いま、しまなみ海道 - Bike Last Run
2010年10月中旬。 かねて念願だったしまなみ海道へ。 サイクリストの聖地として国際的に有名です。 「ええ、準備しましたとも」 LOOK号は、万遺漏なきよう試走を重ねました。 サイクルモードショウでは、詳細な地図を入手しました。 ネットでは、先達の旅行記に入念に目を通しました。 サイクルコンピュータも買って、走行記録に備えます。 走行ルートは、何度も頭に叩きこみました。 「尾道から四国の今治を目指そう」 「6つの島を渡るんだな」 向島→印島→生口島→大三島→伯方島→大島
目次
1 心ウキウキ旅支度 |
2 まずは、京都へ |
3 錦市場へ |
4 鴨川左岸を上流へ |
5 福本渡船で向島へ |
6 因島をひたすら南下 |
7 ナティーク城山へ |
8 生口島へ |
9 大三島へ |
10 伯方島へ |
11 大島へ |
12 いざ、来島海峡大橋へ |
13 サンライス糸山へ |
14 今治港へ |
15 因島・土生港へ |
16 尾道で遊んで帰宅する |
7時50分、一旦、部屋に戻る。 往復で10kmほど走っただろうか。 つれあいは、シャワーの最中だった。 8時、ホテルを出て、小川珈琲へ。 モーニングを食べる。 「美味しいね、トーストもコーヒーも」 「あたし、お腹いっぱい」 つれあいを無理やり誘って、鴨川を散歩。 「朝の散歩はいいだろう」 シラサギが喧嘩していた。 帰路、KCCの海外サイクリングツアーのパンフを発見! ・オランダ、ライン川、フィンランド... 「海外も走りたいね」 走りたいコースが増える一方だ。 10時20分、ホテルをチェックアウトし、 10時51分京都駅発のぞみに乗る。 車中、キンドル読書。 電光掲示板にニュースが流れている。 ・チリの作業員33名、全員救出
---さぁ、いよいよ、念願のスタートだ。 自転車を組み立てていると、 TREKのおじさんがやってきて、じっとみている。 「オレは、まだやったことないから」 1時、ようやくスタート。 だが、しょっぱなから、つまづく。 駅の目の前が、福本渡船。 だが、ここも調査不足で、 左へ400m走ったところが、福本渡船だった。
おじいさんに、 料金(大人60円+自転車10円)を払おうとすると、 着いてからと言われる。 船は、たったの3分で、対岸の向島へ。 おじいさんに聞く。 「因島大橋、どっちへ走ればいいの?」 「左、海に沿って」 言われた通りに走るが、どうも様子がおかしい。 ---そうか、右だったんだ。 結局、予定とは違い、 海沿いでなく、国道をひた走る。 どんどん山に登っていく。 長い坂で、息が切れた。 今度は、すごい下りになる。 ---助かった! ようやく、しまなみ海道の道路サインが出る。 これからは、サインに沿って走ればいいのだ。 ---おいおい、また登りかよ。
くねくね曲がりながら、登っていく。 また、息切れだ。 ようやく高台の因島大橋へ。 ---いい景色だなぁ。 だが、橋は2重構造になっていて、 上をクルマが走り、 下の自転車道は、トンネル状態で、 鉄骨越しでしか景色を楽しめない。
ここで手遅れだが、高低差をチェック。 ---因島大橋までの登り、きつかったなぁ
観光案内所でもらった地図をゆっくり見る。 最初によく見ておけばよかったのだ。 ---どのルートで走ろうか? Aルート:反時計回りに島の西側の海辺を走る Bルート:時計回りに島の東側の海辺を走る Cルート:途中で島を横断し、西側の海辺に出る
---Aルートが平坦で、距離も短いね ガイドブックにも、初心者コースと書いてある。 ・Aルート(地図内に点線表示) しばらく海沿いを道なりに走り、 山側に折れる道に進むと、因島フラワーパーク前。 長い坂に息が切れる。 今度は、すごい下りになる。 ようやく海を見ながらの平坦なルートに戻る。 だが、歩道がなく、交通量が多い。 しかも、道幅の狭い箇所で、 ダンプカーが、すれすれで追い抜いていく。 ---このルート、失敗したなぁ 街中を走っているようなものだ。 轟音と排ガスを浴びては、健康に悪い。 2時55分、生口橋入口。 今日の宿泊地は、島の南端にあるので、 通過し、土生港へ向かう。 この後も、同じような海沿いの市街地が続く。 Google MAPの航空写真表示でみるとよくわかる。
