目次
1 オトーサンの旅支度 | 2 オトーサン、いざスイスへ |
3 オトーサン、ルツェルンへ | 4 オトーサン、ユングフラウに登る |
5 オトーサン、自転車を借りる | 6 オトーサン、自転車を買う |
7 オトーサン、自転車で走る | 8 オトーサン、一路マッターホルンへ |
9 オトーサン、ご来光を撮る | 10 オトーサン、噂の展望台へ |
11 オトーサン、氷河特急に乗る | 12(掲載予定)オトーサン、コモ湖へ |
1 オトーサンの旅支度
今日の予定を確認。
「午前中は、ここルツェルンで過ごすのか。
午後インターラーケンに移動し、
夜は、スイス名物のフォンデューか。
「ふーん」
7時45分から朝食。
流石、本場だけあってドイツパンが美味い。
9時45分、湖畔を散歩。
プラタナスの並木道は豪勢でリゾート気分になる。
おしどりや白鳥が浮かび、魚が見え、
中年美人が連れた犬が、水浴びをしている。
11時55分、旧市街へ。
娘たちは、時計や衣服をチェック。
手持ち無沙汰なので、アイスクリーム屋に寄る。
ビデオ撮影中で、インタビューされる。
チャランポランな英語で、答えると、なぜか受けた。
"This shop is grea---t!"
ロイス川に出る。
「いい気分だなぁ」
初夏の日差し、爽やかな風、
そして折りしも鳴り響く教会の3分鐘。
河畔のカフェでお茶。
1時15分、トラムに乗って、駅まで。
インターラーケンまで、パノラマ車一等席。
車窓には、アルプスの少女ハイジの風景が展開する。
放牧された牛の群れ、
タンポポの黄色で埋め尽くされた草原、
その後ろにはアルプスの白い峰々...
列車が高度を上げていくと、
森林をぬけ、岩壁と流れ落ちる滝の数々...
「勿体ないね」
長女が景色も見ずに眠りこけている。
3時45分、インターラーケンに到着。
ホテルに到着。
「このホテルのロビー、いいわね」
「MOA(NY近代美術館)みたいね」
「そうでしょ、5つ星なのよ。
2つのホテルが合併して、
つながる部分は新設計したものなの」
「感動した」
ロビー中央にシースルーのエレベーターがある。
4時25分、外出。
駅前のCOOPまでミネラルウォーターの買出し。
長女は、スイス時計探しに夢中。
「な、頼むよ」
次女に駅でレンタ・バイクの料金を聞いてもらう。
1日料金は、CHF31、半日はCFF18。
「すごい!最新式の自転車が借りられるんだ」
ホテルへ戻ると、
次女、
「このホテル、すごいのよ」
「どこが?」
「スパがすごいのよ」
「行こ、行こう!」
女性陣は、ホテル見学へ。
Hotel Victoria Jungfrau
こちらは、旧市街で自転車事情視察へ。
ホテルへもどると、
明日行くユングフラウを背景に、
パラグライダーが着陸しようとしている。
「タンデムなんだ」
タンデムならプロがついていますから、
誰でも憧れの大空を飛べます。
ルンルン気分で走っていたら、旧市街に出る。
「おう、おう」
連発しながら走る。
見るもの、聞くもの、みな美しい。
「おっ、自転車屋さんがある」
残念ながら閉まっている。
8時から朝食なので、ホテルに戻る。
係りに頼んだら、ホテルの駐車場に置いてくれるとのこと。
これなら安心だ。
娘2人は、早起きしてスパに行ったらしい。
「ここのスパ、最高よ」
「パパも行くといいのに」
声には出さななかったが、
「そんなヒマがあったら、自転車に乗るよ」
8時半、朝食後、連れ立って旧市街地へ。
こちらは、MTBに乗って。
「ちょっと乗ってみて」
「あいよ」
長女が応じてくれる。
サドルを一番下までさげると乗れるようになる。
相方がカメラを構える。
ちょっとした撮影会がはじまる。
部屋に戻って、ひと息つきました。
「うーん、よく撮れている」
ビデオを再生しました。
「やっぱり、思いきって買っておいてよかった」
こういう動画は、一生ものでしょう。
8時から朝食。
「スイスのハチミツ、おいしいわねぇ」
「日本のは、ワックス入りだよなー」
部屋でくつろぎました。
30分ほど窓越しに、山を観察しました。
