青春詩集、第1部


序文 
いまから15年ほど前のこと。
若い頃のノート3冊を発見しました。
「...こんなものを書いていたのか?」
気恥ずかしい恋愛詩が綴ってありました。
それも日記のように毎日書いていたのです。
忘却とは忘れ去ることなり。
なんと、恋の相手の顔も名前も思い出せないのです。
申しわけないなぁ。
彼女、いまも元気にしているだろうか?
せめて、青春の記念として残しておこう。
当時パソコン通信が流行していたので、
そのいくつかを選んで掲載しました。
反響は大半が揶揄で、添削されたこともあります。
でも、ニフティが2006年にサービスを終了し、
掲載した詩の数々は路傍の露と消えてしまいました。
抗議の意味もこめて、
その全文をネットに再録しましょう。
1冊目には、70編ありました。

<70 愛の豊かさ>  きのう あなたに  おもいがけないところで出会った  大勢の女性のなかで  あなただけがきらっと光った  大勢の女性とおなじように  あなたは挨拶してくれた  大勢の女性に向けてぼくも挨拶した  あなたの挨拶はぼくだけへのもの  ぼくの挨拶はあなたへだけのもの  大勢の女性がまったく知らないと思うと  ひときわ豊穣なシーンだった  大勢の女性とともに背景に沈んでいった  あなた   真夏の夕日のように輝いていた  あなた  ぼくの存在があなたにとっても  太陽のようであることを祈る  ひそかな喜びの泉であることを祈る  大勢の女性にはすまないが  恋の豊かさをますスパイスなのだから  ゆるしてほしい   <69 愛の孤独>  愛しはじめるのはやさしい  愛し続けるのはむずかしい    ぼくは重荷にあえいでいる  あなたの愛が深まるほどに   その重さを受け止めようと苦しむ  あなたに絶えず逢いたい  そのまなざしだけが  愛の重荷に耐えさせるのだ  かつて想像していた愛の重荷  あれは何と軽いものだったのだろう  これは想像を絶する苦行だ  愛を深めるための苦行に耐えなければ  愛が生み出す魂の孤独  孤独のなかに輝く深い愛 <68 よろこび>  大声でひとびとに  この喜びを知らせたい   あなたはぼくのものになった  まだ唇に触れてはいないが  あなたの心はもうぼくのもの  思えば、今日は一番長く一緒にいた  10時から4時まで、6時間も  快晴の無人の砂利道  パノラマのようなハイウェー  曲がりくねったドライブウェー  ぼくらのための特別な風景  ぼくらのために用意された特別な一日  この日を永遠に忘れないようにしよう  あまりにも深く純粋な喜び  もはや生涯の記憶となったのだ   <67 わが喜び>  自分の喜びに夢中  自分の仕事、自分の部下、  自分の友人、自分のクルマ、  そして自分の将来... だが、こうした自分の喜びが  あなたを奪っていくのではないか  あなたなしでも耐えられる自分  自分に酔っている自分がいる...  だが、よく考えてみよう  自分の喜びの中心にあなたがいる  あなたの微笑みですべてが喜びに変わる   いわばあなたは触媒なのだ...  あなたが通り過ぎていく  ああ、クレオパトラもかくやという美しさ  せめて振り向いてくれたらなぁ  愛とはかくもせつないものなのか... <66 北国からの電話>  遠い北国の空港ロビーから  カーディガンを羽織って   ポケットに手を突っこんで  電話する   口笛を吹きたい気分だ  輝かしい恋人よ  あなたへの愛は伝わっただろうか  やや聞きとりにくい長距離電話だったが  それにしても、  この音質 何とかならないのか  夜空の彼方に街が見える  着陸はいつも緊張する  無事に着けばあなたに会える   空港で買った手土産は  あなたに喜びをもたらすだろうか <65 謝罪>    長い旅に出る  はじめてジェット機に乗る  出発日は13日の金曜日  あなたとまる5日間も会えないというのに  あなたへの電話の約束を忘れてしまった  日頃から  言いたいことは山ほどあるはず  でも、言いたいことが思い浮かばない  そんな風にしているうちに  ジェット機は轟音をあげていく  旅に出る前に  あなたの声を聞きたかった  愛の言葉でなくても、愛の言葉を  あなたに電話したかったと伝えるべきだった  せめて雲にGOMENと描こう <64 芽生え>    深まりゆく秋  あなたは   ぼくの心に  順調に育っている  ずっしりと根をおろしはじめている  重苦しいのだが  この重さこそ ほんものの証し  何しろ2人分の悩みなのだから    紅葉の色づく秋  あなたは  ぼくの行くところ  どこへでもついてくる  うっとうしいのだが  この鬱陶しさこそ ほんものの証し  