オトーサンの1999年

ほのぼの映画批評


前口上

若い頃は、映画をみるだけ。 年とれは、映画の前後も楽しめる。 この映画批評は、映画の紹介は従で、観る前後の描写が主。 そういう楽しみ方もあるんです。 60歳になるとシニア料金で1100円。 映画三味で、晩年を心豊かに過ごしましょう。

映画の採点簿へ

目次

1 スターウォーズ 2 エリザベス 3 エントラップメント 4 MATRIX 5 オーステイン・パワーズ・デラックス
6 アイズ・ワイド・シャット 7 ディープ・ブルー 8 グレイスランド 9 シックス・センス 10 将軍の娘/エリザベス・キャンベル
11 アナライズ・ミー 12 WHO AM I? 13 梟の城 14 トーマス・クラウン・アフェアー 15 ウィズアウト・ユー
16 プリテイ・ブライド 17 ワイルド・ワイルド・ウエスト 18 ジャンヌダルク 19 御法度 20 ランダム・ハーツ
21 ノッティングヒルの恋人


スター・ウォーズ

この夏の話題は、何といっても「スター・ウォーズ  エピソード1」 前評判も上々でアメリカでは220万人が会社を休んで みたそうです。 興行収入では、歴史上第3位。 タイタニックが1位。2位が昔のスターウォーズ。あの ETは4位。 わが国では、7月10日が封切りでした。 初日は早起き。7時50分からの上映に間に合いました。 すでに2回もみました。字幕版と吹替版。 60歳を超えるとシニア料金で1800円のところを1100円。 オールド映画フアンとしては夢のようです。 あの勇壮なテーマ音楽! 昔なつかしい青白い光の剣、ライトセーバー。 敵役ダースモールの顔は歌舞伎役者の面妖さ ジュダイの騎士2人、師匠役のリーアム・ニーソンと 弟子役のユアン・マクレガーが戦う場面に感動。 女王アミダラ役のナタリー・ポートマンのメークと衣装! そして可愛いアナキン・スカイウォーカー役のジェイク・ロイド かれが将来邪悪な人間になるなんて信じられません。 「そうだよな、犯罪者は、みな善人だったのだよなあ」 こうした感想をもらせるのも、人生を十分知ったて定年族の特権 でしょうか。 そのほか、キャラクターがたくさん登場します。 おなじみのところでは、 ロボットたち(C3POとR2-O2)、 猿顔のヨーダYoda。 グンガン族の王ボス・ナスのビヤ樽のお腹。 そしてコミカルな馬面ジャー・ジャー・ビンクスのしぐさ。 最近の映画はCG全盛です。 あの恐竜たち(題名は物忘れしました)の動きより格段に 動きにリアイリティが出ています。 見所はやはりアーケードゲームをしのぐ大画面でのホット ロッドのレースでしょう。 そして未来都市・銀河共和国の首都の大パノラマ。 22世紀ころ、もう生きてはいませんが、地球もみなNYのように なるのでしょうか。 衣装や乗り物もなかなか独創的で、あきません。 これもキャラクターデザイナーたちの活躍のおかげです。 戦闘シーンなどひとつひとつできちんとコンセプトアートづくりが なされていて、大金が投じられているなあと感心します。 さすが、ジョージ・ルーカス。 彼の名声が資金調達を可能にしたのでしょう。 観客はやはり若い男性。 孫のような中学生たちと一緒にみるのも、世代の伝承が感じられて なかなかいいものです。 われわれは映画世代。 定年になって昔の趣味を復活させるのはオツじゃあ、あーりませんか。 気持ちが若返ります。 だまされたと思ってぜひ映画新世紀の幕開けに立ち会ってください。 なお、もっとスター・ウオーズについて知りたい方は、 以下のサイトをどうぞ。 スターウォーズのすべて


エリザベス

インド人監督の力作との前評判が、 ちょっと気になったので見てきました。 観客は、99%女性。 若い女性から中年女性まで。 みなさん、豪華な衣装やメーキャップを楽しんでいました。 ただ、オトーサンの正直な感想としては、 傑作ではありません。 パンフレットには、世界の映画賞を総ナメとありましたが、 アカデミー賞では、最優秀メークアップ賞をとっただけ。 でも、 新人女優ケイト・ブランシェットが、恋する乙女から 最高権力者として歴史に名を残すエリザベス女王に変身して いく演技力?が、この映画の魅力でしょう。 なぜ、いまごろエリザベス女王をとりあげるのか。 やはり、女性の自立が現代のテーマだからでしょうなー。 2時間で、変身物語は完了。 30年あまりかけて、奥方の変身物語を観察してきた オトーサンとしては、欲求不満が残りました。 なお、エリザベスの恋人役のジョセフ・ファインズは 「恋に落ちたシェイクスピア」のシェイクスピア役と同様に 好演していました。、 繊細で眼窩が落ちこんだ容貌は、実にユニーク。 彼以外に地上に存在していないキャラクターと オトーサンは思いこんでいましたが、 先般、NYのすしやで待たされていたときに、 入ってきた男が、そっくり。 オトーサン、思わずジロジロみてしまいました。 あるいは、ご本人かも。 サインでももらっておけば、「何でも鑑定団」に 出演できたかもしれません。 なお、今日乗ったタクシーの運転手さん(52歳)、 ほんとに久しぶりに、奥さんと映画をみにいったそうです。 出掛けに一杯飲んでいたのと、日頃の疲れで 高倉健さんも見ずに、映画館では熟睡してしまって 奥さんにエライ叱られたとのこと。 でも、こういうひとも、映画に帰ってきたのですから、 「鉄道員」クラスの映画をつくり続けることができるならば 映画ブームの再来も、ありうるのではないでしょうか。


エントラップメント

本映画の主演は ショーン・コネリー。 この名前を知らないようなひとは、 このサイトの想定読者ではありませーん。 007シリーズで大活躍した 初代・元祖・本家・家元の ジェームス・ボンドも、 もはや69歳。 白髪、白髭の上品なおじいちゃん。 でも、おたがいこういう風に年をとりたいなあー って思うほど、渋いオジイチャンになりました。 そのかれが、ミレニアムを16日後に控えた NYの夜、 クライスラービルの尖塔部分の白い燈を背景に 高層ビルの屋上に出現いたします。 屋上からロープを下ろして、滑り降り、 ガラスを割り、 部屋に忍び込み、 レンブラントの絵を盗みます。 鮮やかな手口。 彼の職業は、絵画強盗。 たっぷり儲けて、いまやスコットランドの小島に お城も構えております。 まさに泥棒成金。 NYの仕事は、最後の荒稼ぎでしょうか。 導入シーンは、無音。 「お見事!」 と思いましたが、次の喧騒のクアラルンプールの場面に なっても一切音がしません。 で、 スクリーンが消え、 場内の灯りがついて 観客がザワザワ。 ふりかえると、若い男女だけでなく、 おばさんたち、おじさんたちも。 この映画の支持層は、なかなか幅広いようです。 レンブラントの額縁のようにみえなくもない そこだけひときわ明るい映写室の小窓のなかでは ひとりの男が、動いております。 フィルムの再装着でありました。 ブー。 ブザーがなって、上映やりなおし リピートもなかなか いいもんです。 (だって人生ではなかなか出来ないもんね) 今度は音入り。 ガラスを切る音も、しのび足も、額縁を外す音も はっきり聞こえました。 でも、下手なBGMなど、ないほうがよいのでは? そんなことで、出鼻をくじかれた映画でしたが、 ボンドの絵画強盗を追跡する保険会社の 女性調査員を演じる キャサリン・ゼタ=ジョーンズが素敵! そのあやしい瞳、しなやかな肢体、俊敏な動きに すっかり魅せられました。 実は、彼女は80億$強奪を狙っていたのです。 そのために、ボンドを引き込もう。 調査員から、ドロボウ仲間へ、 単なるパートナーから恋人へ この女心の変化にとまどう初老のボンドの心模様が、 この映画の真骨頂であります。 もちろん、007以来の ハイテクと小道具 西洋と東洋 といった舞台装置も健在であります。 世界一のビルがどこにあるか知ってますか。 答え。 マレーシアの首都クアラルンプールの ペトロナス・ツイン・タワー 230M。 映画のクライマックスは、ミレニアムを迎える 花火で色どられたこのビルが舞台です。 映画館のお詫び放送を背に 明るい地表に出ます。 JR東海タワーをみながら、 今度、マレーシアに行ってみよう。 と固く誓いました。 まあ、映画には旅行のガイドブックという役割も あるのです。


