の左手すぐにH&BCの売       り場。奥が衣料品売り場。さらに壁までが食品売り場となっている。    (ロ)陳列棚が低くなって、視界が良好になった。開店当時の倉庫の雰囲気は、    なくなった。カラーコントロールされ、見分けやすくなった。    (ハ)フランスの生活雑貨売り場ラ・メゾンが追加された。    (ニ)書籍・CD・DVD売り場にはレジも置かれた。    (ホ)H&BC売り場も明るくおしゃれな雰囲気になった。       明らかに、カレ・セナール店の売り場が移植されている。       だが、デザインに見合うだけの魅力ある商品が少ない。       隣接したドラッグ売場は、福太郎に運営委託で、店員は商店街のおじさん       という感じだった。    (ヘ)衣料品売り場も什器が低くなった。 商品も本場のものより品質はよいが、肝心の接客が悪い。 裾上げを依頼してみると、面倒そうな顔をされた。 無料だが、明日にな らないと出来上がらないとのこと。       テナントに入っているユニクロでは、5分でやってくれた。業界の慣習に       染まって、顧客満足よりもコストを優先する企業体質が透けてみえた。    (ト)食品売り場は、什器を低くして、回遊性も視認性も改良されている。       だが、鮮魚売り場は、活気がない。氷を敷きつめた平台に丸魚を並べてい るものの、数匹しか置いていない。 取材すると、平台の魚は、どうせ売れっこないとのことだった。       青果の陳列も、パリのマルシェのおじさんたちの芸術的ともいえる陳列と       は、天と地の開きがある。           ベーカリー売り場だけが元気である。掛け声も盛んで、熱心に試食を薦め       ており、主婦が大勢たかっていた。惣菜・デリカ売り場では、開店当初の       売り物だったローストチキンが目立たなくなっている。大鍋に盛ったパエ       リアも同様だが、足をとめるひとが少ない。お得意のワインやチーズ売り       場も閑散としている。    (チ)サービス       写真現像、クリーニング、旅行代理店、商品一時預りロッカー、返品コー       ナー、3時間無料駐車など一通り揃っているが、肝心のフードコートの照       明が暗く、たこ焼きや回転すしが並ぶ場末のような雰囲気が変わっていな       い。    以上を勘案すると、幕張店は、ハード面ではだいぶ改善されたものの、全体に活   気がなく、「仏作って魂入れず」の感がある。開店からの不評が尾を引いて、店員   に覇気がない。内部で叱咤激励するのもよいが、顧客に見透かされるようでは、未   熟である。顧客にとってみれば、小売店は、お金を払って元気をもらうところのは   ず。おざなりの応対では、話にならない。改装されたものの、幕張店は血が通って   いないので、価値水準は、3がいいところである。   6)箕面店     カルフールは、狭山店の成功を受けて、2003年10月、立て続けに関西に    3店出店した。客層からみて、もっとも期待されるのが、この箕面店である。     売場面積 9000平方メートル、テナント数26。     隣接する箕面マーケットパーク・ヴイソラには、フィットネス・クラブやシネ    マ・コンプレックスもある。リージョナル・ショッピングセンターのアンカーと    いう位置づけである。     狭山店とほぼ同じ売場面積だが、2フロアに変わっている。     1階に食品とH&BC売り場、2階に家電・AV、衣料品、住関連売り場とな っている。      開店直後に視察したので、駐車場もレジも長蛇の列だった。食品売り場にも、    レジ待ちの行列が入りこんで、身動きできない。レジ係りも不慣れで、いらいら    させられる。目玉の自転車が売り切れ、トイレット・ペーパーだけを買いこむ客    が目立った。開店騒ぎが落ち着いてからでないと評価できないが、価値水準は、    現段階では、狭山店とおなじく3である。   7)尼崎店            箕面店の15日後の開店である。      ゴルフ練習場の跡地に、コストコと並んで建っている。周辺は、低所得者が     多く、交通の便が悪いので、自転車の列が目立つ。      カルフールは、2階に陣取る。2階は使いづらいが、駐車場が3、4階にあ     るので、クルマ客には不便はないだろう。       店舗面積は、10346平方メートル、テナント数42、1フロアである。       この数字だけみると、狭山店と変わりはないが、内容は改善されている。       この尼崎店で日本人店長がはじめて誕生した。  現地化という面から待ち望まれたことである。ただし、店員数人に取材した     かぎりでは、「ここはフランス人が牛耳っているので、権限はあまりない」と     のことだった。 しかし、以下のような注目すべき変化が見られた。    (イ)食品売り場の配置が、日本的になった。        青果売り場からはじまり、精肉、鮮魚、惣菜・デリカ売り場と続く。       鮮魚売り場は、氷を敷き詰めた平台が3つ。注目すべきは、その魚種が多 いこと。高級魚と大衆魚とのバランスもいい。喜んで調理いたしますとい う掲示もある。    (ロ)ル・カフェが広くなった。パン売り場の隣にあり、28席もある。 この広さになると、快適である。    (ハ)従来、客もいないのに、重点売場だったワイン売り場が店の奥に引っ越し ている。開店の目玉、3本1000円のワインが大量陳列され、売れてい た。高級品は、奥のカーブにあって、客はいない。    (ニ)ラ・メゾンが輸入雑貨と名称変更。       売場面積が少ないのが問題だったが、T-FALなどのクッキング・ウエア       やブランド食器、デコレーション用品と合体させて、売り場らしくなって       いた。隣の和食器は、余計な感じである。もっとフランス製品を増やし、       売り場を広げるべきなのに、リスト・ド・ジャポンと名称を変更して、イ       メージの統一を図っていた。小手先である。    (ホ)キッズ重視が伺える。入口脇の雑貨「どんぐり共和国」、店奥中央にある       子供広場が賑わっていた。すぐ横が、玩具、ベビー服、レディス下着売場       というのも、よく考えられている。    (ヘ)書籍売り場も、これまでのように棚が水平に並んで、無機質ではない。       流石に、六本木ヒルズのTUTASYAの書店とは比較にはならないが、       くつろぎ感は出ている。    (ト)家電・AV売り場も、相変わらず力が入っている。       ただ、この店の客層からすると、プラズマ・テレビやホーム・シアターは       手が届かないだろう。目玉商品の3万7800円のポータブルDVDプレ       イヤーがよく売れていた。    (チ)H&BCやジュエリー売り場がひときわ明るいが、内容は変わらない。    (リ)レジの混雑は、相変わらずだが、警備員に女性が3人起用された。       買い物籠を手渡していた。細かい心配りだが、接客面で改善の兆しがみえ       るのは、歓迎したい。ただ、フロアマップが品切れで、ウロウロしている       老婦人を目撃した。    (ヌ)サービス面で、大きく改善されたのが、1階のフードコートである。       ラーメン屋やよしもとのうまいもんやのほかは、ケンタッキー・フライド       チキン、ファ−スト・キッチン、オムライスのオムオム、ペッパーランチ       なども入っている。       照明が明るく、壁もイタリアレストラン風、椅子・テーブルの数も多い。       ほかに、10店ほどからなる食堂街もあるので、これならば、滞留時間も       増えるだろう。      以上を勘案して、この尼崎店は、価格+品質+品揃え+店舗に加えて、サー     ビス面でも進歩しているので、価値水準は、4となる。          8)東大阪店   10月24日に開店した。      売場面積10000平方メートル、テナント数40、1フロア。 尼崎店とほぼ同じである。ここも、カルフールは2階に陣取る。2階は、     使いにくいが、駐車場が、3、4、5階にあるので、クルマ客には不便はな     い。テナントの59店は、これまでで最も多い。      目についた点は、以下の通りである。    (イ)食品売り場の配置が変わった。入ってすぐ右手にパン売場がある。       その隣が、青果売り場、惣菜・デリカ、鮮魚、精肉と続く。       この配置は、パンや野菜だけを補充して、その日の買い物は手軽に済ませ       たいというショートタイム・ショッピングの考え方を採用したもので、注       目に価する。    (ロ)惣菜・デリカ売り場では、売りのローストチキンやパエリアだけでは、い       まひとつと考えたのか、イカのチリソース煮や酢豚という中華惣菜が加わ       っている。    (ハ)鮮魚売り場は、尼崎店と同様に魚種が豊富である。タラバガニや鯛を豪勢       に氷を敷きつめた平台の手前に並べ、旬のサンマを1匹68円で安売りし       ている。その脇で、煮干とわかめの詰め放題をやるなど工夫が見られた。    (ニ)ル・カフェがなくなった。       フードコートが充実したので、不要と考えたようである。店内が広いので       これは賛同できない。    (ホ)子供の遊び場が縮小された。       入り口のそばに、テナントで、ズー・アドベンチャーが入店したためと思       われるが、狭いスペースに詰め込まれ、遊んでいる親子をみると、気の毒       である。    (ヘ)フランス雑貨のラ・メゾンが、縮小され、和食器と一緒になっている。       これも、いただけない。    (ト)家電・AV売場では、プラズマ・テレビに加え、ホーム・シアターの陳列       が目立った。    (チ)フードコートは、大阪名物のたこ焼きのほか、さぬきうどんやマクドナル       ドなど11店、席数は500と大幅に強化され、食堂街もあるので、日曜       祭日の昼食難民は発生しにくいだろう。    (リ)サービス関係のテナントが増えた。       マジックミシンは、洋服のリフォームで、ズボンのスソ上げも有料でやっ       ている。靴の修理、合鍵のプラスワン、クリーニング、現像、ハンコ屋、       ギフトショップ、花屋、宝くじ売場に加えて、カット専門店のQBハウス       も入居している。    東大阪店は、ショートタイム・ショッピングを試み、飲食・サービス関係のテナ   ントを強化するなど価格+品質+品揃え+店舗に加え、サービスの改善が窺える。    しかし、ル・カフェの廃止、ラ・メゾンや子供の遊び場の縮小といった後ろ向き   の施策もなされているので、プラス・マイナスを勘案すると、価値水準は、やはり   4にとどまる。    ここでも、気になるのが、接客のまずさである。    毎度のことであるが、フロアマップの品切れ、万引きを警戒しての警備員の多さ   が気になる。目玉のトイレット・ペーパーも品切れで補充待ちの長い行列が、店内   の通路をふさいでいた。    またも、開店時の混乱が繰り返されている。    先行する店舗におけるオープン時の混乱が全社的に学習されていない。    以上、視察した国内7店舗の価値移転状況をまとめたのが、表9である。    新しく出来た店舗ほど、価値水準が高くなっていることが見てとれる。             表9 価値の移転状況    価値水準  構成要素              該当店舗        1 価格+品質                南町田店    2 価格+品質+品揃え            幕張店T期、光明池店     3 価格+品質+品揃え+店舗         狭山店、幕張店U期、箕面店    4 価格+品質+品揃え+店舗+サービス  尼崎店、東大阪店    5 価格+品質+品揃え+店舗+サービス+接客   5 食品売り場にみる価値創造 (1)価値創造の最前線、食品売り場 不況が長引くなかで、百貨店、総合スーパーやローカル・スーパーにおいて、  食品売り場の重要性が見直されている。     衣料品の購買頻度は少ないが、食事は、1日3回。日持ちせず、形崩れしやす    い食材が多いので、購買頻度が高く、購買点数も多い。旬のものや地場ものへの    こだわりもある。惣菜のように付加価値の高い売り場が出現している。    そういう背景もあって、この分野には、多彩な企業が参入し、競争が激化してい    る。コンビニエンス・ストアをはじめ、デパ地下、外食産業、それに加えて、ホ    ームセンターまでが参入し、乱戦模様になっている。産直も盛んである。     この食品売り場づくりには、いろいろなアプローチがなされてきた。    (イ)店主の経験・知識・勘によるもの    (ロ)取引先主導でスペースを埋める    (ハ)競合他店舗の売り場を模倣    (ニ)生産性向上を狙った売り場づくり       情報・物流システムを駆使しての欠品防止や補充頻度削減   売上、利益、回転率を勘案した棚割りシステムの活用    (ホ)感性重視       視覚や嗅覚など感覚要素を勘案して売り場を配置    (ヘ)買いやすさ重視       食事事情の変化を充分に考慮した売り場づくり    近年は、さすがにイ)ロ)ハ)のような初歩的な段階は卒業している。    ウォルマートの研究でも触れたように、ニ)が主流になっている。    しかし、こうしたハイテクを活用したビジネス・アプローチだけではさびしい。    顧客は、購買行動のモデルになったように感じ、隙間風をしばしば味わうことに   なる。    食品売り場は、視覚、聴覚、臭覚、触覚、味覚をフルに動員して購買が決定され   るダイナミックな場である。    顧客の立場で考えれば、買い物に行ったら元気をもらう場であってほしい。    お金を払うだけの「消費者」ではなく、「生活者」として扱ってほしい。    行く度に、わくわくどきどきできる売り場がほしいということになる。    センスの国、フランスからきたカルフールには、特に、(ホ)にある感性重視の   売り場づくりが期待されている。同時に、(ヘ)に示すように、食事事情の変化を   充分に考慮した売り場づくりが期待されている。    物流や情報システムの整備も大事であるが、今後の売り場の課題は、いかにして   血や汗や涙の結晶である人間的な価値に触れる場に仕上げていくかにある。    以下では、カルフールの食品売り場に焦点を当て、価値創造がどのように行われ   ているか、問題があるとすれば、どのように解決していけばよいかについて検討し   てみたい。    この問題には、多面的な綿密な検討が必要である。    しかし、売り場やカテゴリー別の売上高や利益率のデータは部外者には、入手困   難である。また、売れ筋、死に筋、見せ筋、儲け筋といった個々の商品アイテムの   データも分からない。マーケット・バスケット分析のデータでもあれば、客層毎の   関連販売も分かるが、それも入手困難である。    したがって、現段階では、視察で得られる範囲の知見をもとにした検討にならざ   るをえないことを、お許しいただきたい。 (2)売り場配置の現状    では、消費者ならば、誰でも分かる売り場配置についてみてみよう。    カルフールの食品売り場は、様々な商品群から構成されている。生鮮3品をはじ   め、同社が得意とするワインやチ−ズ、あるいは、パン売り場などがある。    ここでは10の売り場を選んで考察していきたい。    それぞれの売り場の視察結果を表10にまとめた。         表10 食品売り場の現状    ・青果      キュウリ、トマト、キャベツ、レタスといった定番野菜の品質と価格にバラ      ツキがある。新鮮で、安く、生産者の顔が見える野菜を求める消費者の要求      に応えていない。   ・鮮魚      これも、店舗によって品揃えにバラツキがある。      最近開店した尼崎店や東大阪店は、力が入っている。        ・精肉      品質面で一定の評判をとっているが、他店との差別化は困難。    ・惣菜・デリカ      ローストチキンやパエリアが目玉だが、いまひとつ受け入れられていない。      チキン丸ごと1羽では、核家族や単身者は買いにくいし、毎日同じアイテム      では、主婦が寄りつくはずはない。    ・パン      バゲットなどのフランスパン、出来立てパンをはじめ、品揃えはいい。      試食も積極的に行っている。     ・ワイン      フランスは、ワインの本場、品揃えは専門店以上。安いワインをエンドに並      べているが、閑散としている。    ・チーズ      これもフランスが本場で、300〜700種類あると言われる。      品揃えは、専門店以上だが、閑散としている。    ・ビール      一通り揃えているが、力が入っていない。日本人には、お酒と並んで親しま      れているアルコールだが、フランスでは水と思われているせいだろうか。    ・加工食品      一通り揃えているが、力が入っていない。      日本では、割引セール時に買いだめする商品となっている。    ・ミルク      これも力が入っていない。    現状は、売り場によってバラツキがある。    ワインやチ−ズの品揃えは優れているが、客が少なすぎる。一方、ビールのよう   に、日本人には親しみやすい飲み物に力をいれていない。    ねじれ現象が起きていて、顧客にとっては、利用しにくい店である。     カルフールは、この問題点を解消しょうとして、売り場配置のさまざまなイノベ   ーションを行ってきた。    その努力を検証するために、買い物客に徹して、小型カートを押しながら、売り   場をゆっくりと歩いてみた。    