嗚呼、憧れの南仏旅行


photo:L'le sur la Sorgue

*1 テロとSARS

*2 Yさんの昇進

*3 猛暑とNY大停電

*4 礼賛、エールフランス

*5 エトワール・パーク

*6 ポンスレの市場

*7 アレジア? 

*8 リヨン駅は、難所

*9 ある青年 

*10 カルフール視察

*11 視察、その2 

*12 視察、その3 

*13 ニームからアビニョンへ 

*14 リル・シュル・ラ・ソルグ 

*15 朝の散歩 

*16 プロヴァンス気分

*17 サン・ベネゼ橋 

*18 ニースへ

*19 ニースで断食修行 

*20 アンティーク市

*21 ソッカを食す 

*22 シャガール美術館で仮眠

*23 プロムナード・デ・ザングレ 

*24 鷲の巣の村、エズ

*25 モナコへ、娘の受難

*26 カフェ・ド・パリで散財  

*27 衛兵交代

*28 カジノ  

*29 カルフール・モナコ

*30 モナコからパリへ  

*31 RERの乗り方

*32 再びカルフールへ   

*33 RERの乗り方、その2

*34 カルフールへの長い道のり   

*35 八百屋を取材

*36 トラムで、サン・ドニ   

*37 ルイヴィトン狂想曲

*38 番外編:幕張店再訪   


*1 テロとSARS

オトーサン、 映画も大好きですが、 それ以上に大好きなのが旅行。 それも、海外旅行。 しばらくご無沙汰していると、血が騒ぎ出します。 「ど、どこかに行かなくては」 年末に息子の海外挙式で豪州に行って以来、 海外旅行とは、ご無沙汰。 春休みも、ゴールデン・ウィークも、ご無沙汰。 「ああ、どこかへ行かなくては」 心のなかで血が流れ出します。 ちょっと、オーバーか。 実は、この夏休み、スイスに行くはずでした。 「なんでスイス?」 「ジュネーブのお店に行かなくては」 20年前に、おみやげに大量のチョコレートを買って、 忘れてきたのを、取り戻しに行くのです。 これは、冗談。 ほんとうは、ロンドンから帰国した次女が スイス政府観光局に勤務することになって、 おいしい話が舞い込んできたのです。 「1年間勤めると、 あんたたちのアゴ・アシ代も割引になるらしいわ」 「えっ?そんなら、1ケ月くらい滞在するか」 夢のなかでは、イスタンブール、プラハ、ウィーン、 シシリア島など、まだ見ぬ土地が微笑んでいます。 オトーサン、 待ちに待った1年が過ぎて、 震える声で、次女に話しかけました。 「あの...あの話、どうなった?」 「あれ? ダメになった」 「えっ?」 「それどころじゃないのよ」 スイス航空の経営が左前になって、 そんな悠長なこと言っておられなくなったのです。 「オレ、ずっと楽しみにしてしいたのに」 「...」 沈黙の意味は、よく分かります。 連日、気の毒なほど、夜遅くまで働いているのです。 「世の中、大変なことになっているんだなあ」 オトーサン、 「いやな出来事ばかりだなあ」 連日、新聞・TVやインターネットで 暗い話題が続きました。 ・アメリカ入国審査を厳格化 ・バリ島のデイスコで爆弾テロ ・イラク戦争はじまるか? ・SARS猛威をふるう! オトーサン、 奥方相手に、ぼやきます。、 「...こんな状態じゃ、もう、どこにも行けないなあ」 「そうよ、もう海外旅行はいいわ」 「せめて、パリぐらい行ってみないか? あそこならテロもSARSも関係なさそうだけど」 「あんな遠いところ、イヤよ」 言下に拒否されました。 エコノミー症候群の報道も盛んです。 「国内旅行なら、つきあってもいいわよ」 奥方は、7月に開港した能登空港から金沢にぬける コースが念頭にあるご様子です。 「能登か。前に行ったじゃないか」 「国内は、いいわよ、楽だし...」 「若いうちに、海外に行っておかなくては」 「パリは、もういいわ。何度も行ったし」 「お前って、つきあい悪くなったなあ」 「...」 オトーサン、 そんなことで、ひとり旅を真剣に検討しました。 「タイに行ってみるか」 いとこのMくんが、タイ人と結婚して、 バンコックに住んでいるのです。 母の法事のときに、聞いたニュースです。 もう何十年も会っていません。 「今度は、チュンマイに足をのばすか。 定年後に暮らしやすいところらしいから」 元同僚のKさんからリタイアの挨拶状がきて、 海外移住を計画中とあって、 チュンマイも、候補地に上がっていました。 「でもなあ。タイも、SARSで危ないらしいし」 オトーサン、 奥方に聞きます。 「じゃ、近いところで、韓国に行くか?」 「イヤよ、あんなところ」 「焼き肉がうまいぞ」 「ひとの子供を拉致するひとが住んでる ところなんて、イヤよ」 W杯も成功裏に終わって、若いひとを中心に、 両国の間の相互理解が深まっているというのに、 奥方は、その埒外、北と南を同一視しています。 「まあ、同一民族だけどなぁ。  じゃ、ヴェトナムはどうだ?」 「イヤよ、暑いところは」 そんなことで、奥方との交渉は、 日朝交渉と同様、膠着状態になりました。 膠着状態って、身体によくありません。 歯の奥に何かが詰まって、とれないような感じ。


*2 Yさんの昇進

オトーサン、 思いあまって、NYの長女に電話します。 「あのな、今度の夏休みだけど、 パリに行かないか? おれ、いま、カルフールの勉強をしているので、 一度、現地視察に行かなければならないのだけれど、どうだい?」 「いいわよ、いいわねえ。ちょうど行きたいと思っていたの」 ふたつ返事でした。 NYのようなビジネス街に住んでいると、 花の都パリの優雅さは、女心を誘うようです。 口説きが成功して、うれしいの、何の。 「ママも一緒でしょ?」 「...ああ」 口ごもります。 オトーサン、 HISに通って、 AIRの便の有無や航空運賃を調べて、 おおまかな旅行計画を立て、戦法も充分練ってから、 再度、難攻不落の奥方をくどきます。 「こんなんで、どうだい? 1週間くらいパリに滞在してなあ、 ミシュランの3星レストラン食べ歩きというのは?」 「あたし、最近、食欲ないのよ、 脂っぽいものキライになったの」 「じゃ、のんびり、お買い物はどうだ? ポンヌフに新しい店ができたようだし、 だいぶ、パリのお店も変わったようだよ」 「...」 「そうだ、言い忘れた。 あの娘も、行きたいと言ってたよ」 「...」 日朝交渉では、この種の沈黙は、 言質をとられないためのようですが、 奥方の場合、どういう意味なのか不明です。 長年、つきあっていても、分かりません。 所詮、人間は闇であり、謎なのです。 これって、映画の見すぎかも。 オトーサン、 映画館から帰宅すると、長女からのメール。 パリの件、ちょっと調べました。 エアがハイシーズンで高いので、 行くのだったら溜まったマイレージを使おうかな。 日程は8月27日発-9月4日帰着で 空席ありとのこと。 その辺りでパパたちとのスケジュールが 重なれば良いですが。 (重ならない分は適当に安宿に泊まります) しかし、どうしようかね? 最近何だかお疲れ気味のせいか あんまり頭が回らない。 もう少し考えるとするか。 妹も一緒に行けたら良いのにね〜。 ほいなら。 オトーサン、 翌日、午後奥方にいいます。 「銀座に行くか?」 「ええ、いいわよ」 銀座は、幸い国内です。 銀座でよく行くのは、4丁目の三越や松屋。 この地下の食品売り場は活気があります。 でも、奥方は、穴場は、6丁目の松坂屋の 地下食品売り場だと主張しております。 「はやく改装しろよなあ」 松坂屋は、名古屋ではナンバーワンなのに、 東京・銀座では、冴えないデパートの代名詞。 その分、値段で勝負しているのです。 そして...、好都合なのは、HISと銀行が近いこと。 「ちょっと寄っていくか」 「...」 そんなことで、強引に4FのHISへ。 Yさんがいました。 「いらっしゃいませ、おひさしぶりですね」 奥方に微笑みかけます。 若くてハンサム、笑顔がステキです。 テキパキと調べてくれます。 「8月27日の便ですか。エールフランス? ちょっとお待ちください」、 「空いてそうですね。お昼の便と深夜の便と ありますが、どちらがいいですか?」 「お昼かな。そのほうが身体が楽かも」 AF275便、成田発12:05 シャルル・ドゴール空港着17:20とあります。 「所要時間は?」 「時差が7時間なので、12時間ほどです」 「あらっ、意外に近いのね。NYと同じくらいね」 「直行便だからな。お値段は?」 「えーと、往復で15万8000円ですね」 「JALやANAより、2万円以上安いなあ」  そう、分かった。ありがとう。 予約金4万円、払わなくていいの?」 「はい、後日で結構です」   ところで、名刺くれる?」 「はい」 「えっ、所長になったの?」 「おかげさまで」 「そりゃ、よかったねえ」 「おめでとうございます」 と奥方もニコニコ。 オトーサンたち、 HISを出て、 4丁目のレストランで、お茶。 今日の支払いは、オトーサン。 セルフ・サービスなので、 アイス・ラテを2つ、こぼさないように 店の外のテーブル席へ運びます。 奥方、その姿をみとめて 「ありがと」 銀座という街は、いつもみんながウキウキ。 今日は、とくにみんながうれしそうな感じ。 真夏だというのに、快適です。 「今年は、冷夏だなあ」 「ほかに行くことないわね」 まずい展開になりそうです。 間髪を入れす、話題を転換。 「グートのNさんも所長になったし、 HISのYさんも所長になってよかったなあ」 「そうね、みんな、気持ちのいいひとねえ。 ほんとに、よくやってくれるもの。 ...本当にいく気なの?」 「ああ」 どうやら、HISのYさんのおかげで、 パリ行きの外堀は埋まったようです。


*3 猛暑とNY大停電

オトーサン、 8月8日、 奥方にいわれます。 「今年のパリは暑いらしいわよ。 やっぱり、行くのやめようかしら。 このことろ体調もよくないし、迷惑かけるのも何だから」 「ほんとかよー?」 すぐにインターネットをチェック。 欧州各国で記録的な猛暑と乾燥が続いている。 今週、パリでは20世紀に1度だけ記録した 観測史上最高の40度に迫る39度と、 今年の最高気温に達した。 オトーサン、 「まあ、一時のことさ」とタカをくくって、 日程、固めに精を出しました。 8月27日(水)成田発 12:05    パリ着 17:20         エトワール・パーク泊   28日(木)長女到着後、市内観光         エトワール・パーク泊   29日(金)カルフール見学         午後、市内観光         エトワール・パーク泊   30日(土)パリ・リヨン駅発         TGVでアビニョンへ 市内観光         オテル・ド・ロルロージュ泊   31日(日)アビニョン        リル・シュル・ラ・ソルグへ        アンティーク市、運河沿い散策         オテル・ド・ロルロージュ泊  9月 1日(月)アビニョン発、ニースへ         海岸散策、シャガール美術館見学         シタデル泊    2日(火)ニース周辺の村を観光         シタデル泊    3日(水)モナコへ、市内観光         シタデル泊    4日(木)ニース発パリへ、         午後パリ市内観光、         エトワール・パーク泊    5日(金)パリ市内観光 エトワール・パーク泊    6日(土)パリ市内観光 エトワール・パーク泊 7日(日)パリ発    13:15         長女パリ発  15:00    8日(月)成田空港着   7.50 オトーサン、 「もつべきものは、よい娘」 長女が忙しい仕事の合間をぬって、 ネットで宿の予約をしてくれています。 ときどきネットでパリの猛暑をチェック。 地球の歩き方掲示板 猛暑のロンドン・パリ 03/08/15 暑かったです。とにかく暑かった。 8月8〜14日までロンドンとパリに行ってましたが 暑さ対策の必要がない国での猛暑の恐ろしさを 実体験したかんじです。 現地で長袖をきることはありませんでした。 地下鉄もバスも、蒸し風呂、お店も暑いし、 おまけに安い宿だったので、エアコンなし。 きつかった〜。 オトーサン、 またまた、災難に出会います。 「えっ、NYが大停電?」 「またテロかしら? あの娘、ダイジョウブかしら?」 一難去ってまた一難、すぐに、ネットを見ます。 8/15 NYパニック!大停電 地下鉄ストップ、情報遮断…5000万人が悲鳴 この日のニューヨークは、30度を超える「熱帯夜」。 携帯電話もすぐに不通となり、 家族と連絡をとろうとする人々が汗まみれで 公衆電話に長蛇の列をつくった。 奥方、 「電話してみる?」 「だって、停電だぜ」 「そうねえ、あの娘もかわいそうね」 「ご難続きだ」 翌日になって電話。 「まだ、ダメなようだ。 こりゃ、あの娘は行けなくなるかも」 「あの娘が行かなきゃ、あたしも行くのよすわ」 「...」 その後、時間をおいて、また電話。 今度は、通じました。 「ああ、大変だったのよ。家まで歩いてさあ。 よく朝も、歩いて会社に行って、ビルの14階まで昇ったのよ。 あんたたち、いいわね。山でノンビリしたりして」 オトーサン、 旅行の日が近づいてきました。 「体調どうだ?」 「健康診断、何ともなかったわ」 「よかった、よかった」 旅行の2日前になって、ようやく勝利宣言。 「おい、パリは東京やNYより涼しいぞ!」 http://ono-world.com/weathr.htm 世界の天気 時刻と気温 東京 81F 27度  7:04 NY 81F 27度 20:04 パリ 64F 18度  1:04 毎日、ネットで世界の気温を見るのも、 もう必要なさそうです。 「波乱万丈だったなあ...」


*4 礼賛、エールフランス

オトーサン、 もうパリにいます。 いま、これを書いているは、ホテルのロビー。 現地時間午前4時。 えらい早起きのようですが、日本時間では、午前11時。 そんなに寝てられるはずはありません。 空港ロビーで荷物が出てくる間の会話から再現しましょう。 「ようやく、パリに着いたわね」 「エース・フランスは、いいなぁ」 「そうねえ、いいわねーー」 奥方も、すぐに心から賛同しました。 これって、近年、めずらしいことです。 成田からパリまでは、12時間の長旅。 「思ったより疲れなかったわねえ」 奥方、 この長旅に、おのが肉体が耐えられるかどうか、 火星探査機の乗務員に選ばれたかのように 心配していたのです。 そのため、人間ドッグに行ったほど。 それが、ウチにいるときよりも元気。 「ああ、やはり、シートがよかった」 「そうねえ、あのシートは、よかったわあー」 感激、新たです。 そうなのです。 奥方の席は、53Aと後方座席でした。 いつものように窓際を指定したのですが、 なぜか窓から離れているのです。 手荷物を窓の横に置けました。 「いいわねぇ、ゆったりして」 通常は、3つ並べるのを2つなのです。 「こんなに倒れるの?」 もうひとつの感動の声です。 約45度もシートが倒れるのです。 エコノミーなのに、まるでビジネスクラス。 45度倒れるということは、 12時間のフライトの間に、 いろいろな体位が試せるということでもあります。 なーに、体位といっても、 あちらのほうことではありませんが。 「ビュフェも、いいわね」 「ああ、おにぎりがあった」 「あの梅干し、おいしかった」 「どこのかねえ」 「セブンイレブンのかもね」 オトーサン、 ヒマをもてあまして、機内をウロウロ。 これが、JALだと、 「お客様、シートにお戻りください」 なーんて、慇懃無礼に指示されるところですが、 嗚呼、憧れの南仏旅行 エールフランスは、放たらかし。 大揺れするときだけ、アナウンス。 オトーサン、 「こりゃ、いいわ」 エールフランスでは、 居室乗務員のコーナーのそばに、 チョットしたスペースをつくって、 そこに各種ドリンクやおにぎり、サンドイッチ、 カップラーメンが置いてあるのです。 無料です。 「いいだろ」 早速、おにぎりとウーロン茶をもって、 席にもどります。 「何それ?」 「無料サービス」 「えっ」 奥方、 この無料なるものには、格別弱いのです。 日頃、コンビニおにぎりを軽蔑していて、 最近、食欲がないのと言っているのに、 さっさと立っていって、 オレンジジュースとサンドイッチを取ってきました。 その後、しばらくして ウーロン茶とおにぎを2ケもせしめてきました。 先程、ランチをしっかり食べたばかりです。 「サンドイッチを食べて、そのうえ?」 オトーサンの目を感じてか、 「こっちは、あの子にあげるの。 ...NYでは、おいしいおにぎりはないかも」 でも、おにぎりを1つ食べていました。 ですから、 オトーサンよりも、サンドイッチ1つぶん、 大食漢なのです。 オトーサンたち、 そんなことで、快適な空の旅を終えて、 シャルル・ド・ゴール空港のロビーへ。 映画でいうと、フラッシバックが終わって、 もとの時間に戻ったことろ。 「定刻についたなあ」 時計を見ると、日本時間では、午前12時ですが、 現地時間は、まだ、午後の5時20分。 「翼よ、あれがパリの陽だ!」 といいたくなるほど、いい天気です。 東京は、起きたときには、どしゃぶりの雨、 成田空港では、どんより曇っていましたから、 ひときわ日差しがまぶしく感じられます。 空港から、エールフランス・バスの2番線へ。 夕方の渋滞とぶつかって1時間ほどノロノロ。 トンネル渋滞は、首都高三宅坂と変わりません。 パリ市内にはいると、 マロニエの葉が、黄ばんでいます。 「もう初秋だなあ」 あの猛暑騒ぎが、ウソのようです。 気温は、機内アナウンスで26度。 湿気がないので、体感温度は20度くらい。 オトーサン、 「ヤッパリ、華やかだなあ」 バスの前方に、凱旋門が見えました。 エールフランス・バスは、ここが終点。 あわてて「地球の歩き方」をチェック。 個人旅行ですから、宿には 自力でたどりつかねばなりません。 広場から、ホテルはすぐとあります。 広場から12本の道路が放射線状に出ています。 シャンゼリゼ大通りを12時の方角とすると、 お目あてのMac Mahon(マクマホン通り)は8時の方向。 「おい、こっちだ!」 先頭に立ちます。 カフェの前に、置かれた椅子は5列、ぎっしり。 大勢の観客の前を、横切るのは、 まるで舞台俳優になったみたい。 照れます。 ゆるやかな下り坂です。 気分がチョッピリなごみます。 「あそこよ!」 今度は、奥方がお手柄。 わずか100mほど先の建物を指さしています。 「ああ、あれか」 3つ☆マークの赤い看板が目印。 Etoile Park オフィスのような玄関です。 「近いわねえ、近いって楽ねえ」 オトーサン、 武者ぶるいをしました。 「いよいよ、ホテルに着いたなあ」 機内でおぼえたてのフランス語をしゃべります。 "Je voudrais faire le check-in." (チェック・インしたいのですが) "Je m'appelle OOO." (私の名前は、OOOと申します)


*5 エトワール・パーク

オトーサン、 何とかチェックインを終えます。 といっても、何とかフロントのひとと話がついて、 そう広くはないロビーから 先に着いているはずの娘の部屋に電話しただけ。 なかなか出てきません。 「シャンゼリゼにでも遊びに行っているのか?」 あきらめかけたとき、娘の声。 「いま、お風呂に入っていたのよ」 そんなことで、2階の24号室へ。 2階といっても、パリでは、3階。 1階は、レ・ド・ショセ、2階が3階なのです。 「こんなエレベーターってあるの? 「おれも、はじめてだ」 1メートル四方の息がつまる狭さ。 エレベータを降りて、狭い廊下の突き当たり。 ドアをノック。   「おお、久しぶり」 タオルを身体にまきつけた美人のお出迎え。 勿論、娘にきまったいます。 「やあ、何て狭い部屋だ」 ビジネスホテルよりも狭いのではないでしょうか? そこに、エキストラ・ベッド。 寝てみましたが、曙の気持ちがよーく分かりました。 ベッドから足がはみでるのです。 足がスースーして気持ちのいいこと。 「あたしがそこで寝るわよ」 奥方が申し出てくれますが、 「おれ、慣れっこだから」 山荘でも、オートキャンプ用に買った キャンバスベットで寝ています。 寝返りを打つと、転落死、 てーなことは、ありませんが。 「あたしのNYのアパート部屋の半分くらいしかないのよ。 でも、ここバスルームがいいのよ」 「おお、エアコンもあるじゃないか」 「朝食が無料ですって?」 奥方、地球の歩き方の364ページも読んでいたようです。 「地球の歩き方持参の読者に宿泊費の割引をお願いしてあります」 奥方、計算も上手です。 「普通に払えば、11ユーロ。 3人で22ユーロでしょう、 6泊もするのだから、馬鹿にならないわよ」 いま、正確に計算してみましょうか。 22×6回×135円=132×135=? いま、電卓がないので、この辺にしておきましょう。 「でも、この割引は予告なしに廃止されることもありますって 書いてあるぜ」 「ちゃんと調べるあるわよ、ダイジョウブだって」 奥方が、娘をスターをあおぐように見ます。 「リッパになったわねえ」 オトーサン、 翌朝、目が覚めて時計を見ると、もう11時! 「そうか、まだ現地時間に直していなかったんだ」 空港で買ったばかりのICコーダーをチェック。 液晶画面に現地時間が表示されています。 午前4時。 1時間ほど我慢しましたが、もう寝ておれません。 川の字に寝ていますから、 静かにと心がけても、ガタガタ、ゴソゴソ。 娘が起きて、ニヤっと笑います。 起こしてしまいました。 あきれているのか、怒っているのか、 そのどちらかにちがいありません。 ヒゲをそり、歯もみがいて、 下のロビーへ。 眠そうな顔のオニイサンがいるだけ。 ロビーといっても、豪華ホテルのそれとはちがって まあ大きなお宅の応接間程度のもの。 でも、流石は、パリ。 ソファもテーブルも垢抜けています。 agreableなのです。 英語でいえば、Comfortable。 ひとことでいえば、落ち着けるのです。 このエッセイを流れる気分の生産地でもあります。


*6 ポンスレの市場

オトーサン、 エッセイを書き終えて時計を見ます。 「もう午後12時だ」 でも、現地時間は、7時。 「市場に行ってみるか」 カフェは、まだ開店していないでしょう。 早起きしているのは、市場くらい。 幸いというよりも、 ホテル選びのときに頭に入れておいたのですが、 歩いて数分のことろに、ポンスレ市場があります。 昔、市場めぐりをして、 サン・カンタンも、ムフタールも、ビュッシも、 行ったことがあります。 もちろん、このポンスレ市場も行きました。 「確か、テリーヌを買ったつけ」 「そう?よく覚えていないわ」 参照: 「地球の歩き方」221p「町なかの市場」 オトーサン、 朝の散歩を楽しみました。 最初は、パリの治安悪化を心配していましたが、 まあダイジョウブそうです。 爽やかですし、街角それぞれに風情があります。 街路脇の溝を水が勢いよく流れています。 緑色の制服のおじさんが、清掃中。 「パリだなあ」 ホウキの先が緑色、しかもオジサンときたら、 パイプをくわえて鼻歌まじりなのです。 この界隈で、よくみかけるのが、カフェ。 やはり、有数の観光地なのです。 地味な色づかいのマクドナルドもありました。 コインランドリーも、発見。 駐車場代は、1時間何ユーロか忘れましたが、 「銀座より安いなあ」  下っていって3ブロック、 大通りに面して、 MONOPRIXがありました。 小型スーパーのチェーンです。 KOOKAIもありました。 住んでいる晴海トリトンにもあって、 「空海をもじったのか?冴えない店だ」 パリの店のようです。 オトーサン、 5分足らずで、もう市場です。 築地市場もそうですが、早い時間は関係者だけ。 トラックが大通りに横づけされ、 おじさんが手押し車に、レタスの箱を7つ乗せて、 お店に運搬中。 若いお兄さんは、10箱満載で、これはシトラス。 まだ、お店の開店準備で、 おじさんが店先の台にぶどうを丁寧に並べています。 「おお、うまそうだ!」
photo:Marche 思わず、枝つきのこぶりのトマト6ケをゲット。 紙箱に無造作に入れられたイチゴもゲット。 おねえさんが値段を叫びます。 しばらくぶりのフランス語ですから、 聞き取れません。 「ケーンズ」とかいいました。 有名な経済学者ケインズのはずはありません。 "quinze"(15)のことでしょう。 10ユーロ紙幣を出したら、2.85ユーロ戻ってきました。 買い物成功で、次はパン屋。 PAUL。創業は1889年とか、 先客があって、おばあさん。 いかにも毎朝のパンの買出しが楽しみという感じ。 アフリカ系の女店員とおしゃべり。 ようやく気付いてもらって、 こぶりのまるいチョコ・デニツシュを3ケ。 これは、キャッシャーに1.05ユーロと出たので、 支払いにフランス語が不要でした。 オトーサン、 帰り道、クルマに注目。 小型車ばかりです。 歩きながら、車名をICレコーダーに吹き込みます。 「えー、まずクリオ、 次に、プジョー206、いやちがった306だ。 これ何だろう?リアが面白い形している」 後ろに回ってチェック。 「そうか、これがメガーヌなんだ」 そんな調子で、売れ行きを計ると、 ルノーがクリオ、ツインゴ、メガーヌを擁して7台 プジョーやシトロエン連合軍の4台よりも優勢でした。 あとは、ワーゲンがゴルフとビートルの2台、 フォード・フィエスタが1台。 オトーサン、 部屋に戻って、早速、パンを食べました。 次にトマトとイチゴ。 奥方も、娘も、まだ寝ています。 「よく、そんなに寝ていられるもんだ」 奥方が物音に気付いて起きてきて、 「あなた、洗わないで食べるの?」 そう小声で叱られましたが、いい味でした。 トマトは、昔の味がしましたし、 イチゴの甘いこと、これを完熟というのです。 日本のイチゴもいいですが、 これを味わってしまうと、水気ばかり多くて、 本来の味がないような気がします。


*7 アレジア?