3時10分、土生港に着く。 12時42分、尾道駅に着いてから、 およそ2時間半だ。
チケット売り場で、時刻表をもらう。 明日、今治まで乗船するつれあいの役に立つだろう。 ターミナルのなかを、一応チェックする。 ---いか焼きが名物なんだ。 早速、200円出して、数分待つ。 おばさんにカメラを向けると、 「綺麗に撮ってね」 「頑張ります」
---うむ、これはうめぇ! 熱々を半分ほど食べてリュックにしまい、 100メートルほど走って、立ち止まる。 市街地が広がって、分かりにくい。
---あれ? 路地をつれあいが歩いてくる。 「おーい」 「あら、着いたの」 福山駅前で、のんびりして、 それからバスで因島にやってきたらしい。 土生港には、バスターミナルもあるのだ。 1時間ほど前にホテルに着いて一休みしてから 街中を散歩していたとのこと。 まだ熱々のイカ焼きの半分を差し出す。 「美味しいわね」 彼女は、イカやタコが好きなのだ。 「ホテルはどこ?」 「すぐそこ。標識が見えるでしょう」 「どれ?」 ナティーク城山は、海側にあった。 小高い崖の上にあるとは、思わなかった。
よく見ると、エレベーターがある。 4階分登ったところに玄関がある。 その左手に、テラス。 広葉樹の木陰のテーブル席を選んで座る。 ---おお、絶景だ! 瀬戸内海に浮かぶ島々、 乗り出すと、眼下にフェリー乗り場、 右手の島影に生口橋が見える。 明日、渡る橋だ。 まるでエーゲ海のような テラスの雰囲気が気に入ったので、 1時間ほど景色を愛でながら、のんびりする。
コーラを注文し、 スタッフからもらったパンフを読む。 読み終えると、キンドル読書。 ---何キロ走ったっけ。 はじめてサイコンをみる。 ・走行距離27.00km、平均速度15.8km、最高速度44.0km 4時半、つれあいが散歩から戻ってくる。 はじめて、部屋に入る。 「わー、広いなぁ」 「高いだけのことはあるわね」 スイートルームを奮発したので、 1泊1人2万円ほどになる。 このホテル、 その昔、勢威を振るった村上水軍の城址にある。 内海造船の迎賓館だった。 皇族や各界VIPの利用も多いとか。 館内には、オーナーの友人という 平山郁夫画伯の絵が何点か飾ってある。
5時、風呂に入って、 7時半、ダイニングルームへ。 海の幸のサラダにはじまったコースは、 どの皿も、えもいわれぬお味だった。
富士屋ホテルから移ってきたシェフは、 獲れたての瀬戸内海の魚介類を素材に 究極の美味を追及しているとか。 「あのギリシャのお店よりも、おいしいわね」 「うむ、ここのシェフ、只者ではない」 ウェイターさんと話が弾む。 「いい自転車乗ってますね」 「みたの?」 「ええ」 LOOK号は、従業員スペースに置かせてもらった。 「MAVICのタイヤを履いていますね。それにデユラ」 「詳しいね」 7年前、3ケ月分の給料を黙って払いなさい。 そう助言されて自転車を買ったとか。 「後になればなるほど、いい助言だったと感謝しています」 そう、いい自転車は人生を豊かにする。 9時、早々と就寝。 今日の一句は、 ・秋潮や 架橋の基礎の 頼もしき
9時03分、5.32km、生口橋(いくちばち)に着く。 ---工夫してるな 右手が車道、中央がバイク、左手が自転車用だ。
生口橋の全長は、790m。 料金所は、渡り終えたところにあった。
---しまった! 道の右手に海が見えるはずが、左手にある。 島の西側コースには、観光スポットが多い。, 柑橘類(シトラス)の魅力を楽しめる公園もあるが、 道なりに走っていたら、 いつの間にか、東側コースを走っていた。 でも、これはこれで正解だった。
しまなみ海道のハイウエーができたために、 国道317号線はガラガラで、走りやすかった。 生口島はレモンと蜜柑の島で、 レモンの生産量は日本一とあって、 蜜柑の畑が連なっている。 9時半、走り出して1時間。 ---レモンの売店ないかな? 看板をみつけて立ち寄る。 暗い店内をのぞき込むと、陰気なおばさんが出てきた。 「やってないよ、病院へ行くところ」 「ミカン、1ケ売ってよ」 「うーん...あげるよ」 「じゃ、50円払う」 「それじゃ、もう1ケあげる」 島のひとは、人情味にあふれているのだ。 その場で食べる。 「美味しいね」 「運動してきたからでしょう」 クエン酸が豊富だから、疲労回復効果がある。 おばさんによると、まだ出荷時期じゃないそうだ。 確かに、ミカン畑のミカンは青々としていた。