何度も来店しているご婦人ならば、買い物リストを持参して目的の売り場に直行   するだろうが、今回は、初回来店という想定である。    店舗に入り、右手の壁に沿って売り場を見ていき、左手に強力な磁力を感じたと   きには、その売り場も見ていく。    表11が、その観察結果である。    一覧表に収めるために、それぞれの売り場を記号化した。            表11 国内7店舗の購買動線         1  2  3  4  5  6  7  8  9  10    幕張店   ビ  ワ チ パ 菜  D  魚  肉  工  ミ    南町田店  ビ  ワ  チ  ミ  パ  菜  D  肉  魚  工    光明池店  ワ  ビ  チ  菜  パ  D  魚  肉  工  ミ    狭山店   ワ  ビ  肉  菜  魚  D  チ  パ  工  ミ    箕面店   工  ビ  ワ  肉  菜  魚  D  チ  ミ  パ    尼崎店   菜  肉  魚  D  パ  チ  ミ  工  ビ  ワ    東大阪店  パ  菜  D  魚  肉  チ  ミ  工  ビ  ワ     ・青果: 菜   ・精肉: 肉  ・鮮魚: 魚   ・惣菜・デリカ: D   ・パン: パ ・ワイン: ワ ・チーズ: チ  ・ビール: ビ     ・加工食品: 工 ・ミルク: ミ  この表の検討に入る前に、以下の3点に留意しておきたい。 1)わが国の食品スーパーでは、通常、店舗に入ってすぐに青果売り場がある。      色とりどりの野菜・果物とその匂いによって、顧客を魅了し、購買意欲を喚      起するためである。    2)だが、カルフールの場合、食品売り場は入口に位置していない。      例えば、モナコ店では、入って手前半分が日用品雑貨売場で、その奥に位置      している。最新の2002年モデル、ル・コレジアン店でも、食品売り場は      左手の衣料品やB&HC売り場の奥にある。    3)顧客に店内を最後まで見てもらい、衝動買いを誘発するために、購買動線の      最後に、補充目的のミルク売り場を置くのが普通である。     これらを念頭に置いて、表11を検討すると、以下の知見が得られる。     1)カルフールのわが国の全7店舗の売り場の配置は、一定していない。      例えば、「ワ」で示したワイン売場の順番は、2、2、1、1、3、10、      10と変化している。同様に、菜で示した青果売り場は、5、6、4、4、      5、1、2と変化している。    2)セオリー通りに、青果売り場が1番目に位置する店舗は、尼崎店だけにとど      まる。ミルク売り場が10番目に位置する店舗は、幕張店、光明池店、狭山      店の3店舗である。だが、その双方を充足させる店舗は、ひとつもない。    3)関連購買が強いワインとチーズ売り場は隣合わせが望ましいが、そうなって      いるのは、幕張店と南町田店だけである。      光明池店では、ビで示されるビール売り場に割り込まれており、他の4店舗      では、大きく離れている。    4)生鮮3品を隣接させるのは自然な売場構成と思われるが、そうなっているの      は、狭山店、箕面店、尼崎店の3店舗で、他は並んでいない。      その間に割り込んでいるのは、Dで示される惣菜・デリカであり、パン売り      場である。           さて、このように店舗毎に売り場配置が大きく変わる事態が起きているのは、な   ぜだろうか。    従来のチェーン・ストア理論では、説明できない。標準化店舗を金科玉条として   売り場配置を変えることなどありえないからである。    食品売り場に強いとされるカルフールが行き当たりばったりに売り場の配置を決   めているとは思えない。    どのパターンが、最も日本市場に適しているかを実験しているものと考えるのが   妥当だろうが、それにしても、変化が多すぎ、迷いがあることが窺われる。    カルフールは、ほんとうに、日本の食事情を理解しているのだろうか。 (3)日仏の食事情    そこで、まず、フランス人の食卓を思い浮かべてみよう。    日本人は、世界で2番目にフランス料理店が多いので、フルコ−スの高級料理を   思い浮かべる。だが、現代フランス人の食事は、意外にシンプルである。    朝は、夜更かしのひとが多いので、カフェ・オ・レにパンだけですませる。    昼食はしっかり取るものの、ステーキ、フライドポテトにサラダというように安   直になっている。    夕食は、昔は、食前酒、前菜からはじまって、メインの魚料理と肉料理、食後に   チーズと食後酒、さらにデザートとコーヒーとフルコースを何時間もかけて楽しん   だが、最近は、メインに肉料理か魚料理のどちらか1品を選ぶようになった。    カルフールで買ってきたローストチキンに、チーズやデザートで済ますひとも増   えている。若い女性は、ダイエットのため、ワイン、チーズ、デザートを控え、若   い男性はワインをやめて、ミネラル水を愛飲する。    次に、わが国の食品史を振り返ってみよう。    江戸時代には、「一汁三菜」といわれた。ごはん、みそ汁、おかずである。    コメ、野菜、魚にお酒がそえられる。    明治の文明開化とともに肉食がはじまり、ビールの製造・輸入がはじまる。    第2次大戦後は、学校給食でパンが主食となり、みそ汁に代わってミルクが普及   した。食品産業が発達し、加工食品や冷凍食品が食卓に上るようになった。    近年では、働く主婦や単身世帯の増加に伴い、HMR(Home Meal Solution)が   ブームになって、カット野菜、味つけ肉、電子レンジで暖めるだけで食べられる冷   凍食品などが増えている。    なかでも惣菜・デリカの伸びはめざましい。    そして、コンビニのシェアが大きく伸びているのも、見逃せない。    おにぎり、お弁当はもとより、おでん、焼き鳥、調理パン、パスタ、シチュー、   スープなど、お得意の単品管理の手法を生かして、若者から主婦、高齢者にターゲ   ットを拡げて、売れ筋商品を次々と開発・投入している。    そして、いまカルフールが日本に上陸し、ワインやチーズに合う惣菜として、デ   リカテッセン売り場で、ローストチキンやブイヤベーズといった新しい洋惣菜を提   案し、わが国の食卓を一新しようとしているわけである。    こうした食品の盛衰が背景になっている日本市場に対して、カルフールは、これ   まで見てきたように、フランス流に徹するのか、それとも、現地に適応させるのか   について、そのバランスを取ろうと試行錯誤しているのが現状のようである。 (4)サッカーのフォーメーション    ここでは、まったく別の観点から、この問題にアプローチしてみよう。    ひとつの仮説として、世界で最も親しまれているスポ−ツであり、様々なイノベ   ーションが行なわれているサッカーのフォーメーションを参考にしたい。    一見すると、全くちがう世界である。    しかし、それがかえって、小売業における売り場配置の固定概念を壊すのに役立   つかも知れない。以下、思いきって検討を進めてみよう。    サッカーの場合、11人の選手のポジションは、大きく4つに分かれる。       防御を担当するDF(ディフェンダー)、攻撃を担当するFW(フォワード)、   攻撃と守備の両方を担当するMF(ミッドフィールダー)、そして、GK(ゴール   キーパー)である。    ゴールキーパーは、ひとりと決まっているので、サッカーのフォーメーションは   GKを除いた10人の役割分担を示すものになる。    フォーメーションについては、歴史的な変遷が見られる。  対戦相手を考えて採用する戦術や選手の力量、相性、状態によっても異なる。    表12は、これまでの代表的なフォーメーションを示したものである。        表12 サッカーの代表的なフォーメーション        DF MF FW (1) 2−3−5   超攻撃的、1920年代      (2) 4−2−4   1958年ブラジルW杯制覇     (3) 4−3−3   1962、66年ブラジルW杯制覇     (4) 4−4−2   1994年ブラジルW杯制覇     (5) 3−5−2.   1990年西ドイツW杯制覇     (6) 5−2−3.   1964・65年インターミラノ世界クラブ制覇 (7) 4−5−1   超守備的    (1)が超攻撃的、(7)が超守備的であり、数字が増えるに従って、守備重視になっ   ていく。    ここでは代表的なフォーメーションを挙げるにとどめたが、3−4−3、4−5   −1、5−3−2といったフォーメーションを採用しているチームもある。 さらに、4−2−3−1、4−1−4−1といったエースストライカーを前面に   押しだしたフォーメーションもある。    