MATRIX

無名の監督。 キアヌ・リーブスだけの映画。 あまり期待もしないで見にいったが 驚き驚き。 mさに、これは 10年に一度しか現われない類の 時代を切り拓く画期的な映画である。 スターウォーズ以上の収穫、 そう言い切ってもいいだろう。 この映画の設定する時期は、2199年。 いまから200年後。 いつしか、ひとびとは みな人工知能の端末になっていて その意識は、電脳が設定したヴァーチャル・リアリティの 世界のなかに閉じこめられれているにもかかわらず 人類はその事実さえ気付かない。 もはや現実と映像の区別がつかなくなっているのだ。 しかし、ごく少数の目覚めたひとがいた。 劇画とカンフーのオタクだった無名監督 ウォウシャウスキー兄弟は、このSFX映画のなかで 半年前にはまだ使えなかった最新のCGと駆使して、 ヒトと人工知能との壮絶な戦いを みたこともない画像と超スピードで描き切った。 ハッカーだった若い男が 人類を救う救世主になるまでの物語は どうかんがえても荒っぽいし、 やりかた次第では、 相当いかがわしいものになるはずである。 しかし、 観客は、 目にもとまらぬ格闘技のシーン、 銃撃戦のシーンに目を奪われ 危機を乗り越えていく肉体の美しさと 精神の戦いを目のあたりにしているうちに、 いつしか、 物語を実在のものと信じてしまう。 この映画に説得力をもたせたのが、 主役に抜擢されたキアヌ・リーブスの演技である。 繊細でウブな青年に過ぎないかれの肉体が 絶望的な戦いのなか鍛えられで 強いひと、そして救世主へとすら変貌していく さまを目撃しているうちに、 観客も一緒に変容していく。 そして、ついに、 われらの日常生活時間こそが欺瞞であり、 幻想なのではないか。 この物語に流れる時間こそが 本物の時間なのではないか と感じるようになってしまう。 物語作者のすべてが夢見る 物語の勝利の瞬間である。 恋人役のキャリー=アン・モス、 黒人導師役のローレンス・フィッシュボーン、 いずれも好演。 非現実的な物語にリアリティを与えている。 よい料理もそうだが、 後味は仕上げとしてひときわ重要である。 その点、この映画は、 エンディングでキャステイングの字幕が流れるあいだ 流れる音楽が秀逸だった。 哀切な叫びがよかった。 アメリカでは大ヒット。 リピーターも数多く出たという。 MATRIXは、もはやすでに 映画史に残る名作になった。 1970年代に「地獄の黙示録」の フランシス・コッポラに出会ったとき みなが感動した。 それは沈滞していたハリウッド映画を よみがえらせる大事件だった。 こうした事件のあと、 しばらくは その真似をする監督や映画会社が出てくる。 観客は、そのような映画の大量反復を要求する。 その結果、 映画界は、活況を呈する。 この映画以降、CGの使いかたが一変するだろう。 CGと合体した演技力の時代がきてしまったのである。 CGは、もはや、スペースオペラやシンデレラ物語を 味付けするような 幼稚な手段ではなくなってしまった。 観客は若い男女が圧倒的。 昼食をとりに ベルヘラルドなんているヤワナお店に はいりました。 800円もする豪華な映画パンフレットに見入っていると、 年増の女店員が注文をとりにきて、 それをみてニヤッと笑いました。 「ははあ、またあの映画のパンフ持ってるひとがいる」 そんな笑いでしょう。 しかし、オトーサンの目には、 女店員の顔が、映画のように溶け出して 口が耳元まで裂けていくようにみえました。 現実か幻想か。 まだ、映画の余韻にひたっていたようです。 でも、 この映画に描かれた人類の未来は、 はたして絵空事でしょうか。 いま電脳社会を作り出し、その成長に荷担している者 すべてのひとに この映画は 責任を問うているのではないでしょうか。 フーン、おれたちが死んだあと、 人類はこんな風になるんだ。 あーあ、と思うだけではすまない。 そんな感想も覚えるほど、多面性をもった映画でした。


オーステイン・パワーズ・デラックス

はちゃめちゃな映画と 事前に聞いていましたが、 想像を絶する馬鹿馬鹿しさ。 淡谷のり子さんが、ご存命ならば、 さぞかしご立腹になるでしょうなあ。 何しろ冒頭からアソコ丸出し。 それを文字などできわどく隠しまくって、 いよいよダメかと思うと乳母車の子供が持った風車が 覆いかくすってェな具合。 この映画、007のフアンならば、ニヤリとするはず。 オーステイン・パワーズの胸毛の不自然な生え具合。 これは、ジェームズ・ボンドの素敵な胸毛のパロディで あります。 その他、かぞえきれないほど、ボンド映画の パロディ・シーンが 出てまいりますが、 何といっても セックスが世界を救うというテーマが 秀逸であります。 支配欲や食欲と戦って勝つというのがいい。 もはや、共産主義が滅んで、資本主義全盛時代。 それに太刀打ちできるのは、セックスのオーラのみ というのをコメデイという形式をとってでしか 訴えられないのが 残念ではありますが。 この辺が アメリカで スターウォーズよりヒットした ゆえんでしょうか。 若い日本人には無理でも、 アメリカ人なら楽しめるだろうシーンがいくつも ありました。 60年代の風俗や衣装。 ケネディ大統領のそっくりさん。 そしてギャグの乱発。 これには、さすがに 名高い字幕翻訳者の林完治さんも苦戦。 24文字の制約のなかで、日本人に通じさせる翻訳をするのは 至難の業。 アメリカなら映画館中が笑いで渦巻いただろうに、 わが国の映画館では 冷え冷え。 ワンテンポ遅れで笑うひともなし。 グローバリゼーションなんてあまり軽々しくいうべきでない とつくづく思いました。


アイズ・ワイド・シャット

この映画の予告編(あるいはCF)は 今年の最高傑作ではないでしょうか。 鏡の前では裸のトム・クルーズが裸のニコール・キッドマンにキス、 彼女の表情がめくるめくようになって 佳境に入らんとすると、 予告編終了。 続きはどうなる? 予告編のハイライトシーンにだまされたひとたちが 甘美な恋愛映画を期待して あるいは この美男美女夫婦のからみあい はては、 濃厚なベッドシーンをみないてどーする と 鼻息荒く 映画館に足を運びました。 出足は絶好調。 ところが、案に相違して、シアリアスなドキュメンタリー映画。 ガックリ。 客足が遠のきました。 そんなガラガラの映画館でみました。 まず、パンフレットを買います。 「800円です」 高ーい。 思わず目が点になりました。 早くもアイズ・ワイド・シャットです。 そしてパンフレットをめくると 49ページのうち後半は過去の映画の解説。 おいおい、そりゃないだろ。 でも読んでみて納得。 この映画の監督は、あの伝説的な巨匠 スタンリー・キューブリック。 「2001年宇宙の旅」は元祖SFX映画。 「ロリータ」は幼い少女とのセックスで世間を騒然とさせました。 「博士の異常な愛情:又は私は如何にして心配するのをやめて 水爆を愛するようになったか」のラストシーンの異様に美しい きのこ雲。 そうです。 もともと、 この監督は変人・奇人なのです。 ですから、予告編の甘美なシーンなどは あっという間に後方に流れさり 黒ミサで仮面をした黒マントの男たちと仮面をした全裸の女たちが 酒池酒林のシーンがえんえんと続くのであります。 全裸むきだしなんて美しくも何ともありません。 そして、美しい貞淑な妻、一児のママ、 キッドマンが 海軍仕官との 一夜の激しいセックスを夢想するシーンが 白黒で 幾度となく 出てまいります。 NYはマンハッタンのセントラルパーク・ウエストに住む ヤッピーの暮らしは、こうした妄想に翻弄されます。 夢がうつつか。 夢のほうがうつつよりも強烈。 この映画の上映目前に スタンレー・キューブリックは 死にました。 享年70歳。 ですからこの映画は彼の遺作となりました。 かれのダイイング・メッセージは、 映画のラストシーンで発せられた言葉とみるべきであります。 前夜のご乱行で烈火のごとく怒った妻は 気をとりなおして 子供が1年で一番楽しみにしている クリスマス・プレゼントの下見に、 家族連れのメッカである 5番街の玩具店・FAOシュワルツにいきます。 そして大賑わいの店内を はしゃぎまわる子供とは反対に ぎこちなく連れ添って ぬいぐるみやお人形などを みて回っております。 もはや、 トムクルーズは離婚を覚悟しております。 2人が一諸に歩くのも 今日が最期でありましょう。 おずおずと トム・クルーズが 「これからボクたちどうなるの」 と問いかけたのに対して ニコールキッドマンが 苦しそうに眉をひそめます。 そして しばらくして 吐き出すようにいい放ちます。 「FUCKしよう、すぐにでも」 ゲーテなら死に際で「もっと光を」といったでしょうに。 やはり、キューブリックであります。 もっとも、 ゲーテは、 明りが暗いと文句をいっただけだったという 説もあります。 まことに、 虚実は 皮膜の間に あるのであります。 惜しいひとをなくしました。 アーメン。 いや、もとへ ザーメン。