山頂では風が渦をみているようで、
あるときは、マッターホルンが噴火しているようにみえます。
雲が消えたときは、まさに恩寵の瞬間。
「おい、見にこいよ」
「あたし忙しいのよ」
「荷物の整理なんかしている場合かよ」
たちまち雲が湧いてきて、山頂にヴェールがかかるので、
つれあいが窓際にきたときは、もう手遅れ。
「何よ、大したことないじゃない」
9時45分、駅へ向かいます。
つれあいの動きを懸念して振り返ると、
「おお!ヤギだ!」
「おお、増えた!3匹になった
「おい、みんな見ろよ、あそこ、あそこ」
4月24日。
曇り。
さぁ、大変。
荷造りをしていたが、鞄に入り切れない。
2週間ほどの旅行なので、大型の鞄がいる。
娘に言わせると、イタリアは物騒なので、
ハード・スーツケースでないとダメらしい。
急遽、イオン柏SCへ。
昼食は、"歌行燈”で、そば+ミニ天丼+茶碗蒸し。
これで、1050円は安い。
ジャスコの鞄売り場へ。
「最近の旅行鞄は変わったなぁ」
TSAロックつきが売れているらしい。
「これ、いいわね」
軽くて、キャスターが4輪。
各社とも、機能面では似たり寄ったり。
つれあいが推薦するマリクレールにする。
色はシルバーにしてもらう。
○マリクレールPCキャリー
66MCY-31559
・本体サイズ:67×47×30cm
・重量:6.3kg
・素材:ポリカーボネイド&ABS
・中仕切り2枚
・トロリバーは3段階調節。
・価格:1万5800円
3時半帰宅。
荷物を整理して、鞄に入れる。
4分割の法則に従うといいらしい。
要は重いものは下に。
5時半、近所の風呂屋へ。
サウナのあと、体重測定。
58.0kg。
4月25日。
雨。
4時半起床。
スイスの天気をチェック。
チューリッヒ。
晴れ、時々くもり。
最高気温25度。
28日まで同じ陽気。
29日から3日雨が続き、
気温は20、18、16度と落ちていく。
山は雪のようだ。
6時10分、柏駅西口から成田空港バスに乗る。
どこへ行くのか?
まだ娘から旅程を聞いていない。
前半の1週間はスイス、後半はイタリアに行くらしい。
自転車屋さんがあるといいのだが...
「なんだ、このバス」
成田空港まで、時間のかかること。
16号を南下、千葉北から東関道ルートではなく、
千葉NT、栄橋、成田、空港ルートだった。
「自転車と同じルートじゃん」
8時、ようやく第1ターミナルに着く。
10時25分、スイス航空に乗る。
機内アナウンスは、5ケ国語。
チューリッヒまで11時間余。
「おっ、パーソナルビデオがある!」
映画を4本見る。
・"hollywoodland"(127分)
・"Prete-moi ta main"(99分)
・"Hui Bui"(99分)
・"Stranger than Fiction"(113分)
現地時間、3時45分、チューリッヒ着。
空港で、NYからきた長女と再会する。
「これがグリーンカード*よ」
「へぇ、緑色じゃないんだ」
米国永住権ビザの取得は10年がかりだった。
5時47分、列車に乗る。
「おい、これ1等車?」
「そうよ」
スイス通の次女、得意気だ。
彼女が企画した親孝行ツアーなのだ。
スイスは、清潔で治安がよく豊からしい。
最低賃金は、1時間1800円とのこと。
「ああ、日本も早くスイスになりたい」
7時、ルツェルンのホテルに着く。
「すごいホテルだなぁ」
Hotel schweizerhof ruzern
夕食は、日本から持参したおにぎりとりんご。
「機内食でお腹が一杯だわ」
「このほうがいいわよね」
「そうそう」
「ママのおにぎり、久しぶりだわ」
4月26日。
晴れ。
いい部屋だが、何度も目が覚める。
11時、1時、2時、3時、4時。
相方のいびきがうるさいし、
夜型と朝型との違いもある。
アイマスクを持参し忘れたのも、まずかった。
ダブル・ベッドもよくない。
相方が寝返りを打つと、目が覚めてしまう。
起床6時。
カメラなどに充電し、バルコニーから外を撮影する。
「ほんとにいい眺めだなぁ」
静かに明け行く空、湖の輝き、豪華客船...