オトーサン、 ようやく起きた奥方と娘を市場へ案内。 市場のカフェで朝食。 ギャルソンがコーヒーを運んできました。 小さなカップ。 さっき買ってきたPAULのパンを食べます。 出勤する若いひとが前を通過していきます。 オトーサン、 食べ終わった娘にいいます。 「市場見ようか?」 「....」 どうも、そんな気分ではないようです。 彼女の頭の中は、買い物は今日一日しかない。 明日は、パパの用につきあって、 丸一日が無駄に過ぎる。 今日という聖なる日をあれこれ指図されたくない。 まあ、オーバーにいうとこんな感じでしょうか。 シャンゼリゼに戻ります。 観光案内所とシティバンクに寄ります。 「軍資金がないとなあ」 NYでは、昨年、暗証番号の誤記入で、 まったくお金が下せなくなりましたが、 パリではどうでしょうか? 「あー、よかった。 300ユーロあれば、足りるかなあ」 シャンゼリゼ大通りは、いつきても、気分爽快。 今回は、通りのあこちに垂れ幕。 TOYOTAマークがあふれています。 「アペンシス発売のPRか?」 「ちがうわよ、世界陸上のよ」 「そういえば、来る途中、エールフランス・バスから サン・ドニの競技場が見えたなあ。ぞろぞろ歩いていた」 オトーサン、 さっさとメトロに向かう娘に聞きます。 「おい、どこに行くんだい?」 「アレジアよ」 「アレジア?そんなとこ、知らんなあ」 「問屋街なの」 そんなことで、何も分からぬまま、娘の後をついて 行きに乗ります。 メトロの車内では、例によって、音楽を聞かせては、 お金をせびる男がいました。 みんな視線が合うのをよけています。 オトーサン、 「チャンス!」 そっと気づかれないようにICレコーダーを操作。 RECにして、音楽を記録しました。 「へへへ、儲けた!」 後で、チェックしたら、録音されていませんでした。 まだ、操作に不慣れなようです。 ナシオン(Nation)行きに乗って、 ダンフェール・ロシュロー(Danfert Rochereau)乗り変え、 2つ目が、アレジア(Alesia)。 オトーサンたち、 メトロを出ました。 にぎやかな車の騒音。 それに負けない大声でのおしゃべり。 救急車は、プーホー・プーホーと叫んでいます。 みると、交差点のまわりに何本もの通り。 「どこが、アレジア通りだろう」 ここは、流暢?なフランス語の出番です。 おばさんをつかまえて、 "Pardon madame.Ou sont l'avenue Alesia?" (アレジア通りは、どこですか?) "la-bas" これで通じるはずが、おばさん、クビをふるばかり。 2人目のおばさんに娘が英語で聞いています。 どうやら英語が通じたようです。 「分からないってさ」 どうも、この辺のひとではなさそうです。 そうなのです、 「結構、パリは英語が通じるわよ」 娘が、よろこんでいました。 オトーサンたち、 ステキな街路樹の通りを散歩。 パッシー通りよりも庶民的ですが、活気があります。 「花屋さんがあるけど、見なくていいのかい?」 「買っても、持ってかえれないからね」て みんな上機嫌になりました。 「昨日なんか、 オレ、日本語の分かるフランス人に英語で話しかけて、 ”困ります”なんていわれちゃった」 「サイテー!」 「ハハ、だって、目の前にいるのが外人だから、 つい外国語を使ってしまうんだ」 「あ、あそこに標識が出ている!」 オトーサン、 その後の数時間は、苦役でした。 娘にとっては、パラダイスだったようです。 婦人服や下着売場には、出入り禁止ですし、 品物選びに異常なほど時間をかけるのです。 幸い道路のあちこちにベンチがあるので、 座って、写真を撮ったり、 飽きるとICコーダーを再生します。 派手な入口のMONOPRIXに入って、 帽子を買ったりもしました。
photo:MONOPRIX オトーサン、 娘たちと再会。 元気を取りもどして、 「は、は、は」 冗談を言いはじめます。 「なあ、 パリのエスカレーターは、右側に立ち止まる。 大阪と同じなんだ。 ところで、NYは、どっちなんだい?」 「左側よ」 「それじゃ、東京と同じだ」 このまえTV番組でクイズをやってたよ。 東京は左側、大阪は右側ですが、 さて、その中間のどこの駅で、右側に変わるのでしょう? いろいろな駅名をあげて、回答者に決めてもらうんだ。 それで、正解はどこの駅だったと思う?」 「....」 「名古屋でも、岐阜羽島でもないんだ。 東京と同じで左側。 京都や米原は、大阪と同じ右側」 「...」 「それで、新幹線ではなく在来線に乗りかえて 一駅づつ調べていくことになった。 どこが境だったと思う?」 「....」 「正解は、垂井駅。 この駅のエスカレーター、 左右の真中に黄色い線が引いてあって、 乗客は、左側、右側、きれいに同数だった!」 「....」 「それでさ、関が原は、どうかとおもって、 これも、わざわざ調べに行ったんだ。 ほら、西軍と東軍が戦った天下分け目の戦いで有名だろう。 この駅なら、左側、右側、どちらが優勢か? 「? ? ?」 「それで、結果はどうだったとおもう?」 「分かんない」 「結果は....この駅には、エスカレーターがなかったんだ」 「あはは」 ようやく娘が笑ってくれました。 オトーサン、 レジアからの帰り道、娘に宣告されます。 「あたしたち、これから買い物に行くから」 「まだ、買うものあるのか?」 「...」 そんなことで別れたのは、 午後3時ちかくメトロのシャトレ(Chatelet)駅。 「日本時間では、午後10時か、 道理で眠いはずだなあ」 パリ旅行はステキですが、 この時差ってやつが大問題です。 シャトレ駅の構内では、 何と、モーツアルトの弦楽四重奏曲が聞けました。 終わると、やんやの拍手。 こんな風景にお目にかかれるのも、芸術の都パリだけでしょう。 この駅は、乗換えが面倒なので、一旦外へ。 まぶしい午後の光で目がさめます。 結局、世界中のお上さんでごった返すリヴォリ通りを コンコルドまで4駅分を歩き通しました。 途中、アンジェリーナを発見。 「ははは、日本人ばかり、みんなモンブラン食べてる! たいしてうまくないのになあ」 地球の歩き方」も、そろそろ、 この店のモンブランを推薦するのをやめたらどうでしょうか。 オペラのほうがうまいと保証します。 オトーサン、 「昼間からホテルに戻るのも何だし...」 急に気が変わって、 ジョルジュ・サンク(George V)で下車。 シャンゼリゼの雑踏に出ます。 カフェ・ジョルジュ・サンクは、超満員。 「はは、どうせ、ジョルジュ・サンクに泊れないひとが お茶してるんだろう」 見ると、大通りの反対側のフーケも、超満員。 「お茶は、やめて映画にするかぁ」 まだ、フランスでは、映画を見たことあありません。 オトーサン、 その後、2時間くらい暗闇のなかで、 フランス語のシャワー。 正直、チンプンカンプンでしたが、 でも、キス・シーン、出産のうめき声、 酒場での派手な喧嘩など、言葉なんか不要です。 ステキな音楽もあって、楽しめました。 「まぁ、半分くらい寝てたけど」 いずれ、オトーサンのほのぼぼ映画批評に登場するでしょう。 あと、機内で見たジャッキー・チェンの "Shanghai Noon 2"も、取りあげましょう。 「フランスの映画館って、どうでした?」 入る前は、そんな疑問があったのですが、 「日本とまったく同じでした」 「で、題名は?」 「忘れたなあ」 ああ、そうでした。 手帳に控えてありました。 "Le Cout de la vie"(人生の一断面)、 4組の男女の織りなす物語でした。 フランス映画は、ハリウッドとちがって、 日常生活での波乱をテーマにするようです。


*8 リヨン駅は、難所

オトーサン、 「さあ、いよいよ、今日はカルフール行きだ」 事前にカルフール・ジャパンの広報に電話して、 その所在地を教えてもらっています。 ケッチャム千香子さんからは、 パリ郊外のMELUNという町のそばにある、 最新の店舗と、その近くの在来型の店舗の 双方を見比べたらいかがということでした。 新店舗は、Carre-Senartという新都市に出来たばかり。 大きなショッピング・センターのコア施設だということでした。 商業界の雑誌には、カラー写真入りの紹介記事があります。 「うーん、こちらは、面白そうだな。 でも、古いほうはなあ?」 オトーサン、 最初、RER(高速郊外鉄道)で行くつもりでした。 でも、トーマスクックの時刻表を見ると、 パリのリヨン駅(Gare de Lyon)からの急行があって、 こちらを利用したほうが、時間が短くてすみそうです。 「どうしようかなあ、本数が少なそうだし」 迷っていたら、娘が既にインターネットで調べていました。 お昼頃の汽車で行くというので、 「遅すぎないか?」 「南仏行きの予約もするから、いいの」 そういうことでした。 オトーサン、 その日は、朝6時に起きて、ロビーでパソコン。 それにも飽きて、昨日と同様、ポンスレの市場へ。 PAULでパンを買って、市場のカフェでひとりで朝食。 「どうせ、遅く起きるんだろう」 3時間も、起床時間がずれています。 ホテルに帰ると、ふたりがロビーに下りてきたところ。 「あれっ、どこに消えたんだ?」 そうなのです。 てっきり、ロビーの片隅で食べるものと思ってましたが、 そうではなく、地下1階に、朝食のビュフェがありました。 席数が10あまりで超満員。 無料朝食サービスは「地球の歩き方」だけではなさそう。 娘と奥方は、すでに2人席。 「あなた、空いているところで食べたら?」 そう言われて、ちょっと、ムカつきました。 オトーサン、 ようやくホテルを出る段になって、 外は、雨。それも激しい雨になりました。 「こういう時は、このホテル、ありがたいなあ。 いい場所にある。駅に近い」 メトロの地下道に逃げ込みます。 リヨン駅まで約15分で、10時前には到着。 駅の構内に出ました。 ひとびとの声がこだましています。 長距離列車の駅は、旅情があります。
photo:Gare de Lyon 「どこが切符売場かしら」 「おお、ヘップバーンの写真がある」 「いい駅ねえ。オルセー美術館みたい」 19世紀といえば、 建築素材がそれまでの石から鋼鉄に変わった時代。 軽くて自由な形のつくりやすい鋼鉄を使いはじめた 建築家の喜びが伝わってきます。 「うわー、TGVだ」 「たくさん並んでる!」 10両くらい鋭い鼻先が並んでいるのは、壮観です。 娘、 「さあ、予約をしなくては」 ところが、広い構内、どこに切符売場があるのか、 分かりません。 「しまった、トーマスクックを持ってくればよかった」 たしか、駅の構内図が出ていました。 何べんも聞いてまわり、地下に降りて探します。 見あたらなくて、1階に戻り、もとのTGVの場所へ。 「何だ、反対側だったんだ」 ぐるっと、ひとまわりしたことになります。 ずらっと窓口が並んでいます。 50mくらいはあるでしょうか。 それぞれに行列。 「時間、間に合うかなあ?」 「ダイジョウブよ、口出しないで」 ユーロパスの利用は、安くなるのですが、 手続きがやけに面倒です。 パリからアビニョン、 アビニョンからニース、 ニ−スからパリと3回分、3人分の乗車券を買いましたが、 乗車券を買うのに、パスポートまで提示するのです。 「ようやく、これで終りかい?」 「ちがうのよ、明日乗るときに、 もう一度確認が必要なんですって」 「へえ、どうなってるんだ」 オトーサン、 「肝心のムラン行きの切符はどうなってるの?」 「パパは、黙ってて」 時間が迫っているので、娘も気が立っています。 こちらは、簡単。 すぐ横にローカル列車の切符売り場があるのです。 「いやぁ、面倒だったなあ。ご苦労さん」 みなさんも、個人旅行をするときは、 よく下調べをしておくことをおすすめします。


*9 ある青年

オトーサン、 「ああ、これで、やっとカルフールに行ける」 思い起こせば、視察を決心してから、長い年月でした。 ちょっとオーバーか、大分オーバーかも。 でも、今回のパリ行きに、 奥方と娘の協力をとりつけるのは大変でした。 「ようやく夢にまで見たカルフールだ」 オトーサン、 「すごい混んでるなあ」 3人分の座席が確保できて、みな上機嫌。 さっき行き先を聞いた青年に呼びかけます。 「なあ、キミ、よかったら、隣にこないか」 それからが、面白いの何の。 青年は、大学3年生。まだ幼さが残っています。 「スイマセン、いろいろ愚痴をぶちまけてしまって」 住んでいるのは、小田急の百合が丘。 「むかし、生田に住んでたよ」 というと、すっかり心を許してくれました。 「どこに行くの?」 「フォンテ−ヌ・ブローなんです。 リヨンにボランティア留学をして35日目、 お金もなくて、ロクなものも食べられないんですよ。 最後は、ひとり旅になってしまって、 話相手もいなくて、さびしくて、さびしくて。 あと3日だ、あと2日だと指折かぞえて。 日本に帰りたくて、帰りたくて」 「だって、日本に帰ったら、就職地獄。大変だ」 「そうかもしれませんねえ」 「いい思い出になるわよ」 奥方も息子相手のように励まします。 「そうかも知れないけど、そうなんですかねえ」 かれは、半分ノイローゼ気味、 もう将来を考える余裕なんかないのでしょう。 「なにか、食べたいものある?日本に帰ったら」  「...」 奥方、 「分かるわねえ、その気持ち。 あの娘なんか、ロンドンの留学から帰ってきて、 白いゴハンをみたら涙ぐんでいたものね」 「...ああ、言わせないでください」 青年は、絶句していました。 オトーサン、 「キミは、幸せだよ。海外旅行が体験できて」 「でも、これがはじめてじゃないのです。 づいぶん、あちこち行きました」 「えっ?」 「...メキシコ、ペルー、ギリシャ、イタリア」 「へえ?ペルーも行ったの?どうでした?」 奥方が、早速、取材にかかります。 「中学生のときからペルーに行きたいと思ってて、 TVをみたり、ビデオを見たりしていて、 高校生になったとき、ようやく一人旅をしたんです。 まず、クスコに行って...」 青年の長い苦労話は、この辺で省略しましょう。 「あっ、もうムランだ」


*10 カルフール視察

オトーサン、 「雨が上がった、よかった」 ムランの駅では、奥方が記念撮影。 最後に改札を出たので、 タクシーがあるか心配しましたが、 幸い、数台、客待ちをしていました。 クルマは、ルノー。 見慣れないので、後ろに回って車名を確認。 REGUNAとありました。 「よかった、よかった。これ何の街路樹かな?」 すぐに街を抜け、郊外住宅地を走っています。 「アメリカと同じようなものだな」 「パパ、それがちがうのよ、壁の色、見てよ」 オトーサン、 ICレコーダーに記録を開始します。 今日の視察のために、買ったのです。 「ガソリンが、1ユーロですね」 「パリまで50km」 「ポプラ並木だ、すばらしいや」 「両側は、草原か、畑かな。  ウォルマートと似たような場所にありますね」 「こんなところ歩いているひとがいる。 どこへ行くのか知らないけれど、いつ着くか分からない」 「高速道路みたいですね」 2車線で制限速度時速70kmなのに、 みな100kmでとばしています。 「そういえば、前、走ったな。カローラで」 10年以上前でしょうか、 パリ郊外をレンタカーで走ったことがあります。 左ハンドル、慣れない道、そしてこの速度。 「あんなに怖かったことなかったわ」 オトーサン、 カルフールの最初の標識が出ました。 「ほんとうに何もないところに作ったんだ。 こりゃ、驚いたわ」 「ほんとに平らなところだ。平野なんだなあ、パリの郊外は」 「フランスって、日本より広いのかね」 Centre Commercialの表示が出ました。 ショッピング・センターです。 日本とちがって、フランスでは、 ロワイヤル法が制定されて、 大型店が小売商を圧迫しないように 都心では活動できなくなっているのです。 「こりゃ、広いわ。駐車場が」 「すごい数のクルマが止まっている。 何台くらい止まれるのかね」 「右手に、ちょっとしたお店がいくつかある。 そうか、カルフールは、コア施設なんだな」 「これが、最初のカルフールの店かな。 低層の施設、1階建てだ」 オトーサン、 店内に入ります。 「運転手さんには、30分待ってと言っといたからね」 旧店舗のほうは、さっと見終えようというのです。 カルフールの左手に大きな店が並んでいます。 「C&Aって、何?」 「カルフールの系列店なんじゃないの。 ...クリーニング屋、ヘアサロン、1時間現像、レストラン、 ファッションのお店も、何店か入っているな。 ああ、何でもあるな」 じゃ、ぐるっとひと回りしましょう」 「パン屋があったり、アイスクリーム屋があったり、 狭山店とおんなじで、ショッピング・センターになっている。 広い通路があって... 最初に出来たときは、みなびっくりしただろうね」 カルフールは、その奥にあって、デーンとレジの長い列。 「店内の案内図ないの?」 「ああ、案内図ね」 娘のほうが、よほど専門家です。 「ここはね、陳列棚の高さが2m70cmもあって、 古いタイプなんだ」 と名誉挽回を試みます。 「ウォルマートよりも洗練されているでしょ。 カラー・コントロールがうまいよ、この店は」 古い店と聞いていましたが、どうしてどうして。 まるでお花畑に迷いこんだようでした。 「日本の店は、色、ケチったな。 このくらい派手にやればいいのになあ」 「いやあ、あの国は、渋くていいんだよ」 「日本人は、地味好みと思いこんでいるのでしょう」 と奥方がフォロー。 「フランス人の色彩感覚は、誰も敵わないわねえ。 世界一ね」 「そうだな」 娘、俄然、興味をもったらしく、質問。 「カルフールて、どういう意味?」 「十字路。最初の店が交差点にあったんだ」 「大きな業者なの?」 「ああ、フランスでは、ダントツのナンバーワン、 世界では、ウォルマ−トについで、2番目。 海外進出では、世界一」 「あれ、なあに?」 「ああ、あれがこの店の売り物なんだ。ハ、ハ。 店員たちが、ローラースケートで走りまわるというのは。 日本でも同じだよ」 オトーサン、 女店員をつかまえて取材を開始。 知的な感じの若い黒人女性です。 "Pardon madame.Est que c'est le premier magasin de Carrefour?" (これは、カルフールの最初の店ですか?) 「....」 反応がありません。 "When this store open?" "When????" こりゃダメだ、英語も通じません。 "Est qui'il n'ya pas le prepose important qui peut parler anglais?" (英語がしゃべれる偉いひとはいませんか?) 女店員、右手を指さして "Accueil." どうやら、そこが案内所のようです。 先客がいて、なかなか応対してもらえません。 返品か、クレーム受付コーナーのようです。 「おーい」 娘を呼びます。 カルフールの歴史を書いたパンフレットでも貰おうと思ったのです。 娘の流暢な英語なら、通じるでしょう。 でも、どこに行ったのか、姿がみえません。 とりあえず、置いてあったパンレットをみなかき集めます。 あとでゆっくり読みましょう。 それでも、どうやら1974年4月に開店したことを 突きとめました。 ほんとうは、きちんと取材予約でもしておけばいいのでしょうが、 小売業の場合、変にとりこまれる危険を冒すよりも、 まずは、ひとりの買物客として自分の目と身体で感じることが大事。 これが、オトーサンの信念なのです。 オトーサン、 奥方と娘を発見。 鞄の専門店にいました。 娘が食いいるように、四角い鞄をみています。 「危ない。危ない」 視察が30分では終わらない予感がしてきました。 買わされる予感もします。 ところが...、 「うわー、しゃれてる、ステキだね」 この店の鞄、センスがバツグンなので、 自分用の鞄がないか探しはじめる始末。 奥方も白い肩掛け鞄にグラリ。 「こんなの、いいいじゃないの、ねえ」 「こんな鞄、肩にかけて銀座を歩いたら、みんなが振り返るぞ」 奥方にも購入をすすめて、鼻歌まで出る始末。 ミイラ取りがミイラになってしまいます。 結局、娘に四角い鞄を買わされました。 たくさんの小さな箱があるところをみると、 宝石入れなのでしょうか。 オトーサン、 買物客に突撃取材。 2人の中学生の男の子と一緒の品のいいおばさん。 "Pardon madame.Parlez vous anglais?" "Oui,un peu." "Do you know Carrefour Carre-Senar?" "Yes." "Have you ever been there?" "Yes" "What is your impression?" "Tres jolie." "Ah oui. Vous acheter qelque chose toujours ici?" "Because,cinq minute from my place." "Only 5 minutes!" "Oui." "Merci beaucoup,madame." 頼りない取材ですが、2つ大事なことがわかりました。 1)Carre-Senarの新店は、きれいだということ。 2)しかし、旧店舗のほうが近いから利用しない。 小売業は、商圏設定が大事ということです。
photo:Carrefour Viliers-En-Biere オトーサン、 ようやく店内に入ります。 もう予定していた時間が迫っています。 駆け足で見て回ります。 「ワイン売場は、何10メートルもあるね。 すごいね。バカルディか」 立ち止まって見ていると、試飲をすすめられました。 若い男性店員、早口に効能書き。 聞き取れません。 "Vourez vous gouter?" "Ah,non." その場をすばやく離れます。 鮮魚売場にきました。 「魚もこうやって、 大きな平台に並べて、豪勢だね。 3m×2mくらいに仕切ってさ。 50メーター・プールみたいな広さ。 なに感動してるんだ? エビが捨てるほどある? Plateau de Fruitsだ」 「Bar(スズキ)、Mourne(タラ)もある。 あの丸魚、何だろう。 2ユーロってあるから、一匹200円くらいか」 ここは、魚市場のように掛け声もにぎやかです。 奥方、 「お花売場、きれいね」 紙製品売り場にも感激。 「レース・フラワー、いいわね」 日本では入手できない綺麗な柄の紙皿が並んでいます。 オトーサン、 「ああ、Boucherieとあるから、ここ、お肉売り場だな」 この売り場の飾りも一風変わっています。 BBQの光景を連想させるような絵柄。 「センスは、バツグンだな。 相変わらず、大きなお肉だなあ。 ステーキが、いくつ入っているのか、 1Kgで、12ユーロ。 あー、こちらは、いくら? 4Kgで24ユーロは、安いなあ」 娘が立ちどまります。 「あれ、何見てるの?」 見ると、若鶏の丸焼きが回っています。 あ、あれか、あれ、日本で失敗したんだ。 日本には、そんな習慣ないんだ。 せいぜいクリスマスだけ」 「ああ、そうなの?」 「日本人は、食が細いからねえ」 奥方がフォローしています。 次は、野菜・果物売場。 「これ、何だろ?」 「メロン」 「この大きいのは?」 「スイカよ」 「Water melonっていうんだ」 おじさんが切って売っていました。 パンのコーナーへ。 「ここ30メートルくらいあるかな。 圧倒的なパンの集積だ。 やはり、フランスは、パンの国だ」 洋服、靴下、下着、靴、鞄の売場へ。 「靴だらけ。でも、安物ですね。 ウォルマートと同じ」 「ああ、DVDを売ってる。 "ロード・オブ・ザ・リング 2つの塔"か。 12.99ユーロ。 安いね、1500円。そうでもないか。 あ、パソコンも売ってますね。 1939ユーロ、まあ、どうってことないな。 突き当りがテレビ売り場だ」 オトーサン、 時計をみます。 もうお昼、制限時間です。 「もういいや、出よ、出よ。 ちょっとした宝飾品売場もあるな。 2階がインテリア・家具か」 結局、この旧店は、全部見て回れませんでした。 また、何も買いませんでした。 やや後ろめたい感じで、レジを通過。 店員に一声置いていきます。 "Au Revoir!"