10時、多々羅大橋に到着。 サイクルコンピュータをみると、18.94km、 橋の料金は、100円だった。 橋の途中に、鳴き竜の看板があった。 ---日光の東照宮にあったな。
聞こえないので、場所を変えて試していると、 ローディが2人通りかかる。 「やらないんですか?」 「前にやったからね」 しまなみ海道、リピーターも多いようだ。 多々羅大橋を渡り終わって、振り返る。 ---きれいな橋だね 橋の上が愛媛県と広島県の県境で、 建設当初は、斜張橋として世界最長を誇ったらしい。 今でも日本最長の斜張橋だとか。
---もう、この島は終わりか。 サイクリングロードは、島の東端をかすめただけだった。 時間に余裕があれば、 島の中央にある大山祇神社に参拝したいところ。 大山祇神は、天照大神の兄神で、 全国の三島神社の総本社という偉い存在なのだ。
10時52分、28.12km、大三島橋の料金所。 ---簡素なもんだね
大三島橋は、全長わずか328m。 だが、しまなみ海道唯一のアーチ橋だ。
ここは、鼻栗瀬戸と呼ばれる。 見下ろすと、静かな海のようなのだが、 潮流が激しく、船乗り泣かせの難所らしい。 島の西側317号線を400mほど走ると、 海側に、道の駅 伯方S・Cパークに着く。 このなかに、「マリンアシスはかた」がある。
11時10分、32.62km。 昼食には早いな、休憩していくか。 ---お、ソフトクリームを売っている。 ふーん、伯方の塩ソフトというのか。 伯方島では、塩が採れるのかな? このソフトクリーム、みんなが嬉しそうになめている。 早速、食したが、ほのかな塩っ気がいい。
よく整備された海辺の広い公園を見渡すと、 真新しいGIANTが5台、カギもかけずに置いてある。 若い男性2人、若い女性3人。 ---台湾人かな? GIANTは、台湾にある世界最大の自転車メーカーだ。 ほかに、中年女性が2人いる。 こちらは、レンタバイクを借りたようだ。 前籠にお土産を入れながら、 おしゃべりしている。 ---フランス語だ! 久しぶりに聞く言葉なので、 つい話しかけてみる。 ---Bon Jour! 話しかけられると、 ボキャブラリーの貧困さが露呈する。 そこで、 ---Bye 手を振って、離れる。 椰子の並木のある海辺へと向かう。
伯方・大島大橋は、 2つの橋からなっている。 ・伯方橋 (328m):伯方島と見近島の間に架かる ・大島大橋(903m);見近島と大島の間に架かる
わが国最長の吊橋を気分よく渡り、 2kmほど海を眺めながら走ったところで右折。 島の内陸部を南北に縦断する道路に入る。 それから間もなく長い上り坂がはじまり、 山肌を縫っていく。 前方に、先程のフランス人女性連れがみえた。 さすがに、この坂は、 重いレンタルバイクには、きついのだろう。
ここは、軽量Look号の見せ場だ。 速度を上げて、一気に追い抜く。 ここで並ばれて、話しかけられたら困るので、 ---Bye また、手を振って、 坂を飛ばして、差を広げる。 ---こりゃ、きついわ 自転車が止まりそうなくらいにペースダウン。 振り返って、2人の姿がみえなくなったので、 こちらも、息が整うまで、押し歩きをする。 ---情けないね 最大の難所とも言える長い坂を上りきる。 ようやくてっぺんに着く。 後は、下り坂。 急勾配なので、ときどきブレーキをかける。 後は平地を気分よく走れると思ったが、 もう一度上り坂があった。
12時24分、47.28km、 道の駅"よしうみいきいき館"に到着する。 ---腹減ったな。 食堂は、見当たらなかった。 売店があって、 いけすもあって、魚が泳いでいる。 日本3大潮流のひとつ“来島海峡”で育った 新鮮で 美味しい魚料理が楽しめるとある。 テーブルには、七輪が置いてあって、 焼いて食べるようになっている。 焼いたエビやホタテ、さぞ美味かろう。 だが、一人では、なんとも味気ない。 それに先を急ぐので、あきらめて 鯛めしとキリンフリーで、昼食とする。
しまなみ海道サイクリングのハイライト。 ここを渡れば、四国だ。 2つの小島の上を通り3つの橋で繋がっている この橋は、世界初の三連吊橋! 第一大橋、第二大橋、第三大橋があって、 全長は、4105m!