愛というのはもともと重いのだ  紅葉の散りゆく秋  あなたが  不意にいなくなるときがある  背筋が冷え冷えしてくる  この寒さこそ ほんものの証し  不在が芽生えた愛を育てているのだ <63 激情によらずして>  昨日逢ったばかりというのに  今日はもう逢いたい思いでいっぱいだ  ぼくらはよい家庭を築こう  地球のこの一瞬を大事にしよう    逢わないのはさびしい  逢えないのはさびしい  あらゆる確信がくずれてくる  たじろがずにいることができない  ぼくは逃避しよう  あなたを想わないようにしよう  本を読み、映画館に行った  でも、さびしさは消えるものではない  ああ、あなた  あなたを激しく愛したい  だが、すこしずつ愛を深めていこう  激情によらずして <62 説得>  あなたが現れたとき  近視のぼくは   あなたとは信じられなかった  あなたと会うために  ぼくは入念にヒゲを剃った   皮膚を切って血が流れた    あなたと会うために  ぼくは新たに手帳を買った  使われることもないかも手帳を  ぼくらは煮込みうどんを食べた  あなたの食べかたは下手だった  でも、あなたは可愛らしかった  ぼくは切り出した  あなたを親に紹介したい  あなたの御両親にもお会いしたい  あなたはいう  社内結婚はいや  社宅にも住みたくない    何をしても面白くないの  あたしの性格では  あなたは不幸になるわ  ぼくは説得する  何ごとも気の持ち方だよ  一緒に暮らせば楽しくなるさ  あなたが笑ったとき  気持ちが動転していたぼくは  あなたが笑ったのを信じられなかった <61 あっけらかん>  力むことなどなかったのだ  あなたに電話すると  (何と沈黙を決めた初日というのに)  あなたは早いのねと言う  (午前8時に電話してしまったのだ)  山へはあまり行きたくないのよ  (ほんとうは行きたいのだろうが)  大勢ではあなたとお話しできないでしょう  (ああ、なんて優しい娘だ)  決まったら、あした電話するわ  (はじめてあなたが電話してくる!)  力むことなどなかったのだ  結局、闘牛士になる必要はなかった <60 恋の闘牛士>  ぼくらの恋はとうとう  来るべきところまできたようだ  あなたは獣になった  牙をむきだして挑んでくる  デートしよう  それに対して  いつでも会えるわよ  今週の土曜はどう  それに対して  山登りに行くの  すべての美は1枚の絵に凝縮される  すばらしい試合が死闘の結末を迎える  ぼくらの恋もそのように状態になった  肉体戦、神経戦の限界がやってきた  これは聳え立つ関門だ  扉が開くか閉じるかの分かれ目だ  こじあける力が残されているだろうか  あなたのわずかな隙をつけるだろうか  ある晴れた朝  ぼくは試合に臨む闘牛士になる  目覚めはさわやかだった  まず沈黙の祈りをささげよう   <59 悩み>    ぼくは悩む  何の悩みなのか  なぜ悩むのか  いつまで悩むのかわからない  悩みのタネは尽きない  藪蚊のように次々と湧き出してくる  例えば、あなたの感情の動きについて  例えば、あなたとの愛が永続するかについて  例えば、あなたとの愛のもたらす利益について  でも、そんなものすべて他愛ない悩みのはず  悩みの原因はほかにあるのだ  例えば、仕事の進展について  例えば、人生のゆくへについて  例えば、預金残高について  でも、そんなものだって他愛ない悩みだ  悩みの原因はほかにあるのだ  例えば、恋の破局だ  例えば、坂を下り降りるブレーキのないトロッコの夢だ。  例えば、人生の破局に向かう自分の姿だ  ああ、息ぬきをしたい  指のシワを伸ばして安眠したい  バラ色の夢をみていたい  目覚めて青空をずっと眺めていたい  <58 ケーススタディ>  第1のケース  あなたが年老い、進歩せず、ぼくが名声を得たとき。  あなたはぼくの恥。ぼくの評価を下げる部分。   または、ぼくがフツーの人間であるあかし。  第2のケース  あなたが年老い、進歩せず、ぼくが市井の凡人になったとき。  あなたはぼくの恥。地獄への共犯者。  または、ぼくにお似合いの同伴者。  第3のケース  あなたが進歩し、ぼくが名声を得たとき。  あなたはぼくの誇り。ぼくのすべて。  または、ぼくとあなたは一心同体。  第4のケース  あなたが進歩し、ぼくが市井の凡人になったとき。  あなたはぼくの脅迫者。ぼく=盆栽の手入れ人。  または、ぼくは無口な髪結いの亭主。  第5のケース  あなたが早死にし、ぼくが長生きしたとき。  あなたは青春の思い出、ぼくの嘆きの壁  または、干からびた骨と皮  第6のケース  ぼくが早死にし、あなたが長生きしたとき。  