ディープ・ブルー

いまは昔、1975年。 ジョーズをみたときの怖さは 忘れられません。 子供のころのおばけ屋敷も怖かったけど、 大人になってこんな怖い思いをしたのは、 これが2回目。 1回目はというと、 ディズニーランドが日本上陸のとき スポンサーになってくれないかと頼まれて 視察がてら ロサンゼルスで出来たての スペース・マウンテンに乗ったときであります。 ジェットコースターは敬遠しておったのですが、 まさか宇宙を模したドームのなかを ジェットコースターが走りまわるやつとは 乗ってみるまでしりませんでした。 ものすごい勢いで、上下左右にGがかかるので、 バーをしっかとつかんで 目を固くつぶって ただただ 震えておりました。 それ以来、ホラー映画も敬遠。 カネを払ってこわい思いをするのは、ソン と決め込んでおります。 このディ−プ・ブルーも、最初はサメが襲うというので、 敬遠していたのですが、 ちらっと耳にした映画評で 「ちっともこわくない」 ということなので、 行ってみました。 で、結果はというと そのとおり、ちっとも怖くない。 劇場を出てから考えてみました。 ジョーズのときは、日常生活が、 突然、 魔物によって ズタズタになることからくる恐怖であります。 ところが、 ダイハード2の成功で味をしめた レニー・ハーリン監督は、 空港ではなく、 海上研究施設を 舞台に ホラー映画をつくろうとしたのであります。 空港なら行ったことがあるから、 まあ日常空間。 どこに何があるかわかっております。 ところが、 アクアテイカなる 地上2階、地下2階の海上研究施設は はじめてのもの、 そこで、いくら本物そっくりの サメが襲ってきても、 いくら大音響でおどかしても 赤い血が派手に吹きあがっても 最初からフクションとわかっているので、 おそろしくも何ともないのであります。 閉鎖空間ですから、 リアリティを出せるのは、 あとは 俳優たちですが、 これが、素人ばっかり。 「つまんねえの」 とプールに行きました。 ドーンと脇腹をけられました。 すごい衝撃。 みると、 サメならぬ、 丸々とお太りになったオバサメの体が 青い水面を逃げていきました。


グレイスランド

ジャンヌ・モローの 「ヴァンドーム広場」を観に行ったら もう終わっていて、 上映されていたのが、この映画。 ですから まったく予備知識なし。 グレイスランドって、アイルランドのとなりの島? ってえな程度。 いつもの通り、切符売り場で1100円出します。 「ここでは1800円いただきます」 と女性係員のお声。 パンフレットもB6サイズ、モノクロが800円。 なんじゃ、これは。 マトリックスのパンフなんて大判フルカラーだぜ。 ブツブツいいながら場内へ。 親娘連れ1組のみの貸切状態です。 たまには、しけた映画をみるのもいいかも ひらき直ります。 はじまりました。 ええ、はじまりましたとも。 正直、 客が少なすぎて、はじまらないかと思いましたよー。 で、冒頭。 プレスリーの歌が流れるなか アメリカの荒野のなかをゆったりと走るクルマ。 そう、 59年型キャデラック・コンバーチブル。 色はブルー 青空を思わせるアメリカ黄金時代の色であります。 シート地といったら純白のレザー。 お金が余ってしょうがなかった時代の匂いです。 ボディ後側面のテールフィンもなつかしいデザインです。 アメリカが戦争に勝った記念にジェット機の後尾デザインを クルマに流用して一世を風靡したもの。 どうやらあのプレスリーの伝記映画のようです。 プレスリーといえば、ハート・ブレイク・ホテルで デビュー。 傷つきやすい多感な青年が幸運に恵まれ、一挙に スターへ。 ハイウエーを疾駆するキャデラックは 1ドアモデルであります。 なに? 1ドア? そんんことたぁ、あるまい。 そーなんです。 そのオンボロクルマを 運転しているのが、主人公の2枚目のバーン青年。 列車事故にあって最愛の妻と一緒にドアも吹き飛びました。 だから2枚目は吹っ飛んで1枚しかない。 傷心で思いつめている表情。 実は、自殺志願です。 この青年を演じるのはジョナサン・シャ−チで若手俳優。 ちょっと亡くなったジェームス・ディーン似。 これがいい男、2枚目!で好演技。 その彼の前に現れるのが、ハーベイ・カイテル扮する 年老いた自称プレスリー。 ちょっと「オレは田舎のプレスリー」でデビューした吉幾三似。 こちらも名演技。 ヒッチハイカーとして 登場いたします。 メンフィスと書いた紙をもっております。 メンフィスといえば、あのプレスリーフアンの聖地。 オトーサンも一度行ったことがあります。 いえいえ、プレスリーの屋敷ではなく、ホリデイ・インの本社の視察に。 帰りにミシシッピー川をみました。 その濁流、泥色の帯に プレスリーを生んだ 強烈な南部を感じたっけ。 プレスリーが生きているハズはない。 このインチキ野郎を早くどこかで降ろしてしまいたいなー。 青年バーンの心は固く閉じされ、 プレスリーの度重なる呼びかけにも応えません。 物語は、 ブリジット・フォンダ扮するマリリン・モンローが 登場して 青年と恋に落ちたり、 プレスリーがカジノのショーで 本物そっくり、いやそれ以上の感動で歌ったりして 波瀾万丈の展開をするのですが、 いつの間にか 固く閉さされた青年の心に プレスリーの心意気が忍びこみます。 ようやく旅が終わり ミシシッピー川にかかる鉄橋をわたって 目的地に着きました。 メンフィスに、 グレイスランドに、 プレスリーの広大な屋敷に。 ちょうど8月15日夜です。 プレスリーの命日の前夜、 フアンが大勢 キャンドルをもって 屋敷を取り巻いております。 幕切れもオツでした。 やはり プレスリーではなく、 そっくりさんでしたが、 ほんとうにプレスリーにそっくりでした。 いえ 肉体ではなく、 その心意気が。 人生はやり直せるのだという 挫折と再生への強いメッセージが。 高校生の頃、プレスリー全盛時代でした。 その歌と腰振り踊りのセクシーさ 猥雑さには 正直のところ、 驚きを通りこして不愉快でした。 何しろ当時は、直立不動で歌う東海林太郎しか 知らなかったのですから。 ところが、 いま観ると、普通の声と踊りでした。 夢見ることを忘れなければ 人生はやり直せるのだ。 年老いて観られたおかげで このエルヴィスのメッセージが心にひときわしみました。 この映画、 ヒットしなかったようですが 私のような年配者にも、 挫折中の若いひとたちにも もっと 見てほしかった。 何しろ邦題が悪い。 原題は、”Finding Graceland ” やはり、 「エルヴィスに愛をこめて」 か 「亡きプレスリーを求めて」 とすべきでした。 ヒットした、 「愛と青春の旅立ち」 なんていい邦題でしたねえ。 でも、新人監督・デヴィット・ウィンクラーは この作品でいい旅立ちをしました。 次の作品が楽しみです。


シックス・センス

行く前にインターネットで「ぴあ」の映画紹介をみました。 無名監督による新感覚スリラー。 スリラーは避けたいほうですが、 無名監督、新感覚が気にいりました。 ふぐは食いたし、命は惜しし の心境ですが、 2対1の多数決で 「スリラーこわい」を押し切りました。 さて、劇場は若いアベックばっかし。 TVのCFが効いたのでしょうなあ。 リングかなんかの観客層です。 年配のオトーサンは、異端児。 1100円とパンフ500円を払って劇場の 一番前の席へ避難。 だっていちゃついたり、物を食べたりするやつらと 席を同じうなんかしたくないんだもの。 開園目前にちらっとパンフみてしまいました。 ブルース・ウィルスが出ています。 おうおう、アクション映画かいな。 昨年みた「アルマゲドン」のイメージであります。 こりゃ相当、血みるでえ。 ところが、どうしてどうして サイコ・スリラーでありました。 より正確にいうと、 サイコ・サスペンス。 幽霊がたくさん出てくるのですが、 こわくなんてないんです。 こわいことはこわいのですが、 化け物屋敷のこわさではなく、 ひとの気持ちのスレ違いの怖さがこわいのです。 冒頭のワン・シーン。 これが一番こわかった。 精神医学者(ブルース・ウィリス)が妻と戯れながら ベッドに直行しようと 衣類を投げ捨てたりしてはしゃいでいると、 突然、妻の悲鳴。 みると、 浴室に裸の若い男が、 にたにた笑って立っています。 かつて治療に 失敗した患者。 のろいの言葉をなげかけたあと 2発の銃声。 1発目は、医者の腹部を貫通 2発目は、患者が自らの頭へ。 この過去を引きづって 古都フィラデルフィアで 医者は仕事を続けます。 そこにあらわれたのが、 8歳の少年患者。 ハーレイ・ジョエル・オスメントなる 少年俳優です。 その哀愁をおびたまなざし。 ただものではありません。 その演技力は、ブルース・ウィリスも顔負け。 よくできた筋書きでしたが、 筋など、どうでもよくなりました。 可憐でけなげなハーレイ君を見守るだけでいい。 ハーレイくんは、この1作で映画史に残るでしょう。 最年少アカデミー賞候補の誕生です。 そして無名新人監督・M.ナイト・シャマラン。 29歳のインド人の無名監督は、この1作で スターダムへ。 脚本は、自作です。 死者は、いまも生者とともに生きている インド精神世界の豊かさを実感させてくれました。 西欧文明が死者を切り離し、 貧乏人、愚者、患者と次々に汚いものを切り話した結果 いったい何が起きたのでしょうか。 切り離す対象がきれいさっぱりいなくなっても まだ切り離したりない。 そこで 親は子供を虐待し、 妻は夫と別れたがり 夫は妻の不貞を疑いたがります 生き地獄が出現いたしました。 E,T.のぼうやも可愛いかったけれど あれは子供は、かくあらまほしの世界でした。 ハーレイ君は悲しい表情。 このほうが現代的少年像なのです。 だって、11月2日の新聞読みました? 「児童虐待深刻化、6年間で5倍、昨年度厚生省調べ 主な虐待者は実の母親が55.1%、実の父親が27.6%で あわせて実の両親が8割強を占めた」 ハーレイ少年は、撮影後、こういったそうです。 また死者に会いたいなあ。 だって生者より、やさしいもんねえ。 映画は余韻を残してエンディング・タイトルに そのとき、 映画が終わりもしないうちに、 後ろの席で ぎゃあぎゃあ、ぎゃあぎゃあ。 振り返ると ギャルども。 虐待ママの予備軍でした。