高低差は、これまでで最高。 Google mapでみると、 山裾をうねりながら橋へと上っていく。
---いよいよだ! 来島海峡大橋の自歩道入口は、 よしうみいきいき館から 県道を東に約1km先の山側にある。 左手は、原付バイク。 右手が、自転車・歩行者用だ。
ここから橋まで約500m登っていく。
ゆるやかなスロープが続く。 うねうねと続くスロープが終わると、 急勾配を緩和するために、ループ状になっている。 まるで空中回廊を巡っているようだ。 ---いい景色だな。 最後なので、気合で一気に上ろうとしたが 直ぐに失速してしまう。 何とか歩かずにすんで、橋の上へ。 ---圧巻だ! まっすぐに伸びる来島海峡大橋。 紺碧の大空。 眼下の大海原。 橋桁を支える島々。
---きついな。 なんでだろう? 橋の上も、上り勾配が延々と続いているのだ。 しかも、風向きがアゲインストに変わる。 ---こんなところに料金所があるのか ほぼ中間にある馬島に無人の料金箱がある。 ここが、橋のなかでは一番高くて、200円だ。 左手に、なぜかエレベーターがある。 居合わせた地元のひとに聞くと、 無人島でのBBQなどを楽しむらしい。
立ち止まって、時計を見たり、 サイコンの数字を確認する。 ---いま1時20分、ここまでで、51.74kmか その後は、やっと下りになったと思ったら また上り勾配がある。 3つの橋だから、橋の山も3つあるわけだ。 アップダウンのせいで、 いまいち楽しめなかった。 ぐいぐい漕いでいくだけだ。 昼食直後に頑張ったので、お腹も少し痛む。 それでも、景色は最高だ。 途中、立ち止まって、海辺を撮る。 澄んだ海の色が何ともいえない。 眼下には海の難所が広がり、 来島海峡を船が行き交っている。
1時30分、サンライズ糸山に到着。 最後は、ツールドフランスの選手のように、 両手を高くあげて、ゴールする。 ここまで、54.44km。 この施設ガイドには、こう書いてある。 ・今治サイクリングターミナル・サンライズ糸山は、 しまなみ海道サイクリングの四国側の拠点です。 レンタサイクル、ご宿泊のサービスを提供しております。 レンタサイクルは、1日500円! ママチャリだけでなく、マウンテンバイク、 クロスバイク、ロードレーサー、電動アシスト、 そして、子供用など300台を揃えています。 ---どんなロードレーサーがあるのかな? 貸出場所に行ってみたが、 当然のことながら、わがLOOK571のような 高級なロードレーサーは置いていなかった。 ---なにか食べていくか。 施設に入って、左手に"風のレストラン"があった。 正面のガラス貼りの窓からの展望がすばらしい。 来島海峡大橋が見やすいように 席が階段状になっている。
宿泊代は、ビジネスホテル並み、 部屋に自転車をもちこめる。 サイクリストには、夢のような施設だ。
本当は、ここに一泊したかったが、 つれあいの要望で、 ナティーク城山に、もう1泊することになった。 風のレストランは、にぎわっていた。 右隣りの中年夫婦は、ワインを飲んでいる。 左隣りの若いカップルは、盛んにしゃべっている。 ランチをするために、来たが、 次回は、夕日を見にこようと言っている。 ---何弁だろう? サイクリストではなく、地元のひとのようだ。
---あれ? ブルーのラインが右手にそれていく。 車道左端に幅20cmに設置された青い線だ。 しまなみ海道サイクリングロードの 推奨ルートを示している。 不安になったので また並走しているひとに聞く。 「この青い線、どこへ行くの?」 「今治駅」 「今治港に行くには、この317号でいいの?」 「いいと思うけど」 「ありがとう」 彼は、今治駅へ行くようだ。
せっせと走る。 山間地や海辺とちがって、蒸し暑い。 いろんなことを考える。 ---サンライズ糸山で、 シャワーを浴びておけばよかった。 ---あと、どのくらい走ればいいのかな? 我慢して走っていくと、 市街地になって、交通量が増えてきた。 ---お、あそこに日陰がある!