*11 視察、その2

オトーサン、 「次は、カレ・セナール(Carre-Senart)だ」 クルマは、フランスの典型的な農村を走っています。 「収穫が終わったな。何を栽培していたのだろう?」 平野が終わって、丘陵地帯へ。 ときどき、交差点へ。 と言っても、円を描くように回るのです。 「これ、何って言ったけ?」 「ランナバウトよ」 奥方、 「あ、見て見て!」 川幅の広い川を渡ります。 森の中を静かに流れています。 "Qelle est le nom de cette riviere?" "La Seine." 「えっ、これがセーヌ川?」 「へえ、そうなの?」 日本の川のように護岸工事をせずに済むのは、 なぜでしょう。 「日本の川も、こういう風だといいのになあ」 オトーサン、 今度は、森のなかの道を走っています。 「あ、標識がある、鹿が出るんだ」 「そうねえ」 「八ケ岳の鉢巻道路みたいだ」 「こっちのほうがいいわよ」 「そうかなあ」 「また、平野だ。空に向かって走っている。 こんなところにカルフールがあるのかなあ? ほんとうに、何もない田舎ですねえ」 そんなことを言い合っているうちに、 ようやくカルフールの標識が見えました。 広大な施設が前方に広がっています。 「駐車場も馬鹿でかいなあ。 この感じ、どこかで見たような気がする。 ああ、そうだ。 北総ニュータウンにあるジョイフル本田だとそっくりだ」 おなじようにガソリンスタンドも併設しています。 "Merci beaucoup" 運転手さんに、チップ込みで50ユーロ払いました。 帰りの足が心配なので、 念のために電話番号を手帳に書いてもらいました。 オトーサン、 「あー、ようやく店内に入りました」 ICコーダーの出番です。 「えー、早速、右手にマクドナルドがありますね。 そのおとなりは、あ、シネマ・コンプレックスです。 えーと、いくつ映画を上映してるのかなあ。 1,2、3、4、5、6、7、8、9。 そう、9つです。  いや、ちがう。その倍の18です。大きいなあ。 おお、カリブの海賊もやってる」 「えー、レストランも多いですねえ」 「お次は、ファッション関係でしょうか」 「あ、Etamがある」 これは、娘の声です。 Etamは、日本にも出ていますが、 下着部門だけ。 雑貨部門のほうが可愛いとか。 「あなたの好きなH&Mも、ZARAもあるわよ」 これは、奥方です。 「こりゃ、巨大なショッピングセンターだ!」 やはり、ダントツのカルフールが入るとなれば、 一流のテナントが揃って入店するのでしょう。 ひとしきり、その規模に驚いたあと、 今度は、その超モダンなデザインや設計に驚嘆します。 Ascenseur(エレベーター)なんか、その典型。 シースルーのモダーン・デザイン。 ひまわり畑を舞い降りていく感じ。 トイレもウルトラ・モダーン、美術館のフロアのようです。 「こりゃ、フランスの国威発揚みたいな施設だなあ」
photo:Carre-Senart 娘、 「どこに、カルフールがあるの? 店内案内図はないの?」 「一体、どこにあるのでしょうか。 ...ああ、あった、あった。あそこだ!」 ようやくお目当てのカルフールがみえました。 淡いブルーで統一されて、まるで水族館の入り口みたいです。 「すごい、レジが並んでいる。 あれっ、予想とちがう。陳列棚が低く感じられないなあ。 2m20cmと聞いていたが」 色彩も旧店よりも、ずっと控え目です。 でも、慣れてくると、 このほうが、ずっと洗練されているように感じてきます。 デザインって、不思議なパワーを持っているものです。 オトーサン、 「もう午後1時15分だ。 お腹減ったなあ。カルフールを見る前に、昼飯にしょうや」 「そうね。トイレどこかしら?」 「それじゃ、トイレは、入口のほうだから、 レストラン街のほうに戻ろうか」 「そうねえ」 「PAULがある!パリと同じだ。 あそこのパン、美味しかったから、ここで食べよう」 「そうね」 「そうしましょう」 幸い意見が一致して、店内へ。 小柄なマダムが仕切っています。 それぞれ、サラダ、キッシュ、ジャンボ・ハム・サンドを、 頼みます。 「美味しいわね」 「このパン、絶妙な味だ、このゴマ」 「ゴマじゃないわよ、ケシの実よ」 「ちょっと、このパン、食べてみて。 まるでおせんべいみたい。でも、中はやわらかいの」 3人とも、大満足でした。 日本のショッピング・センターも、 もっと美味しいお店をいれてほしいものです。 これが、最高の顧客の囲い込みだと思うのですが。


*12 視察、その3

オトーサン、 「どこから入れるのかなあ」 BIENVENUE(ようこそ)とレジ全面に大書してありますが、 肝心の入口がどこか分かりません。 「ああ、あっちだ」 旧店で娘が買ってしまったバッグや 手荷物を入れた大きなカートを動かしていくと、 1ケ所しかない入口が遠くに感じられました。 「どう考えても、このカート、大きすぎるよな。重いし。 まわりを見まわしても、あまり使っているひと、いないよな。 もっとも、今日は、平日だからかも」 娘に説明します。 「...このカート、幕張で導入したけど不評で、 狭山では、ほかのスーパーと同じになっていたよ」 「は、は」 「さて、どちらから回ろうか? 主通路をまっすぐ行くか、 それとも、左からぐるっと回っていくか」 右手が、ビデオや家電製品売り場、 左手は、広い化粧品売り場になっています。 「あたしたち、ここ見たいから、 パパ、ひとりで、見に行っておいでよ」 オトーサン、 ICコーダーでの録音を意識しながらの一人旅。 「えー、レジに沿って右手に歩いてきました。 壁に沿って家電用品ですね。 DVDレコーダ−が249ユーロですね 安いのでしょうか」 主通路に戻ります。 「えーと、左手に男性用のウエア。 ズボンがあります。 安物ですね、明らかに素材が安物ですね。 いくらでしょうか?27ユーロ、27ユーロね」 「えー、右手は鞄ですね。大きな鞄だ。 通学用が多いな。 新学期がはじまるから力をいれてるのかな。 鞄は詳しいからね。 まあ、どうっていうことはない安物ばかりですね」 「ここは、鍋。Plateauは皿だな。 家庭用品売り場ですね」 「運動靴が17.9ユーロ、デザインがちょっといい。 このナイキ49.99。まあ、いつのモデルか分かりませんが」 「突きあたりました。上に紙の巨大なPOPのボードがあります。 ベビー家具一式が展示されています。 別にどうってことはない、IKEA風の安物ですね」 「店員がマクラを棚に投げ入れてますね。 商品補充をしてますね。ハハ、失敗して落ちてきた。 あ、今度はダイジュブでした。けわしい顔つきですね」 「あ、ここに2階に上がるオートウォークがあるんですね。 おお、上下4列は、スゴイですね。 でも、2階はあとにすることにして... 左手奥に歩いてみましょう」 「子供衣服売場、 ここは、大型のカートで移動するのは、 ちょっと辛いものがあります。通路が狭いですね。 子供たちが、かくれんぼうをしています。 でも、陳列棚が低くなったせいで、圧迫感はなくなりましたね。 みなが手をのばせば、商品に手が届くくらい」 「こちらの壁は、ずらっとスリッパですね」 「この辺は、もう冬物ウエアですね。 74ユーロだ、ジャンパーが」 「この辺は、何ですか、帽子ですね。 MONOPRIXで買ったお値段が、7ユーロ。 安いですね」 MONOPRIXでは、12.5ユーロでした。 お値段のチェックは、あとで、商品カタログをもらって ゆっくりやることにしました。 オトーサン、 こんな調子で売り場を周回して、 化粧品売場に戻ってきました。 奥方と娘が、まだいました。 ICコーダーの録音経過時間をみると、7分38秒。 歯ブラシの棚の前にいます。 「何、探してるの」 「何か、可愛いもの、ないかと思って」 「ハ、ハ、どうってことないじゃないか。 フツーの歯ブラシをきれいにディスプレイしてるだけじゃないか」 明るく上品に照明され、きれいにカーブを描いた商品棚です。 「...La Promoと書いてありますね。目玉商品。 これで、客足を止めようというわけですね」 オトーサン、 商品整理中の若いフランス人店員に話しかけます。 どうせ、娘たちに待たされそうなので、 ヒマつぶしにもなるので、 この新店舗がいつ出来たかを再確認してみました。 "Pardon Monsier.Je viens de Tokyo Japon pour visiter ce magasin. J'ai une qestion a vous poser." (この店を見に、東京から来ました。質問があります) "Oui." "Dans quelle annee ouvert ce magasin?" (この店、何年に開店したのですか) "un an." 「アンアン?」 まさか、女性誌のことではないでしょう。 "Oui,un an. One Year." 「あ−そうか、1年前か」 "A oui,J'ai compris. Aout ou Septembre?" (はい、分かりました。8月ですか9月ですか) "Septembre." "Merci beaucoup." フランス語が錆びているので、疲れます。 奥方に戦果を早速報告。 「あのね、このお店できてから1年だってさ。 オレの怪しげなフランス語で聞いて分かった」 「そうなの」 「ああ、そうなんだ」 先生に、ほめられたがっている小学生のようです。 オトーサン、 ICコーダーで、10分経過をチェック。 「ハ、ハ、貴重な時間を歯ブラシごときに。 きみたち、展示でごまかされているんだよ」 娘たち、今度は化粧水コーナーへ。 また、さっきのフランス人がいました。 "Pardon Monsier.Regardez ici." バッグに入っていた雑誌記事をみせます。 このカレ・セナール店の紹介記事で、 店内のカラー写真、店長の顔写真、見取り図つき。 迷惑そうにしていた彼の顔が一変しました。 オトーサン、 上機嫌になります。 「ハハハハ」 "Avez vous du temps?" "oui" "...May I copy or scanner this for me?" "Oui,bien sur!" コピーをとらせてくれと言って消えてしまいました。 「ウワッ、ハッ、ハッ、ハッ」 「何笑ってるのよ」 「あいつ、オレの資料、もってきやがった。 コピーしたいんだってさ。取材にきたのに、反対だ」 「アンタもヒマねえ」 オトーサン、 相手にされないので、ぶらぶら。 女店員がやってきて、商品搬入。 棚の脇にあるスキヤナーで値段をチェックしていました。 「これ、ボクたちも使えるのかねえ」 すると、さっきの店員が戻ってきました。 雑誌記事のほかに、細長い箱。 "From Boss.My mini Boss" その場で開けてみると、 カルフルールのマーク入りのボールペン2本。 "Oh thank you. Merci beaucoup!" 店員が丁寧に挨拶して戻っていきました。 「儲けた!儲けたぞ。 この記事をもってきたばかりに こんなすばらしいものをもらえるとは」 「へえ、よかったじゃない」 奥方も見にきます。 「ああ、あれね、ウチにあった雑誌の」 奥方にしてみれば、ゴミがボールペンに化けたようなもの。 まんざらではなさそうです。 結局、この売場だけで、30分も滞留。 奥方たち、何点か買っていました。 つきあわされたおかげで、 H&BC(健康・美容用品)売場の重要性がよく分かりました。 オト−サンたち、 あとは駆け足。 シャワー・カーテンを買っただけ。 2階に行き、食品売り場をチェック。 マルシェ風になっていて、 量り売り、呼びこみ、BGM、場内PRなど、 賑やかなもんです。 「サーモン1匹、まるごとか。棒だらねえ。 おお、エビもカニもいっぱいある! こういう大袈裟な感じがいいね」 オトーサンたち、 連れだって、肉、惣菜、ハム・ソーセージ、チーズ、 そして、パン売場をチェック。 「壮観だね」 「でも、ソーセージは、ドイツのほうがすごいよ」 「そういえば、そうだなあ」 昔、デュッセルドルフの空港で、 うまそうなソーセージの山積みに感動して、購入。 成田の税関ですべて没収されました。 オトーサン、 飲料水売場へ。 大きなスペースで、カラフルでした。 6本パックばかりです。 「バラ売りないのかなあ?」 同じミネラル水でも、ノンガスを探すのが大変でした。 娘、 「これ貰っちゃったよ」 出口近くで、プロモーション用のコーヒー缶をもらったようです。 「もう出ちゃうの? ワイン売場だけでも、最後に見て行こうよ。 棚の列が50メートルはあるだろう。 身体で壮観さを感じてみて!」 でも、娘たちは、ワインには興味なさそうです。 どちらかというと娘は、ビール党。 さっさと通過してしまいました。 オトーサン、 レジも、さほど待たされずに通過。 「ああ、疲れた、もうこれでいいかな、カレ・セナールは。 感想はどう?」 「デザインに負けてしまうのよね」 「世界中のひとが、フランスのデザインに負けてるのよね。 それで、ちやほやされて、あいつら、いい気になっていくのよ」 「でも、あれが仕事となると大変でしょうねえ。 毎年、どこかちがってて、しかも、 前よりよくなくしなくてはいけないのでしょう」 奥方の結論ですが、その通りなのでしょう。 カルフール、頑張っていました。


*13 ニームからアビニョンへ 

オトーサン、 翌朝の9時頃のこと。 「いま、どこ走ってるんだろう?」 「さあ...」 TGVは、ほとんど停車しないのです。 「よかったなあ。間に合って」 連日の強行軍の疲れで、 今朝は娘たちが寝坊して、 危うく乗り遅れるところでした。 パリ・リヨン駅、午前7時20分発。 4分遅れの発車でしたが、順調に走っています。 オトーサン、 軽口を叩きます。 「おれ、観光するヒマないや。 こう、原稿書きがいそがしくては」 「馬鹿ねえ」 そういいながらも、娘も上機嫌。 毎朝、早起きしてパソコンに向かっているのですが、 カルフールの取材記録をまとめるだけで、一苦労。 娘たちが買い物している間を利用して、 ICコーダーを再生して文章化しているのです。 このアビニョンに向かうTGVの車内でも、 もう1時間半も、パソコンに向かっていました。 車窓には、えんえんとフランスの農村風景。 「パパ、コンセントあってよかったわね」 TVGの1等車のコンパートメントには、 テーブル、電気スタンド、コンセント付き。 シートも大きく、色のノセンスも絶妙。 乗り心地もバツグンです。 「もう、モナコ気分ね」 次女が、何と1等車のパスを手配してくれていたのです。 「持つべきものはよい娘。でも、おおみやげが大変だなあ」 オトーサン、 「アビニョンには、いつ着くんだ?」 「心配しないで!パパは」 「だって、もう3時間以上乗ってるんだぞ」 「すこし、遅れてるだけでしょ、よくあることよ」 「ほんとうに、ダイジュブか?」 「任せといて!」 それでも、20分もオーバーすると、 娘も心配になったのか、乗客に聞きにいきます。 どうやら、英語をしゃべれる男性をみつけたようです。 「やけに手間どってるなあ」 娘がその男性と1等車を出ていきます。 「やっぱり、何かあったんだ」 「そう騒がないで、席に着いてなさいよ」 娘がもどってきました。 やや蒼ざめています。 「あのね、このTGV、アビニョンに行かなんですって」 「え?」 「ニーム行きですって」 「ニーム? それ、どこにあるの?」 早速、地球の歩き方を取り出します。 アビニョンの西南40Kmにある都市、 「フランスのなかのローマ」と書かれています。 「ニームまで行ってから、 ローカル列車でアビニョンまで引き返さなければならないの」 「引き返せばいいさ。どうせ近くなんだから」 「でも、本数がないから。 今日中に、ホテルまで着けるかどうか、怪しくなってきたわ」 「まあ、そうなったら、イル・シュル・ラ・ソルグに泊まるのは、 やめて、アビニョンに泊まればいいさ」 「そんなわけには行かないわよ!」 オトーサン、娘に一喝されました。 娘は、ネットでイル・シュル・ラ・ソルグを見て、 すつかり気に入ってしまったのです。 いつの間にか、宿もアビニョンではなく、 その小さな町に予約していました。 「まあ、ニームとかに行ってから、また考えれば」 奥方が取りなします。 オトーサンたち、 10時35分、ニーム着。 駅員に聞くと、アビニョン行きの列車の時刻を聞くと、 「あれがいま出る」とのこと。 別のホームまで、階段を上り降りしました。 「ああ、よかった」 「奇跡的に間に合ったな」 「よかったわねえ。 アビニョンまでどのくらいかかるのかしら」 幸い、隣の席に体育会系の青年がいます。 FILAのマーク入りのTシャツ。 足の爪を磨いていますが、まあ、悪いひとではないでしょう。 この青年、地元のひとらしく、 「アビニョンまで30分だよ」 よほど、ヒマをもてあましているのか、 身振り手振りをいれて、しゃべりはじめます。 「自分は、モスレムだから豚肉は食べない」 「カヴァイヨンに行くといい」 「お城がある」 観光案内もしてくれて、 最後は、歌まで披露してくれました。 ♪Sur le Pont d'Avignon L'on y dance,l'on y dance; Sur le Pont d'Avignon L'on y dance tout en rond."  アビニョンの橋で  踊ろうよ、踊ろうよ  橋の上で、輪になって踊ろう オトーサン、 午前11時30分。 列車は、無事、アビニョンに着きました。 「おお、アビニョン・サントラだ! TGV駅でなくて、かえってよかったじゃないか。 市の中心が目の前だ」 「...」 娘は、それどころではなさそう。 足早に、リル・シュル・ラ・ソルグ行きの 列車の時間を調べに行きました。 日は高く、暑いところです。 駅を出ると、目のまえにアビニョンを囲む 5km弱の城壁。 オトーサン、 「うーん、味があるなあ」 異国の町の味は格別。 まして、数十年も夢想してきた町。 心配事は、娘に任せ放しで、いい気なものです。


*14 リル・シュル・ラ・ソルグ

オトーサン、 「何でこんな炎天下をとぼとぼ歩くんだ」 気温は、もう30度を超えているでしょう。 鋪道がなく、あっても土がデコボコで、 重いカートを引っ張りにくいのです。 おまけに、わきをクルマがビュンビュン。 「タクシーも拾えない、 こんなさびれた田舎に泊まるなんて 狂ってるよ。 ガイドブックやネットの情報を鵜呑みにして ムリな日程を組むのが間違いだ。 まあ、若いときは、いろいろ経験するのがいいのだろうが、 オレみたいな年寄りでは辛いものがある」 この町の悪印象は、駅に降りときにはじまりました。 駅舎が閉まっているのです。 窓から、駅員みたいな不気味なおじいさんが、 細長い小窓からこちらを覗いています。 閉まったドアを叩くと、アッチに行けという仕草。 夜間出口と書いてありました。 「いま何時だと思う?真昼間の午後1時過ぎだぜ」 でも、よく見ると、隙間があって、外に出ることができました。 どう考えても、遠来の客を歓迎しているとは思えません。 駅前広場には、マイカーが数台。 娘は、駅前のカフェにホテルまでの道を聞きに行っています。 その間、奥方と隣にあるアンティークのお店を覗きます。 廃屋にちかいアンティークのお店。 並べてある品物はといえば、 壊れたドアの取っ手、 埃まみれの馬具、 これも埃まみれの古書など。 店番もいません。 「よく言うよ、 何が"パリに次ぐアンティークの集中地"だ」 オトーサン、 ようやく宿にたどりつきました。 運河沿いのホテルというよりは、レストラン。 ホテルは、片手間。 娘が聞いても、主人らしき男が、 「泊まるの?そんな話し、聞いてないよ。 ...でもいいか、困ってるなら、部屋は空いてるから」 そんな調子です。 主人は、小柄でジャン・ギャバンの顔を崩した感じ。 奥さんは、イングリット・バーグマン風の美人。 その奥さんが、2階の部屋に案内してくれました。 オトーサン、 不満タラタラ。 「エアコンもないのか」 「運河も見えないじゃないか」 道路際なので、クルマがバンバン走っています。 「うるさいなあ、これじゃ安眠できそうもない」 奥さんが、折りたたみ式のエキストラ・ベッド、 シーツ、枕、ベッドカバーなどを運び入れてくれました。 「まあいいか。パリのホテルよりは部屋が広いから」 納得して、ベッドに倒れこむと、バターン。 ベッドの中央が凹みます。 足が倒れたのです。 調べると、固定金具がないのです。 長いこと使ったことなどなのでしょう。 「しょうがないなあ。こんなんじゃ、寝られないぞ」 再三トライしているうちに、ヒラメキました。 「そうだ、なまじベッドと思うからいけないんだ。 敷布団代わりにすればいいんだ」 平らにして寝たら、なかなか快適でした。 オトーサン、 安心したので、トイレに。 昨日から疲れたのか、ちょっと下痢気味。 用を足して、タンクの上を見ると、 ペンキで赤く手書で、"Pousser"。 「ハハーン、いい加減なことやってるなあ。 この赤く塗った丸ボタンを押せばいいんだな」 やや、強めに押します。 「ドー」 勢いよく水が流れるはずが、そうなりません。 シンクの重い蓋を外してみました。 壊れていました。 「パパ、なにやってるのよ、早く外に行きましょうよ」 「だって、お前、これ直しておかなきゃ、 後でキミたちが使うとき、困るだろう。 ショウベンににおいがクサイって大騒ぎになるだろうが」 「そんなもの、さっきのひとに言っておけばいいのよ」 娘は、気が立っています。 間違ってニームに行ってしまった責任を感じているうえ、 アビニョンから、リル・シュル・ラ・ソルグに行く列車が どれなのかサッパリ分からなかったからなのです。 オトーサン、 時刻表の駅名表示も不適切だと思いました。 "L'le sur la Sorgue"なんてどこにも書いてないのです。 おまけに、乗客たちに聞いて回っても 「???」 「ちがう列車じゃないの?」 「Cavillonで降りればいい」 「いや、Cavillonで乗り換えればいい」 「私は、Fontaine de Vaucluseだと思う」 観光客ばかりですから、分かるハズないのです。 おまけに頼みの綱の「地球の歩き方」も、 「アビニョンからカヴァイヨンCavillom行きの列車で約25分」 と不明確で、どの駅で降りるか書いてありません。 おまけに、CavillonをCavillomと誤記。 「地図をみると、カヴァイヨンまでは行かないようだ。 4分の3くらい走ったところだ」 娘が信用してくれないので、 停車するたびに身を乗りだして、駅名をチェック。 「あった!」 駅の標識には、 L'le sur la Sorgue Fontaine de Vaucluse 何と両論併記になっていました。 どうも、列車なんかでくる町ではなさそうです。 こんな不便なところ、クルマがなければ、 立ち往生してしまうのです。


*15 朝の散歩

オトーサン、 打って変わって上機嫌。 翌朝は、5時に起きて、 部屋を静かに出て、トイレへ。 洗面台前のスペースでパソコン作業をします。 娘たちの安眠の邪魔をしない。 コンセントがある。 この2つの条件を満たす場所なら、 トイレだろうが、どこだろうがいいのです。 今朝も、カルフール視察の続き。 日記のはずが、どんどん遅れています。 いまのところ、2日遅れ。 小学生の夏休みの宿題の絵日記みたいです。 午前8時、 「散歩に行かない」 奥方が小声で誘ってくれます。 娘は、まだ寝ています。 張り切っていたので、疲れたのでしょう。 「ああ」 ちょうど一段落ついたところでした。 階段を降りて、レストランのフロアに出ます。 運河を望むテラスに通じるドアを開けます。 「あれ、カギがかかっている」 そういえば、昨夜、主人が明日の朝食は9時といっていました。 「アイツ、まだ寝てるんだ」 「そうよ、こちらのひとは、生活を大事にするからね。 お昼休みも、2時間タップリ取るからねえ」 奥方がアイツに味方するので、 時間つぶしに、3階のテラスへ。 幸い、ここのドアは開いていました。 「おお、いい眺めだなあ」 眼下が、運河。 それも3本の運河の合流点で広い水面になっています。 運河沿いのホテルやレストランの建物の色は、 オレンジやイエローなど暖色系で統一。 窓やテラスの柵の形も、それぞれ実におしゃれです。 カフェのパラソルは、色とりどりの花が咲いたようです。 背後には、なだらかな山並み。 月並ですが、絵葉書そのままの風景。
photo:L'le sur la Sorgue オトーサン、 写真を撮り終わって1階に下りてきます。 「あれ、ドア開いたの?」 「そう」 そんなことで、外に出ます。 爽やかな空気をいっぱいに吸いながら、 ときどき立ち止まって写真を撮りました。
photo:Hotel 運河沿いに市が開かれますが、 そろそろ搬入がはじまっているのでしょう。 バンが運河沿いの道に入ってきています。 「きれいねえ、ほら、魚が見えるでしょう」 「どれどれ?ああ、30cmくらいある!」 「ほら、昨日パンをせびりにきた鴨がきたわ」 白、白黒、白黒の3匹が列をつくって、 運河を散歩しおています。 水草のなかに、赤い水かきがみえます。 「案外、水も澄んでるなあ」 奥方、 「こっちよ」 昨日、ホテルに着いた後、 オトーサンは例によってお仕事。 奥方と娘は散歩に出て、長いこと戻ってきませんでした。 Ikm四方の小さな町だけに、知り尽くしたようです。 「きれいねえ、あの色!」 ひまわりのまぶしい黄色。 おばさんが、ひまわりなどさまざまな花を模した 陶器のブーケを縁台に並べています。 仕事中なので、立ち止まっても、振り向きもしません。 「この花柄のバッグ、可愛いでしょう」 「このラベンダーを入れた匂い袋も可愛いわね」 石鹸のお店があまりにキレイなので立ち止まりました。 青紫、黄色、白、赤紫が目を楽しませてくれます。 売り子のオネーサンも女優さんのよう。 「キレイなひとだなあ、肌の色が透きとおるようだ」。 「ほら、これみて!セミの形のした石鹸もあるのよ」 奥方に注意されました。 何でも、セミは、豊穣の女神で、 プロヴァンスの家々では、壁に飾るのが習慣だそうです。
photo:savon オトーサン、 「どこかに電池売ってないかなあ」 「何に使うのよ」 「ICコーダーの電池がなくなってきた」 「ああ、それなら路地を曲った先で売ってたわよ」 急ごうとしますが、立ち止まります。 「おお、これうまそうじゃないか」 「やめなさいよ、朝っぱらから食い意地出すの」 「"Fumee"って書いてある黒い奴、うまそうじゃないか」 屋台にいろいろなソーセージを並んでいるのです。 白い粉をまぶしたようなもの、茶色いの、 はては、かすかに緑色を帯びたものなど。 「まあ、いいか、後でひとりで買いにこよう」
photo:saucisse オトーサン、 「大きなピーマンだなあ」 朝市を思わせる新鮮な野菜が並びはじめています。 「あの娘が、キュウリもうまいといってたわ。 「うん、フランスは、農業大国なんだなあ」 いろんなお店がありました。 その華やかさの一端をご紹介しましょう。
photo:Je regarde seulement,Merci 散歩には1時間ほどかかりました。 後で調べると、ホテルから運河沿いに歩いた通りの名は、 Quai Jean-Jauresと書いてありました。 全長500メートルほどでした。