ぼくの保険金。あなたの過ぎ去った思い出。  または、子供が生きがいの人生   <57 あなたについての果てしない評価の最初の試み>  あなたが何者か  それは、ぼくにとっての大問題だ  あなたは路傍の麗人だった。  いま、あなたは恋人にしてぼくの唯一のアクセサリー、  荒削りのお姫さま、母親にして妹にして義理の姉である。  ぼくの地図、真実への導き手、道徳の守護神、  ひそかな誇り、自信のみなもと、ひそかな財産、倍額保険でもある。   ぼくの未消化な考えの対象、退屈しのぎの相手、  人生の制約要因、恥辱の源泉、平凡な暮らしへの導き手でもある。  要するに、ぼくの人生の鏡であり、感情の事件であり。  希望にあふれる青春へのパスポートなのだが、  そのすべてであるようにみえて、実はその一部でしかないのだ。 <56 哲学の一節>  人生ってはかないもの  長くてあきあきするときもある  夏のあとには秋がきて  秋のあとには冬や春がやってくる  恋にも同じ症状が出る  恋の苦しみは千年続くように思える  あなたの愛はそびえたつ岩壁であり  同時に砕け散る波頭でもある  人生の成功不成功なんて分からぬもの  昨日までのボクは敗残者だったのに  電話をもらった今日は勝者に変わる   俗人だったのに今は哲学者だ  人生は幸福と不幸が隣り合わせ  美人の目もとに鶏のシワ  美人であり続けることは不可能だが  かといって鶏のシワも永遠ではない <55 なんという言葉>  なんという言葉だろう  1年間に何度でも会えるわ  おお、なんという言葉だろう  1年間に何度でも会えるわなんて  あなたの言葉は正確無比だ  科学者か裁判官の言葉のように  だが、いかなるはずみで  この言葉は吐かれるに至ったのだろうか?    猜疑心にとらわれた心は  あなたの言葉を許せない  なんという言葉だろう  1年間に何度でも会えるわなんて  でも、ぼくは眠れぬ夜に  思い出してしまう  1年間に何度でも会えるよ  それはぼくの常套句だった   <54 祭日のざわめき>  ある昼さがり、あるいは  朝の光がまだ残っている午前の10時  ぼくらは出会うだろう   約束の場所で  ひとびとは祭日のざわめきで  ぼくらの出会いを祝福するだろう  ある昼さがり、あるいは  昼の光が残っている午後の4時  ぼくらは告白しあうだろう   なじみの場所で  ひとびとは祭日の寛大さで  ぼくらの告白を祝福するだろう   ある昼さがり、あるいは  月の光が街を照らす夜の10時  ぼくらは抱きあうだろう  思いがけない場所で  ひとびとは祭日が終わる安堵感で  ぼくらの抱擁を祝福するだろう <53 ある日曜日>    花びらが夜露に震えるように  ぼくらの夢がふるえる  それはある日曜日のこと  静かな音楽が流れるなかで  愛が静かに育くまれていく  あなたを愛する  愛する 愛する 愛する  愛する 愛する 愛する  リズミカルに愛が踊る  あさっても休日  あなたに会えるだろうか  会えるとも 会えるとも 会えるとも  会えたら 何を話そうか  話そうか 話そうか 話そうか  それはある日曜日のこと  やわらかな日差しがそそぐなかで  愛が力強く育くまれていく <52 ひとつづりの事情>  あなたがNを羨んでいるのは  ぼくには意外だった  Nは始終ぼくのそばにいて  ぼくらは微笑みあう  そんな関係をみて  あなたが嫉妬しはじめたのだ  恋はすべてを敵にする  疑いは疑いを呼ぶ    あなたが嫉妬しはじめたので  ぼくは喜びにふるえる  あなたに愛されている証拠だからだ  あなたの沈黙すら  ぼくの喜びを引き起こす  Nへの嫉妬を隠しているんだ  あなたの愛がそれほど深いのか  ぼくは陰険な喜びに浸る <51 うれしい電話>  10月は余白の1日をもっている  おかげで、ぼくは幸せだ  思いきってあなたに電話した  あなたは喜びに震えていた  その喜びがぼくを震えさせた     あなたをじらせた効果があった  でも、あなたに謝りたい  あなたの愛を試したなんて  あなたの愛はほんものだったのに  10月は余白の1日をもっていた  あなたと打ち合わせて  ”夢で会いましょう”を見る  あなたの喜びはぼくの喜び  画面の喜びはぼくらの喜び  10月の余白の1日が飛び去っていく <50 裏切り>  ぼくはあなたを裏切る  あなたの笑顔 あなたの愛を  まさにそうしたくなるのだ  ほかの笑顔に迎えられると  ぼくのなかで忘却が進む  あなたの愛を押し流す濁流  まさにそうなっていっている  ぼくの愛を押し流す雨と雨  どうしてこんなことになったのか  あなたの愛の真実が信じられない  ぼくは深い失意に沈む  