2時25分、今治銀座に着く。 長いアーケードに入る。 500m以上あるだろうか。 ---ここ、シャッター街だね。
2時40分、ようやく今治港に着く。 尾道からの通算距離は、89.72kmだった。 フェリー乗り場に急ぐ。 ---乗り遅れたかな? 閑散としている。 人っ子一人いない。 切符売り場に駆けこむ。 因島の土生港行きの切符を買って、 14時45分発に乗りたいと伝えると、 「郵便船なので自転車は乗れません」 ---郵便船?そんなものがあるのか?
次は、16時00分発。 ---1時間15分待ちか。 泳いでいくわけにもいかない。 仕方がないので、 時間をつぶすために、 今治銀座のアーケードに引き返す。 LOOK号を押しながら、看板を眺めていく。 今治の名物は、かまぼこなのだろうか、 数店が開いていた。 --魚貞か
明治4年創業とある。 物色していると、 店員が名物ですと勧めるので、 1ケだけ買って、その場で食べてみる。 ---うまいね。 新鮮な魚すぐ使って手作りするから 美味いのだろう。 ---今、何時だ? あと1時間もある。 喫茶店を探す。 ---チルチルか。 メーテルリンクの童話劇「青い鳥」の 主人公チルチルミチル兄妹の兄の名前だ。 冴えない外観のわりには、 ハイカラな名前がついている。 若い女性がやっているのかも。
入ると、店内は薄暗い感じ。 4人掛けテーブルが5つ。 声をかけると、奥から顔をのぞかせたのは、 若い女性でなく、おばさん。 「やってますか?」 「やってますよ」 「何にされますか?」 「メニュ−ありませんか?」 「はい」 レモンスカッシュを注文する。 お互い時間がたっぷりあるので、話しこむ。 「お客さん、どこから来なさった」 「東京」 「ほう」 「ここもシャッター街だね」 おばさん、 不景気を嘆きはじめる。 何でも、半世紀前、この地は造船ブームに沸いていた。 何艘ものフェリーボートが、今治港を出入していた。 しまなみ海道の開通も、特効薬にはならなかった。 デパートも撤退した。 今治大丸、今治高島屋、ニチイ、ダイエー。 話しが際限なく暗くなっていくので、 あとは、Kindle読書に専念する。 お客さんは、最後まで、誰も入ってこなかった。
快速船「つばめ」に、一番に乗りこむ。 LOOK号は、乗組員が収納場所へ。 周囲を見渡す。 ここから、来島海峡大橋がみえる。 ---次の便じゃなかったの? つれあいが乗船してくる。 土生港から> 快速船で今治まで乗り、 友人と20年ぶりに再会したらしい。 「バイキングが安いのよ、1500円!」 今治国際ホテルで、ランチを一緒したようだ。 埠頭で、友人の女性が手を振っている。 つれあいが、手を大きく振り、 こちらも、軽く会釈する。 船員さんが、扉を閉じる。 放送は、海の男の声だ。 「今治港から土生港まで 途中6つの港を経由しながら 約1時間10分で到着いたします」 いよいよ出船だ。 乗客は、10人ほど。 船は、バックし、ストップ。 最初はゆっくり、だんだんスピードを上げていく。 今治港が遠ざかっていく。 ---瀬戸内海の船旅はいいなぁ
今治港→友浦港(大島)→木浦港(伯方島)→岩城港→ 佐島港→弓削港→生名港→土生港の順に停泊する。
エンジン音が静かになり、 船のスピードが落ちて、 最初の港、大島の友浦港に到着。 つれあいが、つぶやく。 「ここでは、船が足なのね」
次の港は、伯方島の木浦港。
ここでは、伯方高校の高校生カップルが 乗船してくる。 下校時なのだ。 つれあいが、つぶやく。 「ここでは、船で通学しているのね」 お次は、岩城島の岩城港。 この岩城島(いわぎ)から先の島々は、 佐島も、弓削島も、生名島も、 しまなみ海道からは、外れている。 海面を覗きこむと、 水がとてもきれいだ。 マダイやメバルがよく釣れるそうだ。 ---こういう離島で、釣り三昧もいいかも
次は、佐島の佐島港。
その次は、弓削島の弓削港だ。 ここでも、高校生が乗り込んでくる。 取材開始だ。 「あの白い建物が高校なの?」 「ええ」 県立弓削高等学校でも、 生徒数が減っているらしい。 通学費補助制度があって、 島外から通学する生徒を対象に フェリーの定期代の半額を補助し、 新入生に自転車購入代1万円を補助するとか。