将軍の娘/ エリザベス・キャンベル

戦争はキライです。 ですから将軍もキライ。 ところが、将軍の「娘」があったうえに エリザベス・キャンベルという魅惑的な名前。 エリザベスには弱いのです。 モナコ王妃、女優グレース・ケリーを連想します。 てなわけで、初日にでかけましたよ。 パンフは500円。 あまり力が入っていません。 表紙はとみると、 ジョン・トラポルタ。 1977年、 あの「サタデイナイト・フィーバー」で 一世を風靡した23歳のお兄ちゃんが いまや立派な軍服姿。 オトーサンもあの頃は 夜な夜なフィーバーしたもんです。 いまはおとなしいけど。 お兄ちゃんも同じ。 すでに45歳。 NYではレストランのオーナーとして有名。 もうスクリーンから引退したのかと思っていました。 さて、筋書きをご紹介しましょう。 舞台は、米陸軍基地のなか。 偉大な将軍の娘が士官。 美人で、最優秀で、そのうえ親切。 軍の犯罪捜査官、ジョン・トラポルタの クルマのタイヤがパンクしているのを交換してくれるくらい。 お兄ちゃん、すっかり鼻を長くしてプレゼント攻勢。 さてこれからというときに 何と、現場に直行すると、全裸死体がその彼女。 将軍の娘エリザベス・キャンベルと判明。 将軍に懇望されて捜査開始。 娘の遺物探しの最中に隠し部屋を発見。 VTRには、 何と サド・マゾの世界にふける娘の姿。 なぞは深まるばかり。 これ以上、筋書きを離すと営業妨害。 で、結論をいそぎましょう。 原作は一流。筋書きもOK。 陸軍基地の風景も戦争現場あり、 南部のプランテーション風の将軍の豪邸ありで なかなかのもの。 将軍の娘の犯人と思われる上官役のムーア大佐の 演技も見事! 将軍の娘を演じる新人レスリー・ステファンソンも まあ好演。 ところがところが、 肝心の お兄ちゃんこと ジョン・トラポルタの中年太りが 気になって気になって しょうがないのであります。 演技も、がんばってはいるものの、下手クソ。 暴れ回るシーンはいいのですが、 悲劇を演じる力なし。 なにせ素人。 45歳のたいこ腹。 ニコニコ、もみ手でレストランで お客に挨拶しておればよいのにってぇ感じ。 で、すこしがっかりして 帰宅して寝てしまいました。 夜7時、たまたまNHKニュースをみました。 トップニュース。 神奈川県警の監査官、渡辺元本部長の指示で 酒寄元警部補の覚醒剤使用を見逃し。 注射針を隠匿したり 薬を検出しなくなるまで何度も検査やりなおしたり。 覚せい剤の粉末を捨ててしまったり 証拠隠蔽工作に従事。 あああ。 そこへいくと、 お兄ちゃんはご立派。 将軍の部下でありながら、 犯人隠匿罪で、 偉大なる将軍を刑務所に放り込んだのですから。 どこかの監査官とは大違い。 忠誠、義務、名誉、規律という名の 無法地帯。 でも軍や警察に限らず 会社でも同じことがありそうです。 NHKニュースでは JOCの原子力事故、 商工ローン大手の日栄のノルマ指示 と多彩でした。 われわれ庶民は、 とっくのとうに 組織は腐敗するということを 知っております。 だから、 映画会社が隠そうとしても ドラマの筋書きなんて知ってるもんね。 判定は、通俗的のひとこと。


アナライズ・ミー

「アナライズ・ミー」 変なタイトルです 翻訳すると、 「私を分析して」 これでは硬すぎるかも。 じゃあ、 「あたしを診てよ」 何やらおばあちゃん方がヒマにまかせて病院に通うみたいに なってしまいます。 字幕翻訳の大家・戸田奈津子さんに相談したのでしょうか 「そのままにしたら」 そこで 「アナライズ・ミー」に。 いえいえ、 原題は ”ANALIZE THIS” これを アナライズ・ミー としたのは さすが戸田さん すごい腕です。 分からない? この問題、 じゃあ ”ANALIZE THIS” 冗談はさておき、 題は、あまりよくありません。 だって最後まで 劇場の入り口で ジャッキー・チェンの ”WHO AM I?” にしようかと迷ったもん。 でも、デニーロの名前に負けました。 そして映画でも やはりデニーロがよかった。 マフィアの大親分を演じて 余すところなし。 さすが77年に 「ゴッドファーザー2」でアカデミー助演男優賞をとった 名優だけのことはあります。 そんなに腹が立つなら 枕をたたいたらと医者にいわれると 枕を銃撃したりして、滅法怖いかと思うと 気弱くなって、号泣したり、 アレの最中に立たなくなってクヨクヨしたり 感情の5線譜が バスからテノールまで幅広いのです。 やはりイタリア人だからでしょうか。 悪い奴なのに、どこか憎めない。 さて、筋書き。 デニーロ演じるマフィアの大ボスが 主導権争いでもめて 心労で このところ気弱になっております。 心臓発作まがいの症状も。 ひょんなことで知り合ったのが 名優ビリー・クリスタル演じるところの精神科医。 最初はオレの友人の話だがと偽って 自分の症状を打ち明けます。 すぐ見破られたりして 診断が的確だったので、 親分は すっかり 医者が気にいって 「名医」を乱発。 両頬にキスするほど。 医者が再婚のためにいった フロリダに押しかけて 「アナライズ・ミー」の連続。 ベッドの最中を起こしたり、 結婚式の最中にドンパチを起こしたり やりたい放題。、 ありがた迷惑を通りこして 迷惑千万 それが 笑えるの、笑えるの どきどきはらはらの シーンの連続でした。 コメディなので、チョコレートなど食べながら 観戦しましたが、 チョコレートよりも まろやか味のコメディに仕上がっていましたよ。 でも、中年の多い観客は笑わず。 シーン。 どうしてかなあと終わったあとも 考えました。 まさに、 ”ANALIZE THIS” たまたま、 中国のことわざをみていたら 「君子の交わりは淡きこと水の如し」 とありました。 対の句は 「小人の交わりは甘きこと甘酒の如し」 まさに 甘い生活の本家・本元のデニーロちゃんは べたべた、 にょろにょろ お医者さんにもたれかかっていました。 欧米人は、常在戦場ですから 職場はもちろん 夫婦といえども いつも 緊張をはらんでおります。 そのストレスを癒してもらうために すぐ精神科医にかかります。 かかるどころか HOME DOCTORにします。 医者の前では メソメソ べたべた にょろにょろ。 そのコントラストがコメディの力学。 ところが、 儒教の国、ニッポンでは 正反対。 夫婦も職場もベタベタ。 だからコメデイにならない。 分析すると そんなところでしょうか。 でも、オトーサン 笑ってしまいました。 さては 職場も夫婦関係も緊張関係? 勘ぐらないでください。 ”DONT ANALIZE ME” とにかく名優2名のかけあいがお見事!


WHO AM I?