明日、世界は終わる <49 ぬけがら>  もし、あなたのこころが  ぬけがらであるなら   そんなあなたをほしくはない  もし、あなたのこころが  ひとをもてあそぶのがすきなら  そんなあなたをほしくはない  もし、あなたのこころが  ひとを愛しきれないのならも  そんなあなたをほしくはない  愛は少しであってはならない  愛をもてあそんではならない  あなたの愛のすべてをほしい <48 忘却の歌>  あなたのことを考えるのは しばらくやめよう  わが人生もいろいろ、世界でもいろいろなことが起きる  あなたに夢中だと、わが人生も世界もなおざりになってしまう  でも、永久に電話しないわけではない  今日の水曜日から、金、土、日、月、火と電話しないだけ  つまり、一週間の沈黙。  あなたにとっても、この沈黙はいいことだろう  疑い、不信、絶望の試練を乗り切れれば、  愛は本物の貴重なものになるかもしれない <47 あなたの電話から>  電話した  あなたはTVをみていた  澄ました声で  コンバンワというのだ  わたしが明日会おう  そう言うと  あなたは朝はいそがしいから  そう答えるのだ  来週会うことになる  まったくどういうことなんだ  あなたはどこでもいいわ  そう答えたのだ  どこでもいいって  そんなこと言っていいの  電話の奥では  静かな沈黙が続く  そのあとあなたはいう  死んじゃうわ <46 電話しない日> 今日は電話しなかった  こうなりゃ我慢くらべだ  今日は我慢の勝利の日  客観的にみればおかしい  なぜぼくばかりが電話するのだ   あなたはなぜ電話してこないのだ   電話しないのもいいことだ  自由は大空を舞う鷲のようだ  なにものにも束縛されない  この自由、この開放感  あとあと高くつくかも  あなたの愛が冷めるかもしれないのだから <45 会えぬ苦しみ>  会えないことがどんなにつらいか  みもだえしながら夜が過ぎていく  あなたとの絆が浅かったことが悔やまれる  象の胴体のように太くしておくべきだった    会えないということではないのだ  あなたとぼくは近くに住んでいる  同じ空気、同じ夜をすごしている  でも、心の遠さは、星の距離以上だ  この夜  嫉妬、疑念、後悔の念に  ぼくの心は血の色に染め上げられる  おお、あなたは恐怖と化した  モンスターのように顔が歪んでいる <44 恋の階段>  恋にはいくつもの階段がある。  第1段階は  あのひとはいいひとだ。  第2段階は  あのひとと会いたい。  第3段階は  あのひとは好きだ。  第4段階は  あのひとを愛している。  第5段階は  あのひとを愛し続けよう。     ひとは、恋がどの段階にあるのか  常に知っておくべきだろう。  船乗りが羅針盤を駆使するように。  だが、いまのぼくは  どの段階にいるのか見当もつかない。  第5段階なのか、第4段階なのか  それともまだ第3段階なのかわからない。  濃霧の中で、星がみえないのだ。  羅針盤の使い方すら知らないのだ。  あるいは、心の奥底で恐れているのかも。  そう、恋には、第7段階があるのだ  あのひとに永遠に鎖でつながれてしまう <43 いつにしよう>  日曜日は電話しないわ  なんて 馬鹿げた考えだ  月曜日も電話しない  なーんて馬鹿げた考えだ  会いたいのに  隠すことなんかないじゃないか  あなたのつれなさに  ぼくは萎れた草になる  いつなら電話くれる  そんなことも切り出せない  ぼくは太陽に背をむけたコスモスだ <42 耐えられない>  だから仕返ししてやろう  そう思うんだ  あしたは電話しないぞ  あさってもしない  電話するのはしあさってだ  きのうまでは許していた  きみの若さに免じて  ぼくの愛の深さに免じて  でも、そんなのクソ食らえだ  電話なんかしないぞ  ぼくは怒っているんだ  きみがいないので  きみに会えないので  きみの顔が見られないんで  ああ、何ということだ  じらそうとしているのか   でも ムダな素振りはやめようと  そんなの無意味だ  ぼくは相手にしないよと言ったものの  やはり耐えられない <41 打ち明けばなし>  美しい詩を書こうと思っていたが  まったくそんな気分じゃなくなったんだ  実は怒っているんだ  そう、ちょっぴり腹を立てているだけだけど  なぜって キミの仕打ちヒドイじゃないか  そう、そんなにヒドイ話しじゃないんだけど  キミは来週のデートを断った  都合が悪いのよ ひとに会わなきゃならないの  キミが他の男と並んで朝の街を歩く  おお、なんて陰惨な風景なんだ 実はこんな打ち明け話したくなかった  だって、嫉妬していると思われるから  <40 動揺>  揺れているあなた   潮のどよめき  氷原に吹きつける嵐の雄たけび  なぜ動揺するのか  愛していると言ったよね  毎晩電話もしたよね  6月に退社し、結婚準備中  こんな時、なぜ動揺するんだ?    