順列組み合わせの問題として解けば、ほかのフォーメーションを挙げることも可   能であるが、ここでは省略したい。    このフォーメーションの進化を見て気付くことは、3点である。    1)1920年代のサッカーは、攻撃しか考えないものだった。      サッカーは、多く点を取ったほうが勝つからである。    2)1964・65年、ヨーロッパ選手権と世界クラブを制したイタリアのクラ      ブ・チームであるインターミラノや、それを受け継いで1974年のドイツ      大会を制した西ドイツ・チームは、鉄壁の守備を誇った。      サッカーは、点を取られなければ勝つチャンスが多いからである。    3)だが、J リーグのほとんどのチームが採用している現代サッカーでは、FW      を減らして2人としている。いわゆるツートップである。      その代わり、中盤のMFの選手を増やしている。MFの役割が重要と捉えて      いるからである。MFは、攻撃にも参加し、また守備にも回るので、ここに      ベッカムや中田など、1人2役をこなせる花形選手を当てることができれば      勝つチャンスは、多くなる。      点を取りに行く一方で、点を失わなければ、勝つチャンスは多くなる。 1) は、多く点をとる。2)は、点を取らせない。3)は点を取る一方、点を   とらせない。さほど変わりはないようにも思えるが、3)のほうが、勝つ確率は   高くなる。ここにフォーメーションの革新があったわけである。  チームの心臓部であるMFについては、様々な工夫がなされている。    4人の場合は、攻撃的MFと守備的MFと前後に分かれるダブルボランチ・シス   テムと菱形に位置するダイヤモンド・フォーメーションの2つが代表的である。    5人の場合には、これにもう1人、サイド・ハーフが加わり、ウィングとバック   スの仕事をする。    以下では、このような現代サッカーにおけるイノベーションを小売業の売り場配   置の参考にできるかどうかを、カルフールを例に考えてみたい。    ここで、取り上げる売り場10は、サッカー選手10人と一致しているので、そ   れぞれの売り場をチーム・ カルフールの選手とみなして、検討を進めてみよう。 (5)4つのフォーメーション    まず、超攻撃的フォーションである2−3−5を見ておこう。    フランスの売り場を、日本にそのままもってきたことを想定した攻撃的な布陣で   ある。    攻撃主体のFWは5人。    フランスが本場のワインとチーズの2人を選ぶのは順当だろう。    生鮮3品のなかでは、鮮魚は、フランスでは高級品に属し、日常的ではないし、   日本は、水産国なので、魚種が豊富である。したがって、フランス代表となれば、   鮮魚は外し、精肉と青果を選ぶのが順当だろう。    5人目には、フランス人にとって欠かせないパン売り場を加えよう。    MFは3人。ここには、ローストチキンなどの惣菜・デリカがくる。 そして、生鮮3品から鮮魚がここに回る。ミルクも、ここに入れよう。   DFは2人。フランスでは、あまり飲まれないビールと加工食品がくる。    図3は、以上を売り場のフォーメーションとして示したものである。         図3 売り場のフォーメーション(2−3−5)           FW   ワ  チ  肉  菜  パ           MF        D  魚  ミ           DF         ビ  工   次に、超守備的な4−5−1を見ておこう。 これは、フランスの売り場はやめて、日本の典型的な食品スーパーの売り場を    模倣することを想定した守備的な布陣である。         図4 売り場のフォーメーション(4−5−1)           FW        菜           MF  肉  魚  D  パ  ビ           DF     ミ  工  ワ  チ    FWは、1名。日本では、野菜がFWに選ばれる。    地場で仕入れたばかりの新鮮でおいしそうな野菜が積み上げられ、安く提供され   ていると、購買意欲が高まり、野菜だけでなく、食品売り場全体が活気づく。    MFには、まず、精肉と鮮魚の2人が入る。      精肉は、狂牛病や産地の不当表示問題で、一時期売れ行きが激減したこともあ   り、消費者の警戒心が高まっているので、素性が分かる品質のいいものを提供す   ることが大事である。     鮮魚も、野菜同様、地元漁港から揚げられたばかりの生きのいい魚が並ぶと、売   場り場が活気づく。    そして、3人目が惣菜・デリカ。    近年、躍進いちじるしいのは、ローカル・スーパーだが、かれらに共通するの   は、惣菜での新機軸である。パートの主婦たちが、手づくりで、地元の旬の食材を   使い、おふくろの味を提供している。    あと、パンとビールの2人を追加して、MFは5人となる。    最後に、DFの4人は、ミルク、加工食品、日本人になじみの薄いワインとチー   ズが、ここにくる。       しかし、カルフールが日本のスーパーと同じでは、何の新味もないので、超攻撃   的と超守備的フォーメーションの中間を考えてみたい。    現代サッカーで最も代表的なフォーメーションである4−4−2を想定したのが   図5である。         図5 売り場のフォーメーション(4−4−2)           FW         ワ   チ             MF      菜  肉  魚  D            DF      ミ  パ  ビ  工    この場合、FWは、ツートップとなる。    ここでは、フランスの食卓の花形、ワインとチーズを、当ててみたい。    ただし、現状のカルフールのワイン売り場を強化したものと考えてほしい。    視察の際、ワインフェアを開催していて、ソムリエが現れたが、ワイン通と仲間   内の会話をしているだけで、初心者層の開拓に寄与しているとは思えない。    セブン-イレブンでは、ソムリエとして有名な田崎真也氏特製のワインを開発・   発売している。カルフールならば、サッカーの名選手ジダンなど、有名人の愛飲す   るワイン・コ−ナーを設置して、話題づくりでもしないと攻撃的なFWにはなれな   いだろう。    次に、DF4人を先に決めよう。    先にあげたビールと加工食品のほかに、2人指名しなければならない。    そうなると迷うところであるが、ここでは、ミルクとパンを組み入れたい。    双方とも、毎日の暮らしに欠かせないので、守備に向いている。    とはいえ、現代サッカーでは、DFに反転攻撃を期待されたリベロというポジシ   ョンが置かれるようになった。    パン売り場では、出来立てで、美味しさが評判のパンが並べば、補充目的の位置   づけしかなかったものが、一躍、お目当ての売り場という攻撃的なポジションに変   わりうる。     加工食品の棚に並ぶ調味料も、リベロになりうる。例えば、いいオリーブオイル   やドレッシング、スパイス類、ハーブ入りのフランスの岩塩を手に入れると、夕食   を奢ってステーキやワインが欲しくなる。FWやMFと連携できるわけである。    最後が、MFの4人である。    攻撃も守備もできる売り場、すなわち、フランスにも、日本にも通じる売り場と   なると、青果、精肉、鮮魚、惣菜・デリカを選定するのが順当だろう。    もうひとつ、このフォーメーションの変形を検討してみよう。    4−4−2よりも、やや守備的なフォーメーションである3−5−2を示した   のが、図6である。    より日本市場に適応したフォーメーションになりうるかも知れない。    この場合は、最近できた東大阪店のように、ベーカリーの売り場の役割の見直し   がポイントである。DFであったのを、思い切ってFWに引きあげてみよう。        図6 売り場のフォーメーション(3−5−2)         FW         パ  ワ         MF    菜  肉   魚  D  チ         DF       ミ  ビ  工    FWに昇格したパン売り場は、他のMFとの連携プレーを行う。    例えば、サンドイッチを思い浮かべてほしい。具だくさんのサンドイッチが評 判になれば、その影響で、青果、鮮魚、精肉やチーズの売上も伸びることになる。    このポジション変更によって、MFには、チーズが加わり、DFは、パンが抜け   て、ミルク、ビール、加工食品となる。 (6)MF配置におけるイノベーション    現代サッカーにおいては、攻守両面で活躍するMFの重要性が増した結果、MF   は、攻撃的MFとボランチという2つのポジションに分かれるようになった。    チームの攻撃の司令塔が、攻撃的MFであり、守備のバランスをとるのが、ボラ   ンチである。ボランチの数や位置によって、いろいろなフォーメーションが生まれ   る。MFが4人の場合、大別して5つのフォーメーションがある。    