*16 プロヴァンス気分

オトーサン、 ようやく9時から朝食。 ホテルのレストランの 運河に臨んだテラスに向かいます。 ウエイトレスが、 雨に濡れたテーブルや椅子を拭いています。 「そうか、夜、雨音がしてたなあ」 「涼しかったわよ」 見慣れぬウエイトレスが注文を聞きにきます。 娘、 "Do you speak English?" オトーサンが、 "Parlez vous Francais?" ウエイトレス、 "Oui" 娘が席を立って、レストランの奥に行きます。 もどってきて、 「もう昨夜支払いを終えて、 メニューは決まってるはずよ。 おばさんも英語が通じないから、 いま、おじさんに言ってきたわ」 日曜日は、家族だけでは、人手が足りないから、 臨時に2人ほど雇うようです。 オトーサン、 オレンジ・ジュース、カフェ・オレ、パン それにジャム3種、バターが並んだテーブルを 満足気に眺めます。 「やはり、このホテルに泊まってよかったなあ。 いい場所にあるもんなあ」 ガンバッテいる娘を労わります。 さっき朝の散歩をしてはじめて、 このホテルがいい場所と分かりました。 市場のど真中。 「そうでしょ、苦労したのよ、ネットで見つけるのに」 娘は、幅5cmもあるファイルを持ち歩いています。 「それって、みんな今度の旅行関係の資料か? インターネットで調べたやつか」 「...そうよ」 「これだけあれば、本が1冊書けそうね」 「そうね、日本人が書いたプロヴァンスの本って、 感想文の域を出ていないからね」 何だか自分のことをいわれたような気がします。
photo:Ma fille オトーサン、 「あのなあ、今度柏に戻ったら、 家を少し改造して、プロヴァンスの雑貨でも売るか」 奥方、 「....」 この沈黙は、店番などやらされるのは、 ゴメンという意味でしょうか。 娘、 「そうね、いいかもよ。 アジアン・テイストの雑貨は、もう飽きられて、 いまNYでは、プロヴァンスの雑貨が流行しはじめているのよ。 日本人は、すぐ真似するから」 奥方、 「ここの品物、どれをとっても、いいものね。 日本で売ったら、絶対売れると思うわ」 オトーサン、 「幸いウチには、いい仕入れ係りが2人もいるから、 そうするか」
photo:Produits Regionaux
photo:savon オトーサン、 昨夜、娘ともめました。 「だって、アビニョンは、 おれがフランス語を習いはじめたときから、 行きたかったところだぜ」 「それならそうと、はじめっから言っといてよ!」 当初は、アビニョンに2泊する予定でした。 それが、ニース2泊、モナコ2泊と、 コート・ダジュールを4泊に増やしたために、 1泊になり、気がついたら泊らなくなっているのです。 2時間くらいは観光できかなと期待していたら、 アビニョンの橋を見る時間なんかないと宣告されたのです。 「そんな馬鹿な!  もうすこし早目に、ここを出られないか」 「もうタクシーを予約したの。午後3時半!」 「で、アビニョン駅はいつ出るんだ?」 「4時49分発よ」 「それじゃ、少し余裕があるから、 アビニョンの橋には立ち寄れるかも知れない」 「タクシーが時間通りにきて、渋滞がなければね」 「まあ、何とかなるだろう」 「...」 プロヴァンスは、最高にいい気分になれる場所ですが、 ときには、ミストラルが吹き荒れるのです。 何でも、冬になると山岳地帯では、 風速130Kmにも達するとか。


*17 サン・ベネゼ橋

オトーサン、 この後、10時から11時まで、 ひとり部屋に残って、お仕事。 カルフールの記録がなかなか終りません。 1時間だけ、市を見て回ることにしました。 その間、買ったのは、 ・ICコーダー用の乾電池 ・ソーセージ ・セミの形をした石鹸 ・アビニョンの橋の絵のあるペーパーパッド あとは、デジカメで80枚ほどマルシェ風景を撮りました。 「自分で言うのも何だが、写真集出したら、売れそうだなあ」 12時、 奥方と娘が戻ってきました。 何やら小物をたくさん買ったようです。 プロヴァンス特産の籠に入っています。 「その籠も買ったのか?」 「いいでしょ、この色が何ともいえないでしょう」 「そうだなあ、ほんとに」 印象派の画家の絵画を思い浮かべてください。 あの豊穣な色彩すら浅薄に感じられるほどです。 「じゃ、待っててね、1時頃、戻ってくるから」 「まだ、買うものあるのか?」 「勿論よ!」 オトーサン、 結局1時半まで運河沿いのテラスに座っていました。 通りは、もうたくさんの人出で、歩けないほど。 客層を観察すると、 家族連れが5割、老人夫婦4割、若い女性連れ1割、 ときどき若者の集団が通過します。 あまり買っているようには思えません。 午後1時にもなると、テラス席は超満員。 長居をしずらくなってきました。 時々、昨日仲良くなった34歳の禿げ頭のボーイが オトーサンをみやります。 「しょうがないなあ。1時と約束したのに、 ちっとも戻ってこない」 しょうがないので、さらに20分待って、 コーラだけでは何なので、ステーキとワインを注文しました。 となりは、入れ替わって中年夫婦。 シェパードともう1頭の大型犬。 「再婚でもしたばかりなのかなあ」 このふたり、テーブルのうえで手を握りあっています。 目をそらすのですが、つい気になって見てしまいます。 「オレなんか自慢じゃないけど、 この数十年、手なんかつないだことないもんな」 奥方、 「お待たせー」 「ああ、毎度のことだ。慣れてるよ」 フランス革命は完成していないように思います。 自由、平等、博愛のはずが、 いまだに男性は、差別されたまま。 パリの街角でも、奥さんが買い物中、 町角で手持ち無沙汰にしている殿方を大勢見ました。 「昼食はあたしが払うわ」 そうこなくてはいけません。 もうこの頃になると、市は終り。 撤収のために、バンやワゴン車が盛んに路地に入ってきます。 オトーサン、 「やあ、よかった、よかった!」 念願が叶って、アビニョンの橋の上にいます。 タクシーが5分前にきてくれて、 ベンツとあって140kmで飛ばしてくれたので、 アビニョン市街には、たったの15分で着きました。 "Attendez 10 minutes si'l vous pret." サン・ベネゼ橋のたもとで、待ってもらいます。 「無料かと思ったのに」 一旦博物館に入って、階段を上らないと、 橋の上に出られない構造になっていました。 この橋、大河ローヌ川にかけられています。 正式名称は、サン・ベネゼ橋。 その昔、ある若い羊飼いが神のお告げを受けて 誰も運べない重い石を運んでみせました。 その奇跡に、みなが感動して、寄付が殺到し、 全長900mのすばらしい石造りの橋が完成しました。 でも、戦乱で破壊され、いまは川の途中までしかありません。 オトーサン、 63歳の夏に書いた小説に、 アビニョンの橋で再会する男女を描きました。 夕暮れに偶然出会うのですが、いまは真昼間。 観光客も群れていて、甘いムードとは程遠い状態。 日本人がいて、ガイドブックを読んでいました。 若者たちは、川を覗き込んで騒いでいました。 オトーサン、 橋の先端まで行ってから、引き返します。 「あれも見たかったなあ」 前方には、由緒ある法王庁宮殿がそびえています。
photo:avignon 「地球の歩き方」によれば、 中世のアビニョンでは、 権力争いで、2人の法王のが並存したために 新旧の宮殿が出来たそうです。 なかなかいいフレスコ画もあるとか。 「ライトアップされるといいいだろうなあ」 じっと佇んでいると、娘に催促されました。 「さあ、行きましょ。 乗り遅れないようにしなくては」


*18 ニースへ

オトーサン、 ニースに向かうTGVの車内でぼやきます。 1等車のいい席にゆったり座れたので、 ぼやく余裕も出てきました。 「今回の旅は、鉄道が鬼門だったなあ」 ・Melanでは、Paris行きに乗り遅れる寸前。 ・Avignon行きでなく、Nimes行きに乗ってしまった。 ・Nimesでも、Avignon行きに間一髪。 そして、この騒ぎでした。 「また、何か起きたのですか?」 「そうなんですよ」 余裕で、アヴィニョンのTGV駅に着いて、 しかも列車が15分遅れだったので、 プラットフォームでは、30分もおしゃべりできました。 「よかったなあ、怪我の功名。 アビニョンでは、新旧2つの駅を見られたもん。 ここ、まるで、新幹線の岐阜羽島駅そっくりだなあ」 「そう?全然ちがうじゃない」 「いや、何もないところに突然出来たところがさ」 「この駅舎すごいわね、現代美術館みたいね」 「フランスの現代建築ってすごいなあ」 奥方、 「ああ、来たわよ」 小走りに2号車の停車する方向に急ぎます。 「娘は?」とみると、 のんびり、椅子に腰かけています。 1等車に乗り込み、指定された席へと急ぎます。 アヴィニョンの買い物で、また荷物が増えました。 車内の狭い通路を歩くのは、重労働。 「あれっ、先客がいる!」 5歳くらいの男の子がグッスリ寝ころんでいます。 旅で疲れきったのでしょう。 母親らしき女性に切符の番号をみせます。 首を振って、知らん顔。 あげくの果て、アゴで別の車両を示す始末。 「こいつ、図々しい女だなあ」 憤懣やるかたなく、連結部に立っていると、 近くのおばさんがやってきて世話をやいてくれます。 英語がしゃべれないので、身振り手ぶり。 盛んに、別の車両に行けと指図。 「このババア、あいつの回し者か?」 オトーサン、 「一体どうなってるんだ」 別の車両に聞きに行った娘が戻ってきました。 「もうひとつ2号車があるんですって」 「えっ?」 「ほら、TGVの先頭車両が2つあったじゃない」 「ああ、そうだった。12両連結が2つあった」 「じゃ、そこに行こうぜ」 「あのね、行けないの」 「どうして?」 「...」 聞くまでもありません。 先頭車両の鼻先には、連結部などないのです。 「じゃ、どうする?ここで立ちっ放しもなあ。 せつかく1等車の料金払ってるのに」 「じゃ、空いた席に座りましょう。 次の駅にきたら乗り換えましょう」 「だって、お前、停車時間短いぞ。 乗り遅れたらどうするんだ」 「....」 娘も腹が立っているのでしょう。 オトーサン、 そんなことで、次の駅で飛び降り、 重い荷物を抱えて、走ったの何の。 時々、列車に乗り込むのですが、 娘はとみると、ゆったり歩いているのです。 「しょうがないなあ」 娘だけ乗り遅れたら大変です。 それこそ、路頭に迷いかねません。 そこで、また飛び降りて、次の車両めざして走ります。 ようやく、TGVの別の先頭車両が見えてきました。 「もういいや、乗り遅れたって」 腹を決めて、ゆっくり歩くことにしました。 というよりも、体力の限界。 「今後は、旅を楽しむには、荷物を軽くしなくては」 そう肝に銘じました。 オトーサン、 念願の1等車に乗るこめました。 席に着いて、パソコンをつないで、一安心。 「随分、長く停車しているなあ。 こんなことなら、走らなきゃよかった」 隣の品のいい2人連れの老婦人に聞きました。 ふたりとも、1匹ずつ犬を抱いています。 "Pardon madame,qelle est le nom de ce station?" "Marseille." 「えっ、マルセイユ?」 まさか、TGVがマルセイユを経由して ニースに向かうとは思っていませんでした。 明らかに勉強不足でした。 「パパは、映画ばかり見てるからイケナイんだよ」 「それにても、たったの1時間で アヴィニョンからマルセイユに着くの?  TGVって早いのねえ」 奥方の適切な仲介で、 娘のミストラルが吹き荒れずに済みました。 何ってたって、 もうここは、コート・ダジュール、 紺碧海岸。 車窓右手に地中海の青が見えてきました。 メディテラニアン・ブルー。 見ていると、心が軽やかになっていきます。


*19 ニースで断食修行

オトーサン、 翌朝、5時起き。 パソコンに向かって、カルフール見学記。 ようやく8時過ぎに完了。 「ああ、腹減った。 まだ起きないのかなあ。 起きないだろうなあ。 夕べ、寝るのが遅かったから」 オトーサンたち、 ニース駅に着いたのは、昨夜8時過ぎでした。 南国の明るい空も、さすがに暗くなっていました。 タクシーもないので、重いカートを引きづりながら、 坂道をあるきました。 何遍も出会う人に尋ね歩いて、やっとホテルを発見。 Citadine(シタディーヌ)、 アパートメント・ホテルです。 このホテルの省人化には感心しました。 夕方の7時を過ぎると、もう誰もいないのです。 ドアのところで、予約時に教わった暗証番号を入力しないと、 ロビーにすら入れないのです。 それから、ロビーの裏手にある場所で、 もう1回、暗証番号を入力するのです。 封筒に部屋のキーが入っていました。 「やれやれ」 娘、 「わあ、うれしい4人部屋だ!」 「おお、お手柄、お手柄」 「よかったわねえ」 リビング・ルームと寝室、キッチン、バス、トイレが それぞれ独立しています。 リビングルームには、テレビ、食卓、ソファ兼用のダブルベッド。 寝室のほうは、ベッドが2つ。 娘たちが、両方を見比べて、広いリビング・ルームを取ったので、 オトーサンは、寝室へ。 個室で、しかも普通のベッドを確保。 ようやく、ノンビリできました。 「お腹、空かない?」 「空いたわ」 「でも、外に出るのも面倒だなあ」 幸い、電話で配達してくれる店のパンフレットを発見。 娘が電話で注文してくれて、 10時半頃、起こされて、スシを食べました。 娘たちは、それからお風呂に入ったりしたから、 寝るのは、12時過ぎになったようです。 オトーサン、 時計をみます。 もう午前9時を回っています。 窓の外には、ひときわ青い空がみえます。 「それにしても起きないなあ、 せっかくニースに来て、 寝てばかりいるんじゃ仕方ないだろうに。 これじゃ朝市だって、閉まってしまうぜ」 空腹に耐えかねて、 リル・シュル・ラ・ソルグで買ってきた サラミ・ソーセージをかじります。 10時、ようやく娘が起きました。 「さあ、行くわよ」 5時間も待ってたというのに、5分も待ってくれません。 「ヒゲを剃る時間くらいくれよ」 オトーサン、 空腹状態。 せっかくニースの名所、 地中海をのぞむプロムナード・ド・ザングレを 散歩していても、気分がすぐれません。 「おい、いつまで歩くんだよ。そこらで食べようよ」 「...」 しょうがないので、ICコーダーを出して、 歩きながら、実況中継。 「ええ、暑いですねえ。 もう10時半を回りました。 まだ、プロムナード・デ・ザングレを歩いております。 前方に緑の濃い公園が見えてきました」 「公園にやってまいりました。 この公園、何という名前なのでしょうか。 後で、調べましょう。 (アルベールT世公園でした) 子供の遊園地でしょうか、小さな汽車が走っています。 そんなこと、どうでもいいや。 早くメシにありつきたいものです」 「えー、噴水のところにきました。 8本くらいあるでしょうか、 豪勢に天に向かって水を吹き上げています。 水しぶきがかかってきますが、暑いから気持ちいいです。 ゴハン、まだかなあ」 娘、 「どうしたのかしらね、朝市やってないわ」 オトーサン、 実況中継を再開しました。 「えーっ、朝市はもう終わったようです。 当たり前だよなあ。あんなに寝坊するんでは。 おお、引き返しております。 さっきまで歩いた分は、一体、何だったのでしょうか」 もう実況中継をする余裕もなくなってきました。 前方に、人だかりが見えました。 「わぁ、アンティーク市だ!」 「よかったわね、いい場所に出たわねぇ」 たくさんのカフェがあります。 干天に慈雨、砂漠にオアシスとはこのことです。 「ああ、天はわれを見捨てず。 ようやく、朝食にありつきました。
photo:Place de Saleya オトーサン、 ひとつ問題が起きております。 注文を終えると、また娘たちが消えました。 早速、アンチィーク市を見学に行ったようです。 ケシカランことです。 目の前にメシがあるというのに、お預けとは」 ベルギーのカフェらしく、 ライ麦パン、カフェ・オレが朝定食。 「えー、15分経過。 娘たちは、まだ戻ってきません。 もはや時間切れです、 小生、別にニースに断食修行にきたわけではありません。 現世の欲望に負けてもいいのです。 さあ、食べることにいたしましょう」 「えー、20分経過。食事が終りました。 あつ、今、娘たちが戻ってまいりました。 また何かを買ってしまったようです。 笑顔が見えております」 奥方、 「あなたって、意地汚いのね。 もう食べちゃったの。待てなかったの?」 みなさん、男子は三界に居所なしとは、このことです。


*20 アンティーク市

オトーサン、 奥方たちが食事している間に、市を見物。 「やあ、大変な賑わいだなあ」 アンティーク店ばかり、 100店以上あるのではないでしょうか。 パリの蚤の市よりも大規模かもしれません。 奥方、 「あのね、この市、今日だけなのですって。 あたしたち、ついてるわ」 そうなのです。 リル・シュル・ラ・ソルグは、 日曜日のアンティーク市がスゴイと聞いていたのに、 並んでいたのは、食料品やプロヴァンス特産品だけ。 それが、図らずも、ニースで、 これだけ大規模なアンティーク市に出会えたのですから、 幸運です。
photo:Antiquaire 娘たち、 食事を終えました。 「待っててね」 「おい、いつまで待てばいいんんだ」 「そうね、12時半ではどう?」 「ああ」 そんなことで、また1時間ほど、手持ち無沙汰。 アンティークなんかには、興味がないのです。 仕方がないので、50mほど移動して、 裁判所の前の広場のカフェで過ごすことにしました。 「レモネードなんて、ひさしぶりに飲むなあ」 「地球の歩き方」をみて、 この辺がサレヤ広場Cour Saleyaであることを知ります。 日によって、花市なども開かれるとあります。 先程の録音を再生してみました。 なぜか、聞こえません。 アコーディオン演奏に消されたのでしょうか。 イヤホーンの音量を大きくします。 「変だなあ」 どういうわけか、録音されていませんでした。 「天罰テキメンか。 断食修行だ何だと、 アホなことばかり吹きこんでいたからなあ」 12時。 広場の鐘が鳴りはじめます。 「おお、こりゃいいや、録音しよう。 えーと、ファイルはこれでよかったかなあ。 まず、HOLDスイッチを押して、つぎに録音ボタンを押して」 手間取っている間に、鐘が鳴り止んでしまいました。 そこで、HOLDにして、鞄にしまいました。 すると、また、鳴りはじめるのです。 「何だ、この鐘、ちゃんと鳴れよ。分割払いにせずに」 そんなことで、これもキチンと録音できませんでした。 「でも、これからのHPの旅行記は、 要所要所に音が入るのも、いいかもなあ」 12時半。 さきほどのベルギー・カフェに戻ってきます。 「またか」 娘たち、戻っていません。 「一体、約束の重みをどう考えているのだ?」 身内という甘えもあるのでしょう。 でも、いつ戻ってくるのか分からないのは、 大変不安なものです。 時間つぶしに、 ベルギー・カフェの正式店名をメモします。 "Le Pain Quotidien" このHPを見て、ひとりくらい行かれる方が出てくるかも。 オトーサン、 「しょうがないなあ」 近くの骨董屋を見て回ります。 古本屋で、印象派の画家たちの画集をパラパラ。 その横には、各地の美術館のカタログ。 「ルーブル、オルセー、プラド、ナショナル・ギャラリー、 テート、メトロポリタン、ウフッツィ...、 随分、あちこち行ったなあ」 絵葉書を2枚買いました。 絵柄は、古いニース海岸と貴婦人。 "Combien?" "????" 面倒なので、持っていた小銭を手のひらにのせて 代金を取ってもらいました。 「2ユーロか」 どうやら大損したようです。 値切れば、0.5ユーロですんだのかも知れません。


*21 ソッカを食す

オトーサン、 15分遅れで戻ってきた娘たちと、 散策を再開。 「あらっ、ここ、いいところねえ」 どうやら、ニースの旧市街(Vieux Nice)の路地に 迷い込んだようです。 「これが、旧市街だよ」 「そうなの、あたしたち、ついてるわねえ」 小さなカフェやお土産物屋が並んでいます。 古い建物が風情があり、 狭い路地が入り組んでいるので、 迷路でのお宝探し気分が味わえます。 「ああ、あれ、いいじゃないか」 プロバンスのキャンバス・バッグ。 絵柄や色合いが太陽の恵みを感じさせます。 「そうねえ、なかなかいいわねえ」 店主は、カタコトの日本語がしゃべれます。 奥方たち、店の奥に消えて、 オトーサン、またもや、長時間待機。 そう、HOLD UP、お手あげ状態です。 オトーサン、 「しまった、薦めなきゃよかった」 しょうがないので、となりの路地へ。 そこで、乙な情景に出くわしました。 老人が2人。 年の頃70歳ちかい小柄な老人が、 やはり、年の頃60歳近い女性を抱いているのです。 老人の右手が、彼女の首を愛撫しています。 それが、執拗なのです。 「へえ、よくやるなあ。お盛んだなあ。 オレなんか自慢じゃないけど、若い頃だって、 あんな風に愛撫なんかしたことなかったもの」 こんなにドキドキしたのは、 その昔、外国に行って、若いひとが街角でキスしているのを 見かけて以来です。 オトーサンたち、 路地をさまよい歩きます。 角を曲がるたびに、ちょっとした発見があります。 「どうする? 並んでみる?」 「...食べたばかりだけどねえ」 「でも、名物らしいし...」 「じゃ、ちょっとだけつまんでみる?」 「それにしても、ずいぶん長い行列だなあ」 結局、20分後にニース名物ソッカにありつきました。 「何、これ?」 「一種のクレープかな」 「ほら、インドのナンみたいね」 「ガイドブックには、おやきと書いてあったぜ」 「これ、材料は何って書いてある?」 「ひよこ豆」 「ちょっと塩味があるわね」 「日本に持っていっても、流行らないだろう」 でも、事業欲旺盛なひとのために、 このニースの大繁盛店の店名を書いておきましょう。 "SOCCA LOU PILHA LEVA"


*22 シャガール美術館で仮眠

オトーサン、 シャガール美術館へ。 バス乗り場が分からず、1時間ロスしました。 「もうちょっとガイドブックをよく読んでおけばなあ」 市街バス15番で Musee Chagall 下車とあるのですが、 その乗り場も分からないし、本数も少ないのです。 結局、SUN BUS の営業所をみつけて、 時刻表をもらい、いろいろ聞いて、行き方が判明。 「何だ、マチス美術館行きに乗ればいいんだ」 バスが、15,17、22、25と多いのです。 長距離バスターミナルのそばに停留所がありました。 オトーサン、 「おーい、こっちだよー、早くこいよ」 マチス美術館の前庭に入り込んで、 撮影モードの奥方たちに呼びかけます。 「ガイドブックがよくないなあ」 マチス美術館のとなりがシャガール美術館のように、 地球の歩き方159pの地図に出ていたのですが、 ほんとうは、162pの小さい地図のほうが詳しいのです。 「まだなの?」 「ああ、あと600mくらいだ」 幸い高級住宅街を下っていくので、快適です。 「芦屋みたいねえ」 「神戸の高台って感じするなあ」 「ねえ、パパたち、この辺に住まない?」 ちょうど、具合よく不動産屋がありました。 物件の写真とお値段が出ています。 「おお、この豪邸、8530ユーロだ」 「億ションね。いいわね、高級ホテルみたい」 「おい、これで我慢しないか。2530ユーロ。 これなら買えそうだ」 「うちのアパートみたいじゃないの」 「でも、何ってたって、Cimiez地区だぜ」 「ここ、クルマがないと、どうしょうようもないわね。 坂道ばかりで、お店もないし」 「ほら、この違法駐車みろよ、小型の中古車を買って、 カルフールに買い物に行けばいいんだよ」 そうなのです。 ニースには、3軒ものカルフールがあるのです。 不動産屋のパンフレットに広告が出ていました。 オトーサン、 「おーい、ここ、ここ!」 「へえー、目立たないわねえ、個人宅みたい」 シャガール美術館に到着しました。 青いブリキの門が、半開き。 「来たいひとだけ、来いっていう感じだなあ」 緑の芝生の向こうにあるのが、美術館でしょうか。 「国立マルク・シャガール 聖書の言葉美術館」 1973年、シャガール86歳の時に出来た コンクリート打ちっぱなしでガラスが多い建物です。 当時、流行していたルコルビジェの影響を感じさせます。 いまをときめく安藤忠雄さんが設計したかのようです。  オトーサン、 撮影禁止とかで、荷物を預けました。 明るい展示室に、大きな絵が6点ほど。 となりにも赤いタッチの絵が6点ほど。 「何だ、これで終りか」 さっさと奥のコンサート・ホールヘ。 ステージにポツンとピアノが1台。 何もやっていません、 女の子たち3人がじゃれあっているだけ。 左手の壁いっぱいにステンドグラスが3つ。 「この青が、シャガールの色だ! いいなあ、何ともいえないくらい、いいなあ」 展示室にあるキャンパスよりも、 ステンドグラスの絵のほうが、青の鮮やかさが際立っています。 うろうろするよりも、気に入った1点だけを じっくり鑑賞するほうが好きなのです。 オトーサン、 紺碧色を眺めているうちに、ウトウト。 「パパ、何やってるのよ、こんなとこで」 「だって、あっという間に見終わったんだもの」 「スケッチの部屋、見た?」 「いや。そんなものあるのか?」 「水を張った中庭見た?」 「ああ、通過した」 「写真も撮っていいのよ、フラッシュさえ、たかなければ」 「....」 「撮りなよ」 「いいよ、面倒だ」 「シャガール、好きじゃないの?」 あらぬ疑いまで抱かれました。 オトーサン、 ほんとうは、シャガールの絵が好きなのです。 パリのオペラ座の天井画なんて、 はじめて見たときは、大感激でした。 画集を数冊買ってしまったほど。 ところが、南仏の風景を見てしまうと、 「大したことないなあ」 所詮、絵空事。 この明るい自然やひとびとの織りなす風景のほうが、 はるかに生き生きしています。 「...オレも、年とったのかなあ」 娘が大感激しているところを見ると、 年とともに感激する力が衰えてきたのかもしれません。