夜な夜な  あなたは不安の極北へ運ばれる  いやな想像だ  まさか  ボクの愛の深さが動揺の原因?  ボクの愛が氷原へ追いやったのか?  やめよう  青ざめた氷塊がますます増していく... <39 オリンピック時代の恋>  電話する  不安がダイヤルを機械的にまわす  お話中の断続音  あなたの母親の声  部屋一杯のTVの実況中継  兄弟たちの爆笑  これらは、愛の序曲なのだ  あなたの声が浮かびあがる  ゆっくりと愛らしく  どうした?  編み物をしていたの  風邪はどう?  治らないのよ  お医者さんに行った?  行ったわよ  なんて言ってた?  永遠に治らないかもって  そんなぁ  他愛ない会話が続く   オリンピック開幕式の今日  東京で開くのは、何年ぶりとか  そんなこと、どうでもいいじゃないか   大事なのは風邪の治療のほうだ <38 潮のバランス>  きのう  あなたを愛していた  自信をもってそういえる  きょう  電話して自信がぐらついた   愛は引き潮モードになってしまった  あした  電話する前も、その後も  愛が満ち潮だといいのだが... 月よ、太陽よ  恋人たちにら惜しみない引力を!  変わらざる愛の満ち潮を贈っておくれ <37 誰?>  きみが好きだと言ったのは  誰?  励ましの電話をかけたのは  誰?  それはほかでもない僕だった   でも、そんな熱気の夏が過ぎると  株を手放したように空しくなった  お天気が雨になったように哀しくなった  僕は  愛されているのだろうか  きみとの握手、きみとの抱擁、  あれは、幻覚だったのか  きみが好きだと言えなくなったのは  誰?  お休み!その電話もできなくなったのは  誰? <36 忠告癖>  おまえには忠告癖がある  彼女を直そうとする前に自分を直せ  彼女に一言言いいたい時は  自分に百千万の忠告をしろ  期待がなせる業と弁解するな  期待は発作ではない  おまえは馬の調教師に学ぶのだ  良い馬ほど手がかかるのだ  <35 恋の不思議>  思えば不思議なことだ  相手があまりに誠実だと  不誠実さでお返しをした  相手が崩れかけると  ぼくは身を遠ざけたものだ  相手が愛しているというと  愛していないと答えた  相手から愛しているといわれると  ぼくのほうは愛していると迫った  そんな青春を送ってきた  心の病いに犯された青ざめた春      だが、ぼくは変わった  あなたの不誠実さに  ぼくは変わらぬ誠実さで応えた  崩れかけるあなたを必死に支えた  ああ  恋はなんて不思議な作用なんだ <34 風邪よ、治れ>  あなたは風邪を治すべきだ  疲れが重なったのだろう  愛も疲れの原因だったのだろう    とりわけ愛が不安定なとき  愛の行末を思いめぎらすとき  愛は病を呼び寄せる   だが、早く立ち直ってほしい  ぼくの言葉”きみが好きだ”を治療薬にして  早く治ってくれないと、ぼくも病に倒れそうだ <33 忠告>  あなたの  投げやりな様子には耐えられない  わたしだって  投げやりな気持ちになることがある  おととい  あなたはわたしと一生をともにする  そう決めたのではないか  風邪のせいで、乱れたこころが  日頃の快活さを奪っただけと思いたい  あなたの  投げやりな様子には耐えられない    早く風邪を治してほしい  わたしたちの選択が  正しかったことを確信させてほしい <32 TEL>  風邪を引いていたためか  昨日のあなたは立派ではなかった    あなたの顔色はさえず  あなたの歩調はものうく  あなたのこころはゆるんでいた  夕方いつもの電話をしたとき  あなたの声はハスキーで、とげがあった  昨日の電話が  まずかったのかも  あなたが好きと言い忘れた  それがすべての原因だったのかも  わたしたちの愛は  まだ十分に成熟していないようだ   <31 詩製作上の悩み>  あなたを歌う詩には、  いつもそうだが落ち着きがある  小さな真珠のような言葉の行列...  もっと激しい目のさめるような詩がほしい  波乱万丈の愛の葛藤を歌った詩が...  