タイトルだけみれば、哲学的な命題。 若いひとなら、年齢、スリーサイズ、血液型や星座で 説明終わりでしょうが、われら中高年にとっては 永遠のなぞ。 生涯をかけて答えを出す所存。 でも、これがジャッキーチェンの手にかかると、 実に簡単。 特殊工作員ジャッキーが 記憶喪失して、 WHO AM I?と聞いただけのこと。 でも、B級・香港映画と馬鹿にしてはいけません。 ジェーム・ポンド扮する007より面白い。 スケールだって負けていません。 アフリカのジャングルや砂漠、 オランダの高層ビルを舞台にした暗闘。 ヘリコプター、カーチェース カメラとおもいきゃ拳銃。 美女2人。 筋書きは、省略しましょう。 でも、いつものように、 ジャッキーのサービス精神は健在。 これでもか、これでもかのご馳走ぜめ。 だって、エンデイング・タイトルだって席を立つひとは ひとりもいませんでしたよ。 ご存知、NG集。 そして ジャッキーのよく動くこと。 これで45歳? でも、今回感心したのは、何といっても ジャッキーの生きざま。 この映画、主演、監督、脚本、武術指導、主題歌 すべてジャッキー。 香港ローカルから前作「ラッシアワー」で念願のハリウッド進出、 そしてこの作品で世界的なスターへ。 最後のロッテルダム市の協力ぶりには度肝をぬかれました。 「千万人といれども、われ行かん」の 高い志を感じます。 日本人が失った心。 それが、また、何ともいえす、 なつかしいのです。 ジャッキーに またまた 元気をもらいました。 フー。


梟の城

邦画はみません。 みないことにしているのです。 見ては損を繰り返してきたからです。 邦画の暗さ、矮小さ、主観的情緒性、平板な顔々。 篠田正浩監督もあまり好きではありません。 だって、岩下志麻を女房にするなんて 許せません。 自分の映画に出演させるなんて 公私混同、大キライ。 今度の作品だって、中井貴一を起用。 佐田啓二の息子。名前はあの小津安二郎監督がつけたもの。 そして、篠田さんは、小津監督のお弟子さん。 つまり、仲間内。 これって談合体質? イヤですねえ。 それなのに、なぜ見たって? よくぞ聞いてくださいました。 このところ、映画の見すぎで、 他にもう見る映画がないのです。 強いていえば、司馬遼太郎の原作ってこと。 直木賞をとって世に出た記念碑的作品。 安土桃山時代も好きです。 ポルトガル人がやってきて国際化の最中。 秀吉が安土桃山城をつくって 金屏風なんかたくさん置いてた、バブルの全盛期。 今とソックリ。 さて、出来はどうか。 城の遠景、屏風の間、戦闘シーン、忍者の動きに CGが巧みに使われて まるで、 スピルバーグの世界。 映像も新鮮、 日本の城や建物をとらせたら 新感覚派・篠田の 面目躍如。 テンポも軽快。 朝倉摂さんの衣装も見事。 篠田、おぬしやるなあ。 もう年だなんて、弱音をはいて 引退しなくて、よかったなあ。 こりゃ、5つ星だ。 ところが、中井貴一が下手。 どうして、ああ、下手に叫ぶのでしょう? 感情表現ができない美男子。 わが時代劇の悪しき伝統です。 NHKの大河ドラマも同じだけど。 女優も下手。 葉月里緒奈も、鶴田真由も下手。 顔も、声も、仕草も、現代日本の弛緩した女の子丸出し。 篠田監督、もっと注文つけて追い込まなくては。 肉親を虐殺され、世間に認められない人間の業の深さを 追求しなくては。 それを 良家のお嬢さま、お坊ちゃま扱いで さっさと撮影してはダメです。 脚本も悪い。 もっと原作を読みこまねば。 忍者の2人の対照的な生き方というのだが、 これが ちっとも、 対照的ではないんだなあ。 ただ、中井の敵役が、裏切られただけ。 なんで、突然、石川五衛門になっちゃうの? 音楽も下手。 妙にざらつくのです、これが。 コンビの武満徹が生きていたらなあ。 最後も変。 中井だけがなんで鶴田と2人で、ハッピーになるの? 伊賀者は、みんな死んだんだぜ。 中井だって 忍者らしく、ど派手に 死ねばいいのに。 これって 亡き佐田啓二さんへの配慮? 黒澤明も亡くなり、 大島渚も昔日の面影なく 本当は出番。 北野武なんかに国際的な賞をとられて くやしくないか。 篠田さんよ、 好漢、奮起せよ。 そうそう、受付の女の子に聞きました。 「入りはどう?」 「まあまあです」 観客は、中高年ばかり。 口コミ作戦が成功すれば、 篠田さんは勿論、 司馬遼太郎の元の職場という関係で スポンサーになった フジ・サンケイグループにも笑顔が... いまいちの映画ですが、 見に行ってあげてください。


トーマス・クラウン・アフェアー

この題名、覚えにくいよ。 あの映画よかったよ、 えーと題名は? 何だっけ。 すぐ忘れてしまいます。 しょうがないから トヨタ・クラウン・フェアと 覚えておきました。 さて、今度のクラウンのほうは 評判も売れ行きもいいようですが、 この映画のほうは、というと 前評判なし、 音沙汰なし。 どーして、ですかねえ。 「アフェアーって何?」 そうなんでしょうね。 これもはや死語。 ”LOVE AFAIR” 訳すと 「情事」 いっそのこと、 この題名にしておけば、 大人の映画なんて、 マスコミがはやしたてたかも知れません。 もっといえば、 「007 ラブ・アフェアー」 これなら大評判になったかも。 主演は、5代目ジェームス・ポンドの ピアース・ブロスナン。 「007 トゥマロー・ネバー・ダイ」 なんて素敵でした。 その彼が製作会社をつくって プロデューサー兼主演男優。 どうしたって力が入ります。 制作費の節約のために 「華麗なる賭け」のリメイク。 スティーブ・マックィーンとフェイダナウエィ共演で 評判になった映画です。 さて 舞台は、NY。 このところ、市の援助でしょっちゅう撮影があります。 設定は、ブロンソンが、ウォール街でM&Aで大儲け中の 富豪トーマス・クラウンに扮します。 何やら、かの有名なドナルド・トランプみたいです。 トランプさんは ヨット 自家用機の操縦 カリブ海の別荘 を楽しんでおられるようですが、 このクラウンさんだって同じ。 しかも、 趣味が名画収集。 レキシントンの68が住居 (これって、百貨店・ブルーミングデールの場所) には、壁いっぱいの名画。 もうひとつの趣味が、美術品の泥棒。 モネの名画をメトロポリッタン美術館から盗みました。 時価1億ドル。 当然、警察も保険会社も出動します。 あれ? これって先に紹介した 「エントラップメント」とほぼ同じ設定じゃなーい? そして登場するのが、レネ・ルッソ 扮する敏腕女性保険調査員。 さっそくトーマス・クラウンを真犯人とにらみ、 体当たりで捜査に乗りだします。 やがて恋が芽生え.... 恋と捜査のどちらを選ぶか 男のほうも、 恋と逃亡のはざまに悩みます。 これって演技がむずかしい。 しかし、2人ともお見事。 とくにレネは秀逸。 モデル出身ですから美貌。 そして45歳。 やはり年増でなければ、できない演技を披露します。 演出もいい。 制作費節約といってもお金をかけるところは しっかりかけています。 白い自家用グライダーの飛行シーン、 2人のダンスシーン レネが着るセリーヌの衣装の数々 エクスタシーを感じるほどでした。 男は、女に足を洗って 幸福をつかもうと提案します。 名画が戻れば、泥棒と調査員の関係は終わって 恋人同志に戻ります。 そして、 モネの名画を返却します。 この手口がお見事。 捜査員が張り込んで、水ももらさぬ厳戒体制。 そこへゆうゆうと、 山高帽の男が出現します。 ヤツが来た! 「つかまえねば」 「つかまってほしくない」 ゆれる女心。 おあとは、見てのお楽しみ。 見終わって、満足してトイレに急ぎました。 最近、年のせいか上映中に尿意がたびたび。 中年男で超満員。 しょうがいので、大トイレへ。 さて、出てくると、 がらがら。 ひとりもいません。 白いタイルの部屋に蛍光灯が輝いています。 まるで、映画のワンシーン。 洗面台へ。 みると、大きな鏡に 山高帽の男が。 緑色の服、黒い帽子 映画そっくりの 自分が。 思わず笑ってしまいました。 虚実は皮膜の間。 これだから映画はやめられません。


ウィズアウト・ユー

ヒマな日曜日に 期待しないで見る映画 小品でも、 意外によかったりすると 一日トクをしたような気持ちになります。 これがそう。 題名が「ウィズアウト・ユー」 原題は、現代的にエントロピー。 無秩序の意味。 映画がはじまったのに、 コトコト靴音高く入ってくる女性がいて、 思わず、「ウィズアウト・ユー」 映画の冒頭のシーンは 夜のハイウエーのクルマのヘッドライトを 高速で撮ったもの。 まさに、エントロピー。 若い監督、フィルジョアーノの気分が よく出ていました。 物語は、どこかの汚いアパートの一室で 主人公のフィル・ジョアーノが回想するシーンから はじまります。 これって私小説? U2という人気ロックバンドの撮影を受け持っていた かれに突然メジャーな映画会社から監督の依頼。 喜んで引き受けました。 そして友人たちとファッションショーに行って モデルのステラに出会います。 お互い一目ぼれ。 その日のうちにただならぬ仲に。 愛猫を可愛いがったり、 NYはセントラルパークで2人だけの撮影ごっこを したりする幸福な日々が続きます。 一方、 映画の撮影は難航します。 プロデューサーの命令は絶対ですが、 若い監督からみれば、理不尽なものばかり。 「予算内でおさめろ」 「セックスと暴力シーンを撮れ」、 「主演女優を脱がせろ」 この心労にステラの予期せぬ妊娠もあって いつしか2人の心は離れ離れに。 U2のヒット曲 「ウォズ・オア・ウィズアウト・ユー」が聞こえます。 「きみの瞳に浮かぶ石のような冷たさ  きみを苦しめる不安のたね  ぼくはきみを待っている  手先の早業 運命のいたづら  針のむしろのうえであの娘はぼくを待たせる  そしてぼくは待つことだろう  きみなしで」 きみなしで。 ウィズアウト・ユー。 筋書きのおあとは省略。満足して映画館をでました。 メトロに乗ると、一組のアベック。 U2ではありませんが、 ポマードで髪をおったてた男の子と 青白い顔の不機嫌な娘とが 口論。 ああ、 そういえば、 映画もそうでしたが、 キラメク時は、ほんのわずかで、 あとは悩みばかり。 青春は、かくのごとく 苦渋に満ちているのでした。 老年のおだやかな日々とは 大違い。