*23 プロムナ−ド・デ・ザングレ

オトーサン、 ニース3日目。 6時に起きて、リュル・シュル・ラ・ソルグの原稿書き。 8時、半分も終わらないうちに、娘が起きてきました。 「すぐ出るわよ」 「おいおい、今日はどこに行くんだ」 「あとで教える」 「オレ、ヒゲだけそるから、待っててくれ」 疾風怒涛のごとく支度して、外へ。 オトーサン、 ICコーダーで録音開始。 「えー、外は、さわやかでいい天気ですね。 でも、日本より1、2時間遅い感じですね、まだ暗いです。 このホテルの周辺、下町風ですね、 カフェ、家具屋、レンタカー...」 「2ブロックもいくと、 優雅なホテル、ネグレスコがあるとは、信じられません。 相変わらず道の両側にクルマがビッシリ駐車しています。 バンパーをぶつけて、グイグイこじ開けないと、出られません。 日本じゃ、考えられませんねえー」 「今日は早起きして、エズへ行くようです。 まずは、プロムナード・デ・ザングレのバス停まで行きます」 鷲の村のひとつ、エズへは、 バスの長距離ターミナルからの便があることは、 昨日娘が調べてくれたようです。 「これが、地球の歩き方に載っていたバラクーダだよ。 カキ食べたら、ママが大感激していた。 昨夜は、Huitre食べたか?」 「食ったよ」 「ああ、そりゃ、よかった」 娘は、生牡蠣を食べたいと言っていました。 別行動に出たのは、両親の世話に飽きたからでしょう。 オトーサン、 「えー、いま、プロムナード・デ・ザングレに出ました。 英国人の散歩道。海岸べりを歩いております。 地中海が眩しいですね、 太陽に向かって歩いているので、 鋪道に光が反射して、目が開けていられません。 ところどころ、遊歩道に日影をつくるためのテラスがあります。 テラスの下には、ベンチがあって海を眺めるように置いてあります。 ここで、ノンビリできたら、 ニースに滞在している気分を味わえるかもしれません。 でも、砂浜は白くないですね、 黒い砂利ですねえ。 桟橋があります。 クルーザーが出ていきます。 いま、ジョギングをしているひととすれ違いました。 あ、首輪をつけていない黒いイヌが歩いていますね。 ローラースケートのおねーちゃんが威勢よく滑ってきました。 きっとアメリカ人でしょうね」 「メリディアンのプライベート・ビーチでしょうか。 パラソルが、花開いています、 いくつくらいあるのでしょうか、 そう、100くらいはあります、壮観ですね」 「左手には、岬というか、小高い丘がみえます。 右手の海辺を目で追っていくと、ニース空港がみえます。 あ、いま飛行機が飛びたちました。 クッキリ、見えます。 えー、視力がよくなったような気がしますね」 オトーサン、 バス停で録音再開。 「8時20分になったのに、バスがやってきません。 クルマの数が増えてまいりました。 道路は、往復6車線。 中央の分離帯がヤシとシュロの並木となっております。 信号が赤ですね、 あっ、危ない危ない。 ムリに渡っているひとがいます。 オートバイのおにいちゃんが飛ばしてきます」 「ハワイのワイキキ海岸とちがって、優雅ですね。 そう、建物の高さがそろっているせいでしょう。 1、2、3、4、5、ああ7階建てですね。 外観も、アールデコ調。 贅沢ですね」 オトーサン、 「あっ、バスがきました」 「バスが、ちがってますね、7番のバスです」 「今信号が赤です。もう、渋滞がはじまっています。 そう10台くらい並んでいるでしょうか」 「あっ、バスがきました。でも、観光バスでした。 2階建て、ピンク色。窓ガラスが大きくとってありますね。 CONTIKIと車体に書いてあります。 はは、www.contiki.frか。 日本に帰ったら、サイトを見てみましょうか」 「えー、8時45分になってしまいました。 なかなか、バスがやってきません。 エズ行きのバスに間にあうでしょうか。 これだったら、歩いていったほうが 好かったかもしれませんね」


*24 鷲の巣の村、エズ

オトーサン、 「いやぁ、汗かいたなあ」 いま、ニースの長距離バスターミナルにいます。 汗をかいたというのは、1駅乗り過ごしたからです。 "Aret Demande"(停車ボタン)を押し忘れたのです。 考えてみたら、日本も同じ。 まさか、長距離バスターミナルで 誰も降りないとは思いませんでした。 エズ行きのバスに乗り遅れないように、走ること、走ること。 「慌てるな!危ない!」 奥方が、赤信号で道を渡ろうとしています。 オトーサン、 録音再開。 「ああ、よかった。間に合いました。 日本人家族に会えたおかげで、乗り場が13番と分かりました」 「13番、バスが停まっています。 エズに行かれるですか? あー、よかった。何時頃出るのですか? 9時? あー、そうですか? ありがとうございました」 気持ちに余裕が出て、 若い女性2人連れにインタビュー。 「エズについて、詳しいこと、ご存知ですか? 地球の歩き方以上の?」 「いえ、これだけです」 コピー2枚、「るるぶ」でしょう。 オトーサン、 「いま、9時13分です。 バスは、急坂を登って行きます。 絵のような風景ですね。 飛ばしますね。 時速70kmの表示が出ています。 日本だったら、40kmがいいところです」 「いま、ニースの市街地が眼下にみえております」 「あ、海が見えました。 真鶴みたいですね、もっとキレイか」 「日本人ギャルが2人、後ろの席で寝てますねー。 せっかくのいい景色を勿体ないですねえ」 「断崖道路です。標高800m。 こういう場所は、バスが一番いいですね。 自分で運転したら、景色にみとれて転落しそう」 「9時20分です、 いま、短いトンネルを潜り抜けました。 険しい岩山です。 ああ、なんて素敵な入り江なのでしょう。 青い海原に、ヨットが点々と見えます。 ああいうところで、ノンビリしたいなあ」
photo:Villefranche-sur-Mer オトーサン、 「前方にローマ時代のアーチ型の橋がありますね。 ああ、白い壁とオレンジ色の屋根の集落が見えてきました。 いやぁ、スゴイ! 岩山のテッペンにあるのは、お城でしょうか、 時計も見えますね。 いやはや、これは素晴らしい景色ですね。 あ、これがエズか、そうなんだ」 オトーサン、 岩山を上って、途中の路地で一休み。 標高427m。 運動不足なので、息がきれます。 アートギャラリーや素敵なお土産物屋があります。 ちょうど教会の鐘が鳴りはじめました。 カーン、カーン、カーン。 「あー、この音がいいね。 それにしても、腹、減ったなあ」 やや上機嫌になって、 一休みしている子連れの家族に話しかけます。 "Vous ete tres joli.(可愛いいね) Parlez vous francais? (フランス語しゃべれる?) Qelle age avez vous?"(何歳だい?) 男の子、恥ずかしがって、モジモジ。 代わって、目を細めた父親が3歳半だといいます。 "Bon,tres bon!" 何がいいのか分かりませんが、 若い美人奥さんも、ニッコリ。 上機嫌になると会話がはずみます。 イタリア人の家族で、シシリアから来たと言っていました。 オトーサン、 頂上にあるサボテンだらけの熱帯植物園へ、 「あたし、もう登りたくないわ」 と言っていたくせに、女子豹変。 奥方、夢中になって絶景を撮影しております。 「おい、腹減ったなあ」 ネットの書き込みには、 その名も高い「シャトー・エズ」や 4つ☆ホテル「シャトー・ド・ラ・シェーブル・ドール」 体験記が載っていました。 「レストランで予約し、ランチを食べたら、 身も心も地中海の青に染まりました。 至福のひとときでした。超オススメです」 なーんて、書いてありました。 オトーサン、 レストランのオープンが12時半と発見。 まだ、11時前です。 「こりゃ、ダメだ。 この辺のひとは、のんびりしたもんだなあー。 あー、腹減った、どこでもいいから食おうよ。 でも、どこもやってなさそうだなあ」 登り口のレストランで食べようと言ったのに、 娘が「絶対山の上で食べる」と頑張ったのです。 それが、この有様。 「エズでも、断食修行かぁ」 この鷲の村ができたのは、 ゲルマンやイスラムにしょっしゅう攻められ、 窮余の一策で、鷲しか棲めないような岩山を彫って、 棲家としたわけですから、命さえ助かれば幸い。 断食などフツーだったのでしょう。 オト−サン、 語学力は、空腹とともに上達するという結論に達しました。 いまのオトーサンが、それ。 ペラペラペラペラ、流れる水のようにフランス語が出るのです。 朝食をとれるレストランがないか聞いてまわります。 「おい、分かった、あの上の店が開いてるぞ!」 自信満々、娘たちに告げます。 娘&奥方、 「こんなところで食べるの?」 顔を見合わせます。 海こそ見えませんが、大きな樹木の下のテラス席です。 顔色のすぐれない老女が出てきて、 「何か食べたいの?変わったひとがいるもんだね。 ウチに食べに来るなんて」 そんな雰囲気。 オトーサン、 威勢よく朝食を注文。 「ジュースもね」 行く先々に幸福をもたらすのが、 ささやかな使命と信じております。 それが旅行の醍醐味。 自分だけ楽しもうなんて、セコイ、セコイ。 たちまち、老女と打ち解けました。 "J'aime la France.(フランスが好きなの) J'aime cette village."(この村が好きなのよ) 老女がしみじみと語ります。 おそらく連れあいをなくし、 岩山に捨てられた鷲の巣のような お店を守るのにも疲れてきているのでしょう。 オトーサン、 フランス語を駆使しました。 "Moi aussi,J'aime la France.(ボクもフランスが好きだよ) J'aime cette village.(この村もいいねえ) et...J’adore cette arvre vielle.(この樹、スゴイね) Qelle le nom de cette arvre??(何という名前の樹なの?) Ecrivez ici,s'l vous plait"(この手帳に書いてください) 老女が、 "MURIER 300 ans"(桑の木、樹齢300年) と書いてくれました。 "Oh! cet bon! c'est le miracle!"(スゴイ、奇跡だ) 老女の写真を撮りました。
photo:femme vieille オトーサン、 気をよくした老女に招き入れられました。 「奥に入ってごらん」 後をついて、暗い店のなかを歩ききました。 窓が開け放たれました。 「おお!」  絶句しました。 「おーい、おーい、見に来いよ」 半信半疑、やってきた2人が、 「うわー」 「どうだ、スゴイ景色だろう。 シャトー・エズなんかメじゃないだろ?」 「そうね、パパ、でかした!」 久しぶりに娘にほめられました。
photo:Le Nid d'Aigle では、エズ紀行は、 その秘境のあるお店の名前を ご紹介して終えることにしましょう。 "Le Nid d'Aigle" (鷲の巣) そうなのです。 シャトー・エズなんか新参者。 ここが、鷲の巣の村の本家・本元なのでした。


*25 モナコへ、娘の受難

オトーサン、 「どうも、鉄道はいかん」 ニース駅まで、タクシーで行って、 改札をぬけ、プラットホームに急いだのに、 モナコ行き、2時50分を僅差で逃しました。 「次は、3時22分発か、30分待ちだ」 娘が、また不機嫌になってしまいました。 実は、モナコへの交通手段でモメました。 「バスで行こう、エズで慣れたから、問題が起きないよ」 「だって、バスだと40分、汽車だと20分なのよ」 結局、バスのほうが早く着いたはずです。 この鉄道、落書きだらけ。 スプレー文字が車内に踊っています。 「せっかくの観光地なのにねえ」 世界有数の観光地ということは、 世界中から妙な連中が押し寄せるということでもあります。 おまけに、トンネルばかり。 「バスのほうがよかったなあ」 でも、トンネルの演出効果ってあるのです。 真っ暗闇から突然、陽光の海へ、 「あ、さっきバスで見たところだ!」 丘に囲まれた静かな入り江に、ヨットが点々。 しかも、今度は、間近。 バスよりは、低いところを鉄道が走っていたのです。 「あれ、何っていうところだっけ?」 「ヴィルフランシュ・シュル・メールよ」 「そうそう、この辺、舌をかみそうな名前が多いなあ」 オトーサン、 「地球の歩き方」173pを読みはじめます。 「ジャン・コクトーが、しばしば訪れたとあるよ」 「いいわよ読まなくても」と娘。 「逗子マリーナのそばの小坪みたいね」と奥方。 「キミたち、何でも身近な場所に例えるんだから、  始末に終えないよなあ。  マルセイユは、浜松だって?  ニースの海岸は、熱海だって?  エズは、真鶴半島?  こりゃ、笑える」 オトーサン、 「なあ、モンテカルロ駅だけどさ。 出口が3つもあるから、間違えないようにしようぜ。 重い荷物をもって、ウロウロするのは、イヤだからな」 学習効果というのでしょうか、 娘たちと旅するコツが分かってきました。 早目早日に情報をさりげなく提供すればいいのです。 今回は、地図に線を引いて娘に無言で見せます。 「おお、パパ、なかなかやるじゃん」 奥方、 「わぁ、スゴイ」 モナコ・モンテカルロ駅、 何と形容したらいいのでしょうか。 現代的、国家の威信を感じさせる、顧客満足。 広大な地下駅からエスカレータを上ると、大きな円窓。 そこから、モナコ港の青と白いクルーザー群が...。 見事な演出です。 もう一度、エスカレータを昇ると、地上構内。 カフエや土産物屋さん、切符売り場、案内所。 先へ進みます。 あかるい陽光が目を射ります。 青い地中海、さきほどと似たハーバー風景。 オトーサン、 「さあ、どっちへ入ったもんか」 先ほど、地球の歩き方で、出口を勉強したはずですが、 サッパリわからなくなってきました。 娘、 「こっちよ」 引き返します。 数百メ−トルも坂道を下ったでしょうか、 もうすこし行ことうとすると、奥方。 「ほら、標識があるわよ、こっちよ」 Hotel Ermitage 今夜の宿泊は、何と、エルミタージュ。 優雅なベルエポック調の4つ星ホテルです。 ホテルの裏口から入りました。 「絨毯ダメになるなあ」 カートを引いて、長い廊下を迷い歩きます。 広いホテルですから、どこへ行ったらいいか分かりません。 掃除のオバサンに聞いて、ようやくロビーへ。 オトーサン、 受付の背の高い上品な美人嬢に、 "Je viens de Tokyo Japon. D'ou Viens vous?" (あなたは、どこから来たの?) 馬鹿なことを聞いてしまいました。 "Je viens de Polland" "Ah oui,c'est bon. Connaisez vous le directeur de ciema ?" 「灰とダイヤモンド」の名監督アンジェイ・ワイダですが、 このとき、度忘れ。 彼女、分かるはずないのに、 "Non,Pardon" とわびてくれました。 「気立てのいい娘だなあ」 一流ホテルは、さすがいいひとを雇います。 彼女、 部屋を間違えました。 妙な質問に動揺したためかも。 377号室へ。 カギを入れても、ドアが開きません。 「ははーん、この娘、新米だな」 先ほどの掃除の肥ったおばさんに出会って、 小声で聞いております。 "No Problem" オトーサン、助け船を出します。 「まあ、好印象を与えておけば、 あとあと、困ったとき助けてもらえかも」 これは、齢を重ね、旅で失敗を繰り返しての知恵です。 彼女、 477号室へ案内します。 奥方と娘、 「わー、いいお部屋だこと」 「思ったより、ずっと広いわ」 「いい配色ねえ」 絨毯も、ベッドカバーも、 みんな淡い黄色系でコーディネートされています。 「このホテル、昨日のネグレスコみたいに 威圧感がなくていいなあ」 奥方、最初は、 オテル・ド・パリにしようとしたのですが、 女性好みと書いてあったので、ここにしたようです。 「割引率も、ここのホテルのほうが大きいって、  あの娘が言ってたわ」 「それにしても、高かっただろう。1泊いくらした?」 「ヒ、ミ、ツ」 奥方、値段を言ってくれません。 今回の旅行、パリに6泊、リル・シュル・ラ・ソルグに1泊、 そしてニースに2泊と安宿ばかりですが、 「モナコは、豪華ホテルにしましょう」 ということで、2泊を張り込んだのです。 夢のホテルの宿泊代は、奥方が負担。 オトーサン、 「いま、3時か。これからどうする?」 「あたしたちは、散歩してくるから、 パパは、ここにいいプールがあるから、行ったら?」 「どうしようかなあ」 昔だったら、着いたらすぐプールですが、 ここ数年、まったく泳いでいないのです。 「じゃ、まずは、荷物を整理して」 「あれっ」 娘が小さく叫びます。 「もしかしたら、ニースに忘れてきてしまったかも」 奥方、 「何を?出るときに、チェックしたのにねえ」 娘、 「アニエス。...いいわ、これから取ってくる。 奥方、 「あのカジノで羽織るはずの?だって、いまからじゃ」 娘、 「7時までフロントが開いてるから、 今からなら、間に合うわ」 奥方、 「せっかく、モナコに来たのにねえ」 オトーサン、 「...」 黙っていました。 「たかが衣服のひとつやふたつで、 モナコ滞在を台無しにすることもないだろうに。 ここで買えば、いいじゃないか」 でも、娘にとっては、非常事態です。 何かいえば、ミストラルが吹きかねません。 まあ、娘のことです。 うまく処理することと信じましょう。


*26 カフェド・パリで散財

オトーサン、 娘たちが、買い物に出たあと、 流石に疲れが出て、ベッドでウトウト。 目が覚めたら、5時でした。 「泳ぎに行くか」 ホテルの廊下伝いにプールに行けるはずですが、 エレベーター(Ascenseur、Lift)のところに、 工事中なので、フロントに行けと書いてあります。 部屋には、ホテルのバスローブに着替えてから プールに行けと書いてあります。 「こんな格好で廊下をウロウロしていいのかなあ」 日本旅館では、浴衣で歩くのがフツーですが、 ホテルでそんなことをしてはダメと教わっています。 ロビーに行くと、 たったひとり、クルマに乗せられました。 「おお、FiatのYuriseeだ、こりゃ、珍しいクルマだ」 SUVで、7人乗り。 快適なはずですが、囚人として護送されているような気分が 抜けないのは、なぜでしょうか? 左手にハーバーを見て、すぐに到着。 海岸の崖に面したモダーンな低層の建物。 受付に、ホテルがくれたゴールドカードを提示。 施設利用料が無料になるのです。 エレベーターで2階に降りて、 更衣室、シャワーを浴び、タオルをもらって、 いざ、プールへ。 オトーサン、 「おお、きれいなプ−ルだ」 楕円形で一番長居ところで、25mくらいでしょうか。 ガラスひとつ隔てて、海。 デッキに美女たちが寝そべっています。 本を読んでいる美女やケイタイで会話中の男性も。 「まあ、思ったより、フツーのプールだな」 ところが、これが大ちがいでした。 世界中のホテルで泳いできましたが、 こんなことははじめて。 「えっ、なぜですか?」 「いやぁ、驚きました。辛いの何の」 そう、塩水プールだったのです。 「思わず、ウガイしに走りましたよー」 それも、このホテルのそばの海水を汲み上げ、 濾過するという贅沢さ。 「おお、温度管理もうまい」 もちろん、塩素臭なんかしません。 オトーサン、 200mくらい、泳いだでしょうか。 平泳ぎ、自由形、背泳ぎ、バタフライ少々。 みんな静かに漬かっているので、 ハデな泳ぎなど、披露しにくい雰囲気です。 「案外、衰えていないなあ」 軽々と水面を滑っていけるのです。 しばらく後、ハーバー風景を愛でながら、 サンデッキで寝そべっているときに、 その理由が判明いたしました。 「そうか、海水だからだ。浮力がちがうんだ」 オトーサン、 意気揚々と部屋へ。 「やあ、久しぶりに泳いだ」 ワープロに向かいます。 いつもなら、6時過ぎれば、眠くなるお時間。 でも、仮眠してひと泳ぎしたので、元気ハツラツ。 仕事がはかどります。 この分では、2日遅れを1日遅れまでな挽回できそうです。 その時でした。 「お待たせー」 2人が、上機嫌この上ない声ともに戻ってきました。 「また、何か買ったか?」 「うん」 上機嫌が継続しているんので、 気にかかっていることを聞いてみました。 「ニースに行く話、どうなった?」 「ああ、明日にした」 少し、フキゲンな声になりました。 「まあ、いいやな」 「ねえ、パパ、お腹空かない?」 オトーサン、 内心、 「さあ、来たぞ、晩飯おごれっていうんだろう」 そう思いましたが、ここは父親として、 度量の大きさを見せねばなりません。 「ああ、行こうか。どこへ行く?」 「パパの好きなところでいいわ」 内心、 「そんなハズはない。どうせ、決めているんだろう。 オレに期待しているのは、お金だけ」 娘、 「ねえ、ここどう?」 「やあ、きた、きた!」 思ったとおりでした。 エルミタージュと並ぶ豪華ホテル、 ホテル・ド・パリの前、カジノの横にあって、 モナコ随一の豪華絢爛たるカジノ広場。 まだカネがない若者が見物に群がる場所。 広大なオープン・テラス形式のカフェ・レストラン、 その名も高き「カフェ・ド・パリ」は、 200席+テラス席250という広さです。 ルノワールの絵などに、 羽飾りをつけた帽子をかぶった貴婦人たちや、 シルクハットの貴族たちが さんざめく光景が描いたものがありますが、 まさに、その風景が目の前に展開しております。 奥方、 この豪華レストランで奢らせようという魂胆。 「宿泊代は、あたしが持ったんだから、 あなたは、食事代くらい出しなさいね」 オトーサン、 預金通帳の残高をちらりと思い浮かべます。 「まあ、いいか、何とかなるさ」 結局、ディナーは、 高級ワイン、サラダ、肉、デザートと進んで、 お代金は、しめて132ユーロ。 「浪費してしまったなあ、身分不相応に」 奥方、 はしゃいだ声で、 「3人分にしては、まあ、安くなーい?」 オトーサン、 頭に来たので、ボソッと。 「社用族の頃は、豪遊したな。 一晩で30万円くらいは、費ったもんだ。 そうそう、今だから打ち明けるけど、 最初にパリに遊びにきたとき、 あれは、大晦日だったなあ、 バーで美人と踊った。 シャンペンをおごらされた。 あとで5万円くらい請求された。 あと滞在中、お金がなくてピーピーしてた」 娘、 「そのくらい大したことないじゃない」 奥方、 「当時の5万円は、大変なお金だったのよ」 暗闇の中で、 奥方の目がキラりと光りました。 妊娠中の奥方を放りだして、 パリに出かけたのを思い出してしまったようです。 オトーサン、 「いやぁ、今日のワインはうまかったなあ」 ブルゴーニュの白、よく冷えたシャブリは、 余計なおシャベリを誘うようです。