ライン、ライン+1ボランチ、ダブルボランチ、スリーボランチ、ダイヤモンド   である。     どの売り場をボランチとするかによって、フォーメーションが変わってくるが、    図6では、4人のうち、野菜を攻撃的MFと決めたために、精肉、鮮魚、惣菜・デ   カがボランチの候補となる。監督としては、選手の力量・適性を考慮して、ワンボ   ランチにするか、ダブルボランチにするか、スリーボランチにするか決めればいい   わけである。          図6 MF4人のフォーメーション        ・ライン     ・ライン+ワンボランチ  ・ダブルボランチ      菜  肉  魚 D     菜  肉  魚      菜   肉                      *D        *魚   *D       ・スリーボランチ    ・ダイヤモンド           菜             菜       *肉   *魚  *D          肉   魚                         *D     さて、ここで、MFとして選ばれた4つの売り場は、カルフールにおいては、バ   ラツキがある。    精肉は強いが、野菜、鮮魚、惣菜・デリカが、いまひとつなので、監督が苦慮す   ることになる。肝心の攻撃的MFである野菜が弱くては、試合にならない。    観客は攻撃的MFが不在のチームなど贔屓にしない。観戦に行っても失望するだ   けだからである。チーム・カルフールは、緊急に、ベッカーのような攻撃的MFの   名選手を育てる必要がある。   MFの役割は、FWと連携して、ゴールを狙うことにある。現状では、FWに配   したワイン売り場やチーズ売り場とMFである生鮮3品と惣菜・デリカ売り場との   連携プレーが、ほとんど行われていない。    フランス人ならば、ワインやチーズ売り場で戸惑うことはないだろうが、一般の   日本人には、お肉には赤ワインということくらいしか思い浮かばないだろう。    いわんや、秋刀魚の塩焼きに合うワインとなると、そういう発想すら浮かばない   のではなかろうか。    京都にあるワイングローサリーが、そのホームページで行なっているように、秋   刀魚の塩焼きをはじめ、カレー、ステーキ、肉じゃがといったよく食卓にのぼる料   理について、それに合うワインを推奨し、売場にワインを並べるべきであろう。    チーズについても同様である。    MFを1人増やし、5人とする手もある。    MFの4人が弱いので、1人追加しようというわけである。カルフールの場合、   パン売り場が強いので、これをMFに引き上げてみよう。    この3−5−2の場合のフォーメーションは、4つある。    MFの役割も、5人になると、攻撃的MFとボランチに加え、サイドハーフとい   う新たなポジションが置かれる。これは、選手がフィールドの中央に集まり、サイ   ドが空くので、これを利用して、サイドから攻撃をしかけていくのが狙いである。    ここで、サイドハーフに、どの売り場を起用するかが、新たな問題になる。    サイドハーフは、MFであるから、攻守両面にわたって活躍するのは、当然であ   るが、運動量の多さを要求される。味方のゴールかた敵方のゴールまで何度も往復   できる俊敏さが必要である。    ここでは、サイドハーフに、思いきって、パンと精肉を起用してみよう。    パンについては、活気があるので、さほど問題はなさそうである。    精肉の起用は、意外かもしれない。    精肉売り場といえば、どのスーパーに行っても、差はない。    鶏、豚、牛に限られ、パックされたステーキか小間切れ、国産か輸入かといった   程度である。あとは、松坂牛を売り物に加えているかどうかである。    この静的な精肉売場の運動量を増やすには、どうしたらよいか。    カルフールならば、シーズンになれば、ジビエや鴨を追加することにすぐに気付   くだろうし、オックステールやスネ肉の利用法も熟知しているだろう。    ここでは、詳しく触れないが、焼肉、焼き鳥、バーベキュー以外にも、解体セー   ルを行うとか、ローストビーフを注文に応じてカットするとか、肉のいろいろな提   供方法を工夫し、活気ある売り場にしてほしいところである。    図7は、4つのフォーメションに、生鮮3品と惣菜・デリカ、そしてパン売り場   を当てはめてみたものである。$印が攻撃的MFであり、*印がボランチ、+印は、   サイドハーフである。                 図7 MF5人のフォーメーション          ワンボランチ         ダブルボランチ          $菜  $魚       $菜       +肉       +パ     +肉      +パ            *D             *魚 *D スリーボランチ   ダイヤモンド          $菜  $肉             $菜       *魚  *D  *パ       +肉  $魚  +パ            *D    図8には、2002年のW杯日本大会の対トルコ戦の配置を示してみた。このと   きは、日本チームは、ダブルボランチを採用している。    中田英寿が攻撃的MFであり、小野伸二と明神智和がサイドハーフ、そして稲本   潤一と戸田和幸の2人がボランチだった。こうして、具体的な名前をあてはめてみ   ると、MFの人選と配置については、それぞれの選手(売り場)の体調や相性を十   分に考える必要があることが、あらためて、お分かりいただけるだろう。           図8 ダブルボランチの適用例               D:中田英寿        菜:小野伸二           肉:明神智和          パ:稲本潤一   魚:戸田和幸    さて、フォーメーションについては、これまで取り上げてきた2−3−5、4−   4ー2、3−5−2、4−5−1以外にも様々なタイプが考えられるが、紙幅の関   係で省略したい。    現代サッカーを、まったく畑ちがいの小売業にあてはめるのは、無謀と思われた   ものの、検討してみると、多彩なフォーメーションをヒントにして、売り場配置を   より緻密に検討することができることが分かった。    野菜が先で、魚、肉、惣菜・デリカと続く、誰も疑問に思わなかった売り場配置   のイノベーションが必要である。    現代サッカーでは、相手先やゲームの時間帯によって、臨機応変にフォーメーシ   ョンの組み換えを行っている。    しかし、スーパーでは、売り場の組み換えが、常識となっていない。    サッカーの常識を小売業に当てはめれば、地域、立地、競合状況はもとより、天   候・気温・湿度、曜日や時間帯、地域行事(入学式・卒業式や運動会、お祭り)、   さらには、給料日やボーナス日の前後かによって、柔軟にフォーメーションの変更   が必要なはずである。    そうした作業を現場で実践するのは大変だ、不可能に近いという悲鳴があがるか   もしれないが、時代は、すでに、この方向に向かっている。    セブンーイレブンは、1万店を突破したが、個店それぞれで、臨機応変のフォー   メーション変更をしており、それにより、顧客の支持を受け、高収益をあげている   のである。 6 惣菜・デリカ売り場にみる価値創造    いまや、生鮮3品から惣菜へという大きな流れができており、惣菜は、食卓の脇   役から主役になっている。    ここで、惣菜、デリカの価値創造について、掘り下げてみたい。    年配の世代には、家で料理もせずに惣菜を買って間にあわせるのは手抜きとか、   不味いものを買ってどうするのかという感覚が残っている。    いまだに大手スーパーの惣菜売り場には、売れ残りの食材を使ったものが平気で   並んでいる。コロッケや天ぷらは冷えきっているし、定番の肉じゃがやキンピラの   味つけは、濃すぎるし、添加物も多い。    ここで、ひとつの興味深いデータを紹介しよう。          表13 出来合いの惣菜を買う理由                       専業主婦  有職主婦     ・作るのが面倒だから 59.6%  44.3     ・作る時間がないから 24.2 39.8     ・買ってきたほうが安上がりだから 29.6 29.7     ・自分でつくるよりおいしいから 33.3 33.3 ・いろいろなものが食べられるから 14.6 13.0     ・作り方を知らないから 9.2 10.2   出典:読売広告社生活者調査「Canvass2003」n=627 複数回答    これまでの惣菜に関する常識である「作るのが面倒だから」という意見が上位を   占めているものの、その比率が専業主婦のほうが多いというのは、驚きである。    「買ってきたほうが安上がりだから」という理由は、有職主婦のほうが多い。    