プリティ・ブライド


上映の最終日。 こんな日に見に行ったのは、はじめて。 しかも、12月1日、1000円の日の前日。 朝一番。 それのに、おばさんたちで結構混んでいました。 よくみたらタダ券みたいだったけど。 かのヒット作「プリティ・ウーマン」 が帰ってきた。 当時 駆け出しのジュリア・ロバーツは いまやハリウッドの大スター。 9年ぶりのこの作品では、 まず、大草原をウエディングドレスで乗馬して 疾駆するシーンで鮮やかに登場します。 そして、 結婚式の最中に何度も逃げる花嫁を好演しています。 相手役のリチャード・ギアは新聞記者。 最初にジュリアを悪女と決めつけた記事を書きます。 やがてジュリアの真の姿を知って恋におちる そんな役を好演、 相変わらず憎めないキャラクターであります。 ストーリーがいい。 音楽がいい。 またまた、偶然というか、 U2のお出まし。 "I still haven't found what I'm looking for" 「私はまだ自分が探し求めているものを見つけられない」 という青春のうめき声が素敵です。 そうなんです。 結婚式のヴァージン・ロードを歩いているとき、 誰だって 決めちゃっていいのかな。 こんな男に。〈あるいは女に) と 思うものです。 でも、誰も逃げださない。 新婚旅行から帰ってきての成田離婚もあるようだけれど。 でも、そうするとバツイチ。 取り返しがつきません。 そこへいくと、この物語のジュリアはまだまだ良心的。 内心の声に忠実だから。 そのためかどうか 逃げられた男たちが、なぜか彼女を恨めない。 最後は、リチャード・ギアとめでたく結婚。 NYの夜景をバックにベランダで踊るシーンが素敵でした。 美男美女のラブシーンに 年がいもなく夢心地になって エレベータに乗りました。 夢心地の若い女性のそばでは うつむいた中年女性。 おそらく取り返しのつかない結婚をしてしまったと 後悔しているのでしょう。 「で、おまえは?」 「.... 」 帰途、10年ぶりに、公園を歩きました。 夢が後をひいたのでしょう。 冬の足音が聞こえます。 からからと歩道を落ち葉が駆けぬけていきます。 みると、青いバラック。 ホームレスのおじさんたちの住まいです。 「取り返しがつかないのは同じだけれど、 あれよりはいいよなあ」 なぜか 急に 駆け出したくなりました。 そうそう原題は、 ”RUNAWAY BRIDE”でしたっけ。 こちらは、さしずめ ”RUNAWAY PRIDE”


ワイルド・ワイルド・ウエスト


オトーサン、 予告編を何度も見て、 妙な映画だと思っていました、 MIBの黒人名優、ウィル・スミスが出ていて面白そう、 でも、変な機械が出てきたりして、 いかがわしいなあ。 見るのはやめておこうかなあ そう思ったりしていました。 でも、題名を インターネットのWWWをもじってつけたりしているので、 現代的な味つけがあるかなあと思って 見てまいりました。 イントロは 抜群の出来、 007プラスWWWの流行の画面。 オトーサンのホームページも、 こんな風にしゃれたのができたらイイなあ なんて思いました。 さて、 始まりました。 舞台は1869年、南北戦争の頃のアメリカ。 主役のウィル・スミスは連邦法執行官。 女に手が早いだけでなく、拳銃を抜くのも滅法早い。 この辺までは、西部劇そのもの。 カウボーイハットを被り、馬に乗ってひとり荒野を行く 6フィート4インチのジョン・ウエインが出てきてもおかしくありません。 でも、 現代ではインディアンもいませんし、 守るべき家族もありません。 ハリウッドでは、映画は産業。 投資は回収されねばならず、 超・娯楽大作であればあるほど 受ける要素をすべて網羅し、 ヒットさせて 金を儲ける。 そこで新しい西部劇の誕生。 ウィル・スミスは、 大統領に命令されて南軍の秘密兵器を探り、破壊する役目。 当時、北軍の重要ポストに黒人がなるはずもないので、 時代背景無視の暴挙。 スポンサーを納得させるために 評判のTV番組のリメイクを探し出して そこに売れている俳優を起用すれば、安全パイ。 ウィルスミスは黒人だけど、まあいいや、 起用すれば、ヒット間違いなしとの計算。 その無理が全編に出てまいります。 本当は主役は、 白人。 それをウィル人気にあやかって 黒人にしてしまいました。 彼の相棒が、ケビン・クライン 白人で、発明狂。 大陸横断鉄道にもいろいろな仕掛けを作って ウィルスミスを翻弄します。 この冒頭の仕掛けで、観衆は肩入れして。 ようやく、ウィル起用の無理は乗り越えます。 ところが、ところが 南軍の総大将は、天才的発明家のラブレス博士。 実験の失敗で、下半身なし。 車椅子。 このへんは現代的ですが、 原作では小男でしたが、 どうせ小さくするなら、 エイッヤー と身体障害者にしてしまいます。 したがって 悪者が身体障害者という設定へ。 ハチャメチャです。 黒人と身体障害者が、敵と味方に別れて争う なんて馬鹿げた設定でしょう。 オトーサン、 呆れて物も言えません。 でも あとのほうに出てくる24メートルの8本足の 巨大なタランチュラ(くも)の機械は楽しめました。 その他、たくさん出てくる荒唐無稽の機械もグッド。 いかにも機械好きのアメリカ人が喜びそう。 でも、 オトーサン、 つまんねえのと、ご帰宅。 すると、TV番組で 巨人に江藤が入団した事件をめぐって議論の真最中。 清原をとって、広沢と石井を腐らせ マルチネスをとって、清原を腐らせ 江藤をとって、元木まで腐らせ そして、また 工藤をとって、槙原と桑田を腐らせる。 本当はそういいたいのですが、 マスコミは読売のWの支配下。 怖いので、議論の歯切れの悪いこと。 金儲けのために某は手段を選ばずといえばいいのに。 歯がゆいねえ。 このやり方、何やら このワイルド・ワイルド・ウエストのような 悪しきハリウッド映画と似ております、 西部劇にSFを加味すれば、大衆に受けるだろう それにコメディの味つけをして 人気俳優をからませれば、受けること間違いなし。 あと、オンナをからませればバッチリだぜ。 いやですねえ そうした大衆をバカにした安易なやりかた。 久しぶりに西部劇をみて WWW(WORLD WIDE WINNER) のど根性でも観ようと楽しみにしていたのに、 このザマ。 この映画、 いまの巨人フアン以外は みないほうがよいと思います。 オトーサン 一日をムダにしました。