そして、なぜか引き返すようにして 停泊したのが、生名島(いくな)の生名港。 土生港は、眼と鼻の先だから、 泳いで渡れそうだ。 乗り降りも多い。
17時15分、土生港に着く。
係員が後部デッキから、自転車を運び出してくれる。 大事に扱ってくれるので、うれしい。
いまでも頑張っているように見える。 ---なんか悪いなぁ その群れをぬけて、豪華なホテルに入る。 自転車置き場に、LOOK号を置く。 潮風にさらしたので、入念に手入れする。 部屋に入って、すぐに入浴。 7時、ダイニングルームへ。 つれあいが来るまで、テラスに出る。 ---夜景もいいね。
コース料理が出てくる。 疲れからか、慣れたのか、昨夜ほどの感激がない。 ---長い一日だった。 8時半、就寝。 10月16日。 5時半起床。 2時間かけて、柏庵日乗を書く。 昨夜は、流石に疲れて書けなかった。 7時からの朝食は、和食にしてみる。 「みんな冷えてる」 「仕出し屋から取ったのかしら?」 「洋食にしておけばよかった」 8時半、チェックアウト。 朝食が印象を悪くしてしまった。 ホテル経営は、なかなか難しい。 9時、土生港のバスターミナルからバスに乗る。 尾道大橋を渡るのだが、遠回りもいいところ。 船なら数分のところを15分くらいかかる。 9時48分、尾道駅前。 ---おお、ローディだらけだ。 みんな、しまなみ海道が目当てだ。 広島からバスを仕立てて団体でやってきた。 「ここからは、自由走行なのです」 期待に胸を弾ませている若者をみるとうれしくなる。
駅前の手荷物預かり所を探す。 ---ないなぁ 観光PRの黄色いハッピをきたひとたちに聞く。 「何年か前までは、手荷物預りがあったんですけどねぇ。 コインロッカーを試してみたらどうですか?」 行ってみたが、勿論、自転車は入るはずもない。 つれあいのスーツケースが入るロッカーのほうは、空がない。 こんな状態で、観光の町というのだから、笑える。 仕方がないので、タクシーの後部座席に 自転車をのせて、助手席に乗る。 つれあいは、別のタクシーで。 お目当ては、"おのみち帆布"だ。 キンドル用の帆布ケースを探す。 そのために、わざわざ本店までやってきたのだ。
「これは、入るかも」 だが、ジッパーが邪魔で入らない。 風合いも、色もいいので、残念だ。 「ジッパーを外してくれる?」 「いいんですか?」 「表面を保護するだけだから」 売店の奥には工房があって、丁寧な作業をしてくれた。 気をよくして、流行のハンチング帽を試す。 「どう?」 「似あうわね」 つれあいも、小物をせっせと買いこんでいる。 帰路は、自転車を背負って、どこどこ歩く。 途中、何度も休憩する。 ---お、ここにあった! ・喫茶 芙美子
若いひとは、林芙美子などを知らないようで、 いい店なのに閑散としている。 おばさんが、客引きをしているとは・・・ この名文句は、知られているかも。 ・花の命は短くて苦しきことのみ多かりき 芙美子が色紙などに好んで書いた言葉だ。
苦労を重ね、自伝的小説で流行作家になった。 森光子主演の舞台「放浪記」の作者だ。 お店の猫を撫でながら、特注のコーヒーを飲む。 店内には、直筆原稿や貴重な写真が飾られ、 店の奥には、彼女の旧宅が移築されていた。 駅のそばには、銅像もある。
尾道駅から福山駅に出て、 12時31分発のぞみで帰京。 車中で、鯛めしを食した。 その後、しばらく昼寝をして、 目覚めて、Kindle読書をした。 4時13分、東京駅に着く。 上野駅から柏駅に戻る。 つれあいと別行動を取り、 家まで夜道をLOOK号で走る。 対向車のヘッドライトがまぶしくて、 足元がみえない。 走り慣れた道だから、 6時、なんとか無事にわが家にたどりつけた。 帰宅は、6時。 2人そろって、荷物整理。 「天気がよくてよかった」 「念願を果たして、よかったわね」 「うん、よかった」 このわずか2ケ月後、 癌で生死の境をさまようことになる。 Bike Last runになるとは、 思ってもみなかった・・・