意外に思う向きもあるかも知れないが、核家族化によって、生鮮3品を買っても   余るので、却って高くつくのである。    それよりも注目すべき変化は、「自分でつくるよりおいしいから」や「いろいろ   なものが食べられるから」という意見が増えていることである。    いま、広く起きていることは、主婦は、家族のために一品は手作りするものの、   食卓をにぎやかにし、栄養のバランスを考え、数点惣菜を購入するという、まった   く新しい食卓風景が生まれているのである。    目端の利く企業は、早速、そうして新事態に対応して、惣菜売り場における味づ   くりの努力を強化し、バイキングやオードブルにして、バラエティよく提供する工   夫をはじめている。    野菜惣菜については、春になれば、菜の花のおしたしやたけのこ、秋になれば、   きのこづくしの天ぷら、冬になれば、白菜、大根が主役の鍋物の種類を大幅に増や   している。    魚惣菜についても、ブリの照り焼き、カレイの煮付け、サバの味噌煮、そして、   旬を感じさせるうなぎや秋刀魚を威勢よく並べている。    しかし、大手スーパーの場合、本部集中仕入れのチェーン・ストア理論が足枷に   なって、地場で新鮮な生鮮3品を調達できないうえに、惣菜での新機軸に及び腰な   ので、ローカル・スーパーに敵わない。    ダイエーが、問題例である。    ポテトサラダがマヨネース味で具が少ないのが不評と分かって、最近、「野菜た   っぷりのポテトサラダ」を売り出した。しかし、どうみても野菜が少なく、名前倒   れだった。ところが、ローカル・スーパーでは、野菜サラダのような盛り付けにし   て、ポテトも大きく切って、文字通り、「野菜たっぷりのポテトサラダ」になって   いる。    以上は、ほんの1例だが、ローカル・スーパーは、MFの5つの売場を大手がつ   けいる隙がないまでに、がっちり固めているのである。    しかし、大手スーパーも反転攻勢に出ている。    本社がカルフール幕張店のそばにある関係もあって、カルフールを徹底的に研究   しているのが、ジャスコである。    その最新の店舗が、10月開店の東京・東雲店である。オートウォークを採用し   たり、キッズ共和国という名称を使用したりしているだけではなく、惣菜・デリカ   売場に力をいれていることに注目したい。    惣菜売り場を食品売り場の一番いいところに置き、日替わりで10種類の出来立   ての和惣菜のバイキングをいくつもの大皿に盛って提供している。    また、カルフールの潜在的なライバルが、デパ地下の惣菜専門店である。    柿安ダイニングやロックフィールドなどの高級惣菜店では、素材にこだわり、味   つけに一工夫も二工夫もして、とりたての食材をその日のうちに調理し、出来立て   のものを大皿に盛り付けて提供している。当然、味もいいので、大人気になって、   「台所いらず」の声まで出ている。    表14は、こうした大きな価値進化を示したものである。    表14 惣菜における価値水準の進化     1)栄養     2)栄養+新鮮さ     3)栄養+新鮮さ+ヘルシー     4)栄養+新鮮さ+ヘルシー+美味しさ・美観     5)栄養+新鮮さ+ヘルシー+美味しさ・美観+手づくり     6)栄養+新鮮さ+ヘルシー+美味しさ・美観+手づくり+スピード    ひとびとは、栄養過多を懸念し、ダイエットを気にするようになり、価値水準3   のように、ヘルシーさが要求されるようになった。    また、外食する機会が格段に増え、一流レストランの感動的な味や盛りつけを体   験すると、美味しさ・美観や手づくり感を求めるようになる。    外食は高くつくので、手頃な価格で、素材や調理法が安心できるならば、惣菜・   デリカを買い求めて、一流レストランの味を家庭の食卓で味わおうとしはじめてい   るのである。    こうした味の面での競争は、すでにあちこちの売り場で観察できるが、次の段階   では、質のいい惣菜をタイミングよく提供できるかどうかが争われるものと思われ   る。いわば、価値水準6)にみるように、スピード重視の競争がはじまっているので   ある。 現代サッカーにみられるようなスピード、柔軟性、タイミングが、競争の決め手   となってきている。    カルフールにとって、こうした変化は、大いなる機会であるが、繰り返し触れて   きたように、現状の惣菜・デリカ売り場では、ローストチキンが目玉で、いまひと   つ日本人の食習慣に合っていない。フランスでは、日曜日の食卓の主役であり、何   の疑問も沸かないかもしれないが、日本人にとって、ローストチキンは、せいぜい   クリスマスに七面鳥の代わりに食べるくらいのもので、丸ごと1羽で提供されても   どう切りわけていいものか迷うし、適当なサイドディシュでも横に置いてくれない   と、ひとり侘しくローストチキンにかぶりつくイメージしか湧いてこない。    この惣菜・デリカ売り場にテコ入れしようと、東大阪店では、イカのチリソース   煮や酢豚を追加している。ひとつの手であるが、中華惣菜でワインやチーズを楽し   もうとは、誰も思わないだろう。FWであるワインヤチーズとの連携を考えていな   い証拠である。    したがって、惣菜・デリカで扱う品目を大幅に見直す必要がある。    他店との差別化のためにも、洋風惣菜に重点を置くべきだろう。    野菜惣菜ならば、レタスなどの野菜サラダをふんだんに揃えてほしい。カット・   フルーツやカット野菜も、種類を大幅に増やしてほしい。    その際、注意すべきは、分量である。健康維持のために、お腹いっぱい野菜を食   べたいときもあるのに、スーパーやコンビニの惣菜では、分量が少なすぎる。    野菜がたくさん摂取できる温野菜のグルメ・サラダもいいだろう。フランスでは   ポトフなどの野菜の煮込み料理が人気だが、日本でも普及するだろう。    シチューもいい。若いひとたちにヘルシーということで、人気が出ているし、具   として青果、鮮魚、精肉を取り合わせることができる。    そして、タイミング。      クリスマスやバレンタインデーは、定着してきたが、パリ祭の7月14日やボジ   ョレ・ヌーヴォーの解禁日である11月の第3木曜日は、まだまだである。    これらの日をカルフール・デーにして、ワインにあった驚きの新惣菜・デリカを   発表するなど、話題づくりをするべきだろう。    この時期だけでもいいので、キャビア、フォアグラ、トリフ、テリーヌ、パテな   どの高級食材を提供してほしい。フランスの店舗でやっているように、エビ、カニ   、貝など海の幸の盛り合わせ(Plateaux de fruits de mer)もいいのではないか。    パリの街角では、冬になれば、殻つきの生牡蠣が一斉に並ぶ。牡蠣づくしで、生   牡蠣、チーズ焼きなどのプレートを提供するのもいいかも知れない。    カルフールには、ぜひ、こうした市場のにぎわいを売り場に再現して、日常の食   卓を豊かにというメッセージを送ってほしいものである。    いまや、生鮮3品の惣菜化という大きな流れは、世界にひろがっている。    ニューヨークのゼイバーズ、ディーン&デルーカ、ベルドゥイッチスにおけるデ   リの品数の多さとプレゼンテーションの見事さに目を奪われる。    思わずよだれが出てきて、ワインの1本でも奮発しようかという気分になる。    本場のフランスは、追いつかれようとしている。    こうした新しい事態に対応するには、出来たての惣菜・デリカを店内加工にし、   その水準を上げる必要がある。さらに、明るいオープン・キッチンで、ラテンのリ   ズムに乗って、新鮮な素材を使って、何人ものシェフが料理ショーを繰り広げるよ   うな演出もあっていい。シェフは、フランスから招いてもいいし、フランスで修行   したものの、帰国後、いい職場がなくて困っている日本人シェフをスカウトしても   いいだろう。       7 売り場配置のイノベーション    先に触れたように、カルフールは、当初3年以内に15店舗を展開すると伝えら   れたが、2003年10月末の出店数は、7店にとどまっている。    9月末で、中国が40店舗、台湾が29店舗、韓国が27店舗であることを考え   ると、今後、日本において相当数の新店舗がつくられると思われる。    表11の購買動線で見たように、売場配置の試行錯誤が続いているが、単なる並   べ変えにとどまっている。    サッカーでいえば、ライン・フォーメーションの段階にとどまっている。             図9 売り場配置の概念図       ライン(MF4人)        ライン(MF5人)       菜  肉  魚 D        菜  肉  魚  D パ これを既に見てきたように、より高度なフォーメーションに進化させるべきで   あろう。    図10のように、重要度を考慮して、惣菜・デリカを食品売り場の中央に配置し   たらどうだろうか。    