ジャンヌダルク


いまの若い人たち ラルカンシエル(L’arc en ciel)は知っていても ジャンヌダルク(Jeane d’arc)は 知らないのではないでしょうか。 観客は、中年男女だけでした。 予告編を何度も見ました。 少女が地平まで続くヒマワリ畑を駆けぬけていきます。 剣をふるって、ヒマワリの首をバッサリ。 黄色い花びらが散ります。 そこへ男の荘重なナレーションが重なって リュック・ベッンン監督、最新作 ジャンヌダルク。 予告編の第二弾もみました。 大聖堂での戴冠式。居並ぶ貴族たち。 天上から降りそそぐ紙吹雪。 あるいは、 矢に射貫かれて城壁にかけたハシゴから 仰向けに落下するジャンヌダルクの苦痛に満ちた顔の クローズアップ。 オトーサン、 何やらもう何度もみたような気になって、 見に行くのやめとこうかな なんて思っていました。 でも、12月2日、お堅い日本経済新聞に この映画に出演している フェイダナウエイのインタビュー記事が載っていて、 わたしは堕落したハリウッド映画にはもう出たくない、 リュック・ベンソンのような尊敬すべき監督の映画には タダでもいいから出演したい そう言っているではありませんか。 オトーサン 昔の教育を引きづっていますから こうしたセリフに出会うと、すぐ感激してしまいます。 よーし、見に行ってやろうではないか。 さて、舞台はフランス。 1337年にはじまった英仏百年戦争は、英国が優位。 攻め込まれたフランスは、もはや滅亡寸前。 王太子シャルルが国王になる戴冠式を行う 聖地ランスも、占領されています。 皆、あきらめモード。 どこかの国とよく似ておりますねえ。 この時、ジャンヌという名の14歳の田舎娘が 神のお告げを聞きます。 フランスの民を救い、 国王を誕生させ、 民族の誇りを取り戻せ。 当然、誰も信じません。 唯一、支持したのが王太子の義母ヨランダ。 どうせ滅びるのならば、 その前に一度、 少女の奇跡にかけてみよう。 その一言でジャンヌは国王の信任を得て、軍隊を手に入れます。 白馬にまたがり、白い軍旗をたなびかせて、 全軍を叱咤するジャンヌ。 激しい戦闘の後、奇跡の大勝利を収めます。 以後、ジャンヌの行くところ敵なし。 連戦連勝。 奇跡は奇跡を呼び、国民は熱狂。 そして、フランスは、聖地ランスを取り戻し、 シャルル国王の戴冠式が盛大に執り行われます、 ジャンヌの武運はそこまで。 取り戻してくれた狭い領土に満足しきった ミランダとシャルル国王が裏切りに転じます。 以後、ジャンヌは奈落の底へと転落していきます。 虜囚となり、火あぶりになるまで 息きつく間もない展開でありました。 ジャンヌ役のミラ・ジョヴォヴィッチの迫真の演技がすごい。 ミランダを演じるフェイダナウエイの目の演技がすごい。 目に物言わせるとはこのこと。 さすが、オスカー賞を受賞した実力派。 脇役の俳優たちも、存在感があって、なかなかよかったですよ。 春の野原のロング・ショット、 ジャンヌやミランダの表情のクローズアップ。 戦闘シーン、 映像もオーソドックですが、なかなかのもの。 エンディングの音楽も心に染みました。 映画が終わると、みなさん、厳粛な顔をしております。 オトーサンも同じ。 娯楽を求めて映画館にきたら、 おまえの生き方のザマは何だと問われてしまいました。 ひたむきに生きる 逃げない 良心と向き合う 神の声を求める 激しく祈る ひとびとのために一身を投げ出す。 奇跡を起こす 500年後に聖人となる そういうジャンヌにくらべて オトーサンときたら ただの凡人。 財布と相談したり、 預金通帳とにらめっこしたり、 鏡に写った自分の顔色をチェックしたり、 体重の変化を気にしたり、 他人の評価を気にしたり、 地位や権力の増大を求めたり、 ちっぽけな片隅の幸せに満足したり、 つまらぬことで一喜一憂したり...、 さて 現代では、 映画が立派な産業になって 一本の映画は、ゲームにも、ドラマにも、音楽にも転用されます。 つまり、コンテンツ産業。 ソニーのような堅気の会社まで手を出すようになりました。 めでたし、めでたし。 「でも、それが悪いこととはいわない。悪くはないが、スカである」                       (矢作俊彦) こうした声もありますが、少数派。 みんながアメリカニズムに流されているなかで、 敢然と戦っているリュック・ベッソン監督の姿勢は、お見事です。 さすが「グランブルー」でデビューしたフランス人。 皆さん、映画というすばらしい表現手段を 娯楽だけ、経済だけに限定するのは あまりに勿体なくありませんか?


御法度

TVに出たがりやのオジイサン。 ロレツも回らないオジイサン。 TVの討論番組などでときどき急に怒鳴りだすオジイサン。 若いひとからみれば、大島渚監督はひたすら変わったお方。 でも、オトーサンの世代では、若い頃みた「青春残酷物語」などで 頭をぶん殴られたような衝撃を与えてくれたた時代のヒーロー。 「愛のコリーダ」「戦場のメリークリスマス」は、海外に熱狂的な 大島渚フアンを作り出しました。 その大島渚監督が、脳溢血で倒れて もうお終いと誰もが思っていたのに、 13年ぶりに復活。 TV番組での前宣伝のすごいこと。 「誰が行くか。だまされないぞ」 そう誓っていました。 でも、松竹大船撮影所閉鎖のニュースに対して、 映画フアンがみな惜別の言葉を贈っているなかで、 ここで育ったはずの大島渚はこう言い放ちました。 「滅びるものは滅びればいいんだ。映画なんか世界中どこでも撮れる」 この言葉で、 大島渚元気だなあ、ひょっとしたら面白いかも。 オトーサン、初日に見に行きましたよ。 1000円。 「映画の日でもないのに、なぜ?」 受付の女の子は理由をいいません。 「まあ、いいか。安けりゃ」 オトーサンがそういうと、ニコッと笑いました。 大島渚、ついにディスカウント映画を開発? 観客は、まばら。それも中年と老人のみ。 お弁当を食べているオバーサンもいました。 やはり上野駅前の映画館ですねえ。 大島フアンもお年を召されてしまったのです。 「やっぱ、やめときゃよかった。 800円もする映画パンフを買い、 クルマを1時間500円もする駐車場に入れたのは 失敗だった」 でも、既に遅し。上映開始。 筋なんてほとんどなし。 幕末に新鮮組が起こした大騒動を描くかと思いきや 新鮮組に加納惣三郎という美男子が入隊してから 隊内に生じた波紋を描くのみ。 ストーリー軽視は日本映画の大欠陥。 カラーかと思えば、モノクロ映画みたい。 お金かけていないなあ。 でも、前衛作家としての大島渚は健在でした。 亡き松田勇作の子供、松田龍平の起用は、成功しました。 この美少年の発する妖しい雰囲気を観ると、 ホモの世界におぼれるひとの気持ちが分かるような気もします。 幸い、オトーサン、 その気はまったくないけれど。 ビートたけし、坂上ニ郎、トミーズ雅など脇役もそれなりに 活躍していました。 ワダミエさんの衣装も新鮮。 日本家屋もきれいに撮れていました。 さあ、これからというところで、 映画が終わって 観客は、呆気顔。 「早死にされてお気の毒ねえ」 葬式の帰りの雰囲気で、 みなが階段を降りていきます。 オトーサン、 上映中は、大島渚の執念を感じました。 脳溢血で倒れて死をみたのがかえってよかったんだ。 死とエロチシズムを掘り下げたのはさすが大島渚監督。 年をとっても、 こうした前衛的なテーマに挑戦し続ける姿は すばらしいこと、 日本の老人、決起せよ。 でも、 一方で、 オトーサン、 きびしい見方をしました。 世界30ケ国で上映するそうですが、 外国にはホモ多く、市民権を得ているので、 ホモが多数駆けつけるのではないでしょうか。 この映画 あくまでも、通の受けねらい、 映画史に残ればよい、日本人など狙っていない。 思い直して、ビートたけしを出せば、すこしは集まるかも。 それがミエミエ。 こうした姿勢が、日本映画から大衆を遠のかせているのです。 ホモを見に、いったい誰が映画館に足を運びますか。 年寄の義太夫を聞きに、誰がお金を払って映画館にいきますか。 大衆ばなれの末の前衛化。 浅間山荘の赤軍を思わせます。 でも、大島渚はそれを目指しています。 パンフレットにある大島渚さんの死装束はすごい。 この画像を入手するために映画館にいくのも一興かも。 注文が多いので、採用する葬祭業者が出てくるかもしれません。