*27 衛兵交代

オトーサン、 「この国、お伽の国だなあ」 世界有数のリゾート地モナコ、面積1.95ヘクタール。 奥方の解説によれば、面積は皇居の2倍。 「皇居の2倍といったって、 皇居に住んでるわけじゃないからなあ」 その広さの実感できません。 「いやぁ、どこをとっても絵葉書になるなあ」 ホテルの前からバスの1番に乗って、 いま海岸を望む高台を走っています。 「おお、あれが泊まってるホテルだ」 「どれどれ?」 「ほら、あの温室みたいなやつ」 この程度の説明では、要を得ないので、 写真を掲載しましょう。 オトーサン、 「そんなに衛兵の交代なんか見たいか」 今度は、モナコ大公宮殿前の広場にいます。 大勢の観光客。 欧米の団体旅行が多いのですが、日本人の団体もいます。 下品な関西弁が飛び交っています。 懐かしいやら、恥ずかしいやら。 衛兵の交代は、 ロンドンのバッキンガム宮殿でも、 台北でもみました。 どうってこたぁないのです。 でも、奥方、撮影位置の確保に必死。 背が低いので、 大男たちの隙間を抜け、前に出ようと必死。 「おお、はじまりました」 でも、やはり、どうってことはないのです。 白い制服の兵士たちが剣を上下させ、 掛け声を出して、その後、粛々と行進。 「ファンファーレはいいけどなあ」 オトーサン、 「この後、どこに行く?」 「そうね、もう少しブラブラしてから食事にしない?」 「ああ」 食事の2文字が出れば、安心です。 長く離れて暮らしていると、 娘と生活習慣がちがってきます。 起床時間、就寝時間、食事時間。 ニースでは、断食修行もさせられました。 娘たちが向かったのは、 モナコ名物のショコラトリー・ド・モナコ。 王室御用達のチョコレート屋にも寄りました。 「お高くとまってるなあ」 細い路地のお土産物屋もひやかしました。 モナコ大聖堂では、グレース王妃のお墓もみました。 海洋博物館は、パス。 このモナコ・ヴィル地区、 ご清潔で、こじんまりして、出会うのは観光客ばかり、 どうも物足りません。 オトーサン、 頭にあるのは、食事のことばかり。 「ここだ!」 さきほど目をつけていたレストランを発見。 路地が入り組んでいるので、見失いかけたのです。 楡の大木の下の広いテラス。 イタリア系でしょうか、 威厳のある、おばあさんが切りまわしています。 注文は、娘の英語が通じました。 「これ、うまいなあ」 「これも、おいしいわよ」 「それも、うまそうだな」 上から順番にメニューを披露させていただくと、 ・ワカサギ?のフライ ・ニース風シーフードサラダ ・オムレツ ・モナコ・ビール。 これは、アルコール分、5.8%で、 ちょっと苦味があります。 「まあ、たいしたことないなあ」 オトーサン、 海洋水族館の前へ。 「じゃ、今度は、ミニトラムね。 モナコを30分で一回りするのよ」 赤と白に塗り分けられた列車には、鈴なりの観光客。 「そうか、赤と白は、モナコのカラーなんだ。 ディズニーランドで遊んでいるようなもんだなあ」 ガタコト、ガタコト、発車しました。 各国語のアナウンスがはじまります。 早口で、チンプンカンプン。 「英語、これは分るな」 「ドイツ語だろう。やたらはねる」 「グラーチェか。それならイタリア語だ」 聞きなれない言葉のシャワーを浴びているうち、 眠くなってきました。 「ここもさっきバスで見た景色だ」 「ここ、ホテルの前じゃないか」 感動が薄れてきます。 贅沢な悩みですが、実際、そうなのですから、 仕方ありません。 オトーサン、 「おお、ここが、あのヘヤピンカーブか」 「このトンネル、ブッ飛ばすと怖いだろうなあ」 「このホテル、FI通には、特等席だなあ」 大金持ちは、エルミタージュか、 港にとめたヨットのデッキから見物するのです。 市街地を走ることで有名なモナコ・グランプリ。 1911年からスタート。 全長約3.3kmのコースで、幾多の名勝負が展開されてきました。 一時大いにあこがれたものです。 仲よくなったT氏から、 この豪華ホテルに1ケ月も泊まって、 日本でのFIレース開催について 関係者を口説き落とした話を聞いたこともあります。 「わが社も、F1参戦を!」 実現してしまうと、もう過去のこと。 憧れのF1コースを現実に走っているのに、 サッパリ感激がわきません。 かつてのエピソード、 「娘たちに話してもしょうがないだろうなあ」 わが人生のすべてを伝えようなんて、所詮はムリ。 娘には、娘の人生。 娘だって、ときには猛烈に話したくなることもあるでしょうが、 それはそれ。 オトーサン、 気がつくと、 ミニ・トラム、元の場所に戻っていました。 「人生スゴロク、いつもふりだしにもどるんだ」 妙な感慨にふけります。 「...パパ、よく寝てたわねえ。 あたしたち、これからタラソテラピーに行ってくる。 パパは、プールにでも行ってて」


*28 カジノ

オトーサン、 その後、またプールへ。 泳いだあと、デッキで寝そべります。 でも、長居できない性分。 「このホテルの支払いは、ママだったな。 よーし、チョッピリ豪遊してやれ」 昨日は、ビールでしたが、 今日は、カフェ・オレにケーキを追加します。 まわりを見回しても、2品もとっているひとは 見当たりません。 「せわしない世のなかになったなあ」 男性は、ケイタイにかじりついてビジネス。 女性は、長電話の後、また長電話。 「こういう場所は、ケイタイ禁止にしなくては」 オトーサン、 ホテルにもどって、ひと眠り。 ちょうど眠りに落ちるところに、 「お待たせー」 奥方、 「ああ、よかったわぁ、気持ちよかった。 あなた、パスポート持った?」 オトーサン、 「いや、オレ、このまま寝るよ。食欲もないし」 奥方と娘、 「モナコに来て、カジノに行かないなんて、ねぇ」 「だって、オレ、上着を買い忘れた」 「ネクタイさえしていれば、いいかもよ。 とにかく、食事にはつきあって」 「カジノなんて、貧乏人の行くところじゃないよ。 お金を捨てに行くようなもんだ」 奥方、 「見に行くだけよ、ガルニエが設計してるのよ。 豪華絢爛って書いてあるわよ」 地球の歩き方のページを見せてくれます。 娘、 「今夜は、パパの好きなところに、つきあってもいいわよ」 異例の提案をします。 「じゃ、食事だけ付き合おうか」 ノー・ネクタイで、出ます。
photo:Hermitage オトーサン、 エルミタージュのとなりにあるオテル・ド・パリへ。 「やあ、豪華絢爛とは、このことだなあ」 ホテルのレストランの野外テラスで ドレスアップした男女が群れています。 パーティでしょうか。 紳士たちは、黒の燕尾服、シャツの白が目にしみます。 女性は、フリルの多い、スソの長いドレス。 どこかの会社が借り切ったのでしょう。 「中へ入ってみようか?」 「いいわよ」 女性陣は、2つ返事。 エルミタージュに泊まって、タラソで磨きあげ、 そして、ドレスアップもしました。 どこへ出入りしようと、引け目とは無縁。 もう、シンデレラ状態。 オトーサン、 「アラン・デュカスのレストラン、"Lous XV"だ! そうか。すぐそばにあったんだ」 「そうなの?」 オトーサンは、大感激なのに、 2人とも、まったく乗り気ではありません。 無知ってこわいですね。 ディナーで250ユーロ。 要予約なので、今夜はまず入れないでしょう。 せめて雰囲気だけでもと、覗き込みます。 暗い照明で、室内は、分かりません。 1ケ所だけに明かり。 円筒形のガラスにショーケースです。 「へえ、本が飾ってある」 33歳でミシュランの3つ☆をとった天才シェフ。 すでに、数十冊もの伝記が出ているのです。 日本語の自伝も並んでいました。 娘、 「パパ、このホテル、よしましょうよ。 高いし、何か雰囲気がそぐわないわよ。 やっぱり、昨日のレストランに行きましょ」 で、結局、カフェ・ド・パリへ。 「昨夜のアラブ人たちは、どうしたかなあ」 子供2人、メイド2人を引き連れての豪遊。 ダンナのほうは、赤ら顔で小太り。 給仕を呼びつけて、 自分たち専用の席をつくれと命令。 薄紫のベールをかぶった 妙齢の婦人はと見ると、 奥方の観察によれば、 「やーねぇ、フロアにアスクリームの 食べ残しをべちゃっと捨てているのよ」 ひと昔前の、日本人がそうでした。 周囲が、まったく見えなかったのです。 オトーサン、 次第に目が冴え、食欲が出てまいりました。 「パパ、何食べる?」 「オレ、アニョーとワイン」 「昨日と同じじゃない」 「だって、絶品だったからな」 奥方、 「あたしも、アニョーにするわ。 昨日、分けてもらったら、おいしかった。 食べたりなかったから」 「そうだろ、子羊の肉は、あらゆる肉のうちで、 一番、ジューシーなんだ」 奥方、娘に解説。 「ラムなんてと思ってたけど、 ニュージーランドに行ったときに、開眼したのよ」 料理がきました。 骨つきのアニョーのうまさは、格別。 また感動します。 「このワインも、おいしいわ」 「そりゃ、そうだろ、高いもん」 小瓶で、31ユーロもしました。 銘柄を書いておきましょう。 NUITs ST GEORGE 1ER CRU CLOS DECA MARG CHALE FAYVERY 娘、 「さあ、カジノに行きましょ!」 奥方、 「あなたも行くのよ」 「だって、パスポートも持ってないんだぜ」 「持ってきたわよ。あなたの分も」 「ノーネクタイだぜ」 「一応、聞いてみましょうよ」 おそるおそる豪華絢爛たるカジノの入り口へ。 守衛が2人、立ちふさがっています。 後ろはとみれば、カジノを注視する観光客の群れ。 「このまま、断られると恥かくなあ。 日本人は、ドレスコードも知らないのかって。 でも、入れないほうがいいや」 その時、奇跡が起きました。 守衛が頭をさげて、 オトーサンたちを導き入れるのです。 奥方、 「ねえ、入れたでしょ。 だって、ほら、ジーパンでTシャツのひともいるわよ」 「変だなあ」 「そうねえ。 ...でも、たくさんいるわよ、汚い身なりのひと」 「ほんとだ」 オトーサン、 受付でパスポートを提示します。 OKがでました。 入場料の10ユーロを払うと、 すっかり余裕が出て、いつもの冗談。 今度は、よそいきの顔をした赤い制服の娘相手です。 「ミス・フランス」 "Comment?(何ですって) "J'ai dit que vous etes Miss France!" "Ah!" 娘の顔が笑顔に変わります。 "Mais je suis Algerian." (でも、あたしアルジェリア人なのよ) "Ah,c'est ca! vous etes tres jolis!" (ああ、そうなんだ、だから素敵なんだ) この拙い会話、ぜひ地球の歩き方の巻末の会話集に 入れておいてほしいものです。 外交官が不要になります。 さて、 オトーサン、 ルーレット、バカラーなど、 ガルニエ宮殿の奥の間も難なく入れて視察完了。 「さあ、帰ろう、つまんなかった」 2人の姿が見えません。 「どうせ、スロットル・マシンで遊んでるんだろう」 2か所ほどみましたが、いません。 「パパ」 と呼ばれて振りかえります。 2人がトイレから出てきたところ。 壁から出てくるなんて、手品のようです。 「ここ、トイレだけが面白かったわよ、 パパも行ってみたら?」 言うとおりにしてみましたが、 どうってことはありませんでした。 女性用は、まったく風変わりだったそうです。 「どういう風だったの?」 「ヒ、ミ、ツ」 実は、娘から無理矢理、聞き出したのですが、 ここには、書き記さないことにしましょう。 そうなのです。 もはや、モナコのカジノは、おしまい。 寿命が尽きたのです。 閑散として、身なりも顔つきも卑しい客だけ。 いまや風変わりな女性トイレで集客しているのです。 「ラスベガスのほうがダンゼンいいなあ」


*29 カルフール・モナコ

オトーサン、 「えっ、何事だ」 午前10時、娘があわただしくロビーに駆けおりてきました。 「さあ、行くわよ」 「今日はどこへ行くんだ?」 「あたしたち、グレース王妃のバラ園に行く。 パパは、カルフールでも見ていたら」 「バラ園といってもねえ、もう9月でしょう。 バラは、咲き終わっているかもよ」 めずらしく、奥方が異議をとなえます。 そう、奥方は、あまりバラが好きではないのです。 山荘に植えようといっても、首を縦にふりません。 どういうわけでしょうか。 手入れが大変なせいなのか、 あまりにも人工的な美しさのためか。 「ママ、行きましょうよ」 「そうね」 オトーサンたち、 6番のバスに乗って、海辺を走って、 その後、長いトンネルをぬけました。 Fontvieille、埋立地。 モナコは、せっせと国土面積を増やしているのです。 Centre Commercialという ショッピングセンターのなかにカルフールがあるのです。 「ここよ、パパは、ここで降りるのよ」 あわてて跳びおりました。 「そうだった。何時に待ちあわせる?」 バスのなかの娘に大声で呼びかけます。 娘たちときたら、いつ戻ってくるか分からないのです。 何度も苦い目にあっています。 「12時よ」 「どこで?」 「そこで待ってて!」 オトーサン、 娘たちと別れると、妙なもので、シャキッとします。 「さあ、これから思うがままに行動できるぞ」 早速、視察モード。ICコーダーをセットします。 このSONYの安物、録音時間が短いのが難です。 この旅行中、何度も満杯になって録音不能になります。 その度に、あわてて、このHPに書き写してから、消去。 電池の消耗も早いのです。 でも、いいところは、大きさも形も携帯電話にそっくりなこと。 カルフールの店内で、取り出して吹き込んでいても、 まったく怪しまれないのです。 その昔、ウォルマートの創業者サム・ウォールトンが ライバル店視察中に録音現場を取りおさえられたという エピソードを読んだことがあります。 「昔は、ICコーダーなんかなかったからなあ」 店員の目をかすめて写真をとったり、 あとで忘れぬようメモしたり... 流通関係者は、それはそれは苦労したものです。 ところが、このICコーダーさえあれば、 何だって記録できてしまうのです。 自分の声ばかりか、 店員の売り込みの声、 顧客や店員と話した会話。 フランス語や英語でも、何度も聞きかえせば分かります。 オトーサン、 ざっと店内を巡回しました。 手前半分が日用品・雑貨売場、 奥の半分が食品売場になっていました。 録音開始。 「えー、このお店は、雑然としてますね。 ゴンドラが高いので、威圧感があります。 ここ、商品が落ちてきそうです。 レジも、ああ、2台しかありません。 まるで、ダイエーの既存店のように荒れています。 でも、活気はありますね」 「では、気になる鞄をみてみましょう。 45ユーロか、安いな。 サイズは? ふーん、70cm×47cm×24cmか。 これくらい大きければ、増えた荷物も入りそうです。 ...そんなに買うなよなあ」 「軽いし、こりゃ、よさそうだ」 ローラーがついていて、取っ手を引いて移動するタイプ。 ニース駅でみて、ファッショナブルだと思ったのです。。 「中がどうなっているのか、見てみましょう」 結局、買うのをやめました。 何の袋もついていなかったからです。 「これは手抜き。日本人には、売れんなあ」 海外進出をした企業にとって、 顧客の生活習慣のちがいは、重大事です。 その昔、GEと提携したことがありました。 冷蔵庫、棚が小さいのです。 当時の日本では、ビ−ルといえば大瓶。 「これじゃ、売れない」と申し入れても、 頑として受け入れてくれません。 アメリカでは、ビールは缶ビールが普通。 日本向けの少量生産なんか出来ないと言われました。 その後、提携は解消し、GEは撤退。 オトーサン、 2階のカルフールへ。 ここは、家電売り場です。 「ビックカメラのほうが充実してるなあ」 デジカメなど日本製品ばかり、それも旧型です。 有楽町のビックカメラの冷蔵庫売り場を とときどきチェックしますが、 日本の家電製品の芸の細かいこと。 冷蔵庫ひとつとっても、 ・液晶表示 ・両開き ・エレベータ式の棚、 ・2Lペットボトルの収納本数競争... ロンドンの留学から帰ってきた娘が、 冷蔵庫売場をみて、笑い転げました。 「日本人は、つまらんことにエネルギーを費いすぎよ。 絶対、おかしいよ、そんなことで右往左往するのは」 正論だと思いますが、まあ、そんな態度では、 日本市場攻略は到底ムリだと思います。 オトーサン、 「えー、カルフールは、家電にも力を入れていますが、 まあ、日本じゃダメでしょうねえ。 じゃぁ、12時にはまだ時間があるので、 もう一度、食品売り場を見てみましょう。 これまで見てきたカルフールとは、まったくちがいますね。 通路も狭いです」 ひとがすれちがえないくらいでした。 パン売り場のすぐ横は、魚売り場。 "Le sermon fumee!" これは、サケの燻製を売るオジさんの呼び声。 オトーサン、 「えー、スシも売ってますね。 値段は、えーとどこに書いてあるのでしょうか。 あー、11ユ−ロ」 そのとなりが、野菜売り場で、 ピーマン、ブロッコリー、にんじん、いんげんなどが うず高く積んであります。 3箱分くらい斜めに。 「じゃがいもが、ありますね。 1kg 0.7ユーロ。これは、安いですね」 その横では、店員がケイタイで電話中。 商品補充のようです。 オトーサン、 ミルクやジュース売り場を通過。 手押しクルマが置き去りになっています。 お客が避けて通っているのに知らん顔。 店員も小汚いですし、態度も横柄です。 「狭いですね。 それに、汚いです。 ああ、店員でしょうか、 業者2人と店員のようですね。 陳列棚の前で議論しています。 はは−ん。棚が壊れております。 どうやって直したものか、相談しているのでしょう。 おお、そういえば、棚は錆びてますね、あちこち」 オトーサン、 「こりゃ、ダメだ」 でも、カルフールの別の顔や 観光名所にはないモナコの素顔が見られたのは、 収穫でした。


*30 モナコからパリへ

オトーサン、 いま、ニースからパリへの車中。 1等車が満席で、止むをえず2等車へ。 指定された席には座らず、 コンセント付きの座席で、ひとりパソコンに向かっております。 この席、連結部にある関係で、窓がなく、蒸し暑いのです。 駅につく度に、乗客が大荷物をもって乗りこんできます。 でも、各駅停車でないので、 その騒ぎのあとは、作業に集中できます。 「いやぁ、間にあってよかった」 慌しかった数時間のことを思い出します。 12時に、カルフールの出入口でお茶していると、 奥方が、息せききって駆けつけてきました。 「早く、早く」 「そんなこと言ったって、まだ飲み終わっていなし、 お金も払っていない。そう急がせるなよ」 「タクシーを待たせているのよ」 「えっ、どうして?」 「いいから、早く!」 何でも、一旦ホテルにもどって、荷造りし、 午後1時過ぎの列車で、モナコからニースに移動、 そのあと、パリに向かうとのこと。 「モナコからパリに行くんでなかったの?」 「...」 あきれられました。 娘に任せっ放し。 南仏旅行については、何にも知らないのです。 オトーサンたち、 ホテルからタクシーで、モナコ駅へ。 荷物が重いので、奥方はフーフー。 駅構内のカフェへ。 店主が注文とりにやってきます。 娘はとみれば、座らず、駅の案内所へ。 「こりゃ、何か起こるぞ」 オトーサン、 店主にいいます。 席をタダで借りてはまずいじゃないですか。 また、日本人の評判が落ちます。 "Elle est comme Charlle DeGaulle pour moi" はじめケゲンな顔をしていた店主が、破顔一笑。 かれも、娘に頭が上がらないのかも。 泣く子と地頭には勝てず。 洋の東西を問わす、人情は変わらず。 「そうか、ドゴール将軍じゃ、言うとおりにするしかないな」 果たして、娘は、疾風のように駆けてくるなり、 「さあ、行くわよ」 「えっ?」 「38分発に乗るのよ」 時計にチラリと目をやると、36分。 「そりゃ、ムリだよ」 そう思いましたが、重い荷物をもって階段を駆け下ります。 プラットフォームを前方の列車のほうに走ります。 娘が、閉まったドアを叩きました。 奥方は、まだ後方を走っています。 オトーサンたち、 乗り遅れて、階段を上って、さっきのカフェエへ。 娘が、また案内所へ。 「何で、そういそぐんだ? 1時11分発と言ってたじゃないか」 あえいでいる奥方に聞きます。 「あの娘なりに、努力しているのよ。 ニースの乗り換え時間が6分しかないから、 少しでも早い列車に乗りたいと思っているのよ」 「えっ、たったの6分間? そりゃ無茶な! 何でそう余裕のないスケージュールを組むんだ」 「...」 「たしか、TGVには食堂車なかったよな。 パリ着は、夕方だろう。 ここで、メシ食べておかないと、大変だぞ」 オトーサン、 サンドイッチ2ケと缶ジュースを注文します。 これだけあれば、 娘たちが食いはぐれるようなことはないでしょう、 店主は、商売柄、次の列車が出るまで 30分もあるのを知っていますので、 座って食べずに、テイクアウトするのに怪訝な顔をします。 店主、娘のほうを見やったオトーサンをみて、 即差に了解。 "Bon Voyage!" はたして、娘、戻ってくるなり、 「ここで、食べるのよしましょう。 早目に、プラットフォームに行きましょう」 「あんなところで、30分も待つのか?」 そう言いたいところですが、黙っていました。 1時37分、ニース到着。 「定刻どおりだった。よかった! 走れ!」 幸い娘が6番ホームだということを聞いてくれていたので、 スムースでした。 ただ、走るだけですみました。 オトーサン、 時計をみやります。 「もう、5時か」 午後1時43分にニースを発車しましたから、 もう3時間以上、パソコンに向かっていたことになります。 「あと、2時間強だ」 パリ着は、午後7時20分の予定です。 奥方たちのいる席に戻りました。 娘が荷物が重くなるから捨てるというので、 ネットからプリント・アウトした 今回の資料に目を通しはじめました。 膨大な資料です。 メモを取りながらでしたので、 作業が終わったら、すでに午後6時半! 「やあ、いそがしいなか、よくやってくれたなあ」 心のなかで、娘に手を合わせました。 面と向かって礼を言うのも、何だか他人行儀のようだし...。 でも、娘はもう半分アメリカ人、 きちんと言うべきなのかも。


*31 RERの乗り方 

オトーサン、 再びパリのホテルに戻りました。 南仏5泊をはさんで、パリには前半3泊、後半3泊。 「場所は、最高なんだけど、部屋が狭いのが難だなあ。 オレ、思い切って、シングル借りるよ」 そう決意していましたが、戻ると部屋替えになっていました。 6階、実際は7階で、最上階です。 窓から身を乗り出すと、凱旋門が少しみえます。 「ウワー、広いなあ」 「よかったわねえ」 「最初から、ここにしてくれればよかったのにねえ」 「7階だと、騒音も少ないような気がする」 そんなことで、ノビノビと寝られました。 娘たち、 「あたしたちは、モンマルトルに行くわ」 「そうか、まだ、行ってなかったか。  オレは、カルフールに行くぞ」 「まだ、カルフール、見なきゃいけないの?」 「ああ」 ケッチャム千香子さんから教わった3店目が残ってます。 「RERの特別快速電車で TORCYという駅から歩いてすぐのところです。 従来のゴンドラを低くした狭山スタイルを 初めてヨーロッパに取り入れた店です」 簡潔な紹介文が書いてありました。 「そうか、駅から歩いていけるんだ。 それなら行くのは簡単」 Carert-Senart 行きほど、時間もお金もかからないでしょう。 オトーサン、 「問題は、RERだなあ」 「地球の歩き方」77pには、 「RERの治安について」とあって、 「メトロに比べてはるかに悪いのが実情。 スリのように自分の心がけ次第で防げる犯罪だけでなく、 多人数で襲ってくるといった狙われたら防ぎようのない 凶悪なケースが多発している」と書いてあります。 「お前は、死にに行くのかというような書き方だなあ」 でも、何とかなるだろうと腹をくくりました。 オトーサン、 「さて、TORCYっていう駅、どこにあるのかなあ」 そこで「地球の歩き方」57pに載っている RER駅名インデックスのTの項を見ました。 「あった!Tには、たったひとつだ」 「B4 Torcy」と書いてあります。 そこで、おもむろに、 RER高速郊外鉄道路線図54,55pを開いて、 B4路線を探します。 「そうか、これだ」 B4は、サン レミ レ シュヴルーズ (St-Remy-les-Chevereuse)が終点です。 この路線の10数駅のなかに、 お目当てのTorcy駅があるのは、火を見るより明らかです。 「ないなあ、ない!どこを探しても見あたらない」 パニックになりかけます。 「あせるな。あせるな」 そう自分に言い聞かせながら、 30分くらい地図とにらめっこをしました。 「ない。まあ、いいや、 明朝パリ観光案内所が開いたら、聞いてみよう」 ということで、朝10時、1番で飛びこみました。 パリ・マップで、B4を探してくれて、 ないと分かると、パソコンで調べてくれます。 "Ici,c'est Torcy" "Merci beaucoup!" もらった地図を見ると、A4路線にマークがついています。 「そうか、B4でなく、A4なのか。 ガイドブックの誤植だったんだ。ケシカラン」 オトーサン、 「次の問題は、RERの乗り方だなあ」 これは、76pに 1)改札 2)ホームで 3)乗車 と分けて、丁寧に解説してあります。 「わかった。でも、問題は、どうやって行くかだな。 何だ、簡単じゃん」 ホテルから歩いて徒歩3分の シャルル・ドゴール・エトワール駅から Torcyに行くには、 マルヌ ラ ヴァレー シュシー(Marne-a-Vallee-Chessy) 行きに乗ればいいだけでした。 オトーサン、 「やったぁ」 小さな勝利を味わいました。 難なくRERの改札にたどりつき、 メトロの地図を見せ、 "Torcy,Aller-Retour,un"と宣言したのです。 "Oui" 係員が微笑んで、サッと切符を2枚くれました。 前に並んだひとたちは、RERの初心者らしく、 何度も押し問答を繰り返しているのに、 1発でOK!だったのです。 しかも、往復(Aller-Retour)と言って注文できました。 「いやぁ、いい気持ちだ」 難関大学に現役で入学したような気持ちです。 ボーナスの満額回答といってもいいかも。 オトーサン、 プラットフォームに出ました。 「地球の歩き方」76pの 「2)ホームで」の箇所を読み直します。 「ホーム上方に駅名が表示された電光掲示板があり」 と書いてあります。 「フムフム。あれだな。分かった。じゃ、次」 「行き先がいくつにも分かれているので」 とあります。 「Poissy-St-Lejerにさえ、乗らなきゃいいんだ。 いいな、Marne-a-Vallee-Chessy行きだぞ。 略して、MVC、間違えるなよ」 電光掲示板には、 Nom /Destination/Heure de Dapart (電車名、行き先、発車時刻) とあって、上から下に発車時刻順に並んでいます。 「ははーん、Torcy 10:44、 あれが来りやぁ、乗りゃいいんだ」 オトーサン、 無事乗り終えてからも、警戒心を怠りません。 まず、危害を与えそうない中年の 優しそうなご婦人のそばに座りました。 次に、そのご婦人に、ここから、Torcyまで どのくらいの時間がかかるかについて尋ねました。 「そうね、この駅の数からすると、20分から25分ね」 そういう丁寧なご返事でした。 でも、ひとの意見は鵜呑みにしてはいけません。 危うく乗り過ごすところでした。 たったの15分で、Torcy に着いたのです。 「やあ、よかった、よかった。 やはり、停車する度に、駅名を確認しなければ。 それにしても、地球の歩き方の誤植は、ヒドイ」 オトーサン、 でも、後で考えてみると、 TorcyのB4いうのは、地図上の位置を示すものでした。 RERの路線番号ではなかったのです。 「とんだ勘違いだった。 たったの10分乗るだけ大汗かいた。 一度覚えりゃ、どうってこたぁないんだが...」 皆様、RERを乗りこなしてください。 パリが広がります。