野菜惣菜の横が青果売り場、肉惣菜の横が精肉売り場、魚惣菜の横が鮮魚売り場   というように、分かりやすく配置する。    その際、留意すべきは、隣接する売り場にある青果、鮮魚、精肉を使って調理し   たものを、惣菜・デリカの売り場に並べていることを明示することである。惣菜・   デリカを買った顧客が、そのイキのよさに納得すれば、そのベースになっている青   果、鮮魚、精肉売り場への信頼も高まり、関連購買が促進されるだろう。これは、   形だけの試食よりも、はるかに効果的なはずである。     こうした斬新な売り場のイノベーションの結果、顧客は、惣菜・デリカ売り場の   周りを回りながら、いまや食事の主役となっている惣菜・デリカをまず買い求め、   必要の都度、その素材となる生鮮3品やパンを追加購入することになる。    この売り場配置のメリットは、ショート・タイムショッピングが可能になると同   時に、売り場間の連携プレーが誰の目にも明らかになるところにある。  図10  ダイヤモンド・フォーメーション                     菜                肉  D   パ              魚     惣菜・デリカ売り場の中央には、明るいガラス張りの清潔なオープン・キッチ    ンを設けたい。      これまでのように、魚、肉、それぞれの作業場を設けるのではなく、NYで流    行しているレストランのように集中調理のキッチンとする。     これによって顧客は、様々な食材がシェフの手によって調理される光景を興味    深く見ることができ、魚をさばいてもらうなど注文することに喜びを覚えるはず    である。     また、キッチンは、従来のように裏方の作業場でなく、清潔でカラフルにし、    料理ショーも随時、開催してほしい。それによって、シェフのフアンができる。      さらには、最近のデパ地下のように、イート・インのカウンター席をオ−プン    ・キッチンのまわりに設けることも考えてほしい。     今後、新設される多くのカルフールの店舗の食品売り場が、このように惣菜・    デリカ重視を打ち出した斬新なデザインとなれば、必すや話題を呼び、ライバル    企業との差別化が明確になると思われる。     これに付随する、もうひとつの提案は、陳列什器の可動性をより向上させるこ    とである。      既にのべてきたように、これからの小売業は、現代サッカーにならって、地域    、立地、競合、天候・気温・湿度、曜日・時間帯、地域行事などに応じて、スピ    ーディに売り場の配置変更をすべきである。     その際、ネックになるのが、現在、多用されているの固定式什器類である。     地元の運動会があったとしよう。     お弁当、すし、おにぎり、パン、サラダ、お菓子、バナナやミカンなど、運動    会用品をまとめた売り場をつくろうとしても、現状では難しいが、可動式什器に    切りかえれば、それは容易になる。     とくに、惣菜・デリカが食卓の主役になり、毎日繰り返し食べられるようにな    ると、日替わりで惣菜売り場を変えていくきめ細かい演出が必要になる。     そのためにも、可動式什器を標準とすることが重要である。  これからは、毎日がニュースであるような食品売り場を編集するのが、店長の    大きな役割となるだろう。 8 価値創造のための組織革新    現代組織論では、下記の1、2、3が重要といわれている。 1)組織内の自由度を高め、いかに企業内創業を促進するか 2)組織レベルを削減し、顧客との距離をいかにめるか 3)階層組織からネットワーク組織へいかに転換するか    しかし、現代サッカーを見ると、組織成員は全員プロであり、個人技が冴え、多   彩なチーム・プレーが勝利の方程式になっている。    そこで、より一層の価値創造を可能にするには、もうひとつ重要な課題がある。    すなわち、4) 個を生かしたスピーディなネットワーク組織へと、いかに早く成   長させるかということである。    しかし、小売業の組織がその段階に達しているかというと、残念ながら、それに   ほど遠いのが現状である。 バイヤーも、ショップのマネージャーも、レジ係りも、誰もが自分のことや自分   が属している組織の防衛に血眼である。全員がいわばDFからなるチームであった   り、FWが頑張っているだけで、MFが不在のチームである。    トップのかけ声が虚しく響く万年再下位のチームのように、勝利を真剣に狙うひ   とがいない。顧客を喜ばせよう、価値創造に燃えるひとが少ない。    関連販売といっても、せいぜい、すき焼き素材の横に、すき焼きのタレを置けば   終りと思っている。    現代サッカーでいえば、選手が他の選手に一回だけパスを送れば、任務完了とす   るようなものである。FWがドリブルでゴールへ突進し、うまくヘッドあわせて、   ゴールを狙う。マークされた場合には、他のMFへクロス、あるいは、一旦、DF   にボールを戻すといった応用動作が出来ていない。    ここに、いいお手本がある。    おおやかずこ氏が紹介されている福島県を本拠とする中堅食品スーパー、ヨーク   ベニマルのケースである。      同社では、99年1月14日から31日まで、「ブイヤベーズ・キャンペーン」   を実施し、成功を収めたそうである。    各コーナーでPOPをつけてメニュー提案をしていたのをやめて、売り場全体の   クロス・マーチャンダイジングを行った。     鮮魚コーナーでは平台を置いてブイヤベース・コーナーを設置。    青果売り場では、タマネギ、ニンニク、トマト、セロリ、ニンジンを並べ、フラ   ンスパン、ワイン、バター、オリーブオイルを揃えた。    顧客は、チラシで、ブイヤベーズ・フェアをやっていることを知らされ、売り場   に行くと、メニューを提案するモニタービデオがあり、おいしそうな匂いの漂うな   かで、試食を薦められる。    680円のセットにしようか、880円のセットにしようかと迷う。    前者は、生の真ダラ4切れ、エビ4尾、冷凍むきエビ4匹、蒸しホタテ4個、バ   ナー貝4個と4人前である。後者は、特選セットと銘打っており、真ダイ3切れ、   赤エビ3尾、むきエビ3尾、ボイルのタラバガニ80g、蒸しホタテ3個、バナー   貝3個の3人前となっており、単なる大小のセットではない。    タラバガニなど素材を追加したければ、すぐそばに単品パックが、ボリューム陳   列されている。    ブイヤベースと一緒に食べたくなるサラダ素材も、普段よりもフェイスを増加さ   せて、豊富に品揃えしてある。さらに、日配食品のコーナーでは、前菜として、カ   マンベールとモッツァレ・チーズを試食販売している。    こうした売り場づくりは、一朝一夕では出来ない。    日頃からのバイヤー、マネージャー間の連携プレーが不可欠である。    同社の場合も、ブイヤベーズ・フェアが決まると、実際に全員で試食し、また、   社員食堂でも昼食にブイヤベースを出して、パートやアルバイトまで、試食を徹底   している。    スーパーバイザーがフェアの期間中、売上目標を達成できない店舗を巡回し、4   〜5日おきに現場を訪問し、商品、売り場づくり、接客方法、チラシやPOPなど   について、細部に亘って指導している。    つまり、組織の成員のすべてが、ブイヤベ−ズの普及という価値創造に向かって   自発的に連携プレーする組織ができているのである。    ブイヤベースは、わが国では、まだ普及していないが、おでんや鍋物の新しいレ   パートリーである。顧客にとって新しい価値あるメニューであり、小売業にとって   も、高い客単価の見込める商材のはずである。    カルフールをはじめ、大手スーパーがやって当然のことを、ローカル・スーパー   が、すでに実践しているのである。 9 むすび    以上、駆け足で、カルフールの概況、国内外の店舗の様態、そして、わが国市場   への適応方策について見てきた。    本国においても、日本においても、カルフールは進化しつづけている。日本市場   やライバルを研究し、現地に適応しようとしている。    とはいえ、個々の売り場の懸命の努力にもかかわらず、同社が現段階で成功して   いるとは、とても言い難い。    どこかに大きな判断ミスがあったにちがいない。    それは、おそらく、日本市場に進出するさいに、同社が想定した以上に、日本市   場がダイナミックに変貌し、ライバル企業がカルフールを徹底的に研究しているこ   とに気づかなったからだろう。    判断ミスがあったとすれば、相手がじっと同じ場所にとどまっているのではなく   大きく動いていることに気づかなかったところにある。    これが、"Moving Target"のおそろしさなのである。    ゴールを狙って殺到するサッカー選手たちを防ぐべく俊敏に動きまわるゴールキ ーパーの姿を思い浮かべてみよう。    