ランダム・ハーツ

オトーサン スポーツ新聞を見たら、 大島渚監督の御法度の初回上映が、 丸の内プラゼールでは 1200人も集まって満員。 若い女性が舞台挨拶にでたビートたけしや 松田龍平らの俳優たちに キャーツ状態だったとか。 大島監督が、皆さんは世界一幸せな観衆ですというと 数分間、拍手が鳴り止まずだったとか。 上野セントラルとは大違い。 やはり、映画館選びも大事。 そこで、 オトーサン、 日曜日の丸の内へと繰り出しました。 すごい行列。 でも、これは、年末ジャンボ宝くじの人達。 貧しい中年男女。すさんだ顔の若い男。 今の御時世、映画よりも宝くじかあ。 でも、正月映画のシーズン開幕で 映画の入りもまあまあ。 「海の上のピアニスト」なんて 8時半開始、 満員。 やはり、東京は銀座の繁華街。 でも、オトーサン、 混むのは大嫌い。 ターザンも時間が合わないし、 そこで、ランダムハーツにしました。 日比谷みゆき座。帝国ホテルの前。 小1時間程、暇つぶし。 スターバックスは満員。 でも、日比谷にアマンドを発見。 客は、オトーサンひとり。六本木なら超満員。 さて、上映20分前に入場。 シニアは、今日も1000円、パンフも500円。 しかも、日比谷シャンテの前に路上駐車でタダ。 シメシメ。 さて映画が始まりました。 最前列。 ポップコーンを食べておしゃべりがうるさい学生2人も 静かになりました。 飛行場のシーン。 ハリソンフォード演じる巡査部長ダッチは、妻と出掛けに 愛を交わしてゴキゲン。 同僚の刑事が不正行為を働いて入るようなので、 酒場で見張ります。 TVは、NY発マイアミ行きの437便がフロリダで 墜落したと報じております。 同じ頃、再選をめざし出馬準備を開始した 美貌の下院議員ペイトンも、 航空機事故のニュースを何気なく見ております。 やがて、2人とも、連れ合いが事故死したことを知るように なります。 しかも、信じていたパートナーが、見知らぬ相手と浮気していた ことを知ります。 部長刑事ダッチは、妻の浮気の相手を突き止めるべく、 下院議員ケイに近づきます。 しかし、選挙のスキャンダルを恐れるケイは、 頑なに真相究明への協力を拒みます。 15歳の娘をこれ以上傷つけないで。 過去の事はもういい、終わった事だから。 大事なのは未来。 しかし、ある日ケイは選挙スタッフの女性から 夫との浮気を告白されます。 複数の相手との浮気、それを見抜けなかった自分、 にもかかわらず、下院議員をめざす自分。 ケイは嫌悪感を覚え、過去をおさらいする気になります。 ようやく、2人は同じスタートラインに立ったのでした。 傷心を抱えた2人が、支えあう相手として お互いを意識するまでには、さほど時間はかかりませんでした。 ケイの車のなかで、突然、燃え上がる情熱 ダッチの山荘での情熱の一夜。 しかし、何人かこの情事に気つきはじめます。 選挙には致命傷。 ダッチの求愛は選挙の邪魔だ。 遠ざかれ。 しかし、ケイは何とか周囲をだまして 2人の愛をひそかに守り抜こうとします。 そんなある日、 ダッチはついに妻の情事の舞台だった アパートを突き止めます。 しかし ひとの気配が。 何と、そこには荷物を処分中のケイがいました。 愛しているはずなのに、裏切っているケイに ダッチは不信感を抱いて、 ケイのハンドバックの中身をぶちまけ 捜査しはじめます。 いたたまれずに アパートを飛び出すケイ。 追いかけるダッチ。 そのとき見張っていた悪徳刑事がダッチを狙撃。 ケイは、車を追突させてダッチを凶弾から守りますが、 2人の関係は、ついにマスコミの知るところとなります。 でも、何とかケイはマスコミをごまかしますが、 選挙は落選。 一方、ダッチは、ケイが自分をだましていたのは、 過去を断ち切れない自分への心づかいからだと気づきます。 ダッチは空港にケイを出迎え、出直しを呼びかけます。 明るくうなずくケイ。 こうして2人の再生の物語がはじまります。 オトーサン、 自主規制を破って ストーリーを詳しく紹介してしまいました。 何といっても、この映画の魅力は、 ハリソン・フォードとクリスティン・スコット・トーマス という名優2人の演技力ですが、 そのベースになっているのが、原作のよさだからです。 ウォーレン・アドラーのベストセラー小説 「ランダム・ハーツ」のストーリーのよさです。 さて、 映画が終わって オトーサン、 上機嫌。 行列して待っていた満員の観客を後に クルマに急ぎます。 路上駐車で駐車代はタダ。 シメシメ。 今日はいい日だったなあ。 ランダム・ハーツにならないですみそうだ。 ところが、ああ 警官がニコニコ笑って待っていました。 オトーサン真っ青 平謝まりに謝って、 何とか違反を見る逃がしてもらいました。 警官のせりふが実によかった。 「もう何年も映画を見ていないなあ」 「どうして、警官がそんなせりふを?」 タネ明かしをすると、 オトーサン、 「職業は」と聞かれて とっさに 「映画評論家」と答えたからでした。 いかに映画評論家が尊敬されているか、お分かりでしょう。 淀川長治さん、ありがとう。 おかげで、たすかりました。


ノッティング・ヒルの恋人

オトーサン、 実は、この映画を見逃しました。 予告編を何度も見て、そのうち見てやろうと 思っているうちに、上映終了。 ところが、久しぶりに会った次女が見たという。 「しまった。くやしいなあ」 ロンドンを舞台にした映画、 見ていれば、共通の話題で盛り上がったところでした。 ところが、運命とは不思議なもの。 NYからの帰りの便で、機内上映リストにあったのです。 「やったあ」 と思って、よく見たら往路の便での上映。 往路は寝てばっかりいたので、気がつきませんでした。 ところが、何と上映が始まりましたよー。 手違いか、サービスか。 「やったあ。ほんとにやったあ」 オトーサン、大喜び。 冒頭のシーンに登場するのは、 いつでもどこでも、 常に華やかなフラッシュを浴びる有名女優。 アナ・スコットであります。 これに扮するのは、 ハリウッドのNO.1女優ジュリア・ロバーツ。 「プリティ・ウーマン」でアカデミー主演女優にノミネート。 場面は一転して、 ロンドンでおしゃれなゾーン、 ノッティング・ヒルの街角にある小さな本屋。 予告編でみたシーンであります。 主人公の本屋の主人、ウイリアム・タッカーが登場。 これに扮するのが、ヒュー・グラント。 はまり役とはこのこと。 旅行専門書しか扱っていませんので、客などめったに来ません。 当然、赤字。 私生活も妻に逃げられてバツイチ。 何かいいこと起きないかなあ状態。 たまに来る客をよく観察しているおかげで 万引きを発見。 ちょうど、居合わせたのが、くだんの女優。 おしのびですから、黒いサングラスをかけています。 有名女優とはつゆ知らず、ヒューは万引きの処理をしたあと ヒマに任せて、いつものように お節介とも思われるほど親切に 彼女が手にとった本について説明します。 そこへ、部屋をシェアしているアーチスト、スパイク君が登場。 このひょろひょろした若い男を演じるのが、 リス・エヴァンス、 そのキャラクターが秀逸です。 ストーリー展開の狂言回しの役でもあります。 その第一弾が、 「店番代わってやるから、外に空気を吸ってこいよ」 のお言葉。 「帰りに、ジュースを買ってきてくれ」 買って帰る途中、 ヒューは、 先ほどの黒いサングラスの女にぶつかって ジュースを彼女の衣服にかけてしまいます。 例の親切の押し売りの性格が出て 近くの自宅に案内して着替えをしてもらいます。 お互い、波長が合ったのか、 別れぎわに、ドアのところで彼女が軽いキッス。 2人の運命的な出会いのはじまりであります。 その後の恋の展開の面白いこと。 脚本って、こんなにうまく描けるんだというお手本。 有名スターとフツーの男という取り合わせが 新しいラブ・ストーリーをつくりだしました。 何てたって、彼女は超多忙。 スケジュールの合間を縫って出会うには、 突然、「乗馬と猟犬」の記者になりすませて 変なインタビューをせねばならないし、 レストランでデートをすれば、 隣のテーブルで男どもが、 彼女の下ネタを話題にして盛りあがっているし、 アパートで一夜をすごせば、 翌朝には取材陣が大勢押しかけてくるし。 ホテルにひそかに会いに行けば、 ちょうど彼女の昔の男だった大スターが彼女を抱擁している最中。 恋の成就は容易ではありません。 でも、スターの名声も一時のもの。 フツーの女として愛し、愛され、結婚もしたい その後、イロイロありましたが、 最後は、ハッピーエンド。 映画に出てきたノッティングヒルのマーケットも 夏の緑の濃い静かな広い公園も素敵でした。 「娘がロンドンにいる間にロンドンに行こうっと。 夏がいいなあ。 2人がデートしていたNOBUに行こう」 オトーサン、堅く決心いたしました。 念のためにつけ加えると、 このNOBUは、NYのNOBUのロンドン支店であります。 こんな風に楽しめたものですから オトーサン、 大満足。 見ている最中に笑い声を漏らしたり、 見終わって 「よかった、よかった」 と思わず言ったりしてしまいます。 オトーサンの 飛行機の席は窓際、3列シートのひとつです。 間にひとつ空席があって 通路側に美女一人と乗り合わせております。 往路は、3列シートを独り占めして寝台にしてきたのに 今回はムリ。 美女も同じ思いだったのでしょうなあ。 13時間も乗っていれば、横になりたくなるのは当然。 間の空席をどっちが占領するかの 心理的な駆け引きが展開されて 当然であります。 ところが、オトーサン 今回に限って NYでよく寝ていたものですから 眠くならない。 本を読んだり、ワープロをやったり、映画をみたりと 大忙しで、寝る様子もなし。 映画をみて声を立てて笑うような気安いひとと 見られたのでしょう。 美女は、空席めがけて徐々に侵入してまいります。 これが、いかつい男やおばあさんなら怒るところですが、 オトーサン、 美女では別、 むしろ大歓迎。 何やら空席争いは 微妙な恋の駆け引きの様相を呈してまいりましたよー。 袖、振り交わすも他生の縁。 触れそうで、触れないというのも、オツなもの。 情緒タップリ。 そして ああ、 ついに美女のおみあしのかかとが オトーサンに触りました。 題して「ストッキング・ヒールの恋人」のお粗末でした。


映画の採点簿

スター・ウオ−ズ ***** エリザベス            *** エントラップメント        **** MATRIX ***** オーステイン・パワーズ・デラックス*** アイズ・ワイド・シャット     *** ディープ・ブルー         ** グレイスランド          **** シックス・センス         **** 将軍の娘/ エリザベス・キャンベル *** アナライズ・ミー         **** WHO AM I?        **** 梟の城              *** トーマス・クラウン・アフェアー  **** ウィズアウト・ユー        *** プリティ・ブライド        **** ワイルド・ワイルド・ウエスト   * ジャンヌダルク          **** 御法度              *** ランダム・ハーツ         **** ノッテイングヒルの恋人      ****


表紙に戻る