4月27日。
晴れ。
4時起床。
羽布団が暖まり過ぎて目が覚めた。
カメラとビデオカメラの充電、
撮影画像のストレージへの移し変え。
これをやっておかないと、
途中で電池切れや容量不足になるかも。
次女から渡された今日の予定に目を通す。
「こりゃまた、いそがしそうだな」
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・7時、朝食
・8時20分、インターラーケン発
・10時37分、ユングフラウ着
・12時、昼食
・12時45分、ユングフラウ発
途中下車して、ハイキング
・16時20分、グリンデルワルド発
・18時16分、インターラーケン着
・20時過ぎ、部屋で和食
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「そうそう、重衣料の支度をしなければ」
次女から厳重に申し渡されています。
「ユングフラウは、分かってる?
海抜3571mよ。氷点下の世界よ」
「冬の富士山くらいね」
「だって、その後、ハイキングで暑くなるだろう」
「だから、重ね着して調節するのよ」
「そうか」
☆読者のみなさん、
ユングフラウとアルプス・ハイキングの模様は、
写真美術館で、ご覧下さい。
さて...
夕方に飛びます。
「楽しかったわねぇ」
「でも、大変だった」
てなことで、帰りの車中はみんな居眠り。
相方を相手に、
「なぁ、いい景色じゃないか」
「...」
「まるで上高地の梓川だよ」
「梓川?」
「ああ」
ゆるい会話が続きます。
ホテルに帰ったのは、6時半。
女性陣は、憧れのスパへ一目散。
ひとり残されたオトーサン、
シャワーを浴びて、下着を洗濯。
単身赴任時代に戻ったようです。
「ベランダも使わなきゃな」
りんごをかじりながら、今日の出来事をメモ。
午後7時を回っているのに、まだ4時の感じ。
鳥の声がして、静かです。
ようやくスパから戻ってきた相方に聞きます。
「今日の夕食は何にする?」
「カレーよ」
サトウのご飯に、ジャスコのタスマニア・ビーフカレー(中辛)、
それに、ほぐし鮭、小魚の干物。
「疲れているときは、和食が一番ね」
「そうなのよ」
「ディナーで気を使う必要もないしね」
「レストランじゃ、こんな格好できないしね」
「そうそう」
4月28日。
晴れ。
5時起床。
6時半、駅へ急ぐ。
駅で自転車を借りに行くのだ。
知ってます?
スイスでは、総延長3300kmのサイクリング・コースがあり、
80ケ所の駅で、レンタルサービスをしていて、
最新式の自転車を借りることができる。
おまけに、返却する駅も選べる。
われわれ日本人が手ぶらで行っても、
スイスでは自由にサイクリングが楽しめるのだ。
航空運賃が高いのが難だが、
安くて親切な宿にとまりながら、絵葉書の風景を走る。
そんな夢が現実になっているのだ。
これは、すごいことだ。
借りたMTB、3×8=24段変速だった。
乗り心地は最高!
