スーパー業界は、下克上へ


目次
1 長岡の乱                   
2 新業態・スーパーセンター登場    
3 2強、いずれが勝つか         
4 2弱に未来はあるか        

1 長岡の乱  長岡市といえば、田中角栄のお膝元。いまも田中真紀子代議士の動静が注目を 浴びる。 新潟県第2の都市であり、市内を信濃川が流れ、夏の長岡大花火が名物である。 三尺玉は、重さ300kg、直径650mの大輪の花を咲かせる。 03年秋、この長岡市周辺に、新興スーパーの大型店舗が相次いでオープンし、 大花火に匹敵する話題を呼んでいる。  まず、長岡駅からクルマで30分弱、国道8号線沿いにオープンしたのが、 超大型店舗(5000坪)のスーパーセンターPLANTー5見附店である。 福井県から進出してきた。 国道8号線を反対方向に走ると、群馬県から進出してきたベイシアの スーパーセンター小千谷店(3000坪)が現れる。   この結果、既存スーパーの売り上げに影響が出ている。 JR長岡駅前のイトーヨーカ堂・丸大長岡店は、97年に地元の百貨店から買い取った建物は、 地下1階、地上7階建ての威容を誇るものの、築40年と古く、駐車に苦労する。 同じく駅前のダイエー・長岡店も、老朽化し、雑多なテナントに侵食されている。 店員の応対も荒んでおり、客離れが進む。 ジャスコ長岡店は、駅から4キロ離れたクルマ立地で、89年のオープンながら、 食品売り場の24時間営業も効いて元気印である。  倒産する地元スーパーも出るなか、健闘組もいる。 長岡駅から1キロにオープンした食品スーパー、ウオロク長岡店(2000坪)は、 漁港直送の鮮魚と手づくり惣菜に生き残りをかけている。 同じく原信は、24時間営業に踏み切ることで、馴染み客をキープしようとしている。  クルマ社会では、駐車場があればいいというものではない。 快適な駐車場を用意することが不可欠である。 繁盛店は、そのほか、店舗デザイン、幅広い品揃え、低価格など、 顧客に好まれる多くの要素を備えている。   このように長岡市周辺は、大手総合スーパー、地元スーパー、 そして他県からの進出組が入り乱れる激戦区となっている。 大手スーパー、危うし。 PLANTは、福井・石川・富山の北陸3県からスタートし、 岐阜・京都・滋賀へに出店を計画しており、 また、ベイシアも、新潟・栃木・茨城・埼玉・福島・長野・静岡・千葉に加え、 愛知・滋賀への進出を計画している。 長岡の乱は、今後、全国に波及していくと思われる。

2 新業態・スーパーセンター登場 ところで、"スーパーセンター"とは、耳慣れない用語である。 これは、アメリカの片田舎アーカンソー州のディカウント・ストアとして発展してきた ウォルマートが、1988年にはじめた最強の業態を指す。  EDLP(エブリデイ・ロー・プライス)を基本に、日常生活に必要なものを網羅した ワンストップ・ショッピングを特徴としている。  取扱い商品は、約10万点。 ディスカウント・ストアで扱っている衣料品、家庭用品、家具、玩具、家電、宝石、 健康商品、カー用品、園芸用品に、 新たに食品(パン、惣菜、生鮮食品、冷凍食品、肉・酪農製品)を加えた 幅広い品揃えとなっている。 ワンフロア、店舗面積2万平方フィートと広大で、 高い天井、広い通路、集中レジを備えている。 従業員は、350名。 挨拶係を置き、顧客の期待を上回る満足を追求している。 広い無料駐車場をもち、レストラン、1時間現像、薬局、眼鏡店に加え、 近年は、ガソリンスタンド、銀行、ヘアサロンといった幅広いサービスも強化している。  このスーパーセンターを主力業態としたウォルマートは急成長を遂げた。 2001年には売上高で世界一の企業となった。 02年3月には、西友に経営参加して日本上陸を実現した。 このため、スーパーセンターという新業態は、俄かに注目を浴びることになった。  なお、似た業態に、ハイパーマーケットがある。 小売業売上高で世界第2位、わが国にも進出しているカルフールの主力業態である。 衣食住のフルラインから構成されていることでは、 スーパーマーケットや総合スーパーと似ているが、食品が主力という点に特徴がある。   さて、わが国に登場したスーパーセンターは、 店舗の外観、レイアウト、商品構成など、あらゆる面でウォルマートに似ているが、 PLANTー5見附店は、ディスカウント・ストア出身のウォルマートの弱点である 食品売り場を強化している。 オープンケースや平台を木板で覆い、 青果から鮮魚まで売り場の通路を凹凸にして 変化をつけている点、 青果売り場の天井で「猿のぬいぐるみの綱渡り」などのショウを見せる点、 対面販売や暖かい接客をきちんと採リ入れている点など、 明らかに、アメリカで最も繁盛している大型食品スーパー、スチュー・レオナルドに学んでいる。 また、豆腐や魚沼産こしひかりなど地元産品を積極的に売るなど 地場の強みを生かすことも忘れていない。  しかも、03年9月期の売上高販管費比率を14.5%とウォルマートなみの水準に抑えているのは 驚異的である。 ローコストが継続できれば、EDLPが可能になる。 連戦連勝も夢ではなくなる。まさに大手危うしである。