動かないゴールなら、誰でもシュートに成功する。    だが、動きまわるゴールキーパーの隙を狙うことは容易ではなく、そのために、   サッカーでは、日々、さまざまな戦術が開発されている。それが、また、現代サッ   カーの醍醐味のひとつである。    このように価値創造の担い手は、いうまでもなく、日々、生き生きと活躍するプ   ロ集団である。カルフールが日本市場で生き残れるかどうかは、使命感をもち、勇   気ある監督とクリエイティブな選手からなるチームをつくりあげられるかどうかに   かっている。    カルフールが、当面着手すべきことは、以下の3点だろう。   1)Art de Vivreを経営理念に組み入れる フランス小売業は、"Art de Vivre"の伝道者である。カルフールは、大事な    日常生活の価値向上に向けて、それを支援する崇高な使命を持っているはずであ    る。     ところが、現状では、その大事な使命が組織全体で共有されているとは思えな    い。若いフランス人店長が自国のやりかたを押しつけ、それに日本人スタッフが    面従腹背で対応する、そんな光景をしばしばみかけた。     2002年、カルフールは、グローバル化による従業員の価値観の違いを克服    すべく、連帯をはじめとする倫理憲章を制定した。      そこで定められた「連帯」は、すばらしい理念であるが、空念仏に終わらせて はならない。     サッカーにみるように、高度な組織化された連携動作として体現されなければ    ならないはずである。      2)チーム育成策のイノベーションを行う     すでに見てきたように、価値創造を可能にするには、売り場配置、定番商品づ    くりだけでなく、様々なイノベーションの積み重ねが必要である。     個を生かしたスピーディなネットワーク組織へ成長するには、どうしたらよい    だろうか。ここでも、サッカーが手本になる。     オランダの名門チーム、アヤックスは、多くの名選手を輩出していることで知    られているが、その選手育成法は、次のように合理的なものである。     1)身体的・精神的に強い選手をスカウトする  2)くりかえし練習する(とくに、初速スピードを重視)     3)どうせやるなら徹底して楽しんでやる    そのうえで、     1)FW:的確なポジショニング     2)MF:クオリティの高い早いパスワークと早いプレッシング    3)DF:守備全体のフォローと反転攻撃能力の育成     こうした狙いを定めた練習の繰り返しによって、いざ試合というときに、存分に    能力を発揮できるようにしているのである。     これを小売業にあてはめようではないか。     小売業は、今後、より一層の厳しい競争環境に置かれる。競争相手は、さまざ    まな選手を投入し、新戦術で攻撃をしかけてくるだろう。     それに勝利するには、チーム育成面でのイノベーションが必要である。 3)きめ細かい顧客優先を徹底する     カルフールでは、これまでの苦い経験から、とりわけ、日本人が接客にうるさ    いということを、ようやく分かってきたようである。 レジでの店員による袋詰めをやめたり、小型カートを増やしたり、警備員のな    かの何人かを女性にするなど様々な工夫を行っている。     しかし、顧客に好感をもたれる店員を大勢育てるのは、難しい。 自然な笑顔や顧客の目線にあわせることのできる資質は、天性のものであり、 マニュアルでは、難しい。 接客に向いた店員は、採用時に決めねばならない。 そのためには、すぐれた接客力をもつ企業の採用ノウハウを導入する必要が    あるように思われる。また、そういうひとには、高い給料を出すべきである。      そして、せっかく採用した社員をフランス人店長の下で腐らせないためには、    職位を問わず、日頃から自由で活発な意見が出やすい生き生きした職場をつく    ることが重要である。接客に毎日・毎時間・毎分・毎秒接しているのは、店員で    ある。店員をはじめ、従業員を大事にすることこそ、顧客満足を獲得し、競争力    を高めるための王道なのである。     こうした点さえ改善できれば、カルフールの店舗の多くは、価値水準5である    価格+品質+品揃え+店舗+サービス+接客を軽々とクリアすることができるだ    ろう。                                  (完) 参考文献・サイト  イ)書籍・論文  ・清尾豊治郎「巨大流通外資」日本経済新聞社 2001年    ・清尾豊治郎「ハイパーマーケットがやってくる」ダイヤモンド社      2000年     ・小島郁夫「日本の流通が壊滅する日」 ぱる出版 2001年    ・矢作敏行「欧州の小売イノベーション」白桃書房 2000年     ・二神康郎「欧州小売業の世界戦略」商業界 2000年    ・佐々木保幸「90年代におけるロワイエ法の動向」     日本流通学会 流通No.10 1997年     ・佐々木保幸「カルフールとウォルマートの小売マーケティング」     日本流通学会 流通No.16 2003年      ・田島義博編著「インストア・マーチャダイジング」ビジネス社 1989年   ・西山和宏「カテゴリーマネジメント」ダイヤモンド社 1998年    ・桜井多恵子「新しい売場構成」実務教育出版 1994    ・パコ・アダービル、鈴木主税訳「なぜこの店で買ってしまうのか」早川書房     2001年     ・おおやかずこ「食卓からのマーケティング」柴田書店 1997年    ・おおやかずこ「おいしさの革新」柴田書店 2000年    ・西山進「スーパーマーケットに夢をかける男」商業界 1997年    ・松木安太郎監修「サッカーの戦術」新星出版 2003年   ロ)専門紙誌    ・「カルフール日本上陸完全シミュレーション」販売革新 2000年11月号    ・「世界の小売業ランキングトップ10」チェーンストアエイジ      2002年12月号    ・田中浩幸「7年ぶりのフランス国内新店にみるカルフール流ハイパーの進化」      チャーンストア・エイジ 2002年12月    ・「カルフール日本上陸完全シミュレーション」販売革新 2000年11月    ・二神康郎「カルフール日本進攻までの全軌跡」販売革新 2000年11月    ・山梨広一「予測される日本上陸作戦のすべて」販売革新 2000年11月 ・「緊急アンケート ウォルマート日本上陸をかく予想する」     販売革新 2001年9月 ・読売レポート「主婦を取り巻く環境の変化」2003年10月号    ・黒田節子「客が求める売り場構成 仕入れの商品分類とズレ」     日経流通新聞 1997.6.10    ・「テナント、国内最多の54店」日経流通新聞 2002.10.8      ・「疲弊企業の買収焦点」日経流通新聞 2003.3.24     ・「仏製食品を強化」日経流通新聞 2003.6.24     ・「カルフール、日本版マニュアル導入」日経流通新聞 2003.6      ・「幕張店を全面改装」日経流通新聞 2003.7.10    ・「一強快走 追う欧州勢」日経流通新聞 2003.10.21    ・「日本人店長、半数に」日経流通新聞 2003.10.21    ・「オランダ&アヤックスのユース育成」ワールドサッカーマガジン     2003.11.20  ハ) URL ・カルフールのホームページ http://www.carrefour.co.jp/stores    ・風間晃「カルフール上陸で激化する地域商戦」     http://www.japan-retail.or.jp/retail/vol6,html    ・合田「カルフールは、日本で成功するか」     http://www.jmrisi.co.jp/menu/case/case-new29.html    ・背戸田博「流通トレンドを追う      ヨーロッパの香りがするカルフール光明池店」     http://chuokai-toyama.co.jp/report/chuokai/trend8.html    ・SFA とナレッジマネジメント研究会「ネットワーク組織」     http://members.at.infoseek.co.jp/sfakm/organi/network.htm ・情勢報告(HCIデイリー・リポート) http://business1.plala.or.jp/hci-c/plalaboard/index.html ・関西スーパー http://www.kansaisuper.co.jp/shop-guide/index.html    ・ワイングローサリー     http://www2.winegrocery.com/enjoywine/w.cook/index.html


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