うれしくてホテル周辺をぐるぐる回る。
ユングフラウをみながら緑のなかを走っているのだ。
信じられなーい。
わが生涯の終わりに、少年の心に戻れるなんて。
わがホテル前のユグフラウが望める公園でソロの撮影会。
「おっ、朝市だ」
旧市街では、広場で朝市が開かれる。
八百屋、パン屋、チーズ屋、花屋が主体だ。
でも、ここは何か様子が違う。
派手なテントが張られ、
数人の黄色いウインドブレーカーの係員がいる。
妙な乗り物もある。
「おっ、自転車フェアだ」
最初は、テントに受付嬢がいるので、
自転車レースの受付かと思ったが、自転車に値札がついている。
ワゴンが到着して、自転車を積み下ろしている。
近郷の自転車屋さんの共催で、
下取自転車のフェアをしているようだ。
「おお、タンデムがある」
値札をみると、CHF400とあった。
スイスの軍用車もある。
これは、CHF100。
無骨で、ずしりと重い。
「この赤い自転車、よさげだなぁ」
重さはどのくらいかと近づいていくと、
声がかかる。
「パパ、30分後に、ここに戻ってくるからね」
女性陣は、あきれて、他の店へ行ってしまう。
値札を見ると、CHF100。
思わず、買いたくなる。
持ちあげて、列の外に出して眺める。
「うーん、いいかっこうだ」
細身のフレームの格好もいいし、
使い古した革のサドルが何とも言えないいい味を出している。
ちょっと跨ってみる。
サイズもぴったりだ。
「この自転車買いたいが、ひとつ条件がある。
日本まで、この自転車を送ってもらえないだろうか」
係員に拙い英語で話しかける。
相手は流暢なドイツ語で返事してくる。
まったく分からないとみるや、
相手は、メモ用紙に地図を描きはじめる。
どうやら、駅の向こうに郵便局があるから、
そこで、発送を依頼せよとのことらしい。
こちらは、そろそろ列車で移動しなければならないから、
そんな余裕もないし、手続きも面倒だ。
"Anyone who can speak English?"
と叫んでいると、長身の男がやってくる。
どうやら、自転車好きのお客のひとりらしい。
他にひともいそうにないので、彼に必死で依頼する。
念力が通じたのか、彼はやや乗り気になってくる。
そこで、もう一押し。
彼に"advance"(前払金)と言ってCHF100を渡す。
効果があった。
彼は、氏名、住所、電話をメモし、
輸送費を調べて、後日連絡するから、
銀行口座に、その金額を振り込んでくれ。
そうしたら、発送するといってくれる。
"Many thanks!"と握手する。
氏名、住所、電話は虚偽のもので、
金をだまし取られるかもしれないが、
いまは彼を信じるほかしかない。
オトーサン、
衝動買いを終えて、ハタと気づきます。
「そうだ、走らなければ」
せっかく借りたMTB、MTBならではの道を走らねば。
インターラーケンは、ブリエンツ湖(Brienz)と
ツゥーン湖(Thun)の間にある町。
アーレ川(Aare)に沿って町が伸びています。 and
「川へ出てみよう」
水量豊かで、青く澄み切った川が現れました。
記念写真を撮ろう。
橋の上で、借りたMTBを撮りました。
欄干の紋章にインターラーケンの文字があります。
「何を表しているんだろうな」
アーレ川沿いの道は、砂利道でした。
このMTBの性能テストためにあつらえたかのようです。
「乗り心地いいなぁ」
人っ子ひとりいない静かな道を川と対話しながら、
粛々と走っていきました。
目の前に川面があって、顔が映りそうです。
「おっ、キャンピングカーだ」
話しかけると、フランス語が返ってきました。
でも、このあばあさん、人間嫌いのようでした。
おじいさんも出てきましたが、似た者夫婦。
「ま、いいか」
長期滞在して、時々、気が向いたとき、
MTBで町へ買い物に出るのでしょう。
「おお、遊覧船だ!」
駅の裏手が船着場になっているのです。
ここから、ブリエンツ湖への遊覧船が出るのです。
昨夕、乗ろうとしたら、時間切れでした。
遊覧船に未練を残して、前へ前へ。
橋が見えてきました。
「あの橋を渡って、駅のほうへ出よう」
ところが、この橋は、鉄道橋でした。
「しょうがないなぁ」
ずんずん山の手のほうへ登っていきます。
「きれいなお庭だなぁ」
高台に住むひとは、花好きなのでしょうね。
家々の屋根の色は、この色に統一されているのでしょうか。