そう思ったりする  だが、まやかしの言葉は願い下げ  きらきらする言葉で飾る必要はない  だって、きらきらしているあなたがいるのだから   <30 朝の想い>  めざめたとき  愛するひとを感じる  なんてよいことだろう  結婚後の長い年月では  やはり行動の一致が大事だろう    あなたの髪のように  髪を長く伸ばしウエーブさせてみよう  あなたと同じ柄の靴下を履いて  会社に行ってみようかしらん  あなたとぼくの写真を飾る  すてきなケースを一緒に買いに行こう  あなたと一緒にやれることの  多さに驚いてしまう    この朝  特別の朝 <29 かけ橋>  あなたとぼくのあいだに   ひとつの橋をかけよう  鋼鉄製の堅固な絆でつながるように  あなたとぼくのあいだを   帆布より強い糸でつなごう  あなたの行くところに行けるように  あなたとぼくのあいだで   契約書をつくろう  世間が邪魔する理由をなくすように  あなたとぼくのあいだで   日記を交換しよう  心の隙間に風が入りこまないように  あなたとぼくのあいだに   時刻表を置こう  あなたと同じリズムで暮らせるように <28 誓い>  この恋を  決して無駄にしない  誓います  この恋を  日一日と育くんでいく  誓います  この恋を  一刻も早く成就させる  誓います <27 守る恋>  この恋は  守るぞ  非難の嵐が吹き寄せようとも  この恋は  守るぞ  この身体が鉛のように溶解しようとも  この恋は  守るぞ  たとえ地殻変動が起きようとも <26 電話しないワケ>  今晩、電話しなかった  あなたが待っていると知りながら  離れているのに  なぜ 分かるって  ぼくの心が騒いでいるから  分かるのさ  電話しなかった理由だって  あなたがいそがしいかと思ったのさ  でも、ほんとうの理由がある  冷ませば 早く燃え尽きないからさ <25 奇跡>  考えれば考えるほど  あなたは奇跡だ  会えばあうほど  あなたが好きになる  何ら瑕疵がないことが分かってくる  神様は手をよく洗ってから  あなたを造り賜うたのだろう   <24 詩人の恋>     このさい  あなたに一編の詩を捧げたい    でも詩人は困っている  あなたの可愛さに言葉が追いつかないから  詩人は言葉の穢れが気になっている  あなたの心には汚れがないから  だから、詩人が捧げる詩は  ただひとこと そのリフレイン    愛している  愛している <23 はてしない棘>    ああ  ぼくは 幸せの雲に  がんじがらめにされてしまった  ああ  ぜいたくなぼくの心は   もう幸せ色を忘れている  ああ  なんてひとは欲深いんだ   恋が成就したらすぐ結婚を願うなんて  ああ  さんざしの棘のように  ぼくの心は もうささくれている <22 愛、手のひら>  ねぇ、  ぼくら どのくらい  愛を積み重ねてきただろう?  電話?  これは数えきれない  あの電話 この電話  十月に会おう   あれがはじまりだった  じゃないともう終わりだ  苦しい声で言ったものだ  ああ、  それがはじまりのはじまり  予想以上の出だしだったのだ   メトロでの出会い?  これも数えきれない  あの出会い この出会い  八月の出会いだったっけ  目を疑ったものだ  この世に こんなに美しいひとがいるのか  この花びらを手のひらに収めることができるのか  と... <21 消失>  きのうから  ぼくにとって   ”あなた”が消えた  ”ぼく”も消えた  世界よ  ぼくを彼、あなたを彼女と呼ぶな  それは大きな間違いだ  証文の1枚もない  印鑑も押さなかった  だが、きのう契約はなされたのだ  世界が  オリンピックだ  原爆実験だと騒いでいるあいだに  あなたとぼくは  きのうから  ぼくら、わたしたちになった  そう、”ぼくら”、”わたしたち”に  <20 けってい>  あなたとぼくは  きょうから  未来へ歩きはじめた  このけっていは  新聞に報じられる決定よりも  おそらく小さいだろう  でも、このけっていは  誰にも気兼ねせず  あなたとぼくとできめたもの  それがよいかわるいか  もう議論すべきではない  もうきめてしまったのだから  問題はこうだ  どうやってしっかり  このけっていを守りぬくかだ  どうやって 心をひとつにするかだ  きょう、ぼくらはけっていした  さあ、誇り高く宣言しよう  あなたとぼくは  長い一生をともに歩むのだ <19 かわいいあなた>  あなたがかわいい  抱きしめたい  よい詩にはならないが  この胸のうちは   もともと  詩にはならないのだ  あまりのかわいさに  抱きしめたい  理性よ学問よ さらば  この胸のうちは  もともと  損得勘定とは無縁なのだ  ああ なんとかわいい  抱きしめたい おセンチだと笑うなかれ  この胸のうちは  もともと  他人に分かるはずはない  <18 めざめて>  めざめて  昨夜の夢が残っている  胸に真実を問いかけてみる  