*32 再びカルフールへ 

オトーサン、 Torcy駅について、録音を再開します。 「えー、閑散たる駅前ですね。 左手にバス・ターミナル、右手は巨大立体駐車場。 その横を歩いております。 ほんとうに人気がないですね。 この広大な駅前広場に、4、5人程度」 「200mくらい、まっすぐに歩いてきました。 いま交差点を左折します。 正面に5、6階建てのビル。ビジネスホテルでしょうか。 ああ、買い物袋をもったおばさん2人連れが歩いてきました。 お金持ちには見えませんね。 "Pardon,madame.Ou sont le magasin de Carrefour?" "...." フランス語が通じないようですね。 アフリカ系の移民でしょうか。 そうか、フランスは移民問題で揺れているのでした」 オトーサン、 「ああ、みえました、みえました。 原っぱのなか、高圧線がありますね。 何か、代々木の岸体育館のようですね。 11時半ですね。もう駐車場は、満杯ですね。 これ、何台くらい収容できるのでしょうか?」 (後で聞いたら、3000台でした) 「えー、入口で目立つのは、 Casino Cafeteriaのサインですね。 食べもの屋でしょう。 別に、カジノじゃなさそうです。 おお、 このCarrefour le Collegien 店も、 デザインが新しいですね。 カレ・セナールみたいです。 (後で聞いたら、今年2月にオープン) 入って右手が、Virgin Mega Store。 左手は、何の店でしょうか。 ファッション関係でしょうね。 ああ、H&MやValentinoも入っていますね。 Sephoraもありますね。 日本市場からは、撤退したようですが。 このショッピング・センター、大きいですね。 奥が霞んで見えないほどです」 (後で聞いたら、110店入居) 「カルフールにやってきました。 正面に、淡いブルーで、"BIENVENUE"と大書してありますね。 "BIENVENUE"は、"Welcome"という意味ですよね。 レジは、いくつあるんでしょうか。 72台!大きな店です。 相変わらず、黒人警備員が目立ちますね。 ははーん、この店、小さな買い物籠を置いてますね。 巨大カートが不便なお客様だっています。 そういうひとだって、大事にしなければなりませんよねえ」 オトーサン、 カルフール視察も3店目となると、 そうそう驚いてばかりはおられません。 どこに何が並んでいるかは、 フロア・プランを入手すれば、済むこと。 "Pardon Monsieur, Je suis le Professeur de Marketing. Je viens de Tokyo pour etudier votre magasin. Je voulez le plan de votre magasin" まあ、そう流暢に言えたわけではないのですが、 2人ほど聞いてあるいて、ようやく入手いたしました。 でも、正直なところ、あやしげな質問よりも、 ケッチャム千香子さんから頂いた文書が役だったようです。 水戸黄門ではありませんが、 「この葵の御紋が目にはいらぬか?控えおろう」 てーなものです。 カルフール・マークが入っていたのです。 オトーサン、 地図を片手にざっと店内を見てまわりました。 視察中に気付いた点を要約すると、 狭山スタイル  陳列棚が低くなっている。  左手の壁に沿った食品売り場に凸凹をつけている。 イン・ショップ化  H&BC、ワイン、家電/PC、ケイタイ、ジュエリーなど。  DVD、CDコーナーでは、視聴ツールを充実。 100円ショップ化  5から10ユーロ程度の小物を集めた棚ができている。 魚や肉の売り方を改善   平台にアルミ・フォイルを敷き、そのうえに氷を敷き、  丸魚類や輪切りのマグロを展示。 ムール貝だけで2メートル四方の大量展示。  オープンキッチン形式で魚や肉を調理している。  呼び込みもする。 ワンストップ・サービス志向  月賦、各種保険、自動車保険、  旅行、現像、ガソリン給油、  返品コーナー、ドリンク・コーナー オトーサン、 取材を終わって、買い物に専念しました。 買ったものをあげましょう。 ・単三電池 ・KOOKAIの財布 ・歯ブラシ ・カラーYシャツ ・テーブル・クロス ・ペットボトルの水 ・ワイン 「これだけ買えば、ケッチャム千香子さんに 少しくらいは、恩がえしができたかもなあー」 オトーサン、 レジに並んで、びっくり仰天。 オトーサンなんか、買ったうちに入りません。 前にいるのは、肥ったおばさん、 「おお、あんなに買うのか? スゴイ量ですね。1週間分でしょうか。 これじゃ、レジで永遠に待たされそうですね」 3m×70cmくらいのベルトコンベアに びっしりと買った商品が並んでいます。 「トイレット・ペーパー、ティシュ・ペーパー、 洗剤、肉、ワイン、パン、果物、ソーセージ...」 ICレコーダーのおかげで、 また、日本語ですから、 誰にも悟られずに、全てを記録できました。 独身男性の買い物籠の中身も記録しましたが、 ここでは、長くなるので、省略。 これ、ウォルマートのように科学的・組織的にやると、 「マーケット・バスケット分析」になります。 関連販売のアイディアがたくさん出てくるはず。 「うちは、情報技術で、遅れてるから、そんなこと」 なーに、そんな七面倒なことは、不要です。 レジのおばさんやおねえさんを活用すればいいのです。 お金ばかりに集中させずに、 買い物籠の中身の申告も頼めばいいのです。 いわゆる「多能工」化です。 売り場主任や仕入れマネージャーにも、 たまにはレジ係りを経験させればいいのです。 オトーサン、 「そういえば、腹減ったなあ」 食事をすることにしました。 もう午後1時半を回っています。 隣に、身なりのいい若いご婦人が座っています。 早速取材しました。 怪しげなフランス語会話を披露してもしょうがないので、 結論だけ述べましょう。 「あたし、ここではあまり買わないのよ、 この店、すこし安いといった程度よ。 ほかの店のほうによく行くわ。 今日はミルクを買いに来たの。 婦人服を買ったことがあるかって? とんでない。パリに行くわ。 スシ? スシもパリに食べに行くわ。 だって、専門店があるのよ。 あなた、○○○○っていうお店見に行ったらいいわよ。 ここより、ずっといいわよ」 カルフール、 ワンストップ・ショッピングが売り物ですが、 逆にいえば、何でもあるが、欲しいものは何もない ということになりかねません。 ご婦人の話では、 オーシャンなどの競合店や 数ある専門店に各戸撃破されているようです。 そういえば、 ・マネキンが裸のまま、 ・値札がついてなかったり、 ・商品補充係が無愛想など ずさんな売り場も、いくつか見受けられました。 巨大化すると、どうしても、脇が甘くなるのでしょう。


*33 RERの乗り方、その2 

オトーサン、 「今日はどうしようかなあ」 娘と奥方は、珍しく8時に起きて、 疾風のごとく、ジベルニーに出かけてしまいました。 何でも、列車の本数が少ないそうです。 「モネの家なら、観光バスで行けば楽なのに」 「ムダ金を遣うことないのよ」 たしかに、鉄道で行けば、10ユーロもあれば足りるのに、 観光バスだと、59ユーロもします。 オトーサン、 1時間ほど、ホテルの部屋でパソコンに向かいます。 それにも飽きて、ホテルの窓から凱旋門を撮ったりします。 「カルフール、もう1店、見ておこうか。 昨日、RERの乗り方マスターしたことだし」 持参した資料には、 95年モデル、ドランシー店の紹介記事が出ています。 「パリからRERで20分ほどのドランシー駅から、 バスで10分、路面電車で10分ほどの大住宅地の中心にある」 「簡単に行けそうだ。 それに、今日は土曜日。 週末のカルフールを見ておくのも、いいかも」 資料には、フロア・プランも出ています。 「手に入れなくてもすむから、楽だなあ。 こりゃ、いいわ」 オトーサン、 行き方を研究します。 Drancyは、B3路線にありました。 シャルル・ドゴール空港行き (Aeropole Charlee De Gaulle 2 TGV)に乗ればよさそうです。 地下鉄でシャトレ(Chatelet)に出て、 シャトレ レ アール(Chatelet Les Halles)で RERに乗りかえれば、OK。 「でも、これは止めといたほうがよさそうだ」 というのも、「地球の歩き方」74pに、 5)乗り換えの場合とあって、 「シャトル駅やモンパルナス駅は、多くの路線が交錯し、 乗り換えの迷所といえる」と書いてあるのです。 「そうか、迷うのは避けたいなあ。どうしたもんだろう」 地下鉄路線図52,53pをくまなく検討した結果、 プラス ディタリィ(Place d'Italie)行きに乗って、 4駅手前のダンフェール ロシュロー(Danfert Rochereau)で 乗り換えるのがベターと判明しました。 この駅なら、RERに迷わず乗り換えられそうです。 「今日は、楽な1日になりそうだ」 オトーサン、 午前10時、雨があがったので、 ホテルを出て、ゆったりした気分で、凱旋門に向かいます。 「いつ見ても、凱旋門は、いいなあ。 ...あの青年、無事、日本に帰れたのかなあ?」 カルフール視察に緊張してMelunに向かった列車の中で 出会った青年のことを思い出しました。 「...最終日は、凱旋門を見に行くと言ってたっけ」 オトーサン、 地下鉄の入口で、 日本人の女子大生に出会いました。 大型旅行鞄とガイドブック。 一目で、お上りさんと分かります。 声をかけました。 「どうしたの?」 「あのう、地下鉄の乗り方が分からなくて...」 「どこに行きたいの?」 「ここです」 「全然、ちがう場所じゃない、どうして?」 「空港から、エールフランス・バスに乗ったら、 ここに着いてしまったんです」 「分かった。じゃ、メトロの改札口まで案内しよう」 「パリ在住の方ですか?」 「いやぁ、そんなんじゃないけど」 この間、イギリス人と間違えられたましたが、 それに劣らず、いい気持ちです。 "Un Carnet,si'l vous plait" 流暢なフランス語で、10枚券を買い、 4枚もあげてしまいました。 ひとりは川崎市、ひとりは静岡県。 パリのあとは、2週間ほどイタリアへ行くそうです。 「鉄砲玉みたいな娘たちだったなあ」 何も知らずに、日本を飛びだしてくるのです。 武器は、若さと好奇心と少しばかりのお金だけ。 オトーサン、 「パリの地下鉄は、風情があるなあ」 ICレコーダーのスイッチをそっと入れたところです。 車内に、アコーデオン弾きが乗り込んできたのです。 「しめしめ、無料で録音できそうだ」 ドアの閉まる音、 ブアーン、メトロの長い警笛音が鳴るなか、 ラ・クンパルシータ、 ついで、ベサメ・ムーチョが流れはじめました。 「いいなあ、この曲。若い頃、よく踊った...」 曲が巧みに切り変わって、 テンポの速いコサック・ダンス。 足を前方に投げ出す、やたら元気なあの踊り。 「こりゃ、無理だ。とても踊れんなあ」 曲は変わって、シャンソン。 "Oh Champs-Elysee"、 "Sur le ciel de Paris" 名曲「パリの空の下」を聴いていると、 不意に涙が出そうになりました。 演奏が実にうまかったのです。 フランス語の勉強をはじめた頃、よく聞いたものです。 憧れを通り越して、飢餓のようなパリ。 そんな、もはや取り戻せない青春があったのです。 留学も滞在の夢も、敵わなかったパリ。 そして、これが最後になるかもしれないパリ。 (後で、知ったことを書きそえておきましょう。 パリの地下鉄の構内や車内での音楽演奏のレベルが 高いので、不思議に思っていましたが、 演奏希望者が市当局に届けると、 オーディションがあって、 合格したひとだけが指定された場所で演奏できます。 これは、芸術振興事業の一環だそうですが、 流石、芸術の都パリですね) オトーサン、 「やばいな」 アコーデオン弾きがお金を取りにやってきました。 じっと、見つめられました。 「少し、上げるかなあ?」 その時、ぱっと車内が明るくなりました。 地下鉄は、Montparnasseが近づくと、 地上に出るのです。 青空、高層ビル、セーヌ川。 車窓風景に気をとられているうちに、 アコーデオン弾き、その場を立ち去っていきました。 Pastuer駅に停車。 "Vivre Ensemble"という広告。 修道女2人をサラリーマンの青年が見ている広告。 「みんな助け合って生きていこうよか。 いかにも、フランスだなあ」 オトーサン、 「楽勝だった」 Danfert Rochereau駅での乗り換えも、 RERの切符購入もスムースに行きました。 「こいつがちょっと面倒だけど」 RER駅の20インチ・ブラウン管を見やります。 Nom Destination Heure de passage ------------------------------------ EXL1 Aeropole-CGD 10:35 EFLA Aeropole-CGD 10:37 1CAR Mitry 10:42 EKL1 Aeropole-CGD 10:50 EFLA Aeropole-CGD 10:52 「でも、考えてみたら、どれに乗ってもいいんだ」 Drancyは、シャルル・ドゴール空港行きでも、 B5路線のMitry行きでも、途中駅なのでした。 「じゃ、一番早いのに乗ろうっと」 電車が近づいてきました。 ドゴール空港行きの表示が、10:35から train a quaiに変わります。 「ふーん、到着のサインなんだ」 オトーサン、 「あとは、Drancyで降りるだけ」 余裕で、車内を見渡します。 ドコール空港に行くひとが多く、 かなり混んでいます。 通路を大きな荷物で封鎖している夫婦が目につきました。 「あの旦那、ちょっとジャン・ギャバンに似てる」 奥さんと話すときに、右の眉毛をあげるのです。 「あの仕草も、そっくり」 唇を堅く引き締めるあたり、 ぐっと身を乗り出すあたり...。 「ジャン・ギャバンなんて、 この辺には、ごろごろいるんだ」 オトーサン、 午前11時になりました。 「もうそろそろ、着くころだなあ。 Drancy駅のふたつ手前の駅は、何といったっけ。 La Coumeuve Aubervilliers か」 その覚えにくい駅名の駅を電車が通過していきます。 長い貨車の列が見えました。 自動車を運搬していますが、戦車も1両積載しています。 「ひょっとしたら?」 鼻歌まじりの気分に、かげりが出てきました。 「...この電車、各駅停車じゃないのかも」 「あっ!」 下車するはずの Drancy駅が飛び去っていきました。 「ああ...」 そうなのです。 不注意でした。 「地球の歩き方」76pをもっとしっかり読んでおくべきでした。 後で読みかえすと、こう書いてありました。 「電光掲示板があり、停車駅にはランプがつくようになっている」 行き先や発車時刻にばかり気をとられていて、 肝心の停車駅を表示するランプが Drancyに点灯しているかどうかを見逃したのでした。


*34 カルフールへの長い道のり 

オトーサン、 「まあ、いいや。 ドゴール空港への行き方が分かったんだから」 空港駅から各駅停車で、引き返します。 「ああ、ようやく着いた」 市内中心部から20分のハズが、 1時間もかかってしまいました。 「ここからは、バスか路面電車で10分だったな」 閑散とした駅を出ます。 出たところに、バス停。 高校生の男女が地面にベタ座り。 「まあいいや、聞いてみよう」 オトーサン、 「ウカツだったなあ。 バスか路面電車じゃないんだ。 バスに乗って、それから路面電車に乗り換えるんだ」 いま、強い日差しが照りつけるなか、 トボトボと長い跨線橋を渡っております。 高校生は、分からないの一言。 手がかりは、Avenir Carrefourの写真だけ。 「誰が、いないかなあ」 郊外住宅地というより、ド田舎。 家はあるのですが、人気がないのです。 「しょうがない、もう1駅分歩いてみよう」 オトーサン、 ようやく、ひとに出会いました。 青いYシャツ姿の小柄な老人です。 昼の散歩という風情。 "Pardon Monsieur,Parlez vous Anglais?" ・どこ行きのバスに乗り、 ・その料金はいくらで、 ・どこで降り、 ・どの駅で路面電車に乗り、 ・その料金はいくらで、 ・どの駅で降りるのか こんな複雑なこと、フランス語ではムリだと思ったのです。 小柄な老人、 "Non!" オレは、フランス人、 世界一の言葉を知っているのに、 下品な訛りの英語なんかしゃべるもんか、 そういう気配が全身に感じられます。 フランスには、よくいるんです。 こういう手合い。 オトーサン、 「よーし、ここは、フランス語で勝負しよう」 といっても、Avenir Carrefourの写真を指さして、 "Connasez vous ce magasin? Je voue aller a ce magasin. Ou est l'arret de bus pour Avenir Carrefour?" 小柄な老人、 分かってくれたようです。 "Ah oui,la-bas" バス停の方向を指さしてくれます。 「しまった、バスの路線番号を聞かなきゃ」 "Pardon,quelle est le numero de bus? Ecrivez ici,si'l vous plait" この"Ecrivez ici"というのが、 最後の切り札なのです。 小柄な老人がさらさらっと手帳に書いてくれました。 "Auto bus 148 decendre au 6 route apre Train mue decendre carrefour avenir" オトーサン、 手帳を押し頂いて、 しつこくバス停を指差す老人に 何度もお礼を言って、バス停に向かいます。 「148番に乗ればいいんだ」 幸いバス停には、先客がいます。 中年黒人女性。 カルフールには、こちら側でいいのかを確認します。 ダイジョウブのようです。 バスの料金を聞いたのですが、 分からないようでした。 「変なひとだなあ」 と思いましたが、定期券の利用者だったようです。 子連れの婦人がきました。 「やっと分かった。1.3ユーロなんだ」 さっきの小柄な老人が ひょこひょこやってきて、婦人に話しかけます。 このひとは日本人で不慣れだから、 バスの運転手に降りる駅がきたら教えるように 言ってやってくれと依頼しているのです。 「暇人だなあ。でも、いいひとだなあ。 日本とフランスが友好国でよかったなあ」 シラク大統領の日本びいきは有名です。 何でも、彼女が京都にいるとか。 おっと、これはヒ、ミ、ツ。 オトーサン、 "Roger Salengo"なる駅で降りました。 さきほどのご婦人も同じ駅で降りて、 路面電車の駅を教えてくれました。 「あー、よかった。これで、一安心、 次は、料金だなあ、どこでどうやって買うのかなあ」 そんなことを案じているとき、 もうトラムが来てしまいました。 とりあえず、飛び乗ります。 隣の高校生に、 「この電車、Avenir Carrefourに行くか」 と聞きます。 高校生、電車の壁に貼った路線図を指さすだけ。 でも、ちゃんと出ていましたよ。 Avenir Carrefourって、 オトーサン、 「やあ、儲けた」 この電車、改札なんてないのです。 無賃乗車してしまいました。 降りてすぐ、カルフールの案内板。 すごい数のひとがカルフールに向かっていました。 「そうか、今日は土曜日だった」


*35 八百屋の取材 

オトーサン、 「苦労して、来てよかった。 やはり、現場が大事、現場を見るのがイチバン」 会社勤めの頃は、現地・現物・現実の重要性を 徹底的に仕込まれました。 このカルフール・ドランシー店、 視察の5店目。 95年モデルです。 陳列棚がまだ高かった時期のお店です。 持参の取材記事を確認するだけと思ってきたのですが、 どうしてどうして。 雑誌に掲載されていたフロアプラン、 売り場ごとに確認しながら歩きましたが、 H&BC売り場だけ、ちがっていました。 従来型の縦列に並べていた棚が、 斜めになって、新味を出していました。 「カルフールって、結構、手直し上手なんだ」 成功事例は、他の店へと横展開するようです。 次に、週末の混雑状況。 これも予想通りでした。 日本のスーパーでお目にかかっています。 でも、大型カートの行列は、壮観です。 「レジは59台じゃ、不足なのかも」 ウオルマートでは、品数の少ない客用に、 エクスプレスと表示したレジがありましたが、 ここでは、なさそうです。 オトーサン、 買ったのは、 奥方に頼まれた1点だけだったので、 行列の少ないところを探しました。 「身障者マークのようだが...」 知らぬ顔をして並んでみたのですが、咎められませんでした。 隣のレジでは、青年がもめて、顔を真っ赤にしていました。 客が悪いのか、店員の応対が悪いのか。 「どこも、おんなじだなあ」 客が悪いのか、店員の応対が悪いのか。 オトーサン、 「来てよかったなあ」 という新発見に出くわしました。 60ばかり入っているテナントのなかに、 何と八百屋を発見したのです。 カルフールにも、野菜果物売り場があるので 直接競合になるはず。 「何で、入店してるの?」 SCをつくる際に、立ち退き対象になり、 交換条件で入居したのかも。 早速取材を開始しました。 八百屋のおねーちゃんに、 フランス語で、どう質問したのか忘れましたが、 「どっちが勝っているか?」 と聞いたように思います。 最後は、ボクシングのマネをした記憶があります。 「勿論、ウチよ」 そういう表情でした。 「なぜ?」 「ウチのほうが、安いし、新鮮よ」 オトーサン、 ピンときました。 以前住んでいた東京の御嶽山駅前でも、 JUSCOが、店の前にある八百屋に負けていました。 片やサラリーマン、片や企業家。 気合がちがうのです。 ポンスレの市場でお目にかかった 果物屋の展示の見事なこと、 まさに、芸術的です。 それに対して、カルフールのそれは、 市場の雰囲気を出すように努めていますが、形だけ。 オトーサン、 ウラを取るために、 30分くらい観察して、 買い手代表と思える中年夫婦に突撃取材。 "Pardon monsieur, Pourquoi achete vous a ce magasin?" あやしげな質問ですが、通じたようです。 奥さんが、断言します。 「この店、やすいのよ」 「ほんと?」 疑うフリをすると、 「相当安いのよ」と主張します。 奥さん、 「新鮮なのよ」 夫婦が顔を見合わせ、うなずいています。 店のおねーちゃんも、仲間に加わってきます。 おなじみさんなのでしょう。 笑顔がこぼれます。 大体分かったので、取材を打ち切ろうとすると、 ダンナが、袖をつかみ、離してくれません。 桃を指して、つかむマネをして、 「カルフールは、こうやって、みんなが触るだろう。 だから、気持ちが悪いんだ」 打ち明けてくれました。 大繁盛のデメリットもあるのです。 十把ひとからげ、 ひとりひとりの顔をおぼえる商売なんか、ムリ。 でも、この八百屋には、それが出来るのです。 オトーサン、 「ああ、もう2時半だ」 シャワーカーテン・フックを買いました。 この商品、ホテルなどに宿泊すれば、 必らず、お目にかかるもの。 日本の一般家庭では、深い浴槽に入浴。 入浴はシャワーですますというフランス人とは、 ちがってシャワー・カーテンは普及していません。 ところが、今回、NYから来た娘が、 「フランスらしいおしゃれなカーテンないかしら?」 ということで、カルフール5店をチェックして歩きました。 規模によって、扱い点数の差はありましたが、 どのお店にも可愛いフックがありました。 「まあ、可愛い!ヒトデの形かしら、 透明ね、キラキラしてる!」 娘が、ひとつ買いました。 奥方、 「あたしも欲しかった、買い損ねたわー」 と悔しがること、しきり。 「ウチに、そんなもの不要だろう? シャワーカーテンがないのに、 なんで、そのフックが要るんだ?」 「別に浴室でなくても、いいのよ。 あのフック、壁かけにいいわ。 だって、ダンゼン、おしゃれなんですもの」 そんなことが頭にあって、 この店で売り場を探し、入手しました。 奥方の喜んだこと。 そうか、これがチェーン店の強みだ。 どこへ行っても、必要なものは置いてある。 オトーサン、 後日談になりますが、 幕張店に行って確かめました。 おしゃれなカーテンも置いてないし、 フックもありませんでした。