オトーサン、
「それにしても、激坂だなぁ」
流石の24段変速のMTBでも、ギアをローに落としても
登りきれない坂にぶつかりました。
すこし押し歩きし、10%勾配は頑張って登り切りました。
ふと、見晴らし台に出ました。
「おお、絶景だ」
2つの山のかなたに、白く輝くユングフラウが。
恩寵のように与えられた風景でした。
オトーサン、
10時、駅にMTBを返して、
大慌てでホテルに帰ってきました。
途中、乳母車を牽引した元気な女性にあったので、
写真を撮らせてもらいました。
「珍しい!」
ホテルに戻ると、女性陣がもう戻っていて、
次女が出発時間を2時間ほど遅らせたといいます。
「どうして?」
「スパを楽しみたいから」
「なーんだ」
そんなことなら、もう少しMTBに乗っていられたのに。
ちょっと足を伸ばせば、
ウィリアムテル野外劇場に行ってこられたのに。
でも、後の祭り。
ベランダに出て、景色を鑑賞します。
りんごを食べていたら、気がつきました。
「こちらのりんご、小ぶりだなぁ。すると...」
○ウィリアム・テル
William Tell/Wilhelm Tell
14世紀初頭にスイス中央部のウーリに住んだ伝説の英雄。
ハプスブルク家は、神聖ローマ皇帝アドルフの時代に強い自治権を獲得していた
ウーリの支配を強めようとしていた。
悪代官ヘルマン・ゲスラーは、中央広場にポールを立てて自身の帽子を掛け、
その前を通る者は帽子に頭を下げてお辞儀するように強制した。
テルは帽子に頭を下げなかったために逮捕される。
ゲスラーは、弓の名手であるテルが、自分の息子の頭の上にある林檎を
見事に射抜く事ができれば自由の身にすると約束した。
テルは、息子の頭の上の林檎を矢で射るか、死ぬかに直面した。
だが、テルは見事に林檎を射抜いた。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
「...われわれ日本人が思っている以上に、テルは弓の名手だったんだ」
そんな夢想にふけっていると、次女がやってきました。
「チェックアウトは12時だから、早く荷造りを終えて」
「そんなこと言たって、オレの一存じゃ」
オトーサンの鞄の半分は娘たちの買い物で占拠されております。
ホテルからの出発風景をご覧下さい。
右端の一番大きな鞄がオトーサンのもの。
それに旧式で動かしにくいのです。
1時35分、インターラーケン発でツエルマットに向かいました。
「この車両、氷河特急のよ」
なるほど、天井までカラス張りで、眺めのいいこと。
途中、二度、乗り換えました。
Spiez駅では、カー・トレインをみかけました。
「道路がつくれない高地だから、みんなあれに乗るのよ」
「あのクルマに乗ったままトンネルを通過するのか?」
「そうよ、そう長い時間じゃないからね」
「おお、アルファロメオ・ブレラだ」
「あなたが欲しがっていたクルマね」
Brig駅では、街に出たらデモ隊に出会いました。
「若者たち、なにか不満があるのか?」
「そうねぇ、こんなにいい国なのに」
オトーサン、
「おい、寝るなよ」
長女が横になっています。
仕事が終わってすぐ飛行機に飛び乗り、
ここ数日は、夢中になって時計探し。
車窓には、どれもすばらしい景色が展開中です。
頬を撫でるように通りすぎりる木漏れ日、
林が途切れると、大きく青い湖、
崖、岬、マリーナ、
かなたにはアルプスの山々、
白い入道雲と澄んだ青空。
牧場、農家、たんぽぽで埋め尽くされた草原、
丘の斜面にひろがるぶどう畑、
踏切り、教会の尖塔、赤い屋根がつらなる街並み。
小さな駅を通過。
カートレインに積み込みを待つクルマの列
線路を横断する旅行者たち。
動き出すと、今度は線路脇にハイウエー。
「あれ、戦争になったら滑走路になるのよ」
「そうか。一等車なのに、勿体ないなぁ」
「でも、いい景色はこれからよ」
「ふーん」
ユングフラウを見たので、
これ以上の景色はないだろうと
嵩をくくっての発言でした。
5時30分、ツエルマット(Zermatt)着
「えっ、また乗り換えるの?」
「そうよ」
道路をはさんで向かい側の鉄道駅へ。
「着込んでね、上は寒いから」
泣く子もだまるゴルナーグラート(Gornergrat)登山鉄道。
目指すは、標高3089mの人気展望台。
滝、渓流、雪原、そしてそびえたつ雪山...