広い草原に寝そべって  あなたが喘いでいたのはなぜ  めざめて  あなたの写真をみる  胸に湧き出る優しい泉  陽光さんざめき  微笑んでいるあなたがいる  めざめて  今日は特別の日   胸にたぎる紅蓮の炎  あなたに会えるのはもう数時間後  目がくらみ目をつぶる <17 あなたの写真>  あなたの写真  微笑んでいるあなた  すこしお茶目で軽薄で  荒けずりなお姫さま    おびただしい雲  おびただしい水  おびただしい砂浜  おびただしい漁船    あなたは、そこで笑っている  まるで世界を独り占めしたかのように  はるか彼方にたくさんの旅をして  足跡を残したいというあなた  ぼくは自分の宇宙を失ってしまう  ぼくはあなたの宇宙の惑星のひとつ  あなたの可能性のひとつでしかない     ともあれ  あなたは可愛い存在だ  何と言われても自分が信じられるのは  現代の奇跡のひとつなのだから <16 この日 この時>  あなたは1枚の写真をくれた  呆気なく願いがかなった  こういう場合、何か言うべきだろうか  激しい仕草をすべきなのだろうか  あのとき 何を言ったのだろう  愛しているとは 言わなかった  好きだとも 言わなかったと思う    誰が想像できるだろう  偶然と言おうか 必然と言おうか  神の導きの霊妙さには 声もない  ふたりの間に言葉は不要だった  あなたは来年6月に会社を辞める  結婚までに準備することは山ほどあるわ  相手は長男だと易者が言ってたわ  あなたは声を出して笑った  この日のために あなたは生まれ  この時のために ぼくは生まれた   <15 ぼくの愛 あなたの愛>  あなたを愛する  言いいたいのは ただ一言  あなたの声が好き  あなたの微笑みが好き  あなたの歩き方が好き  ああ、もっと言いたくなった  あなたの健康が好き   あなたの頭の回転が好き  あなたの純真な心が好き  ああ、あなたのすべてが好き  なんて素敵なことなのだろう  愛し、愛されることは    あなたを写真を1枚ほしい  あなたの写真があれば  恋はもっと安らかになる  許しておくれ  一瞬なりとも  あなたを疑うべきでなかったのだ  一瞬なりとも  あなたが不要などと思うべきでなかったのだ  ぼくの愛  あなたの愛  2つが同時に咲くなんて なんて素敵! <14 たとえば...>  宇宙の果てに行ってみたい  それほどの高望みではないが  わたしは限りない可能性を追求する    たとえば...  百人の女を同時に愛する男を夢みる  その愛は惜しみなく平等にふりそそがれる  たとえば...  使え切れぬほどの大金持ちを夢みる  わたしは砂金でハイウエーをつくるのだ  たとえば...  そのハイウエ−を疾駆する自分を夢みる  もちろん傍らにはあなたがいる  だが、鏡をみると  痩せ細ったしがないサラリーマンが映っている  身の程を知れ! <13 恋と夢と>  わたしは あなたを恋していた  遥かの星のように あなたをあがめていた  あなたは 星々のなかの神だった    あるときは あなたは一羽の  白鳥のようにわたしのもとへ舞い降りた  あるときは あなたは1頭の  豹のようにわたしの心を鷲づかみした  それなのに どうしたことだろう  きょう あなたの夢をみた   あなたはおびえる小鳥になっていた  いつのまに こんなに小さくなってしまったのだろう <12 それは...>  一旦築かれた城は  存在を主張しはじめる   それは... 建築家を阿片患者にする  一旦貯えられた財産は  存在の毒をしみとおらせる  それは...  ケチンボの骨格標本にする  一旦成就した恋は  腐蝕へ向かって歩みはじめる  それは...  かつての恋人をすみやかに葬る    わたしは、格言のてつを踏むまい  あなたを愛する炎が消えないことを願う   <11 恋の...だった>  わたしは  ヴェールをふるのだった  それが風のなかに舞うと  私は喜びにひたるのだった    わたしは   眠りにおちるのだった  やすらかな眠りのリズムが訪れると  深く深く安堵するのだった  わたしは  息づくのだった  さわやかな大気を吸いこみながら  あなたを想うのだった  わたしは  古い恋の本を読むのだった  いつしか目は行間をさまよい  感動の泉が身体を熱くするのだった  そうだ  わたしは恋に酔っているのだ  喜び、眠り、感動...  