3 2強、いずれが勝つか  2強といわれるイオンとイトーヨーカー堂について見てみよう。  流通外資の進出を前に、危機感をあらわにしているのが、イオンである。 ジャスコからラテン語で「永遠」を意味するイオンに社名を変更し、 10年後には連結営業収益7兆円、経常利益率4%以上、 世界の小売業トップ10入りという壮大な長期ビジョンを立てた。 EDLPを実現するには、規模の利益の確保しかないとして、 お家芸の「連邦経営」を加速し、倒産したヤオハン、マイカルを傘下に加え、 ポスフ−ル(北海道)、サンデー(東北)、いなげや、カスミ(首都圏)などと相次いで提携した。 ショッピング・モール事業も積極的に展開している。  この結果、04年2月期決算では、連結売上高が3兆5462億円へと急増し、 ヨーカ堂の3兆5421億円を抜いて、小売業のトップになった。 だが、営業利益では、いまだにヨーカ堂の後塵を拝している。  ジャスコの弱点は、売上高販管費比率27.7%というウォルマートや新興勢力に比べて 大きく見劣りするコスト高にある。 大型物流拠点を相次いで稼動させ、仕入れ先との直取引を進め、業務プロセスを改善し、 顧客満足を高めるために情報データベースを駆使した顧客ニーズの分析、電子棚札や セルフ・レジの導入といった新施策を次々と打ち出している。 だが、それがなかなか収益力向上に結びついていないのが悩みである。   次に、イトーヨーカ堂。 ダイエーに代わって小売業の盟主として君臨してきたが、 ここ数年足踏み状態が続いており、株価もイオンに追いつかれている。 そのあせりからか、80年代から採用してきた米国会計基準を、 今年になって、急遽、競争上有利な国内基準に戻した。姑息という批判が出ている。  ヨーカ堂の強みは、「単品管理」と「チーム・マーチャンダイジング」にある。 前者は、セブン- イレブンで成功したもので、商品の売れ行きをきめ細かく把握することで、 売れ残りや機会損失を防ぐ手法である。 後者は、商品企画、素材開発、生産、物流、販促など商品づくりにかかわる専門家たちと、 直接話し合いながら商品づくりを進める手法で、 いずれも独自に開発し、磨きをかけてきたものである。 この手法を徹底することで、収益力を高め、ウォルマートに対抗しようとしてきた。  その成果が徐々に現れてきたのが、衣料品売り場である。 中国やユニクロにやられっ放しだったのを、トレンドのおしゃれにこだわり、 「ナノテク」など開発商品の投入によって高付加価値を狙っている。 食品売り場でも、産地、原料、質、味にこだわった新ブランド「美味百撰」を投入した。 しかし、激しい価格競争下では、「このお店、何でもちょっとずつ高いわね」と囁かれ、 客足が遠のいていることも事実である。  冒頭に紹介した長岡周辺での各社の価格を比較すると、 定番ブランドである伊藤園の「おーい、お茶」(500ml)は、 ジャスコが75円、ダイエーが100円、ウオロク75円、原信82円、PLANT81円というなかで、 ヨーカー堂は、98円だった。 すそ直し不要の紳士用スラックスは、ジャスコとダイエーが1995円、 PLANT−5が1029円という競合のなかで、ヨーカー堂は3045円という高値をつけている。 老朽店舗でのこの値づけには無理がある。 そこで遅ればせながら「新しい酒は新しい器に」ということで、大型新店舗投資を再開している。 資金力もあるので、今後の反転攻勢が注目される。