43分後に到着しました。
「おお!」
「すごい景色ねぇ」
「ここに泊まるの?」
「そうよ」
次女は、文字通り”得意の絶頂”。
オトーサン、
驚きが待っていました。
「おお、何という部屋だ!」
「あの娘...、ほんとに親孝行ね」
滅多に予約のとれないホテル、
しかも、そのジュニア・スイート。
正面の窓からは、
目の前に名峰中の名峰マッターホルン。
左手の窓からは、
スイスで一番高い山モンテローザ。
前者は標高4478m、後者は4634mです。
ユングフラウみたから、山はもういい。
麓の村でサイクリングしたーい。
そんな気持ちは吹っ飛んでしまいました。
オトーサン、
目覚めて、
「頭痛がする」
疲れが出たのでしょうか。
「そうか、高山病だ」
3100mで一晩過ごしたからでしょう。
「いま、何時だ?」
4時でした。
起きてシャワー。
頭痛が解消して、元気回復。
5時半、部屋を出て、ホテルの玄関へ。
「お、開いている」
昨夜、次女から言い渡されております。
「明日は、みんな早起きして。
朝焼けで薔薇色に染まったのを見るのよ、
いいわね」
晴れたマッターホルンを見られるだけでも幸せ。
まして、見事な朝焼けを見られるのは、
このホテルに泊まったひとだけの特権だとか。
それも、2泊ぐらいしないと、拝めないとか。
そういえば、昨夜、登山電車で出合った
山男と山女の日本人カップルにうらやましがられました。
「よく取れましたね。
ウチら何ケ月前から申し込んだのにダメでした」
オトーサン、
内心、こう思いました。
「形が変わっただけの山なのに、
なんでみんなこう大騒ぎするんだ?」
○マッターホルン
この名称は、ドイツ語で牧草地を表すmattと
山頂を表すhornに由来している。
スイスとイタリアの国境に位置する。
スイス側にはツェルマットの街があり、
イタリア側にはBreuil-Cerviniaの街がある。
東西南北、4つの斜面をもっている。
北斜面と南斜面は、頂上へ向かう短い東西の尾根を形成し、
険しく切り立ち、氷雪がわずかに残るだけで、
雪崩は斜面下の氷河に堆積する。
マッターホルンが制覇されたのは、比較的新しい。
魔の山だと初期の登山家達が恐れたからである。
初登頂は、1865年7月14日、エドワード・ウィンパー卿ら。
下山中、7名中4名が1400m落下し、ツェルマットの墓地に埋葬された。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
オトーサン、
「そう、寒くないな」
あたりには、まだ誰もいません。
月とマッターホルンとオトーサンだけ。
てっぺんに傘。
「あの傘、邪魔だな」
オトーサン、
「展望テラスが邪魔だな」
「椅子に登れば、もうすこし綺麗に撮れるかも」
「ダメだ、大して変わりはない」
「あの上のほうに行ってみるか」
展望テラスから50mほど砂利道を登りました。
「おお、絶景だ!」
マッタホルンが薔薇色に染まりつつあります。
360度の大パノラマ。
アルプスの高い峰々が連らなっています。
反対方向では、日の出の瞬間が近づきつつあります。
荘厳、流麗、神秘的...