わたしは恋の化身になってしまったのだ <10 ダリ展>  一体何が起きたのだろう   連夜の不眠で苦しみ   不埒な青春に酔いつぶれたぼくに  それはそれは大きな贈り物  お月さまでも抱えきれない巨大な贈り物  あなたが愛の素振りをはじめて見せた  17日午後4時半からのデートが決まる  ダリ展を見にいく あなたの愛が本物なら、これは奇跡というもの   ダリよ、ぼくらのデートを嘲笑しないでくれ <9 日常詩人>  住んでいる世界が  古い物置のようにゴチャゴチャになる  古いクルマを丁寧に洗いながら  明日入ってくる新車の夢にひたる  仕事に夢中になりながら  オリンピックの馬鹿騒ぎにつきあう  別れたあなたのことを思い出しながら  映画に誘うのはどの娘にしようか  踊りの相手はどの娘にしようか  最後に投網にかけるのはどの娘にしようかと思案する  休日の朝はフランス語の講習会に出席し  昼は手紙を開封して母を愛し  夜はサン・テクジュペリの翻訳に打ち込み  深夜の夢ではピカソとゴッホとダリが嘲笑しあう  こんな日常の混沌から、いい詩は生まれるだろうか  いい詩は、怒り、絶望、あがきから生まれるもの  草原の輝きや生命の暖かさから生まれるもの  戦乱や冒険や放蕩から生まれるもの  だが、日常の混沌のなかからも詩は生まれる  そういう詩があってもいいはずだ  <8 ふりむかない あなた>  ふりむかない あなた  ほほえまない あなた  でんわもしない あなた  あまりのつれなさに なみだもでない  かなしみも わいてこない  こころが きんぞくになってしまう  なにが げんいんなのだ  あなたは おこっているのか  あなたは はじているのか  あなたは たにんにこころをうばわれたのか  あなたは そもそもわたしをあいしていたのか  わたしには なにもわからない <7 虚ろな心>  疲れたからだで あなたを想う  虚ろな心で あなたを想う  あなたのイメージは ぼんやりして  蜘蛛の巣か、おぼろ雲のようだ  もどかしいけれど仕方がない  蜘蛛の巣は払うのが億劫だし  雲は高すぎて手がとどかない   疲れた時間は、存在しない時間  虚ろな時間は、時計のとまっている時間  記憶にも覚醒にも無関係な時間だ  だが、ぼくはそんな時間に腰をかけ、  足をぶらぶらさせよう  そして、ぼんやりとあなたを想うのだ  これって無我の境地?   神が与えた臨時のボーナス? <6 気狂いピエロ>  あなたに二度も電話した  あなたは いなかった  あなたの不在が 気狂いピエロを生む  あなたの行方が分からなかった  誰かと熱い夜を送っているかも...しれない  何者かの手で拉致されたのかも...しれない  不在を装っているのかも...しれない わたしは何ひとつ現実的な想像ができなくなっていた   不安はあなたの母親が電話に出るまで続いた  娘は、親戚の家に行っていますわ  あたくしは、いま帰ってきたところですわ  わたしは一応納得して電話を切った  だが、ものの五分もしないうちに、  気狂いピエロが元気に戻ってきた  夜更けまでいる親戚などあるだろうか  あなただけ帰りが遅くなったのは、なぜ?  親戚に婚約者がいるのかも...  母親の体のいい言い訳を食らったのかも...  そうだ!居留守を使ったにちがいない!!  全存在が膝から崩壊していく  不安はキノコ雲のようにふくれあがり、  私とその世界を繭のように包みはじめていく <5 おやすみ> おやすみなさい  今日もTELしなかった  待っていたならゴメンネ  ぼくはすっかり身体を壊してしまった  心もボロ切れ同然だ  あまりにお前を恋したせいだろう  長い不眠の夜がやってきた  想いのかなわぬ昼に閉じ込められた  恋は不健康なもの  TELすれば治癒するはずなのに  その元気すらないなんて <4 後悔 remorse> 僕ならあなたを幸せにできる  そう思っていた僕はバカだった  海の向こうの国のように間違っていた  ほんとうは、あなたがぼくを幸せにできるのだ   あなたを幸せにしたい、そう思っていた  でも、幸せにできる力なんかなかった  見事な空振り、哀れな思い込み  それが現実の僕 <3 短詩形の問い>  あわなかった日が終わる  あえなかった日が終わる  嵐が止んだあとの蒼空のように  空の果てまでつきぬけた  解放はいつの日にやってくるのか <2 やさしい電話>  わたしは 幸わせで  失神しそうになった  恋を確信した若者の  深い眠りへと落ちていった <1 さいはての旅>  わたしは帰ってきた  さいはての  絶望の国から     温室や名も知らぬ  赤紫色の花が  咲き乱れる国から  怒涛が、柔肌の  砂丘に白く泡立ち  奇岩を翻弄している国から    わたしは帰ってきた  ずっと思い続けていた  別れたあなたに  もう一度逢わなければと


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