4 2弱に未来はあるか  小売業の覇者ダイエー、生活文化産業を目指した西友。 かつての2強を2弱と呼ばなければならないのは心苦しいが、 ダイエーは2兆6000億円、西友は1兆2000億円というバブル時に発生した 巨額負債の返済にあえいでいる。  とくに、ダイエーは、5000億円を優に超える債権をもつ主力銀行UFJが、 03年3月期の赤字転落を受けて頭取が退陣し、支援方針が変更される深刻な事態に直面している。 UFJは、ダイエーを「要管理債権」に分類してきたが、 金融庁から「破綻懸念」への変更を迫られている模様である。 ダイエー側は、負債1兆円に抑えるメドがついてきた、 04年2月期単体決算では、当初目標売上高1兆4300億円を達成し、経営再建は順調としているが、 現場をみている限り信じ難い。 福岡ダイエーホークス優勝セールという神風のせいであり、 系列食品スーパー、マルエツによる食品部門のテコ入れだけでは、 どうみても業績回復は難しいのではないか。 創業経営者・中内功の退陣以来、経営者方針は2転3転し、社員のモラルは地に落ちている。 長岡店に代表されるように、老朽化した採算割れの店舗が数多くある。  ダイエーは、生鮮食品や牛肉の安売りで一時代を築いてきた。 その安売り路線を実行する体力がなくなっている。 長岡店のYシャツは、500円、599円、924円、945円という安値競争のなかで、 1300円と最高値をつけているのに、「特価」と称して平台で投げ売りをしている。 一事が万事、社員の意識改革が進んでいない。 投資余力がないので、大型店舗投資競争にも参加できず、ジリ貧状態にある。 消費者としては、「ダイエー、もういらんなあ」と言わざるを得ない。 もはや、産業再生機構送りによる荒療治しかないだろう。 最後に、西友。売り上げは減る一方で、赤字が続く。 ウォルマートに買収されて倒産という最悪の事態は免れたものの、 お得意の特売チラシを禁じられた影響で、客足が減っている。 リストラの最中とあって、従業員の顔も冴えない。 店内のあちこちに、"ROLL BACK" なる日本人には分からない用語の黄色いPOPが氾濫している。 「お買い得商品」を誇示しているつもりなのだろうが、占領軍の旗が立っているように見える。 ウォルマートで成果をあげた挨拶係をお客さま係という名で導入しているが、 ホスピタリティがわかっていない。 直近の売上高販管費比率は29.2%、ダイエーの26.3%よりも悪い。 そこで、ウォルマートが西友から手を引くのではという観測も出ているが、 ウォルマートは協力関係は進んでおり、計画の多くはうまくいっているとして、 37.8%の出資を05年末までに、50.1%まで引き上げると表明している。  この4月にオープンした西友沼津店は、初のスーパーセンターという触れ込みの割りには、 中途半端な出来だった。 ワンフロア、高い天井、広い主通路、見やすい表示、単品大量展示など、 本国で見慣れたスーパーセンターの姿が再現されているものの、 2400坪という限られた店舗面積では、品揃えも不十分になり、 また、値段も安くないので失望させられた。 あらゆる面で、PLANT−5のほうが先行している。 ウォルマートは、物流・情報システムの整備、作業の効率化、パート化を進めた結果、 沼津店では、売上高販管費比率を20%に押さえみ、EDLPに向けて着実に前進できた と一応前向きの評価をしているが、業界5位の西友だけでは、不満だろう。 新たな買収に動くと思われる。   以上、駆け足で見てきたが、わが国スーパー業界は、新たなステージを迎えている。 マスコミは、専ら2強の角逐や2弱の再建に注目しているが、 新興勢力の躍進やウォルマートによる新たな買収攻勢といった波乱要因に 充分目配りする必要がある。 いずれにせよ、消費者としては、より安い商品を快適に買えるようにしてほしい。 そのための産みの苦しみならば、大いに歓迎したいところである。  (注)時事コンフィデンシャルのために、2004.5.27日に現地取材し、まとめたものです。    


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