ポケットから持参したビデオカメラを取り出し、
夢中になって撮影しました。
「おーい。こっちへ来いよ」
家族が出てきました。
展望テラスで撮ってる場合かよ。
娘2人が足早やに登ってきます。
つれあいは、途中、息が切れたのか、
立ち止まってロープにつかまっています。
高い山では、激しい運動はよくないのです。
つれあいが登りきると、記念撮影がはじまりました。
「おお、冷えてきた」
流石に、この高さで、小1時間も過ごすと、
厚手のジャケットを羽織っていても、
厳しい寒気が身体に突き刺さってきます。
「モンテ・ローザも撮っておくか」
こちらのほうが標高が高いのに、
人気をマッターホルンに奪われています。
やさしいシルエットです。
次女、
「あなたたち、幸せねぇ。
マッターホルンの朝焼けがみられたうえに、
野生の山羊までみられるなんて」
さらに、下山中に、雪原を走るマーモットも発見。
「あたしもはじめてよ。
奇跡だよ、これは、あんたたち」
スイス通の次女が感動しているところをみると、
ここは感動すべき場面なのでしょう。
あっという間に雪穴に消えたので、
写真にも、ビデオにも収録できませんでした。
オトーサン、
ツェルマットまで下りてきました。
「ここは、ガソリン自動車の乗り入れ禁止なのよ」
「へぇ、進んでるなぁ」
「あと、どこ?」
「ヴェンゲン、ミューレン、リーダーアルプなどよ」
「へぇ」
どの街も知りません。
まるで暗号を読んでいるかのよう。
タクシーも、ホテルの送迎車両も、パトカーも、
トラックも、みんな電気自動車。
排出ガスがないから空気が澄んでいるし、
音がしないから、静かです。
リゾート気分がたかまります。
街の建物の、木造で木の香ぷんぷん。
山男の泊まるシャレーやヒュッテばかりです。
春スキーを楽しむのでしょうか、
スキー板を抱えたひとがやたら目立ちます。
まさに、山岳リゾート。
11時45分、街をぶらぶらしながら、ケーブルカーの駅へ。
次第にマッターホルンが見えてきます。
「別の角度のマッターホルンを見にいくのよ」
「...そう」
マッターホルンはもう充分、
見飽きた感じがしないでもありません。
でも、ケーブルカーに乗った途端、気分は一変。
このケーブルカー、巨大なもので、乗車定員100名。
それが空に浮かぶのですから、童心に帰ってしまいます。
「おお、ケーブルカー駅だ」
「おお、ツェルマットの街だ。すごい眺めだなー」
「おお、マッターホルンが近づいてきた」
「このロープウェイ、すごい急角度で登るなぁ」
「おいおい、岩壁にぶつかるぞ!」
乗客は、スキー板をもっている若者ばかり。
イタリア人のおばさんが興奮したのか、
娘を相手にしゃべりまくっています。
耳元なので、抗議したいところ。
でも、イタリア語じゃねぇ。
オトーサン、
ケーブルカーを下りて、
「おお、すごい眺めだ!」
「あの先はイタリアなのよ」
何でも、全長300kmのスキーコースが伸びているとか。
「ほんとかよー、30kmの間違いじゃないのか?」
いずれにせよ、雪質もいいし、スキー天国です。
気温はマイマス4度。
地球温暖化のせいでしょう。
興奮しているせいか、あまり寒さを感じません。
中年のおじさんで半そでのひともいました。
このひと、手ぶらでやってきて、スキーを借りていました。
1時、ケーブルカーで少し下って、
トロッケナー・シュテックの展望テラスでランチ。
日向になる席は、日差しが強く汗をかくほど。
日陰になる席のほうは、寒くて震えるほど。
「席、代わろうか」
そのコントラストが面白くて、長女が笑い転げます。
ビーチ・リゾートのように、寝そべっているひともいます。
「ここのピザは美味しいので、有名なのよ」
「ここ標高どのくらいなんだ?」
「2939mよ、さっきのグレッシャー・パラダイスが3883m」