*36 トラムでサン・ドニへ 

オトーサン、 「こりゃ、何だ?」 券売機の握力計を前に佇みました。 さっきは、タダ乗りしてしまったので、 何としても乗車料金を払う覚悟でおります。 路面電車には、改札もなく、駅員もおらず、 ただプラット・フォームに券売機があるだけ。 小型のブラウン管の下部に、 握力計のような銀色のローラーがあるのです。 「まさか、握力を測るんじゃないだろうし」 自販機には慣れていますから、 コインを入れる場所は分かります。 ブラウン管も、見慣れております。 でも、この握力計だけは、???の連続。 オトーサン、 "Pardon monsieur" 高校生をムッシューと呼んでいいのか、 そういった疑問は後回しにして、 券売機の前で、両手を挙げます。 お手上げのつもり。 高校生、 "Ou?" ウーッ、と唸ったのです。 イヌではあるまい、テメエ人間だろうが。 キチンとしたフランス語しゃべれないのか? 一瞬、そう思いましたが、 「どこまで?」 という意味のようです。 "Ah, a Saint Deni!" "Oui" オトーサン、 「おお」 今度は、自分がイヌになってしまいました。 その握力計のごときもの、 握るのではなく、ローラーのように回すのです。 それに応じて、 ブラウン管の画面状の文字に焦点が移動するのです。 最初に出たのは、言語選択画面のようです。 高校生、迷わず、Franceを選択し、 右下のボタンをポンと叩きました。 決定というわけでしょう。 次に出たのが、Billet、Carnetなど。 高校生、 オトーサンの顔をみます。 「お前の番だ」 「? そうか、何を買うか決めるのは、オレだった」 そこで、Billetにあわせてボタンを押します。 その次は、 どうも枚数を決める画面のようです。 1にあわせて、ポン。 高校生をみます。 アゴで、コインを指示。 「これで、足りるだろう」 2ユーロのコインを入れてみました。 お釣りが、ジャラジャラ、 そして、お目当ての切符が出てまいりました。 「おお」 また、イヌになってしまいました。 その切符、地下鉄と同じじゃあーりませんか。 「おれ、こんなに持ってる」 10枚買って、4枚女子大生にあげて、 1枚使ったので、5枚も残っています。 「何も、苦労して買わなくても、 これを使えばよかったんだ!」 パリでは、RERを除いて、 地下鉄も、バスも、そして、このトラムも みな同一料金、同一切符だったのです。 オトーサン、 胸の動悸も収まって、トラムに乗っております。 「やあ、パリの裏町風景もいいもんだ」 その昔、東京にも路面電車が走っていました。 渋谷から駿河台下まで、よく乗ったもの。 名前は、市電から都電に変わりました。 そして、電車からトロリーバスへ、 モータリゼーションの進展とともに廃止。 ご存知ない方もおられるでしょうが、 路面電車でしか味わえない風景ってあるのです。 風景が近いのです。 やたら親しいのです。 そして、懐かしいのです。 オトーサン、 「ああ」 右手に、運河が見えたのです。 「サン・マルタン運河だ!」 一度は、遊覧船で味わいたかった風景。 マロニエの茂みが、運河に映っています。 運河沿いに、カフェ。 散策するひとびと。 まさに、映画「アメリ」の風景です。 その風景も束の間。 20分も乗らないうちに、 路面電車は、サン・ドニに到着してしまいました。 若者がたむろする駅前広場の先が RERの乗り場のようです。 オトーサン、 RER車中で、 早速、「地球の歩き方」と首っぴき。 本当は、そんな風に、お上りさんにみえるような 愚かな行為は危ないのですが...。 「へえ、こんな路線があったんだ!」 お手持ちの方は、地下鉄路線図58Pの上端をご覧ください。 そこに、Tramway-Tarificationとあって、 St DenisとBobigny-Pablo Picassoとを結んでいます。 ほかのどのページにも出ていませんし、 途中の駅名すら書いてありません。 担当者のチョンボかも。 「しまった、地下鉄の地図に書きこんでしまった」 地下鉄、RER、バス、ナイトバス、タクシーと 丁寧に紹介されているのに、 なぜ、このトラムだけ無視されているのでしょうか。 オトーサン、 10分たらずで、もうGare de Lyonへ。 娘が薦める駅構内のL'Express Blueへ。 「天井画がすごいと言ってたけど、 どうってこたぁないなあ」 L'Express Blue(青い列車)、 ロマンティックな名前ですが、 まあ、大衆食堂に毛がはえたようなもの。 (後で分かったのですが、このレストランで、 「ニキータ」の撮影が行われたのでした」) オトーサン、 喉の渇きをいやしながら、 今日の交通手段を復習してみました。 雑誌記事で教えられたのは、 Paris-(RER)-Drancy-(Bus)-Roger Salengro -(Tram)-Avnir carrefour でした。 小1時間かかりました。 まごつかなくても、40分はかかるでしょう。 「変だなあ? あの雑誌記事。 なぜ、わざわざ遠回りルートを紹介したんだろう? 帰路だったら、 Paris-(RER)-St Denis-(Tram)-Avnir carrefour たったの25分。はるかに便利です。 「変だなあ。実に、おかしい」 後でよく考えたら、それなりの理由があったのです。 サンドニ駅周辺は、何やら物騒な感じでした。 貧しい身なりのいかれた若者がたむろしていました。 切符売り場では、黒人女に割り込まれました。 被害にあわずに済んだのは、幸運だったのかもしれません。 「君子、危うきに近づかずってわけか」


*37 ルイヴィトン狂想曲 

オトーサン、 「しまった」 シャンゼリゼでおりるところを、 1つ手前のGerogeXで降りてしまいました。 「まあ、歩けばいいいや」 午後4時、地上に出ると、真昼間のまぶしさ。 明朝は、もうパリを発ちます。 「最後だから、Cafe GerogeXで、ノンビリするか」 ところが、広い鋪道に出ているカフェは、超満員。 明らかに、お上さんばかり。 ノンビリするどころではありません。 「そうか、今日は土曜日だった。道理で。 まあいいや、ホテルに帰ってひと休みしようか」 オトーサン、 「いまから、寝てしまってもなぁ」 ホテルの前を通りすぎました。 右手の路地を通ってポンスレの市場に行くところを、 そのまま、Mac通りを下って、テルヌ大通り(AV.de Terne)へ。 「へえ、こんなところにFUNACがあったんだ」 FUNACといえば、Virgin Megastore や HMV のライバル。 フランスのDVD規格が日本とちがうし、 とくに買いたいCDもないので、通過しました。 「こんなところにあったのか」 "Maison de POU"、高級惣菜店です。 その昔、Av.Haussemanにあるシタディーヌに滞在していたとき、 この店の評判を聞いて、 わざわざ買いにきたことがあります。 「確か、このテリーヌだったよなあ」 店に入って、確認します。 「そうだ、今夜は、ここの惣菜を買って、 ホテルの部屋で、夕食とするか」 昨夜、疲れた足をひきづって、シャンゼリゼまで食べに出ました。 "Alasace"というレストランに入ったのですが、 サービスは悪いし、料理もひどいもの。 味をしめて、またまた注文したAgneauときたら、パサパサ。 ワインも高いのを張り込んだのですが、ひどい味。 コリゴリしました。 オトーサン、 「隣が、Paulか、ここにもあるんだ」 30メートルも離れていないところに、 二度ほど、朝食用にパンを買ったPaulがあるのです。 「今回は、よくPaulのお世話になったなあ」 カルフールには必ず出店していました。 「日本にも出てくればいいのに。 幕張店の食堂街は、お粗末だからなあ」 香港か大阪の場末の雰囲気。 そのおかげで、カルフールに行く気が失せます。 オトーサン、 自然と足は市場へ向かいます。 「こんな時間になっても、やってるんだ。 後で、夕食用に、生野菜か果物を買いにこようっと」 市場をぬけて、お店をのぞいてあるきます。 このあたりは、下町の色が濃いので、 ルイ・ヴィトンのようなブランド・ショップはありません。 でも、ちょっと小粋な鞄屋を発見。 しゃれたリュックサックを買いました。 「は、は、は」 思い出し笑いしました。 何でも、娘たちが、ヴィトンの本店の前を通りかかったら、 相変わらず、長蛇の列だったそうです。 日本人ギャルに代わって、中国人ギャルが中心。 「お願いします」 必死の形相で、中国人がやってきます。 「わたしの代わりにバックを買ってください」 振りかざしているのは、見たこともない分厚い札束。 何でも、1人3つまでと制限されているそうです。 「中国で買うと、3倍するの、だから」 中国は、いま、猛烈なヴィトン・ブーム。 「だから、人助けしてあげたわ」 「並んだのか」 「うん」 「手数料、取らなかったのか」 「ははは」 オトーサン、 「娘たちも、そうだったなあ」 高校生の頃、家族そろってハワイに行きました。 「ぼく、もうイヤだよ。買い物に付き合うの」 温厚な息子が、怒っていました。 雑誌記事を片手に、 ブランドショップを軒並み覗いていくのです。 「変だよ、狂ってる!」 「人生、ほかにやることあるよなぁ」 「そうだよ」 そんな会話をしたことを思いだしました。 それ以来、息子は、海外旅行ギライに。 オトーサン、 「買い物ばかりするなよ。 そんなヒマがあったら、自分を磨けよ」 中国人ギャルは、せっかく毛沢東の呪縛から解放されたのに 今度は、外資の呪縛にかかっているのです。 「ウチの娘も、多分に、そんな感じがするなあ」 ヴィトンを馬鹿にしていますが、アニエスに狂っています。 「パリにきたら、もっと他のことも勉強しろよ」 ファッションだけ、いくらお金をかけたってダメ。 せっかくのファッションが、だらしない歩き方で台なし。 パリっ娘の颯爽とした歩き方も覚えましょう。 ワインやチーズがきちんと選べるのも、レディのたしなみ。 美術館めぐりは大いに結構ですが、 駆け足鑑賞なんて最低。 好きな1点の鑑賞にたっぷり時間をかけましょう。 世界中のクルマが集まっているのですから、 そのデザインを見比べるだけでも、センスが磨かれるでしょう。 「ヴィトンにばかり目を向けないで、 MONOPRIXだって、馬鹿にしないで、行けよ」 買い物籠から暮らしが見えるはず。 フランス庶民の生活を楽しむ力を勉強して、 帰国後の暮らしに生かしてほしいものです。 オトーサン、 今度の旅行、パリにはじまって、 プロバンス(アヴィニョン、イル・シュール・ラ・ソルグ)、 コート・ダジュール(ニースとモナコ)を見て回りました。 特に、南仏は、憧れの地にはじめて行ったこともあって、 大いに楽しめました。 でも、たったの12日では、とても足りません。 結局、いつものように駆け足旅行になってしまいました。 オトーサン、 「カルフール、5店舗も見てしまった」 カルフールに行かなければ、もっと他を見られたのに。 でも、いい勉強になった。庶民の暮らしが見られたもの」 ひと事でいえば、 "Art de Vivre! C'est la France" (生きる喜びをもっと!) ということでしょうか。 一握りのお金持ちだけでなく、 庶民もそれを当然のように追求しているのです。 カルフールは、それを支える力強い裏方でした。 この点が、ウォルマートなど米国企業にはない フランス小売業の強味でしょう。


*38 番外編:幕張店再訪 

オトーサン、 帰国後、すぐ幕張店を見に行きました。 ケッチャム千香子さんには、お世話になりました。 「何か参考になることがあったら、教えてください」 といわれております。 そこで番外編として幕張店の印象をまとめてみました。 オトーサン、 この幕張店に、開店後、半年位に 奥方と次女と3人で行ったことがあります。 開店後のレジの混乱もおさまった頃です。 一通り見終わった後の会話です。 「フランス人の店長、クビになったんだってさ。 たったの3ケ月で」 「へえ、どうして?」 「レジは大混雑、商品補充はメチャメチャ。 量り売りも時間ばかりかかって不評と新聞に出ていた」 奥方、 「大したことないわね」 次女、 「フランスから来たというから期待してたけど、 こりゃ、ヒドイね。ダイエーを広くしただけじゃないのさ。 フランス製品なんかちっともないし。 第一、この大きなカート、一体、なに考えてるんだろうねえ」 さて、それから2年。 前に行ったときは、大田区からですから、 ほぼ一日がかりの買い物ツアーでしたが、 その後、引っ越したので、幕張店は、 晴海の自宅から、クルマでたったの30分。 意外に近いのです。 ひさしぶりに行ってみると、 2年前の開店当初の倉庫みたいなお店から 別の店のように変わっていました。 陳列棚も低くなったし、 パック済み食品も増えました。 フランス商品強化というのもいい方向です。 売上も少し伸びたとか。 奥方、 「これ、安いわ!」 目玉商品の2L入り茶飲料を2ケース買いました。 他のスーパーで198円から168円のを、 148円で売っていました。 前に来たときは、どれも大して安くないので、 非常に驚いたことを覚えています。 「カルフールも、 ようやく競合店の価格調査をはじめたか」 奥方、 肉・魚・野菜の売り場は、素通り状態。 「大したことないわね」 少し、分析すると、 ・全体に活気がない ・これといった目玉がない ・新鮮さや健康訴求に欠ける ・精肉でのトレーサビリティ・システムのPR不足 ・地元農家からの直接仕入れ ・店内加工は形だけ、顧客との対話がない ・惣菜が品不足で物足りない 欲をいえば、 ・デパ地下のようなイート・インの採用 ・小パック化の徹底 ・NB商品の充実... パン売り場のおばさんたちだけが元気でした。 声かけもしていましたし、 試食もたくさん、させてくれました。 「いろんなパンがあるのよ、一度食べてみてね」 そういう気合が感じられました。 こういう売り場が増えれば、買い物が楽しくなります。 オトーサン、 幕張店のHさんという好青年から、 「ご覧になられたら、その印象を教えてください」 といわれております。 そんな関係で、ワイン売り場に寄りたいのに、 奥方、さっさと通り過ぎようとします。 「ヘビー・ユーザーだけだな、この展示じゃ。 それとも、業者に卸売りでもしてるのかなあ?」 ワインを水のように飲むフランス人なら、 ワインについてウンチクを傾けるフランス人ならば、 こんな倉庫のような売り場でも、いいのでしょうが、 日本では、初心者を意識すべきではないでしょうか。 陳列棚のエンドに目立つように、 ジャパネットの高田社長ではないですが、 カルフールの担当者が自信を持って推奨する ワインを大量に展示するとか。 効能書きも、ただ書くのではなく、 一度飲んでみたくなるように丁寧に工夫するとか。 「そうだよな。試飲くらいさせろよ」 パリのカルフールのお店で、 ワイン試飲を迫られて困ったのを思い出しました。 オトーサン、 日本にワインを普及させようと、 涙ぐましい努力をしてきたひとを知っています。 カルフール上陸は、いい刺激になるはず。 「ワインにあう料理を、もっと宣伝したら?」 ケッチャム千香子さんのお宅では、 どんな料理とワインの組み合わせなのかは知りませんが、 惣菜売り場で、以下のような提案があったって いいじゃないですか。 ・「ケッチャム千香子さんのお宅の食卓を再現!   ワインは、サンテミリオン、74年もの」 ・「ベッカム一家のある日の食卓を再現!   ワインは、ブルゴーニュの赤、なーんて」 ・「自分にご褒美、ちょっと贅沢、   金曜日はボルドー・ワインの日」 ・あるいは、気取ってばかりいないで、  「中秋の名月。おでんを囲んで、マドンナに会おう」 奥方、 「これ、いいわね」 立ち止まったのは、フランス製品売り場。 おしゃれなデザインの陶器製スポンジ立てです。 「お台所がきれいになるわ」 「そうだな、確かに。 スポンジが放置してあるのは、気分悪いよなあ」 「これ、欲しいわぁ。えっ、6400円もするの?」 ペーパータオル・ホルダーです。 奥方、アメリカに行くと、必ず、 しゃれたデザインのペーパー・タオルを買います。 そのタオルを飾るホルダーがなかったのです。 それが、幕張店だけにありました。 スタンド式で、棒のてっぺんに可愛いヤカン。 「どうしようかしら、買おうかしら。でも、高いし...」 「日本人なら、100円でつくれるかもなあ」 「そうかも。でも、日本人じゃ、思いつかないわよ」 そんな話をしていると、通りかかったご婦人が、 「これ、何ですか?」 説明するために、周囲の棚にペーパー・タオルがないか 見渡しましたが、ありません。 「関連販売が、まるで徹底してないなあ。 売り場面積も狭すぎるし....。 プロバンス・グッズなど置いたら、 ぐーんと売り場が華やかになるだろうになぁ」 オトーサン、 「そうだなあ、どう言ったらいいのかなあ...」 売り場を一通り回った後、首をひねります。 随分と改善されていますが、どこかピント外れなのです。 フランス小売業の強味は、 "Art de Vivre"の伝道者のはず。 カルフールは、大事な日常生活分野にあって、 それに挑戦する崇高な使命を持っているはず。 ところが、幕張店の現状は、 「仏作って魂いれず」 大事な経営理念が共有されていないようです。 烏合の衆というか、寄せ集め集団。 一番分かりやすい例が、 ファーマシーでしょうか。 展示方法は、最新のカレ・セナール並みでした。 「そうか、やるじゃん、 日本市場を重視している証拠だ!」 ところが、福太郎が運営。 冴えないおじさんが、ウロウロ。 肝心の商品も、オシャレなものは一切なし。 薬事法でウルサイ国ですから、 日本仕入れになってしまう。 当然といえば、当然。 でも、 隣接するしゃれた陳列のB&HC売り場について おじさんに聞いたら、 「そちらは、ウチの売り場じゃないんです。すみません」 「それなら、展示法を変えろよ」 パリで買ったしゃれた毛先が楕円形のハブラシがないかチェック。 ありましたが、取っ手がダサイのです。 日本製で、コスト削減が透けてみえます。 「ないなあ、しゃれたものは。 1日に3回使うんだから、Art de Vivreにしてほしいねえ。 すこしくらい高くてもいいから」 魅力的な商品がなく、展示だけが空回りしていました。 奥方、 買い物を終えて、ぼそり。 「カルフールって、大したことないわね。 これじゃ、ヨーカ堂の木場店のほうがいいわよ」 「どうして?」 「だって、ヨーカ堂って、駐車は4時間まで無料よ。 9月までは、タダだったわ。 でも、ここ、たったの3時間よ。 食品の保管庫も、あちらは冷蔵もあるのよ。 100ケもあるのよ。 ここは、場所も悪いし。 それに、ここ、ロクな休憩場所ないじゃない。 ヨーカ堂のほうは無料で休憩できる場所が広いから、 毎日、行ってもいいと思うもん」 オトーサン、 「その通りだよなあ」 フランス人は週1回のまとめ買い。 日本人はといえば、毎日すこしずつ。 毎日行くとなれば、 買い物は手短にすませて、 ・顔見知りとおしゃベりできる場所がある ・大型TVがみられる ・マッサージ機がただで使える そうした些細なことが主婦には、大問題なのです。 買い物文化そのものがちがうのです。 「ヨーカ堂と競争するんだから、 もっと滞留時間を増やす工夫をしなくては」 最近、アメリカでは、ターゲットがスタバを入れ、 それに対抗して、ウォルマートが 人気ドーナツ店クリスピー・クリームを入れています。 カルフール幕張店も、 1階には、スタバがありますが、 座る席も少なく、いつも満員。 しょうがないので、2階の食堂街に行くのですが、 ここが、まったくの場末の雰囲気なのです。 「はは、たこ焼き? 回転すし? フランス人は、なに考えてるんだろうねえ」 店の選択も間違っていますが、照明も問題です。 フランス人は、照明をやや暗くしたほうが、 女性が美しく見えて、食事もおいしく感じられると 思っているようですが、 日本人は、暗いのは大キライなのです。 オトーサン、 衣料品売り場でも、ある体験をしました。 ズボンの品質がよく、品揃えも、 フランスより充実しているので、 衝動的に買おうとして、店員に聞きました。 「スソ上げは、やってもらえますか?」 「はい、無料です」 「いつ仕上がりますか?」 「明日になります」 「明日?それじゃぁ、誰も買わないでしょう」 「そうですかねえ?」 「5分くらいで出来るようにしたら? タイのデパートは、みんなそうだったよ」 「ここは、ひとがいませんから」 「だって、売れればペイするでしょう」 「...」 そっぽを向かれました。 オトーサン、 非常に不愉快な思いをしたので、 同じ幕張店に入居しているユニクロに行って、 スソ上げ時間を聞いて見ました。 「お客さま、いまは空いていますので、 5分お待ちいただけますか?」 雲泥の差です。 これだけ、オーバーストアになると、 スピード競争です。 今日欲しいお客様に明日はないのです。 カルフール、 日本の業界の商慣習に染まった人を せっせとスカウトしているようですが、 かれらのそれまでの貧しい暮らしからくる狭い発想が、 新機軸考案のネックになっているようです。 日本は、人材市場が未整備ですから、 リストラされた三流のひとしか集まらないのかも。 あるいは、カルフールは、ひと使いが荒いという クチコミが広がっているのかも。 「どうも、カルフールの接客はダメだなあ。 あのひどかったモナコ店がカルフールの正体かも」 オトーサン、 レジのおばさんに聞いてみました。 「社員割引ないの?」 「ないわよ、そんなもの、一切。 ここは、外資系だから」 「そう?提案制度ないの?」 「あるらしいけど」 「注文があるなら、あたしに言うより、 そこの意見箱に書いたほうが通りがいいわよ」 そんな調子です。 地域の顧客であり、クチコミの発信源である おばさん店員に見放されているのに、 地域密着を狙うのは、自己撞着です。 アルバイトの店員からも 同じような反応を得ました。 どうも社員の心を掴んでいないようです。 「そうか、あんな調子で採用しているんだ」 パリでは、パート採用風景を目撃しました。 赤シャツのおじさんが20人ほどの応募者を前に、 えらそうに振るまっています。 雨がパラついているのに、店の外でやってました。 「お客が見ているのになあ」 オトーサン、 以前、訪問した狭山店では、 フランス人スタッフと 日本人スタッフの対立シーンを目撃しました。 「スーパーなのか、ハイパーなのか」 「地域一番店を狙うのか、広域商法なのか」 そんな禅問答が流行しているようです。 「決まってるじゃないか、 当面は、店数も少ないから、 日本に抜け落ちている百貨店とスーパーの隙間を カルフールが埋めるんだとハッキリ言えばいいんだ。 そんな簡単なことすら、分からんのかなあ」 オトーサン、 これまでの会社生活の経験で、 経営理念やポジショニングを確立せぬまま、 自国のやりかたを押しつけても、 現地のひとは、そよとも動かず、面従腹背になるだけ ということを身にしみて体験しております。 日本のカルフールに必要なことは、 ・Art de Vivreを経営理念に組み入れる ・きめ細かい顧客優先を徹底する ・科学的に購買プロセスを分析する ・展示やプロモなどで、さらに迫力を出す ・売りに結びつけるために、いい意見が出やすい職場をつくる どれひとつとっても、当然のことです。 でも、カルフール・ジャパンは、寄り合い世帯で、 そうした基本が共有され、徹底されていないようです。 なまじスーパーや家電店の営業経験者を 吟味もせずに採ったのが裏目に出ています。 「外資に流れてきた3流の人材を採ってどうする? オレなら、そんな判断をした責任者を替えるな」 でも、それも乱暴な話し。 まあ、フランス人がみんな、 したたかなカルロス・ゴーンということはありえないでしょう。 オトーサン、 「お客様の声」というアンケート用紙を貰ってきました。 まあ、どのお店でもやっていることです。 裏面を見て、呆気にとられました。 「顧客対応結果」(Response for customer) 「...この裏面、お客様も見るんじゃないの?失礼な!」 意味が分からないかもしれないので、 正解を書いておきましょう。 "お客様への店長からのお礼状"」 たったひとつのミスですが、一事が万事。 ウォルマートの「顧客の期待を超えよ」とは、 まだまだ、ほど遠い企業文化のようです。 2番手だからでしょう。 いやいや、日本では、まだビリっ穴。 しかも、たそがれのスーパー業界に後発で参入。 新機軸をいちはやく出さねば、あと数店出したあたりで、 本国では、いずれ撤退も視野に入れることになるかも。 「中国に経営資源を集中投入せよ」 オトーサン、 フランスでみたスローガンを思い出しました。 "Avec Carrefour je positive!" 「そうだ。 生活者が主役となる社会を日本に築くためにも、 カルフールには頑張ってもらわなくては」 この"生活者"という言葉、 実は、オトーサンたちが言いだしっぺなのです。 消費者から生活者へ。 われわれは、物を買うために生きているのではない、 すばらしい暮らしを実現するために、買うのだ。 オトーサン、 祈るような気持ちで、この稿を結びます。 「フランス人店長も、 写真で見る限りでは、若いエリートのようだから、 積極的に改革を進めるにちがいない。 でも...、 日仏友好のためにも、 売上不振打開のためにも、 日本人を大好きになってほしいなあ。 それには、まず、日本語を話そうとしなくては」 カルフールに限りませんが、 小売業は、日本人を愛し、尊敬し、ともに暮らし、 暮らしをよくしたいひとと組むことによって、 真の商機を見出すことが必要でしょう。 (完) ---------------------------------------- お断り:フランス語の特殊記号は省略しました。


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