「じゃ、富士山より高いじゃん」
「あそこに世界一の豪華ホテルができるのよ」
「えっ?」
途方もない夢を実現しようとするひとがいるものです。
マッターホルンをみながらのスパなんて。
「スイスは、お金がうなっているんだ」
オトーサン、
トロッケナー・シュテックの展望テラスでのランチを終えて、
100人乗りのケーブルカーで下山しました。
「うおぅー」
何か聞いたことのる叫び声があがります。
そう、サッカーの応援の再現です。
スキーを終えた上機嫌な若者たちがはしゃいでいます。
それからの20分は、もうハチャメチャ。
5、6人が騒ぎの張本人。
でも、ほかの乗客も参加して、W杯決勝戦のような騒ぎ。
後で、次女に聞きました。
「ありゃ、イタリア人に決まってる」
「いえ、フランス人よ」
ゴルナーグラート鉄道に乗って、ホテルへ帰りました。
2泊目です。
オトーサン、
翌朝、5時半に起床。
夜明けをみるべく再び展望台へ。
「おお、マッターホルンがすばらしい」
今日も晴天に恵まれました。
昨日の朝よりいい景色です。
マッターホルンにかかっていた雲がとれました。
滅多にお目にかかれない景色なのに、
昨日ほどの感激がないのが残念です。
朝食は、7時から。
長女がせっせとサンドイッチをつくっています。
「何してるんだ?」
「今日のランチよ」
「せこいことするなよ」
「いいのよ、今日は買うヒマないんだから」
「そうか」
「急いで! 7時半には出るから」
今日はスイスを去って、イタリアへ向かうのです。
大荷物での移動が待っています。
「おっ、野生の山羊だ!」
鉄道駅へ下る途中、また山羊をみかけました。
どうやら、塩をなめにやってきているようです。
今度は、間近で撮影が出来ました。
「おーい、こっちへこいよ」
絶好の撮影ポイントを探し、家族を撮りました。
こんな写真、撮れたひといないのでは。
オトーサンたち、
ツェルマット駅前の観光案内所に荷物を預けました。
「じゃ、9時半、ここに集合ね」
身軽になって、女性陣は、お買い物へ。
その間、駅前のカフェで、一休みしました。
注文したのは、カプチーノ。
「すげえ、MTBだな」
先日みかけた一行のもの。
9時45分、氷河特急に乗車しました。
「これ、新型車両なのよ」
次女が大威張りで説明してくれました。
この列車に乗りたくて、わざわざ日本から来るひともいるとか。
○氷河特急(Glacier Expresss)
スイスを代表する山岳リゾートを結ぶ伝統の横断ルート。
7つの谷、291の橋、91のトンネルを抜けて走る約8時間の旅。
アルプスの名峰、美しい森や牧草地、山間の急流や渓谷など絶景の連続。
2006年には、サンモリッツ=ツェルマット間に新型車両を導入。
エアコン完備の車内、テーブル付きの広い座席、
日本語を含む6カ国語で説明が聞けるヘッドフォン、
座席まで出来たての食事を運んでくるサービスなど、
ワンランク上の快適さを追求しています。
オトーサン、
「へぇ、顔が広いんだな」
さきほどは、ツエルマットの駅前で、
現地でみやげもの屋をやっている若者と握手していましたし、
今度は、1等車の車中で、スイス人の知り合いに出会いました。
「スイス鉄道のエライひとなのよ」
若い外国人記者の取材に同行しているようです。
娘に挨拶して、ノベルティまでくれました。
氷河特急の帽子、絵葉書など...。
「この写真、見て」
「...」
「すごいでしょ」
「確かに...すごいね」
11時08分、Brig駅で乗り換え、
11時20分、今度はユーロエキスプレスに乗車しました。
「今度は、どこへ行くんだ?」
「ミラノよ」
「ミラノ?イタリアじゃないか。
もう、スイスはこれでお終いか」
「また、コモに戻るのよ」
「そうか」
(続きは後日)